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68話 恐怖のビギナーズラック

光輝く夜のユトグアの街をチビ雪と二人で歩く。向かっている先は、ユトグア・シーザリオ・カジノ。


イミテーションで奈美先生に変身したチビ雪は、私よりも高い背格好になって、大人の色気をこれでもかと見せつけながら歩く。


周りの男性からの視線が嫌というほど突き刺さってきた。


「チビ雪ちゃん! あんまりクネクネしながら歩かないでよ! いつも通り普通に歩いて!」


「何でですか? 大人の女ならこれぐらい普通でしょ?」


「目立ってるから! 大体大人の女性でも、そんなモデルみたいな歩き方しないわよ!」


姿が奈美先生になってから、どうにもチビ雪の振る舞いが変わってしまった。


喋り方も態度も精一杯の背伸びをしたチビ雪を、歩きながら厳重注意する。


「全くしょうがないですね、お姉さまは。これでいいかしら」


少しはマシになった歩き方をするが。


「その口調も何とかして」


たぶんだけど、初めて使うイミテーションだから心が体に引っ張られてるな。


途中ナンパしてくる男どもを無視して、カジノへと急いで向かう。


チビ雪に振り回されながら、何とかカジノに到着した。


「ここがカジノね! いざ出陣!」


「チビ雪ちゃん、キャラがブレッブレになってるよ」


一人テンションの上がるチビ雪を抑えつつ、入り口で身分証明書をガードマンに見せる。


「どうぞ、当カジノをお楽しみください」


初めて来た時以来のカジノだったけど、何も問題なく入れた。だけどここで、大事なことを忘れていた事に気付く。


「お客様、身分証明書の提示をお願いします」


「これでいいかしら」


「これは……あの、出来れば最近の物でお願いできないでしょうか」


そう、チビ雪の身分証明書は元の姿の物しかない。もちろん魔王の側近とバレないように、リーティアが作った偽物ではあるのだが。


しかし今はイミテーションで姿を変えてるから、それすら使えない。


完全にガードマンに止められて、カジノの中に入る事ができないでいる。


ここでようやく初めて、私の方を子供みたいに泣きそうな顔をしながら見てきた。


「お客様。申し訳ありませんが、身分証明書の確認ができない以上、あなたを通す訳にはいきません」


「貴方もそんな固いこと言わず、たまにはいいじゃない」


焦ったチビ雪はとんでもない行動に出て、胸を両手で寄せながらガードマンを誘惑している。


ガードマンも一瞬胸の方を見たが、すぐに冷静になってあしらった。


どうする事もできなくなったチビ雪は、スカートを両手で掴みながらフルフルと震える。泣きそうになるのを必死に我慢していた。


「申し訳ありませんが、お帰りを…」


「やあ、奈美さん! こっちだ!」


チビ雪とガードマンが店の中から聞こえた声に目を向けると、カールが手を振って呼んでいた。


私がポーカー宅にいたカールに、慌てて助けを求めたのだ。


「カールさん、あなたのお知り合いですか?」


「ああ! そうなんだよ! チビ…奈美さん、身分証明書を忘れてしまったんだって? 悪いけど今日は大目に見て貰えないかな! 俺が保護者代わりになって責任を持つよ!」


「うーん、しかし」


「これは取っておいてくれ!」


カールはこっそりとガードマンにチップを渡すと、今回だけ特別にという事で許可してくれた。


このカジノでカールはそれなりに有名人になっているので、最近はカジノ側も客寄せパンダとしてカールを利用してるのを本人から聞いてた。


それを思い出して、カールに助けを求めて正解だったとホッと胸をなでおろす。


「うわーん! ありがとうカール!」


「お、おい! いやー参ったな! ははは!」


カールは奈美さんの姿をしたチビ雪に抱き着かれて、ちょっと鼻の下が伸びている。


「チビ雪ちゃんだってこと忘れないでよ」


「わ、分かってるよ!」


カールとチビ雪を放して、チップの購入へと向かった。一万ミラで千のチップ十枚に交換。


初めてのカジノに興奮気味のチビ雪には、とりあえず千のチップ一枚を渡す。


「たった一枚だけですか…?」


少し不満そうに聞いて来るけど、本当なら賭場に来るのでさえダメなのだ。


「嫌だと言うなら、このまま帰るわよ?」


少し睨みながら返すと、チビ雪は諦めたように千のチップ一枚を握った。


「チビ雪ちゃんにはカジノはまだ早いからね! まあ俺が頑張るから見学と思って、楽しんで行ってよ!」


そう言うとカールは近くのスタッフに声をかけ、ドリンクを二つオーダーして私達に渡してくれた。


今日もカールは勝っているようで、すでに三十万以上のプラスになっているらしい。


ドリンクを渡した後カールはポーカー宅に戻っていき、私とチビ雪は各々好きなゲームをする事にした。


「私、あれをやってきます」


チビ雪が指差したのはスロットだった。完全に運に左右されるもので、当たれば大きいけど勝つのは難しい。恐らくカジノが儲かる様に設定されているから、完全な運任せでもないし。


