49話 カジノで勝負
リーティアの方は仕事が決まり、ユトグアにいる間は路銀を稼いでくれる。
夜になり、次はカールと一緒にカジノに出向く訳だけど、チビ雪はカジノに入れないのでホテルで留守電だ。
「チビ雪ちゃんには悪い事したな。少しぐらいは手加減してあげればよかったよ」
私がリーティアの付き添いで天使カフェに行ってた間、二人でトランプのポーカーをしてたらしいが。
最終的にチビ雪の五十連敗で幕を閉じ、完全に心をへし折ってしまったそうだ。
部屋に戻ったら、チビ雪はベッドに顔を埋めながらシクシク泣いていた。
「最初は何事かと思ったわよ。部屋中にトランプ散乱してるし」
「それにしても姉御は酷いじゃないか! 部屋に入るなり、いきなりぶん殴るなんて!」
「だって、あなたがチビ雪を泣かしたと思って! 実際、中らずと雖も遠からずじゃない!」
「だからって殴る事ないだろ!」
カールと口喧嘩をしながら、カジノの方へ歩いていた時だ。周囲がざわついているのに気づいた。
どうやらカップルの痴話喧嘩だと思われたらしい。
二人とも一気に恥ずかしくなって、そそくさと足早にカジノへと向かった。
「何とか着いたな。ユトグアのカジノ!」
流石はカジノ、ネオンが凄くて泊まっているホテルよりも豪華で綺麗な建物。
カジノの名前は『ユトグア・シーザリオ・カジノ』
私は当然カジノに入るのは初めてだけど、辺境の村出身のカールも同じようだ。
「ちょっと緊張するわね」
「ああ、そうだな。ちょっと自信なくなってきたよ」
すでにカジノの外観だけ見て怖気づく二人だけど、こんな事でビビっている場合ではない。
意を決して中に入ると、先に身分証明書の提示を求められた。
「問題ありません。それではどうぞ、当カジノをお楽しみください」
入り口入ってすぐのガードマンに、偽の身分証明書を見せて普通に中に入れた。これはリーティアが作ったものだ。あまりに精巧に作られていて、偽造された物には見えないぐらいだ。
だけど巣魔火は入り口で預けなければならない。
カジノの中に入ると、ルーレット、スロット、カードなどなど沢山のブースで賑わいを見せている。
戸惑う二人に、受付の女性が声を掛けてきた。
「お二方は当カジノは初めてですか? まずは、あちらでチップをご購入ください」
「あ、はい。ありがとうございます」
受付嬢に言われるがまま、専用の窓口でチップを購入に行く。
「予算はどれぐらいだ?」
「持って来たのは五万ミラよ」
「となると一枚一万のチップで五枚か。それなら千のチップを五十枚買おう」
カールに言われた通りに、一枚千ミラになるチップ五十枚に変えた。それを全てカールに渡す。
「やるのは当然決まってるのよね?」
「ああ、ポーカー一択!」
二人でポーカーのブースへと移動し、まずは他の客たちの様子を見物する。
ポーカーのテーブルは複数人で行うものと、ディーラーとサシでの勝負をするものとに分かれている。
カールがやるのはディーラーとのサシでの勝負。全ての宅を見て回り、他の客とそれぞれのディーラーとの勝負を凝視していた。
「もし負けたら、ホテル一泊分がなくなるからね。ここは慎重にお願いよ」
「姉御、任せてくれよ。勝負するディーラーが決まったぜ!」
するとカールは三番宅に座る。
「ようこそ! どうぞ楽しんで行ってください」
ディーラーが軽く挨拶をする。
私はカールの後ろで見守り、ドキドキしながら始まるのを待った。
「実はカジノ初めてなんだ。お手柔らかに頼むよ!」
カールが軽く挨拶すると、周囲からは明らかに鼻で笑う様にバカにした視線を向けた。
カジノ初めての初心者というのもそうかもしれないけど、カールの水ぼらしい格好が場違い感を演出していたから。
「当カジノは、どんなお客様でも歓迎致しますよ! まずは参加費を」
カールは参加費の二千ミラ分のチップを払う。
「ではベットしてください」
ディーラーが仕切り、カールにチップを賭けるように促した。
「なら、まずはこれで」
カールは千のチップを五枚置いた。
「クスクス……」
周囲からバカにした笑いが漏れる。ディーラーも流石に我慢できずに、笑が込み上げているようだ。
「カール、完全に私達ナメられてるわよ」
耳元で小さく耳打ちしたけど、カールは気にもしてないようだ。
「大丈夫、バカにしたい奴はさせておけばいいさ」
カールがそう言い返してくるが、本当に大丈夫なのかと不安になる。
「お客様、テーブルに着いていない方は、ここから先は御遠慮ください」
黒いスーツを着たスタッフに注意され、テーブルを囲むように床に張られたラインの外に出た。
気を取り直したディーラーがカードを配り始め、いよいよポーカーがスタートした。
するとスタート直後、そのラインからポーカー宅を取り囲むようにイカサマ防止の結界が張られる。外から中は見えるし音も聞こえるが、中からは外の様子や音は全て遮断される結界だ。
ここから見る限り、カールの手札は二のワンペア。あまり良い手札じゃない。
