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60話 リーティアの正体

「い、一体何者なんだ!? 貴様は!? 僕の知る限りでは、貴様の情報はないぞ!?」


ラマニが今までになく動揺をする。


力を開放したというリーティアは、ラマニの人形と化した者達を指パッチンだけで六人も倒してしまった。


焦るラマニの問いに対し、


「そりゃあそうでしょう。私は今の今まで漆黒の剣と関わってないですからね」


淡々と答えるリーティアと、汗まみれになって動揺をするラマニ。


正に対照的な二人が対峙している。


「だ、だがまだだ! 僕の人形はまだ三体いる! しかも、こっちにはお前達の仲間がいる! どうだ、こいつは攻撃できないだろ! クハハハハハハハ!」


ラマニは鞭を地面に鳴らし、カールを盾にする様に前に立たせた。他の二人は、カールの左右に立ちラマニを守るように壁となった。


だけどリーティアは顔色一つ変えない。


「面倒ですね。一気に片付けます。

地獄の炎よ、全てを燃やし尽くせ。地獄之業火イーンフェルヌス・フランマ


リーティアの右手からは、さっきも放たれた青い炎が燃え上がり、カールの左右に立つその他二人に襲い掛かる。


二人の操り人形は一切の悲鳴を上げず、青い炎に飲み込まれ完全に燃え尽きてしまった。


「な、何なんだその呪文は!? 青い炎系呪文なんて見た事ないぞ!?」


ラマニが相当焦っているが、それは後ろで見ている私とチビ雪も一緒だった。


そして一人残ったカールに、リーティアが動き出す。


「カール、あなたは主たる私に歯向かうのですか? 貴様の主が誰か、今一度思い出させてあげます」


リーティアはディメンション・ボックスを開き、そこから一枚の紙を取り出した。


その紙は、カールのサインの入った悪魔の契約書だ。


「煉獄の契約に従い、汝の全てを我が物とする。

我に永遠の従属を誓いし下僕(しもべ)、カールよ。主人たる我の声に応えよ」


リーティアが詠唱をした途端、悪魔の契約書の文字が赤く光り始め、その後に今度は青紫の炎が契約書を包んだ。


燃える訳でなく、リーティアの手の平の上で浮いた悪魔の契約書は青紫の炎に包まれている。


すると同じ青紫の炎がカールの体全体にも現れ、カールはもがき苦しみ出す。


「ぐあああああ!!!」


「カール!? 一体何が起こってるの!?」


後ろで見守る私とチビ雪が狼狽える。当然ラマニもだ。


「な、なんだ!? 何をした!?」


青紫の炎がカールを包んでしばらく、ラマニに押印されたカールの右手にある印が燃えて消える。


リーティアが印が消えたのを見ると、悪魔の契約書から青紫の炎を消した。


同時にカールの体からも炎は消え、その場に前のめりに倒れそうになり、リーティアがカールの体を支える。


「これでラマニの呪縛からは解放されました。スノー様、カールをお願いします」


「え!? ええ、分かったわ」


リーティアから気絶しているカールの肩を持って、ゆっくりと地面に下ろした。


「ば、バカな!? 何故だ!? 宿主の璽の印は絶対に消せないはずだ!?」


ラマニが慌てふためくのを横目に、リーティアが少しずつラマニに近付いていく。


「私の所有物に手を出した罪、今この場で清算してもらいましょうか」


「ひっ! き、貴様は一体…何者なんだ!?」


「貴様の持つ宿主の璽を作った者、そう言えば分かりますか?」


「宿主の璽を作っただと!? ………ま、まさか!? おまえ…いえ、貴女あなた様は!? 

