67話 初めてのこと
ホテルに到着し、自分達の部屋に戻った後に食事の準備を始める。
本当は出来合いの物を買って来て食べようとしてたけど、せっかくなら何か作って食べようとなったからだ。
ディメンション・ボックスから野営用の調理道具を取り出し、早速調理を開始した。もちろんホテルには、部屋で料理する了承をもらっている。
「返って良かったかもしれませんね! たまには手料理食べたいですし!」
チビ雪が嬉しそうに、食材をカットしている。
「そうね、外食ばかりは私も正直飽きてきてた」
これから二人で作ろうとしているのはオムライス。卵とご飯を使った料理で、私もチビ雪も大好きな料理の一つ。
それを横で見ているカールが、何か手伝える事がないかと聞いてくる。
「じゃあ、そこにある卵を割って、良くかき混ぜておいて」
「了解だ! 姉御!」
カールが卵をかき混ぜてくれる間に食材を切り終え、いよいよ調理を開始した。
野営用に使っているフライパンに油を引き、先に食材を炒め始める。
「窓を開けて! 換気しないと煙が篭るわ!」
チビ雪が慌てて窓を開けたのと同時に、
「ウィンド」
リーティアが初歩の風系呪文で、窓に向けて風を送ってくれた。これで部屋に篭る事なく換気ができる。
しかし、ここで大事なことに気付いた。米を炊くのを忘れていたのだ。
「やばー! 米を炊いてない! 急いで炊いてー!」
「大丈夫です。お米は炊いてあります」
リーティアが気を利かして、少し離れた所で米を炊いてくれていたみたいだ。
おかげで助かった。
「やっぱり久しぶりに料理をすると、何かと忘れますね」
「ええ、でも楽しいからいいじゃない!」
「それもそうですね!」
二人で笑いながら食材を炒め、リーティアが炊いてくれたご飯を投入した。
「ちょっとフライパンがギリギリ、ご飯が零れそうだわ」
野営用なので、少し小ぶりだからやり辛い。
何とか零さないように、ご飯と食材を絡めるようにかき混ぜる。
そこへチビ雪がケチャップを投入し、最後に調味料で味を調えチキンライスを完成させた。
「四人分のお皿にチキンライスを移して、そこから卵を作るわ」
「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…や、やっと卵の出番か…疲れたぜ…」
カールは、すでに疲労困憊となっている。
「途中で止めても良かったのよ?」
「それならそうと言ってくれよ!」
誰もカールに何も言わず、オムライスを知らないカールは自分の出番が来るまでかき混ぜ続けていた。
卵を作るのはチビ雪の担当だ。手慣れた手付きで卵を焼き始め、見事な焼き加減でふっくらとしたオムレツを完成させる。
一つオムレツを完成させたチビ雪は、チキンライスの上に乗せた。それをあと三回繰り返す。
「できました! 後は中央を切れば完成です!」
そう言ってチビ雪は、ナイフでオムレツの真ん中に沿うように切れ込みを入れ左右に開く。
オムレツの中は丁度いい半熟具合になっていて、トロっと卵が開いて湯気が上がった。
「おお! 美味そうだ!」
「さすがチビ雪ちゃんね、私がやると完全に固まってしまうか形が崩れてしまうのよね」
「じゃあ私が最後の仕上げをしますね」
リーティアがケチャップを取ると、オムライスにかけるのだが。
ここで変な事を言い出した。
「ハッピーキュンキュン! 美味しくなーれ! エンジェルラブ!」
急に笑顔でテンションの上がったリーティアが、ハートを描くようにオムライスにケチャップをかける。
「何やってんの…」
「ハッ!」
三人の視線とツッコみに、リーティアは両手で顔を抑えて耳まで真っ赤になった。
「つい…天使カフェの癖が…」
思わぬ職業病を見せたリーティアに、三人で次第に笑いが起こり、楽しい食事となった。
