52話 大天使ツカサエルからの手紙
エンジェルラブで働いた次の日、ホテルの部屋でチビ雪と二人で寛いでいた。
この日はリーティアは天使のお店にバイトへ、カールはカジノへ勝負へと向かった。
たまにはガーデン・マノスにいた頃のように、二人でのんびりするのも悪くないかと各々好きに過ごす。
「ここのベランダは広くて助かるわ。おかげで剣の稽古がしやすい」
私の方は部屋のベランダへと出て、リーティアに直してもらったミスリルソードMK-Ⅱを振るう。
毎日のルーティーンにしている剣の稽古だ。一方のチビ雪は、机に向かって呪文の勉強中。
食事はホテルのルームサービスを頼み、夜まで一歩も外に出ない日となる。
「今日は久しぶりにリフレッシュ出来ましたね!」
「そうね、旅に出てから何気にチビ雪ちゃんと二人で過ごすってなかったもんね」
ガーデン・マノスにいた時は当たり前だったのに、旅に出てからは当たり前の事ではなくなった。
如何に恵まれた環境にいたのか実感する。
「私、旅に出てなかったら今頃どうなってたんだろうね」
色々と懐かしくなって言ってしまったが。
「何言ってるんですか。旅に出てからまだ一か月も経ってませんよ」
「え? もう一年ぐらい旅してる感覚なんだけど?」
「確かに僅かな間に色々ありましたけど、ガーデン・マノス出てから、まだここは二つ目の街ですからね」
衝撃の事実を突き付けられた気分だ。私としては旅も終盤というようなイメージさえあったのに…。
いや、それだけ今まで生きてきた時間の中で、この旅の時間はそれほどにまで濃いものだという事なんだろうな。
チビ雪が淹れてくれた紅茶を啜りながら、ユトグアの夜景を楽しむ。
部屋のドアが開く。
「ただいま帰りました」
「リーティアおかえり」
「おかえりなさーい!」
チビ雪との二人の時間もここまで。バイトを終えたリーティアが帰ってきた。
「スノー様、これを大天使ツカサエルから預かってきました」
リーティアが渡したのは大きな封筒、中には昨日のバイト代二万ミラと小さな紙切れ。
折り畳まれた紙切れを開くと、店で天使になった約束通り、大天使ツカサエルから漆黒の剣の情報がもたらされた。
「マジで、これはちょっと厄介ね」
そこに書かれていたのは、漆黒の剣のボスが同じ街にいるという事。
私の言葉にチビ雪も反応した。カールの村での事で因縁とも言える相手。そのボスが近くにいる。
「スノーお姉さま、どうしますか? この際奴らを一網打尽に」
「まあまあチビ雪ちゃん、とりあえず落ち着いて。少なくとも、こちらから手を出すのは危険よ。もう少し奴らの情報が欲しい」
「まさかスノーお姉さまから止められるとは思いもしませんでした。危険な事に首を突っ込むのは、いつもスノーお姉さまなのに」
本当にこの子は…私の事を、何時までそんな風に思ってるのかしら。だけど大天使ツカサエルからの情報には、まだ続きがあった。
「どうやら漆黒の剣も私達を探しているみたい。何やら不穏な動きがあるらしいわ」
「もしかしてボスが直接出てくる可能性もあるのでしょうか?」
チビ雪が不安そうに聞いてきた質問に、リーティアが答える。
「おそらくそれはないでしょう。漆黒の剣のボスは、かなりの慎重派です。奴らを中々壊滅させられないのも、それが要因としてあります」
「それでも近くにボスがいるとなると、用心は必要ね。今後はなるべく個人行動は控えましょう」
「はい、スノーお姉さま」
「あ、私は大丈夫ですよ。奴らと関わってないので」
顔がバレているのは私とチビ雪、それとカールになるけど。
「でも、ここに泊まってるのがバレるのも時間の問題でしょうね」
「そうですね、もうバレてるかもしれません」
「ええー!? ここで戦いになるんですか!?」
慌てるチビ雪に、リーティアが優しく微笑む。
「大丈夫だと思いますよ。街中であまりの騒ぎを犯せばユトグア領主も黙っていません。もしそうなれば漆黒の剣を潰したがっている魔王グリテアが動いてくる可能性もあるので、連中もそんなリスクを冒してまでここには来ません」
「そっか、よかった!」
「でも念のため、ホテル周辺に結界を張っておきましょう。怪しい奴がホテルに入れば、すぐに感知できます」
「じゃあホテルにいれば、少なくとも安心な訳ね。もう少し情報が早ければカールを止められたのに」
こんな時に限って、カールは一人でカジノに行ってる。
何もなければいいけどって、自分でフラグを立てたらダメだ!
とりあえず大天使ツカサエルからの情報で、少なくとも警戒は怠らない方がいい事が分かったけど。少しガッカリしたのも本音だった。
「あんな天使の格好までして頑張ったのに。言ってはなんだけど、思ったよりも大した情報じゃなかったわね」
分かった事は漆黒の剣のボスがユトグアにいる、私達の事に気付いて不穏な動きがあるの二つだけ。
敵のボスが同じ街にいるのは分かったけど、どこにいるのかまでは書かれていない。
これだけでは何の対策も取れない。
ちょっと不満が出てしまうが、
「その紙切れ、ちょっと渡してもらっていいですか?」
そう言われてリーティアに、大天使ツカサエルからの紙切れを渡した。その紙をテーブルの上に置いて、リーティアは手をかざして何やら唱え始める。
「アペリエンス!」
リーティアが呪文を唱えると、テーブルに置かれた紙が浮いて青く燃えだし、その青い炎が枠を形どって映像が現れた。
「この手紙は悪魔之書簡と言って悪魔が使う伝達方法で、他の者に知られたくない重要機密を伝える時に使います」
という事は、大天使ツカサエルも悪魔なのか。でも私には普通の紙にしか見えなかったけど。
「その手紙って、何か特別な紙なの?」
「ええ、悪魔の契約書と同じで自分の皮膚を剥いで作ります」
「悪魔って、何でそんなエゲつない事をするの…なら大天使ツカサエルの皮膚を触ってたのか…」
「そうですね。因みにですが、この悪魔之書簡を作る際の皮膚はお尻の皮膚を使います」
「はあ!? ちょっと! 何触らせてんのよ!」
すぐにでも手を洗いたい衝動に駆られるが、映像がすでに始まってしまっている。
我慢して見始めた画面には、大天使ツカサエルが予め撮った映像が流れ始める。
『天使スノー、あなた達がこの映像を見ているという事は、私はもう……ううぅ…』
「何この茶番」
お尻の皮膚は触らせられるは、茶番に付き合わされるわ、流石にナメてんのかと憤慨しそうになった。
「スノーお姉さま、今は我慢してください」
チビ雪に注意されて、仕方なく映像の続きを見る。
『オホン! それじゃあ、おふざけは程々にして始めようか!』
「さっさと始めなさいよ、この変態天使」
『おろらく天使スノー、君は今こう言ってるだろう。さっさと始めなさいよ、この変態天使! とね!』
「…………」
本当にムカつく。何もかも見透かしたような感じで、私よりも何枚も上手だ。
さらにムカつくのは、隣でチビ雪とリーティアも笑いを堪えてること!
二人を睨みつけて大人しくさせて、大天使ツカサエルの映像の続きを見る事になった。
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