か、かつて魔王グリテアと魔界の覇権を争ったとまで言われる、青紫蛇ヴィオレット・シュランゲの大悪魔・リーティア様か!?」


ラマニから飛んでもない言葉が飛び出した。


チビ雪と目を合わせて、お互いが信じられないといった顔で驚き果てた。


「リーティアって只者じゃないと思ってたけど、只者じゃ無さ過ぎて付いていけないわ…」


今の今まで、私は飛んでもない存在を従えていたのか。


「宿主の璽は私にとっては失敗作でした。貴様と共に、この場で葬り去りましょう」


「な、何でだよ!? 何でこんな所に大悪魔リーティアがいるんだ!?」


「私の気まぐれですよ。お坊ちゃん」


「ひいっ! ま、待ってください! リーティア様! 僕はボスに命令されただけで、決して貴女様に歯向かう意志などありません! どうかお許しを!!」


態度が百八十度回転したラマニは、地面に頭を擦り付けて見事なまでの土下座をする。


だがリーティアは態度を一切変えず、淡々と対応を続ける。


「曲がりなりにも、上位悪魔の私を誤魔化せると本気で思っているのですか? 貴様は我々全員をオモチャにするとイキがっていたではありませんか」


「そ、それは…」


何もかも諦めたのか開き直ったのか、ラマニがあまりにバカな行動に出始める。


「ならいいさ! 大悪魔だか何だか知らないけど、お前も僕のオモチャにしてやるよ! お前をおもちゃに出来たら、僕の最高の遊び道具になる!」


ラマニは懐から宿主の璽を取り出し、リーティアへと向かっていく。


「面白い、やってみなさい」


ニヤッと笑ったリーティアは、自ら右手を差し出しワザと宿主の璽を押印させた。


押印した直後、ラマニはすぐにリーティアの名前を叫んだ。


「クククク、クハハハハハハハ! 大悪魔リーティア! 宿主の声に応えよ! やった、やったぞ! 大悪魔・リーティアを僕のオモチャにしたぞ!」


大きく高笑いをするラマニは、鞭を握り締めてリーティアに打つ。


「さあ僕のオモチャ! あそこにいるスノーと、その仲間を殺せ!」


「了解しました」


ラマニの命令に、リーティアが無表情で応える。


「リーティア!? 嘘でしょ!? 自分から押印されるとか何やってるの!?」


慌ててスノーフェアリーを抜刀し、チビ雪は杖を両手で持ち臨戦態勢に入る。


「スノーお姉さま、勝てるでしょうか」


「たぶん、無理だと思う。リーティアの正体を知ったら勝てる気がしないわ」


決死の覚悟を決めて、リーティアと戦う決断をする。


だけど何か様子がおかしい。


「お、おい! 何をやっている!? 早く抹殺しろ!」


ラマニが再び鞭を打つが、リーティアはその場から全く動こうとしない。


「ウフフフ、子供騙しですね。やっぱりこれは失敗作です」


「な、なに!?」


最初操られているように見えたリーティアだけど、どうやら単に遊んでいたようだ。


リーティアに宿主の璽は通用しないらしい。


「それは以前、対グリテア用に作った物です。でもグリテアには全く効果がなかったので、失敗作だと手放しました。

グリテアに効かないのなら、当然実力で匹敵する私にも効かないだろうと読んでいたんですよ」


「な、なんだと!?」


「宿主の璽は、どんな相手でも屈服させる物でなければ意味がない。だけど、お前みたいな小物に使われる事になるなら、始めから手放さずに私の手で葬っておくべきでした」


するとリーティアの右手から、また青紫の炎が出て来て右手の甲に押された宿主の印が消えていく。


「宿主の印が消えた!?」


「そしてもう一つ、私には試したい事があります。お前はその実験体になってもらいます」


狼狽えるラマニの目の前に、リーティアは宿主の璽を見せつける。


「宿主の璽!? いつの間に!?」


リーティアは、いつの間にかラマニから宿主の璽を奪っていた。


「屈伏せよ、ダーク・グラビティ」


「ぐ、ぐああああ!!」


そしてリーティアが呪文を唱えると、ラマニはその場に突っ伏して動けなくなる。


「か、体が重い!? 動けない……」


「これは一定の空間の重力を操る呪文ですよ」


それを聞いて思わずチビ雪の方を見てしまったけど、チビ雪が驚きの表情を見せながら横に首を振る。


つまりチビ雪も使う事ができない。


倒れるラマニをニヤリと不敵に笑い見下ろすリーティアは、うつ伏せで倒れているラマニの額に、そのまま宿主の璽を押印する。


「ぎゃあああ!!」


「ラマニ、宿主の声に応えよ。さあ、その場で立ちなさい」


押印した後、リーティアは呪文を解きラマニを立たせる。宿主の印を押されたラマニは他の者達同様、ゾンビのように生気の消えた目となっている。


「実験はここからです。押印された者が宿主の璽を破壊されるとどうなるのか、試してみたかったのですよ。ウフフフ」


あまりに不気味に笑うリーティアに、後ろで完全に固まってしまう二人。


「スノーお姉さま、二回目だけどリーティア怖いです」


「ええ、私も二回目だけど同じよ、チビ雪ちゃん」


宿主の璽を握るリーティアの右手に、またあの青い炎が出始める。


そして宿主の璽は、徐々に形が崩れて灰になっていく。


「ごがああ!! ぐぼお!!」


宿主の璽が燃えて行く中、宿主の印を押されたラマニに変化が表れ始めた。


体全体に血管が浮き上がり、両手で頭を抑えながら苦しみ始めた。


その後、顔中から血を流し倒れてしまう。


「ふむ、思ったより大した事ないんですね」


目の前のラマニの様子を見て、リーティアはディメンション・ボックスからメモ帳を取り出して何やらメモしている。


「ね、ねぇ。死んだの?」


「ええ、精神が。肉体は生きてますよ」


「それってどういう事?」


「つまりラマニの魂は爆発四散して、空っぽの肉体だけ残ったという事です」


う、うん、それのどこが大した事ないのか。どんどんリーティアが恐ろしく思えてしまう。


それ以上何も言えずにいる私とチビ雪を気に留めることなく、メモを取り終えたリーティアはメモ帳をパタンと閉じて、いつもの姿へと戻っていった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


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