旅に出てから初めて料理をしたけど、やっぱり自分で作った料理は格別に感じた。
「それでは、私はバイトに行って来ます」
「うん、気を付けてね」
夕刻が近付く時間に、リーティアは遅めのバイトへと向かう。
天使カフェにバイトに行くリーティアを三人で見送った後は、私は剣の稽古のためベランダに出た。
「食べた分はしっかり動かないとね!」
食後の運動も兼ねた稽古を始め、部屋ではチビ雪がまたもやカールにトランプを挑んでいる。
「カール! 手加減しちゃダメだよ! そんなんで勝っても嬉しくないし!」
「分かったよ! チビ雪ちゃん! 今回もコテンパンにしてあげるよ!」
二人がやり始めたのはブラックジャック、本当に懲りないなチビ雪も。変に負けず嫌いなんだよな。
それから二時間の剣の稽古を終えて部屋に戻ると、また見た事ある光景が広がっていた。
部屋中にトランプが散乱していて、チビ雪は自分のベッドでシクシク泣いている。
「はあ…ちゃんとトランプ片付けといてよ」
「ああ…俺、なんか悪いことしてる?」
「してないわよ。挑んでるのはチビ雪ちゃんの方だし。今回は何連敗させたの?」
「百十二連敗だよ」
「そんなにやってたの!?」
「ブラックジャックは勝負が付くのが早いからね。チビ雪ちゃんも中々諦めなくて、俺も退くに退けなかったんだよ」
カールは部屋中に散乱しているトランプを拾い始め、片付けてからカジノへ行くと言って部屋を出て行った。
一応念のため、何かあるか分からないから用心するよう伝えておいた。悪魔の契約をしているカールは、もし何かあってもリーティアがすぐに気付いてくれるが。
私の方はシャワーを浴びて汗を流し、まだベッドに突っ伏しているチビ雪の隣に座る。
「チビ雪ちゃんもいい加減にしないとダメだよ。トランプでカールに勝てる訳ないんだから。毎回部屋中をトランプ塗れにされたら適わないわ」
「…………行きたい」
チビ雪がベッドに顔を埋めながら、何やら呟く。よく聞き取れなかったので、もう一度聞き返すと。
「私も………カジノに行きたい」
「チビ雪ちゃん、あなたは無理。入り口で止められてしまうわ」
「ラマニが入れて、私が入れないのは納得できないです」
「そりゃ、見た目だけで見ればそうだけど。でもラマニは一応大人だったからね。あれでも」
ラマニは小柄の獣人族で、見た目は子供だったけど年齢的には成人してるらしい。
するとチビ雪は、両手を付いて体をスッと起こすと、杖を持って呪文を唱えた。
「イミテーション!」
リーティアが得意とする変化呪文を唱えたチビ雪の姿は、みるみるうちに私そっくりに変わっていく。
当然、メチャクチャ驚いて目がテンになった。
「これで入れますよね! お姉さま!」
「チビ雪ちゃん!? いつの間にイミテーション使える様になったの!?」
「この時の為に勉強をしていたんです! でもリーティアみたいに誰でもなれる訳じゃなくて、頭に浮かぶ者だけですけど!」
だから私そっくりなのか。だけど目の前に自分がいるみたいで気持ち悪い。
それに、この姿で街を歩かれたら私が顔を隠している意味がない。
「チビ雪ちゃん、出来れば私以外になれない?」
「そうですね……あ! そうだ! 『イミテーション』!」
再びチビ雪がイミテーションを唱えると、また姿が変わり始め。
その姿は、以前お世話になった奈美先生そっくりに変わっていく。
「な、奈美さん!?」
「そうです! 私の担任の奈美先生! これならいいですよね!」
私よりも大人びた姿になったチビ雪に複雑な気持ちになる。
そして、結局チビ雪に押し切られるまま二人でカジノに向かう事になってしまった。
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