43話 思わず出た嘘
カールの村から漆黒の剣を撃退し、チビ雪と二人でリーティアの元へ帰ろうとした。
面倒だけど報酬は翌日、カールを連れて取りに来ればいい。
ところが村長と名乗る老人が、私とチビ雪を呼び止めた。
「待ってください。旅の人でいいですかな、あなた方は何故村を救ってくれたのです?」
「別に救った訳じゃありません。私は頼まれて来ただけです」
漆黒の剣のメンバーの捕縛に協力した村人達だけでなく、ずっと家の中に隠れていた村人達も全員外に出て来て、さながらお祭り騒ぎのようになった。
ハッキリ言って、今頃出て来られても迷惑なだけなんだが。
「頼まれたのというのは、一体誰に?」
「カールという、この村の男性ですよ。あなた達の仲間でしょう?」
ここでカールの名前を聞いた村人達が、あからさまに眉を顰める。中には嫌悪に満ちた表情を浮かべる村人達。
不思議そうに思っていると、
「奴は生きているのですか? あのろくでなしが!」
村長が呼気を強くして言い放つ。それに続くように、他の村人達もカールの陰口を言い始める。
「あいつは俺達に散々迷惑をかけて、挙句に旅の女魔族に助けを頼んだのか!」
「村の恥晒し! あいつこそ死よりも辛い罰を魔王グリテア様に与えられればいいんだわ!」
「奴はどこにいるんだ! 俺がぶっ殺してやる!」
一気に場が沸騰し、村人達の罵詈雑言が飛び交う。
ここまで村人達が怒るって、カールは何をしたのか。気にはなるが、だがそれ以上に不愉快だった。
「旅の人、奴は今どこにいるのですか? 村の長として、私も奴に引導を…」
「死にました」
「え?」
私にも分からない。思わず口を突いて出てしまった。その言葉を聞いて村長は驚きと動揺を露わにし、村人達からは罵詈雑言が消えた。
「私が彼を発見した時、すでに虫の息でした。そして私に最期の願いを託しました。『俺の村を救って欲しい』と。最期の最期まで、彼はこの村の事を案じていたんです」
まあ嘘なんだけどね。頼まれたのは本当だけど普通に生きてる。だけど、もうこの村にはカールの戻る場所はないと判断した結果だった。
下を向いて何とも言えない表情を浮かべる村人達。その中で一人が口を開く。
「だが、それでも奴が一人で逃げた事に変わりはない。奴の罪は許されない」
このセリフで再び場が沸騰し始めようとしたが、私がすぐに窘める。
「それは違います。彼は瀕死の重傷を負いながら、私が止めても尚も助けを求め歩き続けようとしました。己の非力さを呪い、村の人達が無事である事を願って。そんな彼の姿に心を打たれて、私はここに来たんです」
「そ、それは本当でございますか?」
村長が震えた声で聞き返してきた。
「ほ、本当ですよ!」
私も少し震えた声で答えた。
何だろう、隣にいるチビ雪の視線が痛い。本当の理由はお金だけど…全部が嘘じゃないんだから、ここは黙って目を瞑ってよ!
村人達は複雑な表情を浮かべ、それでもまだ許せないと口にする者もいれば、あいつなりに村の将来を考えての行動だったのかと怒りを下げる者と様々だ。
「それでは私達はこれで。仲間が待っているので」
今度こそ村を去ろうとした。
だがまたも村長が呼び止めてくる。
「今度は何ですか?」
思わず不機嫌になり、あからさまに怒気を含んだ言葉を投げつけた。
「い、いえ…あなた方に何もお礼をしないというのは、些か心が痛みます。漆黒の剣のせいで我々の蓄えは少ないですが」
そう言うと村長は村人の一人に、僅かばかりの報酬を用意させた。
渡されたのは包みに入ったお金、三十万ミラだった。
「本当によろしいのですか? 村には余裕がないのでしょう」
「いいのです。あなたが奴らを撃退してくれなければ、どのみち奪われていた金です。あなたが持って行ってくれた方が我々としても納得がいくというものです」
そうかな、後ろの方では不満そうな村人もいるけど。だけど折角くれるというのなら、遠慮なく貰っておこう。
「感謝します。それでは本当にこれで」
村人達に手を振って村を後にした。
後は森の中に埋めてきた盗賊達も、ヴィントナーの領主・ソウノスケに連絡すれば全て終わり。写真付きで巣魔火から送信しておいた。
そしたら、すぐにサムズアップのスタンプを送り返してきた。私も他人の事言えないけど、魔界の上に立つ魔族って総じてノリ軽いな。
「スノーお姉さま、今日は疲れましたね」
「ええ、早く帰って寝たいわ」
疲れたのは私とチビ雪だけでなく、どうやらスキアーも相当に消耗したらしい。指輪に戻ってから一切反応がない。
「だけど残念だな。カールを死んだ事にしてしまったから、報酬の六百万ミラがパアだわ!」
「お姉さま…守銭奴みたいですよ」
「ちょ、ちょっと! そんな言い方ないでしょ! 旅にはお金が必要なのよ!」
いつものようにチビ雪と他愛もない話しをしながら、来た道を戻ってリーティアの待つ野営地に戻ってきた。
少し明るくなって来ていて、青の月が昇り始めている。
「お疲れ様でした。スノー様、チビ雪様。温かいスープがありますよ」
「ありがとう。今日ほどリーティアの顔を見てホッとした日はないわ」
「ありがとう! リーティア! スープ凄く美味しい!」
野営地に付いた途端、急激な空腹に襲われた。二人とも一心不乱にリーティアの作ったスープを飲み干した。
「カールは?」
「薬が効いて眠っています。しばらくは起きないでしょう」
「私も眠く…と言っても、もう朝なんだよね」
「そうね、でも少し寝ましょう。流石に一睡もせずに出発するのは辛いわ」
一睡もせず戦っていた事で、私もチビ雪も疲労はピークに達している。テントに入り、少しの休息を取る事にした。
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