表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/132

5話 視察

「校長殿、この度は予定していた訪問が大幅に遅れてしまい、誠に申し訳ありませんぞ」


堅造が、視察予定だった学校の校長に頭を下げている。


それもそうだ。


遅刻してしまった原因は、全て堅造の欲望が招いたもの。

そこはキッチリけじめを付けてもらわないと。


「いえいえ! 私どもは魔王様が直々に視察されるだけでも有難い事! どうか頭を上げてください」


出迎えた日本人の校長は、年齢は七十歳を超えてるそうだ。

つまり彼は、賢人の箱舟に乗って来た日本人の一人。


大分高齢になった今でも、現役バリバリで元気に働いているらしい。


その割に若く見えるのは、優秀な魔導士に頼んで老化を抑えて貰ってるんだとか。


私と同じ黒髪で、身長は百七十を少し超えるぐらいかな。


謝罪を終えた堅造が、車の方へ戻って来てドアを開けた。


「小雪様、それでは学校の方へ」


車を降りて校長が待つ、学校入り口へと向かう。


学校はレンガ作りと言われる、外観が赤褐色の見た目。


二回建ての校舎にはいくつも窓があり、屋根は三角屋根で、そこには三角窓が設けられている。


何でも昔の日本に多く建てられた、擬洋風建築というものらしい。


「魔王小雪様、お待ちしておりました! 私が校長の芹澤京助セリザワ キョウスケと申します。小雪様の御訪問、わたくしども一同、誠に感謝申し上げます」


綺麗に腰を九十度折り曲げて、校長を先頭に後ろの教師達も一斉にお辞儀をした。


後ろの教師達は、日本人と魔族が半々ぐらいかな。

おろらく校長以外は、日本人二世だろうな。


校長達の挨拶を前に、私もそれに応える。


「今回の視察、大変楽しみにしておりました。今日はよろしくお願いします。ただし私の事は魔王とは呼ばないように!」


最後の言葉に、その場の一同がポカンとした顔になる。


ただし校長だけは、何やら予想通りだったのか冷静に対応をした。


「これは失礼致しました。では今後は小雪様と、そうお呼びさせて頂きます」


おそらく、いえこの校長は、間違いなく父上とも知り合いだったはず。

もしかすると父上が魔王となってからも、親交があったのかもしれない。


それは後で聞く事にして、校長に案内されるまま校内へと入った。

外観とは打って変わって、白を基調とした清潔感のある校内。


「今もまだ授業をやっているんですか?」


「ええ、今やっているのが最後の授業になります」


護衛を兼ねた側近数名に付き添われながら、校長が先頭で廊下を歩く。


その間に学校の説明を聞いたり、こっちから質問などをしていった。


「よろしかったら、授業の一部を御覧になられてください」


教室の外から、生徒が授業を受ける姿を見てみる。


そこにいるのは私と同じぐらいの年齢の子達だろうか。

人数は意外と少なく十五人ぐらい。

その中で十人は魔族で、三人が日本人と魔族のハーフ、二人が日本人二世の子だそうだ。


一人一人に机と一体化したモニター型の魔道具が設置されており、みんなそれを見ながら授業を受けている。


「これは今、なんの授業を?」


「日本の地理について学んでいます」


「地理? つまり地形を学んでいるんですか?」


「この授業では、まあそうですね。あとこの学校では日本の歴史、文化など、我々日本人が住んでいた日本は、どういう場所で、どういう国だったかを教えています」


それを聞いて、正直不思議に思った。

そんな事を教えた所で、この魔界では何の役にも立たない。

だって日本に行く術は今のところないのだから。


私のそんな心情を察したのか、校長が穏やかな笑顔になりながら話しを続けた。


「言いたい事は分かります。ここで教えている事の全て、魔界では何の役にも立ちません。この魔界から見れば私達の方が異世界の住人。おそらく私の母国、日本では我々はとっくに死んだ事になっているでしょう。だからせめて魔族の方々には少しでも知っておいて欲しいのです。我々という存在が確かにいた事を」