だからカールは手を出さないけどチビ雪はまあ、好きにさせればいいかと思って止めなかった。


私の方はルーレットに興味があり、九千ミラ分のチップを持ってルーレット宅に向かう。


(よく考えると、私もカジノで勝負するのは初めてなんだよな)


ちょっと緊張しながらルーレットを見ていると、ディーラーの方から声を掛けてきた。


「そちらの仮面のお客様、宜しければ勝負いたしませんか?」


綺麗なブロンドの女性ディーラーが、ニコッと笑ってこちらを見ている。


「それじゃあ、よろしく頼むわ」


鼻息の洗い男性客に交じって彼女の言葉に乗ることになった。


「お客様、お持ちのドリンクはこちらに預けてください」


ルーレットでは、何故かドリンクを飲んでの勝負は出来ないらしい。言われるがまま、飲みさしのドリンクを専用のトレーの上に乗せる。


そしてテーブルへと着きチップをベットするが、もちろんベット額は千のチップ一枚のみ。


周りから溜め息が出るが、私がいくら賭けようが自由だ。


「それでは始めます!」


女性ディーラーがルーレットに球を放り投げた。


息を吞む瞬間だ、全員が自分の賭けた数字に球が入る事を祈りながら静かにルーレット盤を見守る。


ルーレット盤がゆっくりと止まり、球が入ったのはノワールの七。


そこに賭けられていたのは、私のチップ一枚だけ。


「え!? 私当たったの!?」


私の元に三十六倍となってチップが戻ってきた。千のチップが三十六枚、三万六千ミラ分である。流石に興奮を隠し切れない。


周囲からもざわめきと拍手が送られた。


「もっと賭けていたら凄い事になってたのにな!」


確かにその通りだ。何故全額行かなかったのかと少し後悔してしまった。


「お賭けになりますか?」


女性ディーラーがまたもや笑顔で聞いてきたので、当然勝負へと出る。


しかし勝てたのは最初の一回だけ。後は全て負けてしまい、とうとう千のチップ一枚だけとなってしまった。


「あ、あの時やめておけば…」


完全にビギナーズラックだったんだと痛感させられる。


「どうされますか?」


「これ以上は止めておきます…」


渋々席を立ち、ルーレットを後にする。


「またお越しください。お待ちしていますよ!」


女性ディーラーがニコッと笑っている。それを見て、何となく遊ばれてしまったと感じた。


ルーレットは、プロのディーラーになると入れたい目に球を放る事ができると。


「たぶん、私がカジノ初心者だと見抜いてたのね」


預けたドリンクを受け取り、ルーレット宅を後にする。


これ以上はやらないと決め、カールの方に行ってみた。


すると、カールも丁度勝負が終わった所で引き揚げてきた。


「よう姉御! 今回も勝てたぜ! 途中からちょっとだけ沈んでしまって、ニ十万ミラぐらいになってしまったけど!」


「それでも凄いわね、私の方は負けよ」


カールのおかげで私の負け分も余裕でリカバリーする事が出来た事に安堵した。


後はスロットに行ったチビ雪だけど、未だに姿を見せない。


「そういやチビ雪ちゃんは、どこに行ってるんだ?」


「スロットをするって言ってたけど。千のチップ一枚しか渡してないし、とっくに終わってるはずよ。今頃どこかで休んでるんじゃないかしら」


カールが儲けたチップを換金した後、一応スロットのコーナーへと二人で向かう。


ここで異変に気付く。スロットコーナーに近付くにつれ、徐々に人だかりができていたのだ。


「やけに賑わっているわね」


「ああ、誰か大当たりでもしてるのか?」


野次馬達を掻き分け、前の方へと進んでいくと、一人の女性がチップをギッシリと詰まった箱を何箱も積み上げてスロットをやっていた。


「ね、ねえ。まさかだけど、あそこで大当たりしてるの、チビ雪ちゃんじゃない?」


「ああ、間違いなくそうだと思うぜ。あれ換金したらいくらになるんだ」


計算するのも大変になるぐらいのチップを出していた事で、チビ雪の近くにはカジノのガードマンが二人立っていた程だった。


あまりの光景に、カールと二人で呆気に取られながら見物しているとチビ雪が気付いた。


「あ! スノーお姉さま! カール! やばいよ! 止まらないよー! 助けてー!」


すでに目に涙を浮かべながら、チビ雪が助けを求めてきた。


どうする事も出来ずに、怖くて止めるに止められなかったようだ。


すぐに二人でチビ雪の方に向かい、近くのガードマンに止める事を伝えた。


チビ雪一人では抱えきれない程のチップだったので、二人のガードマンが換金を手伝ってくれる。


換金額は、一千万ミラを超えてしまっていた。


「千のチップが一千万て」


「すげぇ、俺の勝ちが霞んじまったぜ」


「私もう、どうしたらいいか分からなくて。いきなり七が三つ揃ったと思ったら、チップがドバーッて一杯出て来て」


チビ雪はスロットの大当たりを喜ぶどころか、逆に怖くてただオロオロしていただけだったそう。


その後も当たり続けて、気付けばチップが有り得ないぐらいに増えてたそうな。


思わぬところで大金を得た私達は、カジノを足早に出て行く事になった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


少しでも楽しんで頂けたら、ブックマークや評価をして頂けると嬉しいです。


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