66話 偶然ではない天罰
「みんなごめんね。折角みんなでの食事だったのに、あんなことになっちゃって」
ショッピングモールを後にして、四人でホテルへと歩いて向かっていた。
その道中で、レストランでの出来事を三人に謝罪していた。自分が悪い訳ではないけど、何となく申し訳ない気分になってしまったから。
でも他の三人は当然私を責める事はしない。
「何言ってんだよ、姉御! あれはあの店が悪い! 大体純粋な魔族とかハーフ魔族とか、そんなチンケな事でしか相手を見れない奴なんて、相手にする必要ないって!」
「そうです! スノーお姉さまは何も悪くありません! いつかあの店には天罰が下りますよ!」
二人が一緒になって怒ってくれるが、そういえばリーティアが必ず後悔すると言ってたわりには、あっさりとお金を払って出て来てしまった。
やっぱり、ただの脅しだったのだろうか。
「リーティア、結局何もせず出て来てしまったよね。まあ、変に揉め事起こす必要ないもんね」
私がそう言って後ろを振り返ると、一番後ろを歩くリーティアがニッコリと笑った。
その笑顔を見て、考えがすぐに変わった。絶対何かしてきたなと。
「あの店長には呪いをかけておきました。今頃大変な事になっていると思いますよ」
「呪いをかけたって、いつの間にそんな事をしたんだ!?」
「店長が発行したレシートを私が舐めたのを見てましたか? あの瞬間にレシートには呪いが掛かったんです」
「舐めただけで呪いをかけれるの!? じゃあリーティアが使った食器やグラスは呪い塗れじゃ!?」
「安心してください。呪いを掛ける為に舌に魔力を集中しない限り大丈夫ですよ。それにあの手の呪いは、所有者がハッキリしてないと発動しません。レシートは店長が発行した物で、その後に誰も受け取っていませんでした。ですから店長の所有物とみなす事ができます」
さすが力を制限してるとはいえ、大悪魔だけはあるなと感心する中、今後はリーティアを怒らせるのは極力避けようと三人は心に誓った。
しかし、そうなると店長にかけられた呪いだ。一体どんな呪いをかけたのか。
「聞くの怖いんだけどさ。一体どんな呪いをかけたの?」
「大したことないですよ。ちょっと運が悪くなる呪いです」
リーティアの大したことないは、私達にとってはメチャクチャ大事なんだよな…。
――――
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
さっきスノー達と揉めた店に、杖を付きながら現れたのは、よぼよぼの老人。
老人は店員にコクリと頷くと、ゆっくりと歩きながら二人掛けのテーブルへと案内された。
「なんか気持ち悪いジジィが入ってきたよ」
「ホントね。早く料理出して、店から出て行ってもらおう」
店の奥では、店員同士で老人の陰口を言っている。
しばらくして老人が店員を呼ぶように右手を上げたので、誰が行くかクジで決めて罰ゲームと称して老人の対応に一人が向かった。
「チッ、ホント今日はツイてないわ」
ハズレくじを引いた女性店員が嫌々老人の元へと向かう。あの時スノーに水を出さなかった店員だ。
「お決まりになりましたか?」
店員の問いかけに、老人は震えながらメニューを指差した。
「ミックスパフェですね。しばらくお待ちください」
店員はオーダー取ってから、メニューを下げた。
「あそこのテーブルのパフェだ。持って行け」
しばらくして、店の厨房から店長が老人のミックスパフェを出し、店員に持って行くよう指示を出す。
「お待たせいたしました。ご注文のミックスパフェでございます」
老人の前にパフェを置くと、老人はゆっくりとスプーンを取りミックスパフェを頬張り始める。
沢山のデザートの乗ったパフェを一心不乱に老人が食べているが、その食べ方が非常に汚くテーブルや床を汚している。
近くに座っていた客から、あまりに気持ち悪いから何とかして欲しいとクレームが入り。
仕方なく店長がクレーム対応に向かった。
「あのお客様、申し訳ありませんが、もう少し綺麗に食べて頂きたい。他のお客様からクレームが入っているので」
しかし店長の呼びかけに一切反応しない。
無視をされてムカッと来た店長は、老人のスプーンを持つ手を掴んで食べるのを止めさせる。
「ジィさん! 聞いてるのか! 他のお客の迷惑になっているから、もう少し綺麗に食べて貰いたいのだが!」
「ワシが、どう食べようと自由じゃ! なんじゃ貴様はー!」
怒り狂う老人のクリームや果物交じりの飛沫が店長の顔を襲う。
「うわっ! 汚ねぇ! 何しやがる!」
店長が慌ててハンカチで顔を拭うが、次の瞬間に老人がクシャミをして入れ歯が飛んだ。
飛んだ入れ歯は、店長の顎に噛み付いた状態で張り付き、周りの店員に気持ち悪がられる。
「店長汚いー!」
「うあああ!? 入れ歯飛ばすなジジィ!」
店長は、慌てて顎に張り付く入れ歯を払う。
その光景を見ていた他の客達が、食欲が失せたと次々に帰り始める。
「あの、お客様!? お待ちを!」
