71話 神殺しのファルシオン
「申し訳ありませんでした。今後は気を付けます」
いま私達は、ホテルのフロントにて何人かのスタッフに頭を下げている。
理由は簡単だ。部屋のベランダを滅茶苦茶にしてしまったからだ。私とカールが模擬戦をしたのだけど、それが思いの外大きな決闘となってしまった。
ここのホテルのベランダは十分に広いのだが、流石に二人で模擬戦となると少し手狭だった。
「今回は見逃しますが、今後このような事があったら即刻通報させてもらいますよ。後でベランダの修繕費の見積書をお送りしますので、ご確認の方をよろしくお願いいたします」
「はい、本当にすみませんでした」
私を筆頭にカールはもちろん、本当は関係ないチビ雪、リーティアもホテルの支配人に後ろで頭を下げている。
四人で部屋へと戻ると、今度は私とカールの二人でチビ雪とリーティアに謝る事になった。
「ごめん、二人とも。つい久しぶりの模擬戦に熱くなっちゃって」
「ああ、俺も今後は気を付けるよ」
「気を付けるというか、もうやらない方がいいような気が」
確かにチビ雪の言う通りだ。一人で剣を振るぐらいならいいけど、二人での模擬戦では狭すぎる。
「まだ良かったですね。カジノで当てたお金があって」
「う、うん。折角の旅の資金だったのに」
ベランダの修繕費がいくらになるのか分からないけど、数百万単位の請求は覚悟した方がいいとの事だった。
「それにしても派手に壊しましたね。カールって、こんなに戦闘できたの?」
チビ雪が不思議そうに聞いてきたが。
「いや、俺じゃないよ。リーティアに作ってもらった、この武器のおかげだ」
私との模擬戦で、カールの武器は自我を持つように応戦してきた。
取り付けられている巣魔火からも、カールに指令を出す声がしていた。
「凄いんだよ。姉御の動きを呼んで、この武器が俺を補助してくれるんだ。勝手にその時の状況に合う武器に切り替わったりするし、俺は指令に従って動くだけでほとんど武器が戦ってくれた」
「私も驚いたわ。だから私もつい楽しくなっちゃって」
「つい楽しくなってベランダを壊されたら堪ったものじゃないですよ! でも確かに凄い武器ですね」
「前にも言いましたけど、カールさんは戦闘向きではありません。なので、その武器にはオート機能を装備しました。例えカールさんが雑魚でも、武器が勝手に助けてくれます」
「おい! 言い方!」
とにかく今後はホテルでの稽古も禁止されてしまった。当然ではあるけど。
そしてもう一つ。
「でもカール。その武器はリーティアに預けておいて。特に街中では。戦う時だけ取り出してもらう様にした方がいいと思う」
「え? なんでだよ?」
「オート機能があるって事は、危険だと判断したら勝手に動くって事でしょ? なら仕舞っておいた方がいいわ」
「ああーなるほどな」
「ではディメンション・ボックスに入れておきますね」
一応、納得したカールはリーティアが開いたディメンション・ボックスに武器を仕舞った。
だがここで、
「なあ、俺の武器の名前を考えたいんだが」
このカールの一言で、新しい武器の名前を考える事になる。
普通に考えれば、作ったリーティアか持ち主のカールが考えればいいのだけど。
「何言ってるんですか。『神殺しのファルシオン』というカッコイイ名前があるじゃないですか」
製作者のリーティアは、一応名前を付けてたらしい。だけどカールは、その名前が気に入らないようだ。
「俺は特に何かを信仰してるとかないけど、流石に神殺しとか物騒じゃないか! それに何と言うか、こう…名前を呼ぶのが恥ずかしいんだよ!」
「何が恥ずかしいんですか! せっかく一晩考えたのに!」
突然始まった二人の喧嘩。リーティアが、こんなに感情出して怒るとか珍しいな。
しかしチビ雪が、ある一言が引っ掛かる。
「あの、武器の名前を一晩考えたって言ってたけど、作りながら考えてたの?」
この質問に対してリーティアからは、ビックリする返答が返ってきた。
「いえ、武器自体は三十分ぐらいで完成しましたよ。私にとっては、歴代最速で完成できた武器です」
「なにー!? 俺の武器そんなに早く作ったのか!?」
まるでプラモデルを作るかのように、あっさりと作ってしまったらしい。カールは衝撃と共に、ショックを受けたようだ。
しかし、武器は速攻で作れるのに、何で名前にそんなに時間がかかるのか。
でもここは、武器を作ったリーティアの事も少しは立てないといけないと感じたので。
「それならさ。神殺しを取って『ファルシオン』でいいんじゃない? それならまだ呼びやすいでしょ?」
「いやでも、何て言うか…ファルシオンって何だよ? みたいなところもあり…」
「カールの気持ちも分かったけど、リーティアが作ってくれたんだから。そこはリーティアの気持ちも汲むべきじゃない?」
「うーん、確かにな。分かったよ、ならファルシオンで頼む!」
「私としては神殺しを付けてこそなんですけどね」
「まあまあリーティア、お互いに譲り合いって事で」
少し不満そうなリーティアを説得して、無事カールの新しい武器の名前が決まった。
「何はともあれ良かったわね! これでカールも立派な戦力になりそうだし!」
「ああ! 任せてくれ! 姉御!」
「本当、オート機能が付いてるのが便利だよね!」
三人で喜んでいたらリーティアが少し注意を促してきた。
「一つ注意しておいて欲しいんですが、カールさんの武器は定期的に充電しないと動かなくなります。フル充電で約二時間が限界です」
「え? そうなの?」
「二時間も動けば十分じゃないか?」
「戦闘では時間の経過を忘れる事もあります。いざという時に使えないではダメですからね。今日は私が後で充電をしておきます」
「分かったよ! 今後は充電には気を付けておく!」
ようやく話もまとまり、リーティアが四人分のコーヒーを淹れて落ち着いた時だった。
部屋のインターホンが鳴り、ドアを開けるとホテルの支配人とスタッフ二人が立っていた。
そして一枚の紙が渡される。
「ベランダの修繕費…よ、四百…五十一万ミラ…」
その紙は見積書で、カジノで大勝ちしたお金の半分近くを失う結果に。
あまりの額に、支配人達の前で青ざめて言葉を失ってしまう。
「これでも元々ベランダの老朽化も考慮して、三割ほどはホテルが負担しての金額になっています。申し訳ありませんが、お支払いをお願い致します。あと危険ですので、ベランダには出ないようにお願い致します」
「は、はい…悪いのは私達の方なので。ありがとうございます」
リーティアにディメンション・ボックスからお金を出してもらい、そのまま請求額をすぐに支払う事になった。
カジノで大勝ちしていて本当に助かったけど、あまりに大きな出費となってしまう。
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