51話 情報の対価
「お、お帰りなさいませ…か、神様…」
何でこうなったの。何で…。
私は今、大天使ツカサエルの営む天使カフェ『エンジェルラブ』にいる。いや、正確には店員になって天使にさせられている。
事の発端は二日前に遡る。先に天使カフェで働いていたリーティアに、大天使ツカサエルを情報屋として動いてもらえないか聞いて欲しいとお願いしたのだ。
すると次の日、私の巣魔火が鳴り、出ると相手は大天使ツカサエルからだった。
『天使リーティアから聞いたよ! 電話じゃ何だから一度私のお店においで!』
頼んだ手前、言われるがままに天使カフェを訪れた。そこで大天使ツカサエルから言われたのは、情報屋はすでに引退しているから基本はやってないという事だった。
仕方がないので諦めて帰ろうと思ったんだけど、ここで大天使ツカサエルが条件を突き付けてきた。
『でも、君の為ならやってあげてもいいさ! ただし! 私の店で働いてくれたらね! 前々から狙っていたのさ! もちろん給料はちゃんと出すから安心したまえ!』
この時の私は相当顔が引きつっていたと思う。だけど漆黒の剣と事を構えるとなれば、少しでも奴らの情報が欲しいのも本音。給料は出すというし、仮面は付けたままならという事で承諾した。
そして現在、私はフリフリの天使の格好をさせられ、頭には呪文で作った輪っか、背中に天使の羽を付けられ客前に立たされている。
「お! 新しい天使の子だね! よろしく!」
「よ、よろしくお願いします、お客様!」
「オホン!」
後ろから大天使ツカサエルが、注意を意味する咳ばらいをしてきた。この店では、お客は神様呼びしなければならないルールだ。
「か、神様!」
お客は天使の主、文字通りの神様なのだ。
(私魔王なのに…魔王なのに…)
情報の為とはいえ、今頃になって途轍もない後悔の念が押し寄せてくる。
間違いなく今後の黒歴史確定だ。
「ほ、本当に情報屋になってくれるんですよね?」
大天使ツカサエルに、コソコソと確認する。
「ああ! 勿論だよ! すでに私の知り合いが動いてくれてるから安心したまえ!」
声がデカいよ! 私がコソコソと喋ってる意味ないじゃん!
核心部分は言ってないから大丈夫だけど、他の天使やお客達がこっちを見ている。
気を取り直して接客に戻るが、配膳以外にまだやれる事がない。一方のリーティアの方は、まだ働いて三日目なのにもうテキパキと動いている。
「凄いなリーティア。初めて会った時は、あんなにやる気無さそうだったのに」
リーティアの働きぶりに感心していたら、また店のドアが開いた。
すぐに接客対応に向かう。
「お帰りなさいませ! 神…さ……ま……。ふ、二人とも…な、何でここに!?」
「遊びに来たよ! スノーお姉さま…じゃなかった! 天使スノー姉様!」
「いやー! 二人とも可愛いじゃないか! 今日はゆっくりさせてもらうよ!」
チビ雪とカール、二人には黙っていたのに。すぐにリーティアの方を睨むと彼女はフイっと顔を背け、そのまま他の客の相手をし出した。
(お…覚えてなさいよ!)
リーティアに沸々と怒りが沸く中、大天使ツカサエルから二人をテーブルに案内するように言われる。
「か、神様と…め、女神様! ど、どうぞこちらに」
「はーい! 天使スノー姉様!」
「いやー、悪いね!」
私を見ながら面白そうに笑う二人にゲンコツを噛ましたいのを必死に我慢して、四人掛けのテーブルへと案内する。
「め、メニューはこちらになります。どうぞ…ごゆっくりしないでください!」
「ちょっと! 私達神様なのに、ゆっくりしないでってどういう事!」
「そうだそうだ! 神様なのに酷い扱いだ!」
今回ばかりはカールだけじゃなくてチビ雪もうるさい…。これで大した情報貰えなかったら大天使ツカサエル、絶対タダじゃおかないから!
「も、申し訳ありません。神様、女神様!」
「うむ、分かればよろしい!」
カールが調子に乗って、ふんぞり返る。
その様子に、我慢できずに仮面の下からカールを睨みつける。その視線に気づいたのか、チビ雪は流石にマズいと焦り出した。
「ここは私がやりますから。天使スノーはあちらのテーブルに料理を」
リーティアがフォローに入ってきた。流石に悪いと思ったのかもしれないけど、後でたんまり説教するから覚悟しておきなさい!
