63話 幸運と反動
「ん…………ん-、どこだここは? 俺は一体」
宿主の璽を押されて意識を失ったカールは、翌日の夕方になってようやく目を覚ました。
三人でカールが寝ているベッドへと近付く。
「おはよう、カール。ここはインテリアル・パレスよ」
「カール! 良かった! 無事で!」
「うぉ!? 急にどうしたんだ、チビ雪ちゃん!」
チビ雪がベッドに横になっているカールに抱き着いた。
状況を飲み込めないカールに、リーティアと二人で説明をする。
それを聞いてショックを受けるカール。
「マジか……俺のドジで、あんな奴のオモチャにされてしまうなんて」
「全然覚えてないの?」
「ああ、オードルを抑え込んでからの記憶が曖昧になってる。気付いたら、ここのベッドの上だった」
記憶がないカールに、ラマニの最期やリーティアの正体なんかも話した。
「大悪魔リーティア……よく分からないけど、凄い奴だったんだな」
この反応に、三人で苦笑いになる。カールは今の魔王の顔すら知らないと言ってたから、正直カールの反応はある程度予想は付いていた。
ところが、ここでリーティアが意外な行動に出た。
「ごめんなさいね、カールさん。私が貴方から目を離さなければ、貴方をあんな目に合わせずに済んだ。全て私のせいです」
リーティアはカールの寝ているベッドの横で、膝を付いてカールに謝罪をした。
私もチビ雪も驚いて、呆気に取られた。
「いや、カジノで大勝ちして浮かれてた俺の責任だ。リーティアのせいじゃないよ。むしろありがとう、おかげで助かったよ!」
カールは優しく微笑み、感謝を伝える。
「確かに救えましたが、あれはたまたま私と悪魔の契約を交わしてたからです。失敗作だったとはいえ宿主の璽を押され自我を失った者は、ラマニも言ってた様に本来は二度と元には戻せません。
貴方を私の所有物としていたから私の魔力で強制的に戻せましたが、そうじゃなければ、いくら私でも貴方を元に戻す事は出来ませんでした」
少し唇を噛み締めるように、リーティアは続ける。
「今だから言えますが、カールさんを戻せる可能性は三十パーセントもなかったと思います。貴方を戻せるかどうかは、私にとっても賭けでした。失敗していたら…恐らく貴方もラマニ動揺、魂を失っていたでしょう」
そうなんだ、思ってた以上にカールはヤバい状況だったんだな。
がだ、それを聞いたカールは意外にも大笑いをした。
「はっはっはっ! マジかよ! じゃあ俺はやっぱりツイてる男なんだな!」
この反応は流石のリーティアも予想外だったようだ。珍しく目がポカンとなっている。
「だってそうだろ! 押されたのが俺で良かったよ! もし姉御やチビ雪ちゃんだったらヤバかった訳だ!」
「え、ええ。確かにその通り……ですね」
「しかも俺は、可能性の低い賭けにも勝ったんだろ? じゃあ俺の運は相当なモノだって改めて証明された訳だな!」
「そ、そうなんでしょうか。うん、そうなんだと、思います」
リーティアが少し狼狽えながら答えてる。今まで見た事ない姿が、ちょっと見てて面白い。
だけどカールの言う通り、もし私やチビ雪ちゃんが宿主の璽の餌食になっていたら、いくらリーティアでも元に戻せなかった。
そういう意味ではラッキーだったとも言える。
「じゃあ俺はみんなを救った英雄だな! 感謝してくれよ!」
「すぐそうやって調子に乗る! まあでも、今回は許してあげるわ!」
自然と笑いが起きる。いつもは気怠そうなリーティアも、口元に手を当て笑っている。
「でも改めてありがとう! 特にリーティアには二度救われた! 俺の命の恩人だ!」
「感謝されるような事はしていません。私は自分の所有物を盗られるのが嫌だっただけです」
少し顔を赤らめて照れながらリーティアは答える。意外と素直じゃないのね。
