46話 新たなミスリルソード
「あー、もう昼か」
起きたのはすでにお昼の時間を過ぎていた。
「おはようございます」
寝る事がないリーティアから挨拶をされた。他の二人はまだ寝ている。
「ん、おはようリーティア」
眠たい眼を擦りながら挨拶を返す。
ヴィントナーを出て以来のベッドでの睡眠、しかも豪華なクイーンベッド。そんなの快適に決まってるじゃん。
しかも昨夜は食事の後、部屋に戻った四人で遅くまでカードゲームと洒落込んでしまった。元は日本人が持ち込んだトランプというカードなのだが、これが魔族の間で大流行しているのだ。
本当に様々な遊びができるので、ガーデン・マノスにいた頃には私もチビ雪や父上とよく遊んでいた。カールはトランプを知らなかったようだけど、とりあえずババ抜きというゲームのルールを教えてやり始めたら、熱中してほぼ朝方まで遊んでいた。
「むにゃむにゃ、お母さんおかわり!」
突然の言葉に何事かと思ったら、どうやらカールの寝言みたいだ。一体どんな夢を見ているんだ、こいつは。
「余程疲れているのですね。二人はまだ眠らせておきましょう」
「そうね、私は今からシャワーを浴びるわ」
シャワーを浴びてスッキリとして出てくると、チビ雪も起きていた。
「スノーお姉さま……いえ、たまには小雪様。おはようございます」
「おはよう、チビ雪ちゃん」
久しぶりの休息、ガーデン・マノスにいた頃を思い出すな。旅をして分かったけど、本当に恵まれた環境にいたんだなと改めて思う。父上に感謝しないとね。
「今後の予定はどうされますか?」
リーティアから聞かれて考える。いつも特に計画など立てずに動くから、この後の事は特に決めていない。
ただ一つ言える事は、ここ最近色々とあったので一旦立ち止まってもいいかなと思っていた。
「しばらくユトグアに滞在して、ゆっくりしようと思うんだけど」
「それもいいですね。ずっと動き回る事もないですから」
チビ雪が賛同してくれるが、リーティアが少し困った顔をする。
「どうしたの? 何か不満?」
「いえ、不満ではないのですけど。ただ今の路銀だと、ここに泊まれるのが一週間が限度です」
旅の資金は全てリーティアに預けてある。計算した所、ここに一週間も泊まれば資金が枯渇するという事だった。
「カールの村で貰った報酬があるのに、それでも足りないの?」
「食料などの必需品の補充も考えると、一週間がギリギリかと」
「そしたら他の安宿に泊まるという手も…」
「私は嫌です」
珍しくチビ雪が反対してきた。どうやら、ここのホテルが相当気に入ったようだ。こうなると選択肢は二つだ。
「それなら、さっさと出発するかクエストを受けるかね」
「しかしスノー様、どのみちお金は必要になります。ここは一旦資金稼ぎをした方がいいかと」
大きな溜め息が出る。ゆっくりしたいのに、結局はお金稼ぎをしないといけないのかと。仕方なく巣魔火でクエスト村のサイトを開き、クエストを受ける所在地をユトグアに変更した。
これで何かしらの仕事の依頼があるでしょう。
でも今日ぐらいは後先の事を考えずにのんびりしよう。今日は引き籠って部屋から出ないと決める。
「あ、そうだスノー様。預かってたミスリルソード直ったので、お返しします」
練習用に買ったミスリルソード。首狩り騎士事件の時に折れてしまったんだけど、捨てるに捨てれずヴィントナーを旅立つ時にリーティアに預かってもらってた。
その折れたミスリルソードを、いつの間にか直してくれてた。
リーティアがディメンション・ボックスから、綺麗に直ったミスリルソードを取り出す。
「よく直せたわね。いつの間に直してたの?」
「スノー様がカールさんの村に行ってた時、あまりに暇だったので。以前よりも強化されてるので、もう簡単には折れませんよ」
そんな片手間で直せるものなの。しかも強化付きで。やっぱりリーティアの底が知れないな。
「じゃあ、その辺のミスリルソードと違うんだ?」
「はい、スノー様の魔剣ほどではないですが、魔界でも早々お目に掛かれないレベルにはなってると思います。名付けて『ミスリルソードMk-Ⅱ』です」
「マ、マークツー…?」
「要は強化版という事です」
たぶん今のはリーティアなりのボケだったんだろうな。上手く拾えなくて何かごめん。
そして私は綺麗に直してもらったミスリルソードを鞘から抜いて刀身を見る。
確かに以前より光り輝いて、剣自体が凄く喜んでいるようにも感じる。
「良かったね、ミスリルソード。これからもよろしくね」
思わず剣に話し掛けてしまった。それを微笑ましく見ているチビ雪とリーティア。
二人の視線に気付き、途端に恥ずかしくなって顔が赤くなる。
「小雪様は、本当に剣を大切にしているんですね!」
「う、うん。まあね! 父上からも教えられたからね!」
恥ずかしさを誤魔化すように、大きな声を上げて答えた。さらに、まだ眠っているカールに八つ当たりをする。
「あんた何時まで寝てんのよ! いい加減起きなさい!」
そう言って布団を勢いよく取り去ると、なんとカールは全裸で眠っていた。
「うわああああああ!!!」
それを見たチビ雪が悲鳴を上げる。私は悲鳴こそ我慢したものの、思わぬ姿にドン引きしてしまった。
「な、なんだなんだ!?」
悲鳴を聞いて驚いたカールが飛び起き、全裸のままベッドの上に立った。さながら誰も喜ばないストリップショー状態だ。
「あんた服を着ろー!!!」
叫びながら咄嗟に、鞘に納めたミスリルソードMK-Ⅱでカールの急所を殴打してしまった。
「おぅぐほおおぉぉぉ……」
急所攻撃を受けたカールはこの世の終わりみたいな声を上げ、ベッドで蹲りしばらく身動きが取れなくなる。あまりに醜い姿だったので、そのまま布団を被せた。
「あの……スノー様……せっかく直した……ミスリルソードMK-Ⅱを……」
今までに見た事ない悲しい顔をしたリーティアが、こっちを見つめてきた。今にも泣きそうな顔をしている。
確かに咄嗟だったとはいえ、直ったばかりのミスリルソードMK-Ⅱの初使いがこれなんて。
直してくれたリーティアにも物凄い罪悪感を覚える。
「ごめん! ホントごめん! リーティア! せっかく直してくれた剣を、こんな詰まらない使い方してしまって!」
リーティアに謝りながら、ミスリルソードMK-Ⅱを再び鞘から抜くと心なしか、さっきよりも刀身が曇ったように見える。
「…………改めて……よろしくね…………」
色々と気まずくなりながらミスリルソードMK-Ⅱを鞘に納めた。
その後、お風呂場で鞘を綺麗に洗ったのは言うまでもない。
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