54話 ラマニの企み
一人カジノで遊ぶカールを迎えに、リーティアはホテルを出る準備をする。
ユトグアに漆黒の剣のボスがいる以上、どこで奴らの監視の目があるか分からない。
「イミテーション」
念の為、変化呪文・イミテーションを使い、中年の口髭を生やした男性の執事のような姿に変わる。
ホテルの前へと出ると、お客の魔動車を駐車場に移す作業をしている従業員に声を掛ける。
「ちょっとそこに君、その車を貸して欲しいのだが」
その問いに、従業員は困惑の表情を浮かべる。
「あの、これは他のお客様の魔動車で。お知り合いですか?」
「まあ、そんなとこです。『チャーム』!」
リーティアは魅惑を使い、従業員を魅了して魔動車を難なく借りた。
「お客様どうぞ! お好きなだけ乗っていってください!」
「どうも! これはお礼だ」
従業員にチップを渡すと、リーティアは運転席に乗り込みカジノへと車を走らせる。
――――
「よっしゃあ! また俺の勝ちだ! へへ、悪いね! 悪いね!」
呑気なカールは、カジノで大勝ちをして盛り上がっていた。他の客からも歓声が上がり、酒を奢られながら楽しんでいる。
カジノ側は最初は渋い態度をしていたものの、カールの盛り上がりで大量の酒や食事の売れ行きがグンと伸び、巡り巡ってカジノの売り上げアップになり始めていたので黙認するようになっていた。
さらには本人の意思とは関係なく、客寄せパンダの役割も果たしている。
「チッ! 何時まで盛り上がってんだ! これじゃあ何時まで経っても奴を狙えねぇじゃねーか!」
その中で一人舌打ちをしながら、つまらない顔をしている者がいる。
漆黒の剣のラマニだ。
「ラマニ様、どうしますか?」
「ここはもう少し様子を見よう。全く忌々しい奴だ!」
部下と話すラマニだが、ここはカジノ。遠くから、ただ見ている訳にはいかない。
「しかしラマニ様、我々はもうお金がありません…」
「分かっているよ! 他にまだ金を持ってる奴はいないのか!」
「ここにあるチップが最後です」
ラマニは自分のお金だけじゃなく、他に引き連れている部下五人の金まで全て擦ってしまっていた。
(まさかラマニ様が、こんなにもギャンブルに弱いとは…)
カジノで思いっきり目立っているカールだが、皮肉にもそれがラマニの大きな弊害になってしまってた。
「ん? おい待て。そのチップを渡せ」
「は、はい」
ラマニは部下が最後に持っていたチップを受け取る。
「おい、そこのウェイトレス」
「はい、何でございましょう?」
ラマニは近くを通り掛かったウェイトレスを捕まる。
「これで酒を一杯くれないか?」
「え? でもあなたは」
「僕は小柄だけど、これでも立派な大人だよ! 失礼な奴だな!」
「し、失礼しました!」
ウェイトレスは慌ててラマニが注文した酒を取りに行った。
「ラマニ様、あれは私のなけなしの一枚だったのに…」
「黙れ! 貴様は僕の専属の部下だ! その金を僕が好きに使って何が悪い!」
「そんな…」
ラマニが部下の一人と言い合っていると、さっきのウェイトレスが酒を運んできた。
「あの、ご注文のお酒をお持ちしました」
「ならこいつを、あそこで勝ちまくってる男に渡してくれ。僕からのご祝儀さ」
「は、はい。よろしいのですか?」
「僕に何度も同じ事を言わすな!」
「し、失礼いたしました! すぐに!」
ラマニに怒鳴られたウェイトレスは、すぐにカールの元へと向かっていった。
そして、言われた通りカールに酒の入ったグラスを渡す。
「え? 頼んでないよ?」
「いえあの、あちらのお客様から。ツイているお客様へのご祝儀だそうです」
「なるほど! じゃあ有難く!」
カールはウェイトレスから渡された酒を、あっという間に飲み干した。
そしてラマニ達の方にグラスを突き上げて、カールは感謝の合図を送る。その合図にラマニも軽く手を振った。
――――