とにかく今は我慢だ。漆黒の剣の情報が欲しい。
「これB6テーブルにお願いします」
料理が出されて、指定されたテーブルに運ぶ。
「お待たせ致しました、神様。こちらアルミラージの天界焼きでございます」
要は魔界のウサギの丸焼きなんだけど。見た目の好き嫌いはあるけど、これは普通に美味しい。
ところが、料理を運んだテーブルに座る二人組に絡まれる事になる。
「仮面の天使さんて珍しいね! 素顔は見れないの?」
「は、はい。申し訳ございません、神様。私は天界の理により、正体を明かせないものでして」
「いやいや、俺達神なんだし、命令には絶対でしょ?」
「お、おい、よせよ」
二人組の男性魔族だけど、特に一人が私に絡んできた。仮面を取れと、しつこく要求してくる。
離れた所にいるチビ雪やカールも、その状況を心配そうに見ている。
「あの、たとえ神様でも天界の理なので」
「おい、そりゃあねぇだろ? 神って全能だろ! じゃあ部下の天使が言う事聞くのは当然だろうが!」
ワナワナと体が震える。魔剣スノーフェアリーがあったら、今すぐたたっ斬りたいぐらいだ。
「おら! 早くしろよ!」
その魔族は、私の手を握ると座席へと強引に座らせようとした。
一緒にいる連れは、ただオロオロするだけで止めようとしない。
もうダメだ、これはもう我慢の限界だ。
そう思った時、私の影から黒い触手が伸びて、腕を掴む客の魔族の手首を掴み上げた。
「うわー! 何だこれは! 放しやがれ!」
「スノー様に汚い手で触る愚か者は私が許さん」
影に擬態させているスキアーが、独断で動いたのだ。
それを見て慌てて止めるよう命令する。
「スキアー! 止めなさい!」
命令を聞いて、すぐに客の魔族を放した。
「スノー様、申し訳ありません。勝手な事をしてしまって」
「いいえ、ありがとう。助かったわ」
スキアーにお礼を言うと、再び影の中に隠れていく。
だが掴まれた客の魔族は激昂し、私に掴みかかってきた。
「おい! おまえはあんな化け物を従えてるのか! これは客に対する暴力だ! 土下座して謝ってもらおうか!」
「先に掴んだのは、あなたでしょう」
店内がざわつく中、チビ雪とカールも止めに入ろうと近付いて来るが。
二人を静止して何とかこの場を収めようとする。
「謝れというのなら謝りますが、まずは手を放してください」
「ああ! さっさと謝れ! 床に頭を擦り付けてな!」
右手が震える。今にも殴ってしまいそうだ。影からもスキアーが我慢できなさそうに、モヤモヤと煙のような物が出ている。だけど、そんな事をすれば店に迷惑を掛けてしまう。
必死に耐えて、相手に言われるがまま床に膝を付こうとした、その時だった。
「困りますねーお客様、うちの天使達へのお触りは御遠慮させて頂いております」
大天使ツカサエルが凄い形相で目の前に現れ、私に絡む魔族の頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「い、いだだだっだ! 何しやがる!」
私も他の客達も呆気に取られながら、目の前の状況をただ見ていた。
「あ、そういえば大天使ツカサエル、今神様じゃなくて『お客様』って」
この店ではお客を神様と言わなければいけないけど、逆にお客様呼びは、この店では客ではないルールだそうだ。
つまり大天使ツカサエルは、もうこいつは客じゃないと判断したのか。
持ち上げられた魔族が声を荒げるが、大天使ツカサエルは手の力をどんどん上げていく。
「うぎゃあああ! 痛い! 頭潰れるぅ!!」
「あなたのような者は神様ではない。ただの下界の有象無象、今すぐ出て行くがよい」
大天使ツカサエルの言葉を聞いた他の天使が、お店の出入り口のドアを開けた。
入り口が開いたのを見た大天使ツカサエルは、頭を持った魔族をそのまま店の外へと放り投げた。投げられた魔族は二、三回転がって道端に倒れる。
一緒に来ていた連れが店に謝罪して、道端に倒れている魔族を担ぎ上げて去っていった。
他のお客達から拍手が起き、大天使ツカサエルは方々に頭を下げている。
「天使スノー、大変な状況でよく耐えてくれましたね! 今日はもう上がっていいよ!」
「いえ、約束通りの時間までは働きます」
「おお! さすがは私の見込んだ天使スノーだ! じゃあよろしく頼むよ!」
「大天使ツカサエル、ありがとうございます」
大天使ツカサエルが気を利かしてくれたけど、助けてもらった訳だし最後まで働いていくのが筋だと思った。
その後はチビ雪もカールも茶化す事無く、なんとか無事天使業を終えた。
まあそれとは関係なく、ホテルに帰ってからリーティアを説教したのは言うまでもない。
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