70話 新たな武器
朝、目を覚ますと、そこには見慣れた悪魔の姿があった。だが何かがおかしい。
右手に何やら装着したリーティアが、朝から嬉しそうにキャッキャウフフとテンションアゲアゲになっている。ステップまで踏んで、とても嬉しそうに三人が眠るベッドの近くを踊っている。
あまりの光景に最初は目を疑った。あのリーティアが、そんな訳の分からない行動をする訳がないと。
かつては魔界を三分までした程の大悪魔・リーティア様が、そんな可笑しくて奇怪な行動をする訳がないと。
そこで私は気づいたのだ。
そう、これは夢だ。私はまだ夢を見ているんだ。
夢だと気付きながら見る夢を、明晰夢と言うらしい。
そうと分かれば、この状況を打破するのは容易い。目を覚ませばいいのだ。
私はあまりにふざけた夢に終止符を打つべく、ベッドを思いっきり飛び起きた。
「ふう! よく寝たわ! みんなおはようー!」
「おっはよう! ございまーす! スノー様!」
「…………」
夢は覚めていなかった。目の前に飛び込んできたのは、まだテンションアゲアゲで踊っているリーティアの姿だった。
「あ、あれ!? おかしいわね!? まだ夢から覚めないのかしら!?」
「何を仰っているんですか! これは現実ですよ!」
眼を何度も擦っても、目の前の光景は消えない。どうやら本当に現実のようだ。
ようやく現実を受け入れた私は、有り得ない行動をしているリーティアに質問をする。
「い、一応聞くけど、朝から何やってるの?」
恐る恐る聞くと、リーティアが前のめりになって私に顔を近づけてきた。
「な、なになに!?」
「完成したんですよ! カールさんの武器が!」
「もしかして、それでテンションアゲアゲになってたの!?」
「そうですよ! 私は新しく完成させた子を見ると、感情を抑えきれなくなって!」
「い、いつもの事なんだ。じゃあ私のスノーフェアリーを完成させた時もそうだったの?」
「ええ! その子が完成した時は、酒を浴びるほど吞みながら夜通し踊り狂いました!」
一緒に旅を始めてから、どんどんリーティアの意外な一面を垣間見れてしまう。もう驚く事はないと思ってたけど、今回のは流石に驚いたわ。
リーティアの大きな声に、チビ雪とカールも目を覚ましてしまった。
「どうしたんですか、朝から大きな声を出して」
「ああ、もう少し寝たかったのに」
「おはよう、チビ雪ちゃん、カール。どうやら新しい武器が完成したみたいよ」
「え、俺の武器が!」
「ええ! ここに!」
リーティアが右手を上げて、装着されている武器を見せびらかす。
装着しているのは、もちろん昨日買ってきた子供のオモチャだ。
「見た感じ、元の形とあんまり変わってないように見えるんだけど、それが武器になるのか?」
「なりますよ。立派な武器に!」
形は元のオモチャの形状そのままに、中央にあったギミックの部分に巣魔火がはめ込まれているだけだ。
「物は試しですね。いきますよ。ハイ! フォーリー!」
突然よく分からない事を叫んだ。するとオモチャにはめ込まれた巣魔火が反応をする。
「はい、なんでしょう?」
「ガントレットダガーを出して!」
「はい、了解しました」
するとリーティアが装着したオモチャが変形をして、三十センチ程のナイフのような形状の物が飛び出てきた。
それを見て、三人とも大興奮になる。
「え!? え!? 何それ!? 凄くいいんだけど!!」
「カッコイイ! まるで近未来の武器みたいです!」
「うおおお!! それが俺の武器なのか!!」
「ウフフフ! そうでしょう、そうでしょう! 日本のアニメを基に作ったんですよ!」
気付けば四人全員でテンションアゲアゲになり、朝から大盛り上がりになった。
「カールさんは特段得意とする武器もなければ、訓練を受けて来た訳でもありません。なので敢えて特定の武器にするよりは、色々使えるマルチウェポンがいいと思いました」
「す、すげえぜ! マジで! どんな武器にもなるのか!?」