他の客達と盛り上がる中、カールは用を足すために席を立った。
「やばいやばい! ちょっと呑み過ぎちまった! 用を足してくるから、ここの周りには誰も近づけないでくれよ!」
「お客様、お任せください」
ガードマンに自分が席を立っている間の留守を任せて、そのまま足早にお手洗いへと向かう。
「ふう、調子に乗って少し飲み過ぎたかな」
呑気に用を足し始めるカールだが、その後ろから近づく男がいた。
「やあ、随分と羽振りがいいみたいだね!」
「ん? ああ! さっきの! 酒の差し入れ感謝するぜ!」
さっき酒を奢ってもらった事で、カールはかなり気を良くしてラマニと話し出した。
「良かったら君のツキを少し分けて貰いないだろうか?」
用を足し終えたカールを見て、ラマニが右手を差し出す。
それに笑顔でカールは答えた。
「それぐらなんて事ないさ! 酒の礼もあるしな!」
カールがラマニの右手をガッチリと握ると、ラマニが左手でカールの右手を覆って両手で握り返す。
「いて! なんだ!?」
「ああ、悪い。これは仕事で使う印だ。持ったままだったのを忘れていたよ!」
ラマニの左手には、何かの刻印が施された璽が握られていた。
そしてカールの右手の甲には、その璽に刻まれた印が押されていた。
「酔ってるのかな。僕とした事が本当に申し訳ない」
「いいさ! こんな印なんてすぐに消えるしな…って、あれ? 何もないな」
「どうやら印が弱かったみたいだ! 本当に君は運がいいね! じゃあ頑張ってくれ! これで失礼するよ!」
「ああ! アンタにもツキが回ると良いな!」
こうしてトイレで語り合った二人は別れる。
意気揚々とトイレを出たカールだったが、ここである大事なことを思い出した。
「あ、そういえば握手した時、手洗ってなかったわ」
カールは自分の手を見ながら、悪い事をしたと少し後悔する。
今度は、そこに紳士風の男が近付く。
「声を出すな。私の言う通りにしろ」
「んぐ!?」
口を押えられ声を出せなくなったカールは必死の抵抗をする。そのカールに、紳士風の男は静かに問いかける。
「私だ、リーティアよ。今あなたは漆黒の剣に狙われてる。死にたくなかったら大人しくして」
「リ、リーティア!? 何故ここに!?」
「今説明してる時間はない。早くここから出るわよ」
「じょ、冗談じゃない! 今日は絶好調なんだ! それにまだ換金してないチップが!」
「命とお金、どっちが大事? まあ、あなたがそこまで言うなら無理に止めはしないけどね」
「ぐ…」
最後はカールの判断に委ね、リーティアはそれを静かに見守る。納得できないまでも踏ん切りを着けたのか、カールが残念そうに答えた。
「わかったよ、言う通りにする。それで俺はどうすればいい?」
「とりあえずディメンション・ボックスに入って。ここなら絶対安全だから」
「マジかよ…その中嫌なんだよな…」
カールはリーティアに勝負してるテーブルの宅番の入ったカードを渡すと、リーティアが開いたディメンション・ボックスへと吸い込まれていった。
後は、そのまま足早に出口へと向かうだけだが。
「あ、そこの君。ブラックジャックテーブルの十一番台のあるチップ。全部君にあげるよ」
リーティアは、たまたますれ違った若い男性に声をかけた。
「え? いきなり何だ!?」
「これはそこのテーブルのカードだ。これを持って行ってガードマンにそう話すといい」
男性にテーブルのカードを渡し、またすぐに出口へと歩き出す。
「あ、ああ。ところであんたは…あれ?」
男性がカードを受け取り顔を上げると、そこにはリーティアの姿がどこにもなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
少しでも楽しんで頂けたら、ブックマークや評価をして頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします




