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55話 リーティアの決意

漆黒の剣に狙われている事を知らずに、呑気に遊ぶカールを無事に拉致したリーティア。


カジノでは、元はカールが遊んでいたテーブルのカードを持って、一人の男が現れた。


「なあ、そこのガードマンさん。ここのチップを全て換金してくれ。このテーブルに座ってた奴から譲って貰ったんだ」


「証明できる物はありますか?」


「これが、このテーブルのカードだ」


「確かに間違いありません」


この二人のやり取りを見ていた野次馬達がざわつく。早くカールのギャンブル勝負の再会を楽しみに待っていたのに、完全に水を差された格好だ。


当然、罵詈雑言が飛び交うが、その中でも黙ってないのは当然カールを見張っていたラマニ一味だった。


ラマニ達は、一旦その男が換金するのを待ってから行動に出る事にした。


男がニンマリとしながら換金所から戻ってきた時に、全員で男を取り囲み外へと連れ出す。


だが、この光景に他の客達はおろか、カジノのスタッフ達も知らんふりだ。何故ならカジノでは日常茶飯事のことだったから。


カジノで大儲けする者は、嫉妬した者達からこういう目に遭う危険性は当然あるし、何ならカジノのスタッフですら一枚噛む事もあるぐらいだ。なので大勝ちする者は、必ず護衛の者を付けるのが当たり前でもある。