なんだろう、この心につっかえる感覚は。

私は今まで、


『日本人は日本という国から来た異世界の人間』


なんて簡単に考えていたけど。


もしかして父上も同じ気持ちだったのかな。

よくよく考えれば、本当なら魔界に存在する事はなかった人達。

考えたらハーフの私も、本来なら生まれて来なかった訳だよね。


校長の言葉を聞いて、それから何も言う事ができなかった。


「あ、魔王様だ!」


少し考え込んでいたら、教室の生徒の一人が私に気づいた。

そして教室中が騒ぎとなる。


先生が必死に止めるが、最早授業どころではないようだ。


「校長、ここにいると邪魔になるから行きましょう」


「承知いたしました、それなら校長室へとご案内致します」


これ以上、学校が大騒ぎにならない様に、この後は校長室で話しをする事になる。


これは遅刻の弊害が出た。

本当なら、全校生徒が野外活動をする時間を見計らって視察するはずだった。


廊下を歩きながら堅造を睨みつけ、両手を合わせて謝るジェスチャーをしてくる。


校長室へ案内されると、私と校長がソファーへと腰掛け、堅造は私の真後ろに立った。

側近達は邪魔になるので、護衛も兼ねて廊下で待機させた。


校長はお茶を三つ用意して、テーブルに置いて話しを始める。


「さっきの話し、とても興味深いです。私も父が日本人ですから、他人事には思えなくて」


鮫島サメジマ…おっと失礼しました。マサオ様ですね。彼は本当に素晴らしい人でした。こんなに早く逝ってしまったのは私としても大変残念です」


父上の事を知っているのは想像通りではあるけど、校長と一体どういう関係だったんだろう。


そこが気になり質問をした。


「校長は、父とは日本にいた時から知っていたんですか?」


「いえ、私とさ、マサオ様は…」


「校長、私に気を使わず、呼びやすい様に呼んでください」


「では失礼して、鮫島くんとは魔界に来るまでは全く面識のない他人でした」


そうなんだ。


じゃあ日本にいた父上の事は知らないんだ。

少しガッカリしてしまった。


「申し訳ありません、小雪様。以前の鮫島くんの事を知りたかったと思いますが、お力になれず」


「気にしないでください。という事は校長も父と同じで、たまたま賢人の箱舟に乗り合わせたんですね」


「我々は飛行機と呼びますが、ここでは賢人の箱舟と合わせましょう。鮫島くんとは、たまたまと言えばそうなんですが、ちょっと立場が違いまして」


「立場が違う?」


「はい。実は私は、賢人の箱舟の副操縦士をしておりました」


副操縦士ってなんだろう。

初めて聞いた言葉だけど、おそらく何かしらの役職だろうなと思った。


当然、副操縦士がなんなのかを聞き返した。


「副操縦士って何をするものなのですか?」


「飛行機の…賢人の箱舟の操縦を行う機長を、サポートする立場です。ザックリ言えばですが。つまり賢人の箱舟を動かす側だった訳ですね」


校長は笑いながら簡単に言ったが。


私と堅造は固まってしまった。

堅造に至っては、口をパクパクさせて混乱している様子だ。


次の瞬間、二人ともハモりながら、同じセリフを吐いてしまった。


「「ええー!? 賢人の箱舟を動かしてた人ー!?」」


「いえいえ、動かしてたのは機長で、私はその隣で万が一の時の補佐役です」


いやいや、それでも十分凄いんですけど。


だって今の魔族の中では、あれが飛ぶなんて思ってもいない。

どうやって飛ぶのか想像もつかない。


一度、賢人の箱舟の中に入った時も、なんかスイッチやらモニターやらが多くて凄かった。

いやもうホント、これをどう操作するのか全く見当もつかなかった。


「じゃ、じゃあ父上より全然偉いじゃないですか!」


「偉くないですよ。鮫島くんは、賢人の箱舟のお客様ですから。私と鮫島くんは立場が違うだけで、どっちが偉いとかはありません。でも、この街では圧倒的に鮫島くんの方が偉い人ですけどね」


校長は、またもや笑いながら言い放つ。


分からない。

私からすれば、あんなサインだけしている魔王なんかより、賢人の箱舟を動かす方が余程偉い立場に感じるんですけど。


むしろ校長が魔王した方がいいんじゃないかな!


そうとさえ思えてくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