「爆発系の武器は無理ですが、そうでなければ遠距離武器にもなりますよ。例えばボウガンとか。矢は別に用意しないといけないですけどね。あとは変わり種で言えば、鞭やかぎ爪などがあります」
カールの武器が思ってた以上に凄い。当の本人は大喜びだけど、使いこなすのも難しそうだ。
「ありがとう、リーティア! 大事に使わせてもらうよ!」
「ええ、頭の良いカールさんなら、すぐに使いこなせるようになりますよ」
「いいなー! 私もそういうの欲しい!」
「スノーお姉さまは良いじゃないですか! 魔剣があるんだから! 私こそ何か作ってほしいー!」
「そうですね、今度はチビ雪さんのを作ってあげます」
「ホントに!! わあああ!! やったー!!」
今度はチビ雪の武器を作るのか。本当に何でも作れるんだ。そしてチビ雪の喜びようである。
新しい武器を受け取ったカールは、早速右手に装着して嬉しそうに見ている。
でも、ここでリーティアが釘を刺す。
「カールさん、一応言っておきますが。貴方は本来は戦闘向きではないのです。その武器は自分のお守りだと思って、決して無茶はしないようにしてくださいね」
「ああ! 分かったよ! それでも少しでも役に立てるように頑張ってみるさ!」
そう言ってリーティアは、カールの武器に登録されている武器の種類が書かれた説明書を渡した。
説明書を受け取ったカールはベッドの上で胡坐をかいて、何時にもなく真剣な表情で隅から隅まで説明書を読み始める。
一方の私達は、一階のビュッフェで朝食を取る事にした。
三人で朝食を食べてから部屋に戻ると、カールは嬉しそうに、自分の武器を一つ一つ確認するように、ハイ! フォーリー! と唱え続けている。
そんなカールを横目に、リーティアは天使カフェでのバイトがあると準備を始めた。
だが、ここで大事なことを思い出す。
「あ! そういえばすっかり忘れていたんだけど! 昨日カジノで大勝ちしちゃって、もうバイトしなくてもいいわ!」
ベッドの下に置いてあった一千万ミラの入ったバッグを取り出して、リーティアに中身を見せた。
「ああ! そうだった! チビ雪ちゃんが大当たりしたんだぜ!」
カールも思い出したかのように話しに乗ってきたが。
ところがリーティアが意外なことを言ってくる。
「そうですか、でも私は天使カフェに行って来ます。大金に浮かれては足元を掬われますよ」
三人ともポカンとした感じになってしまった。
「このお金はディメンション・ボックスに入れておきますね。必要なら何時でも言ってください。それではバイトに行って来ます」
結局リーティアは、顔色一つ変えず部屋を出て行ってしまう。
それを見て、正直なところ少しぐらいは喜んでくれてもいいじゃんと思ってしまった。私達だって、リーティアの変なテンションに乗ってあげたんだから。
「あの私、シャワー浴びてきますね」
変な空気になってしまったからか、チビ雪が珍しく朝からシャワーをすると言って浴室に入っていった。
カールと二人になった事で、私の方もベランダに出て剣の稽古をしようとミスリルソードMK-Ⅱを手に取った時。
「なあ姉御。剣の稽古、俺も付き合っていいか?」
「え? 本気で言ってんの?」
「ああ、本気だ。姉御だって、たまには模擬戦をしたいんじゃないか?」
「まあ、確かにそうね。じゃあ手伝ってもらおうかしら。それなら私は防具を付けるわね」
最近は稽古の時は防具を付けてなかったけど、今回は装備する事にする。
防具を装備してから二人でベランダに立つと、カールは気合いを入れるかのように、深呼吸して右手に装備した武器を見て構えた。
「なるほど、あなたはあなたで新しい武器を試したい訳ね」
「そういう事さ! よろしく頼むよ!」
こうしてカールと二人で、ホテルのベランダで模擬戦を行うこととなった。
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