結局この勝負はディーラーがフォーカードで上がり、完全に負けとなる。
続く二戦目もディーラーの勝ち。
その後も立て続けにディーラーが連勝し、カールは座ってから全戦全敗。残りのチップも十枚だけとなっている。
賭け額も少額、しかもカールが負け続けた事で他の客たちの熱も冷め始めたのか、少しじつ見物人も減っていった。
「お客様どうされますか?」
「何言ってるんだい? 俺はまだやるよ」
するとカールは、なんと残ってる全てのチップを賭けた。
「ちょ!? カール何やってんの!?」
慌てて叫ぶが結界が張られ、こっちの声はすでに届いていない。
気でも狂ったのか、やはりカールが強かったのは仲間内だけで、プロ相手には無茶だったのかもしれない。
「それが全財産なのですよね。初めてのお客様には苦い経験になってしまいましたね」
「いやいや、俺はまだ負けた訳じゃないよ!」
カードが配られ、最後になるかもしれない勝負がスタートした。
「カールのカード、ツーペアじゃん。もうダメかもしれない」
私がすでに諦めムードになる中、ディーラーが三枚カードを交換。
「どうされますか?」
「勝負するよ」
カールは下りることなく、そのままカードをオープンした。
二と四のツーペア。ツーペアの中でも弱い部類に入る。
「ダメだ、終わった…」
私は一人、結界の外で呟いた。
ところがディーラーが少し渋りながら、苦い表情のままカードをオープンした。
「ハイキッカーです。お客様の勝ちです」
僅かに残っていた見物人たちから、おおー! という軽いどよめきが起こる。
カールの初勝利、単なる偶然のようにも見えるけど。賭けたチップが倍になって返って来た。それでもまだ負けてるけど。
「カール! もうその辺にして…」
「全額勝負だ」
「ちょ!? あんたバカなの!?」
結界の外でどんなに叫ぼうが、カールには一切聞こえていない。分かってはいるけど、叫ばずにいられない。
周囲の客達からも、呆れとも言える笑いや戸惑いが起こる。
ところが次の勝負でもカールが勝利した。しかもフルハウスで上がったので、三倍返しとなって戻ってくる。
これで一気に六十枚、プラスに持って行った。
この後もカールは全額ベットをやり続け、しかもさっきまで連敗していたのが嘘のように今度は連勝していく。
一気に十一連勝、ここまで来るとギャラリーも戻ったどころか、物凄い野次馬たちで埋め尽くされていた。
「お客様…今日はこれでお終いです」
「おいおい、俺はまだ下りるとは言ってないぜ?」
だがディーラーが結界を消し、強制的に終了させられた。周りからはブーイングが飛び、ポーカー宅は一時騒然となる。
「仕方ない、今日はここまでにしとくよ」
カールが渋々席を立ち、大量のチップを持って戻ってきた。周りの客達からも拍手で迎えられる。
「拍手なんて大袈裟だよ! 勝ったといっても元手が少なくなってたから、九万ちょっとにしかなってないよ」
カールがちょっと申し訳なさそうに、私にチップを渡した。
「それでも十分すげーよ!」
「あの土壇場で十一連勝だもんな!」
他の客達から、カールがまるで英雄のように称えられた。この盛り上がりでカジノからも目を付けられたようで、すぐに換金してカジノを後にする事になった。
換金額は、九万二千百六十ミラ。
「途中から全額ベットし続けるから、かなり心臓に悪かったわ」
「あはは、悪かったな! でも勝つ自信があったから賭けたんだぜ!」
「ディーラーの癖を読んで?」
「まあそれもあるが、癖を見るだけじゃプロのディーラーには勝てないよ。そういう対策してるだろうし、途中わざと癖を出して引っ掛けてきたからね」
「じゃあどうして?」
「カードを覚えたんだ」
カードを覚えるって、どういう事だろう。ちょっと何言ってるのか分からなかった。
「要はカード全部を覚えた。俺だって、ただ負けてた訳じゃないさ。だから何のカードを持ってるのか俺には丸見えだったわけ」
「え? トランプ全部覚えたって、勝負しながら覚えたってこと? どんな頭してんの?」
「おいおい、俺を変人扱いは止めてくれよ! 後はちょっとした運だね!」
「運て…じゃあ勝ちも百パーセントじゃなかったって事じゃん…負けてたらどうするのよ」
「その時はその時だよ! でも勝つ自信がないと勝利の女神も微笑まないだろ!」
全く他人のお金だと思って。
「本当はあまり大きな声では言えないけど、ちょっとしたカードのすり替えさ。 カードを覚えた俺には、山のどこのどこに何のカードがあるか分かってたからね。 カードをドローする時に、瞬時に入れ替えたりしてた」
「つまりイカサマもしてたのね。でも、あれだけ大勢に見られてる状況でも誰にも気付かれないなんて、一体どうやってそんな技を身に着けたの」
確かにカールの能力は凄いものがある。ギャンブル以外で役立つ事があるのか、今のところ分からないけど。
少し増えたお金を持って、チビ雪の待つホテルへと戻っていった。
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