58話 宿主の璽
「全くやってくれるね」
ラマニの部下を一人残らず倒した。残っているのはラマニとレストランの店主の二人。
しかしラマニは余裕の表情を崩さない。
「どうしたスノー? ここで一気に畳み掛けるチャンスなのに、何を突っ立ってるんだ?」
「あなたも部下を倒されて、何で余裕ぶっこいてるのかしら?」
お互い牽制し合うが、おそらくラマニは何か企んでいる。
だけど、このままでも埒があかない。
「チビ雪ちゃん、お願い」
「はい、スノーお姉さま! 喰らえ! 『ファイヤーブレイズ』!!」
チビ雪が炎系高等呪文のファイヤーブレイズをラマニに向けて放った。巨大な炎の塊がラマニに接近するが、何故か奴は避けようともしない。
回避しなくても呪文が効かないのか、それとも他に何かあるのか。
「クククク、まずは呪文で様子見とは姑息だね!」
こっちを見下すような笑みを受かべたラマニは、手に持っている鞭を振り、横に立っていたレストランの店主の背中を打った。
「さあ僕のオモチャのオードル君! 僕の盾になれ!」
鞭で打たれたレストランの店主・オードルは、無表情でラマニの前に立ち塞がり、チビ雪の撃ったファイヤーブレイズが直撃する。
「な!? 何やってるの!?」
「信じられません! 自分の仲間を盾にするなんて!」
大きな炎が天井近くまで上がる中、私とチビ雪が狼狽えたけどリーティアだけが冷静に判断していた。
「いえ、違います。恐らく彼はラマニの人形と化しています。自分の意志ではありません」
リーティアが冷静にオードルの様子を分析し、何時にもなく目が険しくなっている。
ファイヤーブレイズをもろに受けたオードルは熱がる素振りも見せず、それどころか悲鳴すら上げない。
しばらくして炎が消えると、真っ黒に焼け爛れたオードルが立っていた。
すでに死んでいるようにも見えるが、彼は倒れもしない。明らかに尋常ではない。
「あなた一体、彼に何をしたの!」
後ろで不敵に笑い続けるラマニに、怒りを滲ませて問い詰める。
するとラマニは、さらに不愉快にニンマリと笑い鞭を振るった。
「僕はテイマー、魔族を操るテイマーさ!」
「魔族を操る? そんな事が」
「できるんだよ! 僕にはね! さあやれ! 僕のオモチャ達! マス・ケス、ダー、アフマト、アガト、フマ、宿主の声に応えよ!」
ラマニの鞭は大きく伸縮し、床に倒されている五人の部下たちの名前を叫びながら打った。ラマニの鞭は、大きく伸びたり縮んだりと伸縮性がとにかく凄い。
鞭に打たれた部下たちも、オードルと同じように死人のような目で起き上がり、こっちに襲い掛かってくる。
「スノーお姉さま! こいつら気持ち悪いです!」
「そうね! ここは気を引き締めてかかるわよ!」
「やはり、私の推測は間違っていなかった。今回ばかりはダメかもしれない」
「え? リーティア何か言った?」
ブツブツと小声でリーティアが何か言っているが、声が小さくてよく聞き取れなかった。
ミスリルソードMK‐Ⅱを両手で握り直し、ゾンビのように迫ってくるラマニの部下達と対峙する。
「スノー! お前は僕を侮辱した! だからお前も僕のおもちゃにしてメチャクチャに遊んでやるよ!」
「お断りよ! 気色悪い!」
「貴様! また僕のことを!」
ラマニは自分を馬鹿にされる事に極度に反応する。上手く挑発すれば、隙を突けそうな気がするが。
「スノーお姉さま、雑魚は私に任せてその隙に! 『チェーン・ライトニング』!」
チビ雪が迫る敵に呪文を放ち、時間稼ぎを行う。
「スノー様、こいつらはラマニの命令で動いています。とにかくラマニを止めなければ」
「分かったわ。ここは任せるわよ!」
三人で打ち合わせが終わり、ラマニの部下を二人に任せて、私だけ単騎でラマニの方へと走る。
ラマニとオードル、この二人だけなら私一人で十分なはず!