カールが目を覚まして話してたら、夜もいい時間になっていた。
お腹が空いてきたので夕食にしたい所だけど、カールは体のダメージがまだ残っているようでベッドから起きられないみたいだ。
「今日はルームサービスを頼みましょう。みんな何がいい?」
「ああー俺はいいよ。まだ何も食べたくないんだ」
「じゃあ水だけ用意しておくわね」
「ああ、ありがとう」
何も食べないカール以外の三人分の食事を注文する事に。
「あの、私お酒いいでしょうか」
「うん、いいんじゃないの? 何で気まずそうなの?」
一体何を気にしてるのか、呑みたいのなら遠慮する必要ないのに。
「だって私だけ吞むなんて、何か気が引けて」
「魔王クライドもそうだったけど凄い魔族って、どうしてこうも変なとこで真面目なの」
「じゃあ常に不真面目なスノーお姉さまは、まだそこまで到達してないって事ですね!」
「それどういう意味なのかな、チビ雪ちゃん!」
チビ雪の頬を両手で摘まんで引っ張る。
「痛い痛い! ひょのまんまの意味ですよ!」
「こいつ! まだ言うか!」
「あははは! 面白いなー! 二人とも!」
子供のようにはしゃぐ私達を見て、カールが笑う。リーティアも横で小さく微笑んでいる。
その後リーティアがフロントに連絡して料理や飲み物を注文し、三十分ほどしてからホテルのスタッフがルームサービスを運んできた。
「カール、水ここに置いておくわね」
「ありがとう、少し眠るよ。俺の事は気にせず盛り上がっててくれ!」
一人ベッドにカールを残し、三人で窓際にあるテーブルに料理を並べて座った。
「それじゃあ色々とあったけど、みんなお疲れ様! いただきます!」
「「いただきまーす!」」
三人で手を合わせてから夕食を食べ始めた。
リーティアだけは、早速お酒のボトルを開けてグラスに注ぎ、一気飲みしている。
「ぷはー! やっぱり一杯目のお酒の味は格別です!」
「ねえリーティア、あなた少しキャラ変わった?」
「そうかもしれないですね。久しぶりに力を開放した影響でしょうか。ちょっとテンションが高くなってる気がします」
意外な一面を見せられすぎて、今更驚きはしないけど。それでも最初に会った時に比べて、少し明るくなったように思う。
「でも一番の影響はスノー様と一緒に旅をしたからだと思います」
「え? 私との旅が?」
「はい、スノー様はご自分が思っている以上に面白い小娘なんですよ。全く、五百年以上も生きてる大悪魔をかどわかすなんて、貴女も罪なお人ですね!」
「変な言い方しないでちょうだい!」
「リーティア、もう酔っ払ったの?」
チビ雪が心配そうにリーティアを見るが、確かにあんなにお酒に強いリーティアがもうすでに顔が赤い。
呂律も若干怪しくなっている。
「これも力を開放した影響だと思います。ヒック……ちょっと、目が回りますねー!」
「ちょっとリーティア!? お酒もう止めときなさい! チビ雪ちゃん、手を貸して!」
「はい! 小雪様!」
どんどん泥酔していくリーティアからボトルを取り上げ、自分で立つ事もままならなくなったリーティアをチビ雪と二人でベッドまで運んだ。
「すー……すぴー……」
ベッドに横に寝かした途端、速攻で寝息を立てて寝てしまった。
「悪魔って寝ないんじゃなかったの」
「たぶんですけど、リーティアも何だかんだ力を開放した反動が来てたんだと思います」
結局マノスヒルズにいた時みたいに、チビ雪と二人での夕食になる。
だけど、それはそれでお互い気兼ねなく食事を楽しむ事ができた。
食事を終えた後は、久しぶりにチビ雪と二人だけで他愛もない話しで夜遅くまで盛り上がった。
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