カールもそれぐらいは心得ていたので、周りの者達を味方に付ける意味も込めて酒を奢ったり、多少のチップを回したりしていた。


だからラマニ達の行為も、嫉妬した者達による『いつもの事』という風に思わてしまったのだ。


「な、なんだ!? あんたらは!?」


訳も分からず裏手に連れられた男は、ラマニ達から尋問を受ける。


「何だはないだろう? その金は誰からもらった?」


「だ、誰って…身なりの整った紳士風のおっさんからだよ。それが…ぐほぉ!?」


ラマニは五人の部下に合図を出し、それを見た部下が男の腹を殴った。


「僕は嘘つきが嫌いでね。相手は紳士風の男ではなく、水ぼらしい格好をしたチャラい男じゃなかったか?」


「ゲホゲホ…う、嘘じゃない。黒髪の整えられたヒゲの男だった。な、なあ…金が欲しいんなら分けてやるから、もう終わりに…ぐはぁ!!」


五人のラマニの部下達は、換金した男を容赦なく袋叩きにした。しばらくして、男は声も出さなくなる。


「やれやれ、どうやら僕達は上手く出し抜かれたようだね」


「どうしますか、ラマニ様」


「仕方がない。とりあえず、この男から金は毟り取っておけ」


「は、はい」


カジノで全て擦ってしまったラマニは、部下に倒れている男から換金した金を全て巻き上げるよう命令した。


「ふん、まあこんな奴でも何かの役には立つだろう」


そう言うとラマニは懐から、小さなを取り出した。あの時、トイレでカールの右手の甲に押した璽だ。


その何かしらの呪法の印が掘られた璽を持つと、倒れている男の首筋に当てる。


「な、何をする気だ!? うわああ!!」


「クククク、これで君は僕のオモチャだよ!」


男の首筋には、真っ赤な刻印が刻み込まれてた。


だが数秒後、首筋に押された印は消えたように見えなくなる。




――――




無事カールを連れて帰ったリーティアは、インテリアル・パレスに到着した。


借りた車を従業員に渡すと、ホテルのロビーへと入り部屋のキーを受け取って、スノーとチビ雪の待つ部屋の階までエレベーターで上がる。


「あ、おかえり、リーティア。カールは無事だった?」


「はい。この通り」


リーティアはディメンション・ボックスを開き、中からカールを取り出す。


「おい! 俺を物みたいに扱うなよ!」


「せっかく迎えに行ってあげたんだから、感謝しなさいよ」


「ふざけるなよ! もうちょっとで大勝ちだったんだぞ! いくら魔王様でも、やっていい事と悪い事がある!!」


カールはカジノでの勝負を邪魔された事で、かなりご立腹だった。確かにカールが狙われていたかの確証はない。


だが安全の為には仕方なかったのだ。


「どれだけ大勝ちしても命あってのものでしょ。ちなみに、いくら儲かるはずだったの?」


「そうだな、ザっと計算して三百はいけたな」


「「さ、三百!?」」


思わぬ金額を聞いて、チビ雪と二人でハモってしまった。


「カールが漆黒の剣に狙われていた証拠もなかったし、時期尚早だったかしら」


「そうだろ! 俺の稼いだチップ、今頃は…」


「狙われていましたよ。少なくとも、あのまま続けていたらカールさんは間違いなく拉致されていたか殺されていたと思います」


リーティアは何か確証があるのか、ハッキリと言い張る。


「リーティアどういうこと? 怪しい奴でもいたの?」


「はい、少なくとも六人。ずっとカールさんを見張っている者達が、少し離れたポーカーのテーブルから見ていました」


その言葉を聞いて、カールをジッと睨み返した。カールは片手を後頭部において、夜景の方を見て口笛を吹いて誤魔化す。


「その中にはリーダー格と思われる小さな獣人の魔族がいました。おそらくは、そいつが大天使ツカサエルが言っていたラマニかと」


「なるほど、じゃあカールはかなり危険な状況だったという訳ね」


改めて自分の判断が間違ってなかったと確信する。


そして、それを聞いて不安になったのはカールだ。


「まさか、その獣人て俺に酒を奢ってくれた、あいつか?」


「ラマニと会ったの?」


「酒を奢ってくれたんだ。その酒を飲み干したけど…」


「毒は盛られてないわよね?」


「あ、ああ。今のところ何ともないぜ」


カールがラマニと接触していた事を知って不安になる。


「他に何かなかったでしょうね?」


「トイレで少し話したぐらいだ。軽く握手してな」


「それだけ?」


「ああ、それだけだ。後は、手に変な印を押されたぐらいかな」


「変な印を押された?」


ここでリーティアが反応してきた。


「ああ、でもすぐに消えたよ。ほら」


カールは手を見せて、何もない事をみんなに見せる。しかしリーティアの表情は険しいままだ。


「リーティア、どうかしたの?」


「いえ、まだ確証はないので。気にしないでください」


そう言われると余計に気になるんですけど。


「まさか私がちょっと目を離した隙に、ラマニが接触していたなんて」


「リーティアにしては珍しいミスね」


「申し訳ありません。大天使ツカサエルから突然連絡があったもので」


「うん、気にしないで。そういう事もあるわよ。でも巣魔火スマホはカジノに預けなきゃいけないのに、よく連絡できたわね」


「私の巣魔火は、遠隔で通話できるように改造してあるので」


「それ、私も頼もうかしら」


だけど漆黒の剣さえいなければ、今頃カールは大勝ちをしていたのだ。そう考えると漆黒の剣が目障り極まりなくなってくる。


「正直…鬱陶しくなってきたわね。今回は、こちらから潰しに出向こうかしら」


「スノーお姉さま、かなり過激な事を言いますね」


「だって奴らのせいで、私達の旅の資金が全然貯まらないじゃない」


「おお! 俺も賛成だ! やられたらやり返してやらないと俺の気が済まん!」


「私はスノー様の仰せのままにしますよ」


「じゃあ決まりね。リーティア、ラマニの顔は覚えているわね? 徹底的に叩き潰すわよ!」


「はい、今すぐ似顔絵を作成します」


これ以上、魔界を巡る旅の邪魔をされては今後の旅の障害になってしまう。


こうして盗賊団・漆黒の剣に対して、初めて仕事と関係なく宣戦布告をする事になったが。


「スノー様、ちょっとよろしいでしょうか」


リーティアが小声で耳打ちしてきた。たぶんだけど、さっきのカールの話しの事だと何となく悟った。


二人で隣部屋へと移動し、リーティアの話しを聞く事に。


「私の推測が間違っていなければ、カールさんは大変な事になるかもしれません」


「それって、カールがさっき言ってた印の事よね?」


「はい。もしその時は…私が責任を持って対処します」


いつも気怠そうにしているリーティアからは、珍しく並々ならぬ怒りの感情が目から溢れている様に感じてしまい、それ以上何もいう事ができなかった。


とりあえず万が一の時は、リーティアに任せることにする。

最後までお読みいただきありがとうございます!


少しでも楽しんで頂けたら、ブックマークや評価をして頂けると嬉しいです。


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