64話 カールの覚悟
朝、目を覚ますと昨日泥酔したリーティアが起きていた。
だけど何か様子が変だ。頭を抱えてしゃがみ込んでいる。
「おはよう、リーティア。どうしたの? どこか具合でも悪いの?」
しゃがみ込んでいるリーティアの後ろから、挨拶と共に話し掛けた。
すると、ゆっくりと後ろを振り返ってきたリーティアの顔を見て思わず顔が引きつる。
「スノー様ぁ、私は何という失態を……恥ずかしい……昨日の記憶を消し去りたいです……」
泥酔はしていたけど記憶は残っているようで、半泣きになりながら昨夜の事への超絶な自己嫌悪に陥っていた。
「やはり百年ぶりの開放は、私にとっても思った以上に反動があったみたいですね……」
また頭を抱えて丸くなってしまう。
あまりにいたたまれないので、後ろからリーティアの肩に優しく手を乗せて、
「まあ、こんな事もあるわよ! 気にしなくても大丈夫よ!」
「…………」
私なりに精一杯励ましたつもりだったけど、リーティアから何の反応もなかった。しばらく一人にしておこう。
一人落ち込むリーティアをそのままにして、朝のシャワーへと向かった。その間にチビ雪もカールも起きてきていた。
「おはようございます、スノーお姉さま!」
「おはようチビ雪ちゃん、そしてカール、もう動いて大丈夫なの?」
「おはよう姉御! ああ、まだ軽く怠さはあるが大丈夫だ! ところでリーティアは一体どうしたんだ?」
シャワーから出た後も、まだ蹲って落ち込んでいた。
「あーうん。何か力を使い過ぎて調子悪いみたいよ。今はそっとしておいてあげましょう」
「確かに昨日の夜から少し変でしたもんね。せっかくカールが元気になったのに中々みんな揃いませんね」
「俺のせいで迷惑かけちまったし、ちょっと罪悪感があるな」
まあリーティアのは個人的な落ち込みだから大した事ないんだけど、本人にとって酒に呑まれるなんてのは相当なショックだったようだ。
カールは、リーティアがそうなったのは自分のせいだと気にしているが、
「気にしなくて大丈夫よ。でもカール、今後はあまり無茶しないでよ。あなたは戦闘向きではないんだから。あの時は、あなたを外で待機させておかなかった私の判断ミスでもあるけど」
「そうそう、戦闘は私とスノーお姉さまに任せておいて」
二人で戦闘にはあまり首を突っ込まないように、カールに少し釘を刺した。
だけどカールは、あからさまに不満げな顔をする。
「そういう訳にはいかない。二人にばかり危険な事を任せて、俺だけ安全な所にいるなんて。もし二人に何かあったら俺だって立ち直れないぜ」
「へえ、ちょっと驚いた。あなたから、そんな言葉が出るなんて」
少しカールを見直したけど、それでも戦闘に参加させる事はやはりできない。
「カールの気持ちだけで十分だよ」
「ダメだよ、チビ雪ちゃん。実は意識を取り戻してから考えてたんだ」
今までになく神妙な顔をして、ベッドに座ったまま少し顔を下に向けているカール。
その様子に、チビ雪と二人で黙って見ていた。
「俺は確かに戦う事はできないかもしれない。でも二人の盾になる事はできると思うんだ」
「カール! だから無茶はしてはいけないと」
「姉御、最後まで聞いてくれ! 誰も無茶をするとは言ってない! 俺はガーディアンになろうと思うんだ!」
ガーディアンになりたい、その言葉を聞いて黙ってしまう。
私を守ってくれたジュパルを思い出したからだ。
そして、つい感情的になってしまう。
「ダメよ、カール。ガーディアンは絶対にダメ」
「何でだよ! 俺が盾になれれば、二人のリスクも軽減できるんだぜ!?」
「ダメったらダメ! この話しは終わり! いいわね!」
そのまま隣の部屋へと入り、ドアをバタンと強く閉めた。
突然の事で、カールもチビ雪も呆気に取られる。
「姉御の奴、一体どうしたっていうんだ」
訳が分からないカールに、チビ雪が以前あった首狩り騎士事件の事を説明した。
そこで命の危険に晒されたスノーは、ジュパルというガーディアンに何度も命を救われた事。
だが逆に、危険に晒されたジュパルを救う事が出来なかった事など、洗いざらい全て話す。
「私はジュパルという魔族を見た事ないんだけど。スノーお姉さまは、あの時の事を今でも後悔しているの。だからカールに同じ目に遭って欲しくないんだと思う」
「そうか、そんなことが」
静かにチビ雪の説明を聞いていたカールは、腕を組んで真剣な表情で考え込む。
「でもやっぱり俺だけお荷物は嫌なんだ!」
カールの決心は高いようだ。しかし、いくらガーディアンでも一朝一夕でなれるものじゃない。
「ガーディアンだって、ただ盾を構えていればいい訳じゃないよ。それなりに体も鍛えないといけないし」
「それぐらい俺だって…」
「カールの気持ちは分かったけど、また危険な目にあったら結局は、私やスノーお姉さまの足手まといになるよ。カール一人の問題じゃないから、ハッキリ言わせてもらうけど」
「…………」
チビ雪の言葉にカールは何も言い返せない。一緒に旅をするまでは、辺境の村でひっそりと暮らしてきたカールは、特別訓練を受けてきた訳じゃない。
今から戦う術を身に着けるにしても、やはり旅をしながらでは限界がある。
「結局…俺は役立たずなのかよ…」
声を振り絞って悔しさを滲ませる。
「そんな事ないよ、カールと一緒に旅してたら楽しいし。それぞれ役割があるだけだよ!」
「よしてくれ、俺は役立たずさ。俺のせいでみんなを危険な目に遭わせるかもしれないなら、俺はここで」
カールがパーティを抜ける事を口にしようとした時だった。部屋の片隅で頭を抱えて蹲ってたリーティアが口を開く。
「カールさん、どうしても戦闘で役に立ちたいというなら私が貴方の武器を作ってあげます」
「え? マジで!?」
「マジです」
なんとリーティアが新しくカール専用の武器を作るという。
「善は急げです。まずは私からスノー様に話しておきましょう」
やけに行動が早いリーティアに、二人はただ呆気にとられる。
「一体どうしたっていうんだ。いつもは全然やる気無さそうなのに」
「うーん、たぶんリーティアも責任を感じてるんじゃないかな」
「いやあれは俺のせいだって言ったのに」
「誰も悪くないよ。でも新しい武器を作ってもらえるなら良かったじゃん!」
しばらく二人で待っていると、隣部屋からスノーとリーティアの二人が出てきた。
少し渋い顔をしながらスノーはカールに問いかける。
「私は今でも、あなたが戦うのは反対よ。死ぬかもしれないけど、それでもいいの?」
「ああ、その覚悟はしたつもりだ」
「そっか、でも…私も少しはあなたを信用しないとダメかもね」
「姉御! それなら!」
「ええ、リーティアにあなたの武器を作ってもらいましょう。材料集めは私も手伝うわ」
「よっしゃー! やったぜー!」
「カール良かったね!」
カールはチビ雪と抱き着いて喜んでいる。
二人の様子を見ながら、不安が混じりながらも笑顔を向けた。
こうしてカールの新たな武器を作る事が決まり、全員で材料の買い出しに出た。
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