42話 成長
「ここの村人達、自分達が当事者のくせに誰一人として出てこようとしないのね」
我が身可愛さなのは分かるけど、全く無関係の私達が命懸けで戦っているというのに。思わず愚痴が零れる。
そんな釈然としない気分の中で、逃げた盗賊を探して少し狭い路地に入った時だった。チビ雪が口を開く。
「村の人、家の中からこっそり私達を見てますね」
「ええ、なるべく目を合わせないように窓から覗き見てるわね」
村人達の視線は気づいていた。とりあえず視線を無視して隠れている盗賊を探す。
すると一人の老人が家から出てきた。
「悪いが早く出て行ってくれないか。我々を巻き込まないでくれ」
感謝されるどころか邪魔者扱いか。だけど私達は、頼まれてここに居る。本当なら、こんな村に立ち寄る予定さえなかった。
「巻き込まれたのはこっちなんだけど。言われなくても魔剣を回収したら出て行くわよ」
村の老人に対し、私も淡々と無感情で答える。
どうやらこの村は漆黒の剣に長年虐げられて、かなり心が荒んでいるらしい。その後、老人を皮切りにぞろぞろと村人が家から出てきた。
彼らは漆黒の剣の報復を恐れ、私達がした事を責め立て始めた。
「あんたらは奴らの怖さを分かっていない」
「ヌフール達はほんの一部隊。もし我々の村で奴らが倒された事を知れば、漆黒の剣はさらに大勢の軍勢を送って来るだろう」
「頼むから、もう俺達の村で勝手な事をしないでくれ」
彼らの言い分も分かるには分かる。だけど、それが命を懸けた相手に言う事か。
村人たちの勝手な言い分に、ワナワナと怒りが込み上げてくる。
「スノーお姉さま、相手せずに行きましょう」
チビ雪に諭され、気を取り直して隠れている盗賊を探しに行こうとした時だった。家と家の隙間に隠れていた盗賊が、スノーフェアリーが左肩に突き刺さったまま奇襲してきた。
「しねぇぇー!」
村人達に気を取られていたせいで、完全に反応が遅れてしまった。
その敵の不意打ちに、先に気付いたチビ雪が咄嗟に間に入って私を庇う。
「チビ雪ちゃん!?」
盗賊のダガーはチビ雪の胸に突き刺さり、
「うあああ!!」
チビ雪が悲鳴をあげて、前のめりに倒れてしまった。目の前で起こった出来事に頭が真っ白になり、一瞬立ったまま固まってしまう。
そしてチビ雪を刺した盗賊は、今度こそ私を仕留めようとダガーを握り直す。
「くそがー! だが次はきさ……ごぼあああ」
だが…それと同時に体の硬直が解け、次に動いた時にはスノーフェアリーの鞘で盗賊の顔面を殴りつけていた。
鞘は盗賊の左目に直撃し目は潰れ、顔から大量の血を出して敵は絶叫する。だが私は、それを見ても無表情のまま殴り続けた。
「た、たひゅけ……ぎゃあああ!! だ、だえがー!! ぐほおおぉぉ!!」
敵が命乞いをしてくるが、それでも私は自分の感情を抑えられず相手の返り血を浴びながら殴り続ける。
何度も! 何度も! 何度も!