「うわ! 頼むから近付かないでくれ! 他の店員で頼む」
見知らぬ老人の飛沫と入れ歯攻撃を受けた店長は、客からも気持ち悪がられる。
六割ほど埋まっていた店内は、老人のせいで一気に二割以下にまで減ってしまった。
これに店長が激怒して老人の胸倉に掴みかかる。
「ジジィ! テメェ! これは営業妨害だ!」
今にも殴りそうな空気の中、少し残った客は野次馬と化し、他の店員もただ見ているだけで誰も止めようとはしない。
しかし次の瞬間だった。店に綺麗なスーツを着た帽子とサングラスをかけた男が入ってきた。
「ああもう、父上。一人になってはいけないとあれ程。早く帰りますよ」
「ああ、何だお前は? このジジィの関係者か?」
店に突然入ってきた男に、店長は食って掛かる。
その様子を見た若い男は眉をひそめた。
「この店で何があったかは知らないが、私に対してそんな口を利くとは良い度胸だね」
「ああ? てめえが何者かなんて知るか! こっちはこのジジィのせいで迷惑してんだ!」
少し店内が汚れているのを見た若い男は、少し考えて話し始める。
「ふむ、どうやら父上も迷惑を掛けたみたいだね。そこは謝罪しよう。だが君のやっている事も看過できない。まず父上から手を放してもらおうか」
「ふざけんじゃねえぞ! ここは俺の店だ! てめえの言いなりになんぞなるかよ」
店長は額に血管を浮き上がらせながら、男性魔族に近付いていく。
老人を引きずったまま。
それを見た男性魔族は、右手を上げるとパチン! と指を鳴らした。
指パッチンが鳴った瞬間、店の外から黒いスーツを着たガードマンが何人も店に入って来る。
「な、なんだなんだ!?」
突然の事に、ただ驚きと戸惑いを隠せない店長と他の店員達。
「店に極力迷惑を掛けないよう、ボディーガードは店の外に待機させてたんだがね。こうなってしまったら仕方ない」
「あ、アンタは一体…何者なんだ!?」
「申し遅れました、私はこういう者です」
再び男が指パッチンをすると、横に立ったガードマンが懐から名刺を取り出し店長へと渡す。
その名刺を見た店長は、みるみるうちに顔が青ざめていった。
「い、イドラ・ベレス…まさか、ユトグア領主の…イドラ様か!?」
若い男性魔族が、帽子とサングラスを外して自己紹介をする。
「そう、そのまさかだよ。私はユトグア領主イドラ・ベレスだ。そして君がさっきから鷲掴みにしている老人は私の父、先代領主のカブ・ベレスだ」
「ひえっ!」
店長が慌てて手を放して、老人は床に落ちる。
ガードマンがすぐに駆け寄り、老人を抱き抱える。
「カブ様、大丈夫ですか?」
だが老人は入れ歯がなく、何をしゃべっているか分からない。
「この店で何があったのか聞きたい。話してくれるね?」
「は、はい…」
店長が事の顛末をイドラに話した。
「ふむ、そうか。なら父上がした無礼は謝罪しなくてはならないね。申し訳なかった。そしてこれはパフェと迷惑料だ。受け取ってくれ」
それを聞いたイドラは懐から財布を取り出し、そこから出した札束を他の店員に渡す。
「て、店長!? 五十万ミラあります!」
「そ、そんなにお金を!?」
「ではこちらは筋は通した。後は君の番だ。私への悪態と、父上への暴行を清算してもらう。連れてこい」
イドラが顔をフイっと振ると、二人のガードマンが店長の両脇を抱える。そして、そのまま一緒に連れていかれる事になった。
「ま、待ってくれ! 俺の悪態は謝罪します! お金も要りません! どうか!」
「ダメだ。私の屋敷でキッチリ話しを聞こうじゃないか。なあ? 店長さん」
当然、誰も店長を助けようとしない。ただ黙って見ているしかできなかった。
老人と店長を連れてガードマン全員が出て行き、最後に残ったイドラが店に頭を下げる。
「申し訳ない。私の父が迷惑を掛けてしまいました。どうかお詫びを」
「い、いえ。私達の方こそ、領主様のお父様と知っていれば。御無礼をお許しください」
店の従業員の女性がイドラに頭を下げる。だがイドラは、その従業員の言った言葉が引っ掛かった。
「ダメですよ。相手が領主の父とか関係ありません。誰でも、ここでは料理を食べる権利があります」
そう言って領主イドラが笑顔を見せると、他の従業員も自分達の今までの態度を反省する事になった。
「申し訳ありませんでした、イドラ様。今後は、私達も心を改めて働きます」
従業員全員がイドラに頭を下げた。ここで一人の従業員が、イドラに質問をする。
「あ、あの。店長はどうなるのでしょうか?」
「そうだね。私への悪態はいいとして、父上への暴行は許されたものじゃない。まあ然るべき対応はするつもりですよ」
ニヤッと笑ったイドラに、従業員が戦慄する。
そして領主は帽子を被り、サングラスをかけて店を後にした。
店長がいなくなった後、一番歴の長い従業員が指示を出し店の片付けを始める。
皮肉にも、それによって店の雰囲気も変わり、今まで以上に客足が伸びる事になった。
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