74話 大陸横断鉄道
三日間、大天使ツカサエルにお世話になり、いよいよユトグアを出発する時が近付いてきた。
リグレットまで行く魔道列車に乗るため、全員で出発の準備を終え部屋を後にする。
「それじゃあ行きましょうか。忘れ物はないわね?」
「あそこに剣が立て掛けられてますよ」
「あ…」
チビ雪に指差されて指摘されたのは、私の魔剣スノーフェアリーだった。
ベッドの横に完全に忘れられていた。
「姉御が一番忘れっぽいじゃないか!」
「私が作った大事な剣を忘れるなんて、次やったら没収しますよ」
「ご、ごめんごめん! 最近はのんびり過ごす事も多くて、あまり帯刀する事もなかったから!」
顔を真っ赤にして、慌ててスノーフェアリーを取り、気を取り直して出発をする。
みんなに笑われながら、足早に廊下を歩き始めた。
そして、一階にいる大天使ツカサエルに挨拶に向かった。管理室、兼住居になっている大天使ツカサエルの部屋のインターホンを鳴らし、出てくるのを待つ。
ゆっくりとドアが開く。
「やあ! おはよう! もう出発するんだね!」
出てきた大天使ツカサエルを見て、少しびっくりした。顔に真っ白なパックを付けていて、一瞬のっぺらぼうに見えてしまったから。
「お、おはようございます。三日間お世話になりました。それ以外でも本当に色々と協力してもらって感謝してます」
私が先陣を切って挨拶をして頭を下げると、後ろに立つ三人もお辞儀をする。
「うーん、残念だなー。天使リーティアがいなくなるなんて、出来ればずっと働いて欲しかったけどね!」
「もし機会があれば、また訪れます。その時はよろしくお願いします」
リーティアは昨日を以てエンジェルラブを辞めた。退職を伝えた時は、珍しく大天使ツカサエルが悲しい顔をしていたけど、止める事はなく最後は笑顔で承諾してくれていた。
「天使スノー、天使チビ雪も働きたくなったらおいで! 私は何時でも歓迎するよ!」
「はい! 三日間だけだったけど楽しかったです!」
「こ、こら! チビ雪ちゃん! そんな事を言ったら私まで、またやらないといけなくなるじゃないの!」
「俺も今度は天使で」
「さあ行っておいで! 魔界はまだまだ広い! 大変な事もあるだろうけど、きっと楽しい事も沢山あるよ!」
「お、おい!? 俺は無視かよ!」
カールを無視する大天使ツカサエルに見送られ、マンションを後にした。
「ねえリーティア、剣をディメンション・ボックスに入れておいて欲しいんだけど」
「分かりました。リグレットに着くまでは私が預かっておきます」
リーティアにスノーフェアリーとミスリルソードMK-Ⅱを預け、やっと身軽になることができた。何気に剣二本を帯刀するのは大変だった。
その後は他愛もない話しをしながらユトグア駅に到着する。リグレット行きの列車券を購入し、駅のホームへと向かうが。
「あれ? ガーデン・マノスで乗った時と違って、随分大掛かりな機械の前を通るんだね」
ガーデン・マノス内の列車に乗った時は簡単な改札だったのに、ここでは門のような改札になっており、その横にはスタッフが何人もいて物々しい感じの改札になっていた。
「街道を通った時に関所がありましたよね? 大陸横断鉄道では、駅の改札が関所の役割も担っています」
「なるほど、そういう事なんだ」
危険物などを所持していないかを調べる機械の中を通る。
一応魔界では剣などの武器類を持つ事自体は禁止されていないけど、他の街に入る時や関所などを通る時は身分証明書で自分のクラスを証明する必要がある。
もしクラスとは違う武器を持つ場合は、事前の届け出が必要だったりと何かを面倒ではある。
大陸横断鉄道は列車に乗ってしまうと、大陸を縦横無尽に移動できるため駅のセキュリティーは特に厳重だ。
機械の中を何の問題もなく通過し、列車券と一緒に身分証明書を出した。もちろん身分証明書はリーティアお手製の偽物だが。
「はい、どうぞお通りください。良い旅を」
「ありがとう」