盗賊の顔は原型を留めないぐらいにボコボコになり、すでに悲鳴すら上げなくなっていた。
そこへ私は、敵の左肩に刺さっているスノーフェアリーを抜いて、そのまま敵の心臓を貫こうとした。
「死ね」
途轍もなく凍てついた言葉が、自分の口から発せられる。
だが、それを慌てて止めに来た者があった。
「スノーお姉さま! もう止めてください!」
後ろからチビ雪が私の両脇に腕を回し、敵の心臓に魔剣を突き刺そうとする私を必死に止めた。そこでようやく我に帰って立ち上がる。
「チビ雪ちゃん!? 無事だったの!? ていうか私は一体何を…」
怒りに我を忘れ、自分でも前後の記憶が曖昧だ。
「スノーお姉さま、私は大丈夫です。ちょっとだけ痛みますけど、リーティアから貰った鎖帷子のおかげで無事でした」
チビ雪が心配しながら私の右手を握った。どうやら私は、逆にチビ雪に救われたみたいだ。
「はぁー…ふう」
大きく深呼吸して心を落ち着かせ、スノーフェアリーを鞘に納めて腰に装着する。
とにかくチビ雪が無事で本当に良かった。
「ありがとう、チビ雪ちゃん。おかげで助かった」
「お互い様です! それじゃあ早く片付けて帰りましょう」
あの時と立場が逆になってしまった。
ようやく全てが終わり、後は倒した盗賊達の後始末だけど。それぐらいは当事者たちに任せてしまいたい。
怒り狂った時の私の一部始終を見ていた村人達は、すっかり私に怯えていた。
「倒れている盗賊達を捕縛してもらえるかしら? 私達だけじゃ大変だから」
「ほ、捕縛した後どうしたらいいんだ?」
「私はヴィントナーの領主と顔見知りでね。彼に連絡して引き渡しなさい。スノーという名前を出せば、話しはすぐに通ると思うわ」
「わ、わかった。おい、みんな! 奴らが目を覚ます前に急いで捕縛するぞ!」
私の命令を受けて、村人達が総出で盗賊達を捕縛した。特にヌフールは念の為、鎖で雁字搦めにして絶対に解けないようにした。
だけど私が怒りに我を忘れてボコボコにした相手は、どのみち動く事ができないぐらいのダメージだったので捕縛せずにそのままにしてあった。
最早、呼吸すらままならないようでヒュー、ヒューと音を出しながら肩で息をしているようだ。
放っておけば確実に死ぬ。
その敵の顔を見ながら呟く。
「チビ雪ちゃんが…やられたと思って…つい…」
いくら何でも、自分でも怖くなるぐらいの事をやってしまった。しかも今回は魔剣を持っての事じゃない。
これが意思のある魔力のせいなのか、それとも私自身が怒りに支配されやすいのか、はたまた両方なのか…。
体が震える。自分が自分じゃなくなる感覚。いつか自分自身が消えてしまうんじゃないかという恐怖が呼び覚まされる。
すると隣で私の様子を見ていたチビ雪が、スッと前に出てボコボコになった盗賊の前に杖を突き出した。そのまま詠唱を始めたチビ雪の持つ杖からは、何やら緑色の光が出始める。
「魔界の神聖なるマナよ。全ての者の癒しとなりて我の願いに応え給う『ヒーリング』!」
杖から放たれた光に包まれた盗賊は、体の傷が少しずつ癒えていく。完全ではないけど顔の傷も少しはマシになった。
「私は、あまり回復系は得意ではないので、これが限界です」
全快ではないにしろ、チビ雪のおかげで瀕死の盗賊は何とか一命は取り留めたようだ。
だけど、それはそれで私には何か引っかかるものがある。
「でも、こいつだけ助けるっていうのも可笑しな話しなんだけど」
昨日から漆黒の剣は、私達との戦いで何人か命を落としている。今更、敵に情けをかける必要性も感じない。首狩り騎士事件がキッカケで、私の中のタガが外れてしまった自覚はある。
するとチビ雪が、
「スノーお姉さま…小雪様が自らの意志で私の為に戦ってくれた結果なら何もしません。だけど、こいつが瀕死になったのはそうじゃない。だったら小雪様を、ただの殺人鬼にはさせません」
今までになく力強い口調、そして頼もしい眼をしたチビ雪が私の方を見て言い放った。さらにチビ雪が続ける。
「さっき私を止めてくれたように、今度は私が小雪様を止める盾になります。お互い未熟者同士、持ちつ持たれつでいきましょう」
生意気な事を…なんて前なら思っただろうけど、今はチビ雪が今までになく大きく、そして私以上に成長しているのだと痛感させられる。
「私は今回の戦いで、初めて他人の命を奪いました。正直かなりショックを受けましたし、もう私はダメかと思いました。でも…それでも、あの時の自分の判断は間違ってなかったと…本気で誰かを守りたかったら、そんな覚悟が必要なんだと今回の戦いで悟ったんです」
僅かな時間の中で、チビ雪はこんな覚悟までしていたのか。
(いつの間に、こんなに大きくなったのかしら)
本当に強い子だこと。そんなチビ雪の頭の上に、手をポンと置いて優しく微笑む。
「ありがとう。それじゃあリーティアの元へ帰りましょうか。夕飯を作って待っててくれてると思うから」
それに対して、チビ雪がいつも通りの満面の笑みで応えた。
「戻る頃には、もう夕飯というより朝御飯ですね!」
久しぶりにチビ雪と昔みたいに手を繋いで、野営の場所まで帰る事にした。
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