「クククク、そんなに僕のおもちゃになりたいのか。いいよ、遊んでやれオードル」
「なんですって!?」
丸焦げになったオードルに躊躇なく命令をするラマニ。
オードルは全身が焼けたまま、こっちに突進してきた。
「邪魔よ! 退きなさい!」
ミスリルソードMK-Ⅱをオードルの左肩に打ち込むが、やはり悲鳴一つ上げず、痛がる事もない。
「本当にゾンビね…自分の仲間に、こんな事ができるなんて…あんたマジでイカれてるわ」
首狩り騎士の時のアデムもクズだったけど、このラマニも負けず劣らずのクズっぷりだ。
沸々と私の中に、あの時の廃墟と同じような怒りが込み上げてきていた。
「クズは君だよ。この僕を侮辱したんだ。その報いは受けて貰わないとね」
「その為なら自分の味方をも利用するの?」
「利用じゃない、有効活用だよ! 彼らだって本望だろう!」
「そう、なら私もアンタにもう容赦しない」
対峙するオードルの腹に蹴りを喰らわせて後ろに倒した。
だが倒れたオードルはすぐに立ち上がる。
「スノーお姉さま! こいつら、いくら呪文を撃っても全く効きません!」
後ろの方では、五人を相手にしているチビ雪が苦戦している。
建物内で余計に魔導士に取って不利なのもあるけど、それ以前に奴らに呪文が効いていない。防御系の呪文を使って動きを止めるのが精一杯の状況だ。
「スノー様、こいつらの首筋に印が見えます。恐らく『宿主の璽』が押されています。宿主の璽を押印された者は自我を奪われ、宿主の人形と化す魔道具です。操られる時に発動し、浮き彫りになるんです」
「へぇ、僕の使う魔道具を知っているなんてね」
リーティアが敵の使う魔道具を見破った事に、ラマニも流石に驚きの表情を見せる。
「こいつらは任せてください。『アース・ケイジ』」
リーティアが呪文を唱えると地面から大量の土の槍がいくつも天井にまで突き上がり、人形と化したラマニの部下五人を拘束した。
「ふーん、君は中々やるじゃないか。まあ知ってたところで、どうって事ないけどね。これが僕のテイマーの能力さ!」
つまり自分の部下全員に、自分の人形と化す印を押していたという事か。
ちょっと待った、という事は。
「カール、あなたがカジノで押されたのって」
「マジかよ、俺もあんな風になるのか!? でも今のところ何ともないぜ!?」
「宿主の璽は、押した相手の名前を呼んでから専用の言葉を述べて初めて発動します。その前に奴を叩けば、カールさんは大丈夫です」
「分かったわ、すぐにラマニを倒す!」
カールが不安そうに右手の甲を見ている。そこにはまだ押された印はない。
それを聞いたら、余計にラマニをどうにかしないと。
「何がテイマーよ。ただのゲス野郎じゃない」
「おまえ本当にムカつくな。やっぱりお前だけはオモチャにせずに、そのままイタぶってやるよ。やってしまえオードル君」
命令をされたオードルが再び向かって来る。
するとここで、後ろでずっと見ていたカールが飛び出してオードルに飛び掛かった。
「こうなったら俺だって、たまには役に立つぜ!」
「カール、何やってるの!」
近付くオードルに、カールが突進して倒れ込んだ。そして、そのまま地面に抑えつける。
「今だ姉御! 俺がこいつを抑え付けている間に!」
「無理しないで! スキアーがいるんだから!」
だけどカールが作ったチャンス、無駄にはしない。ミスリルソードを両手に持って、ラマニの方へと素早く走った。
だがラマニが私にではなく、カールに向けて鞭を大きく振るう。
「カール! 宿主の声に応えよ!」
「うわああ!!」
「しまった! カール!?」
先にラマニがカールの名前を叫んで鞭で打たれた瞬間、カールは悲鳴を上げて倒れ込んでしまう。直後に右手には、奴らと同じ印が浮き彫りになっていた。
「クククク、これで一人目。僕のオモチャだよ!」
ゆっくりと立ち上がったカールは、オードルや他の部下達のように、自我を失いゾンビのようになってしまう。
カールの右手の甲には、宿主の璽による刻印が浮き彫りになっていた。
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