たまたまだったけど、剣をリーティアに預けておいて良かった。門の近くにいるスタッフに挨拶を交わすと、他の三人を待つ事に。
カールとリーティアは難なく通過。
チビ雪は魔導士の杖を持っていたので少し手こずったけど、身分証明書を提示して問題なく通過。
だが余程緊張したのか、合流したチビ雪は少し涙目になっている。
「あれぐらいで泣いてたら、この先やっていけないよ?」
「違うんです、カジノでの事を思い出しちゃって。それに後ろも凄い並んでたし、私のせいで詰まってると思ったらもう焦ってしまって」
うん、後ろからの視線は確かに緊張する。気持ちは分からなくもないけど。
「まあ無事通過できた事だし、何か飯でも買おうぜ!」
「そうね、駅弁って食べた事ないし買って行きましょう」
駅のホームで駅弁が売っているお店へと趣き、各々が好きな弁当を購入した。
だけどリグレット行きの列車は隣のホームだったので、お弁当選びに迷ったせいで列車がすでに駅へと到着してしまい。
「早くしないと乗り遅れますよ。急いでください」
慌てて隣のホームへと走り出す。
「危険ですので駅で走るのはお止めください!」
スタッフの注意が飛ぶ中、そんな事を言っていられない私達は一目散に列車へと走り何とか間に合う。
列車に乗り込んだ瞬間にドアが閉まり、本当に間一髪だった。
「もう! スノーお姉さまが時間をかけるから!」
「だって、どれも美味しそうだったんだもん!」
「お二人とも、列車内で喧嘩は止めてください。迷惑になりますよ」
「「はい」」
今度はリーティアに注意されて、自分達の指定席へと向かった。
席は窓際と通路側の二人席を前後で取っていたので、前の席を回転させて四人で向かい合って座る。
カールは初めての列車にテンションが上がっている。
「凄いな! 俺乗るの初めてだから興奮してしまうな!」
「私もガーデン・マノスで一回乗った事あるぐらいだから、実は大陸横断鉄道自体は初めてなんだよね」
私とカールで窓の外を見ながら喋っていると、アナウンスが流れ列車が動き出す。
「さようならユトグア、楽しかった!」
「色々ありましたけど楽しかったですね!」
「カジノでは世話になったぜ! ありがとう!」
「大天使ツカサエル、お世話になりました」
それぞれがユトグアに別れを告げて、列車はグングン速度を上げて街の流れが速くなる。
しばらくユトグア内を走った後は、街を出て大陸の広大な土地が姿を現す。ユトグア近郊にある田畑や工場などの建物もチラホラと見掛け、それらも次第に見えなくなっていく。
あとは景色を楽しみながら、列車のガタンゴトンという聞き心地の良い音と振動に揺られて目的地まで過ごす。
「やっぱり落ち着くなー、今後は列車だけで旅しようかな」
「一度知ってしまうとヤバいですね。大陸を歩くのに戻れないかも」
「今後は、その時その時で決めていけばいいんじゃないですか。文明の利器を使うのは決して悪い事ではありませんよ」
「そうれもそうね! 今後は臨機応変にいきましょう!」
「なあ、駅弁を食べようぜ! もう腹ペコだ!」
朝から出発の時間に追われ朝食を取ってなかったのもあり、列車で落ち着いたらかなりの空腹に襲われていた。
各自が買ってきた駅弁をテーブルに置いて、食べる準備をする中。
「あ、すみません。ビアを五本ください」
「はい、ビア五本ですね。二千五百ミラになります」
通り掛かったワゴン販売からリーティアがお酒を買った。
そして全員で駅弁の蓋を開ける。
「うわー! 美味しそう!」
「早く食べましょう! 待ちきれません!」
「待ってください。今ビアを開けます」
「じゃあ乾杯から行くぞ!」
四人全員でドリンクを手に持ち、
「「「「かんぱーい! いただきまーす!」」」」
そのまま乾杯をした。
だが。
「あのお客様、もう少し静かにお願いします」
「「「「はい、すみません」」」」
ついテンションが上がって大きな声を出してしまい、列車のスタッフに注意されてしまった。
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