40話 一か八か
辺りはすっかり暗くなり、夜の暗闇が広がる。
その闇夜に、漆黒の剣の部隊が逗留する村に捜索隊として出ていた部下の一人が戻る。
「ヌ、ヌフール様…捜索に出ていた仲間は全員…」
戻ってきたのは、スノーに案内役をさせられた盗賊。結局埋められる事なく村へと返された。
そしてリーダーのヌフールが、戻ってきた男に事情を聞き始める。
「全滅とはどういう事だ? 誰にやられた?」
「そ、それが…」
十人の捜索隊が、女魔戦士と少女の魔導士の二人にやられたと聞いて驚く盗賊達。それを聞いたヌフールが激昂する。
「それで貴様は女・子供に負けただけに飽き足らず、そいつらをここまで案内してきたと?」
「す、すいません! 俺一人じゃどうにも!」
「黙れ! 貴様は漆黒の剣の面汚しだ!」
「た、助け…ぎゃあああ!!」
ヌフールは戻った部下の頭を巨大なハンマーで殴り倒した。頭から血を流し倒れた男は小刻みに痙攣している。
「俺達に歯向かう愚か者が、この辺りに潜んでいるはずだ! 探せ!」
他の部下たちに、スノーとチビ雪の二人を探すよう命令を下した。
――――
連中は完全に戻った部下に気を取られている。今の内に村の正面の右側にある入り口から村に侵入する。
私達に気付く何人かの村人達に、口元に人差し指を充てて横に首を振り、見て見ぬふりをするよう合図する。
「全滅とはどういう事だ? 誰にやられた?」
「そ、それが…」
リーダー格の男と案内させた男との間で、切迫したやり取りが繰り広げられている。他の盗賊達も、それに気を取られて私達に気づいていない。
「チビ雪ちゃん、私とスキアーで奴らに奇襲をするから、もしもの時は援護をお願い」
私の言葉にチビ雪は無言で頷いた。魔剣スノーフェアリーを抜刀し、スキアーは私の影に擬態させた。
敵のリーダー格の男が自分の部下を手にかけたタイミングで、奴らの死角から突撃した。
「俺達に歯向かう愚か者が、この辺りに潜んでいるはずだ! 探せ!」
その瞬間に、敵の背後から攻撃をした。
「ハァッ!」
「なんだ!? ぎゃああ!!」
完全に油断していた盗賊達は、後ろからの私の奇襲に驚き浮足立つ。一人目を斬った後、すぐに二人目に斬りかかった。
「ぐあああ!!」
二人目を斬った所で、敵も体勢を立て直して向かって来る。
「くそ! すでに村の中に隠れてやがったのか!」
三人がこちらに向かって来る。最初に振りかぶって攻撃をしてきた盗賊の剣を避け、そいつの腕を蹴り剣を落とさせる。瞬時に体を回転させながら横薙ぎの斬撃を加えた。
「ぐあああ!!」
二人目に斬撃が当たり、胸から血を出して倒れる。その隙に剣を拾おうとした盗賊の頭を柄の先端で殴り気絶させた。
「おのれ、舐めるなー!」
最後に残った一人が棍棒で殴り掛かってくるが、奴らの持つ武器であればスノーフェアリーの敵ではない。敵の棍棒をあっさりと切り裂き、そこからすぐに左肩から腹にかけて敵を斬り捨てた。
「ふぅ」
一気に五人倒した。残りは五人…あれ? 四人しかいない。村には十人いたはず、今五人を倒したから、リーダー格の男を含めて残り五人のはずなのに。
もう一人はどこに。
「放せー!」
残りの一人の行方を探していたら、後ろから甲高い声が響いた。
「今のはまさか!? チビ雪ちゃん!?」
「ヌフール様! もう一人のガキを捕まえましたぜ!」
チビ雪は杖を奪われ、呪文を使えない状態になってしまっている。魔導士は接近戦に弱い。
くそ、チビ雪を一人にした私のミスだ。
「くっふふふ、良くやった! さあ仮面のお嬢さん、これで形勢逆転だな!」
ヌフールという敵のリーダー格の男が嫌味に笑う。奴らはチビ雪を人質に取り、こちらの動きを封じてきた。
チビ雪を人質に取った男は、ヌフールの元へ合流する。
(マズいわね。どうしたものか)
首狩り騎士の時は誰かが犠牲になっても、言っては何だがそこまで感情が動く事はなかった。だけどチビ雪となれば話しは別だ。
「だから私は嫌だったのよ…余計な事に首を突っ込むのは」
「何を一人でブツブツ言っている。早く武器を捨てろ。さもなくば」
「言われなくても分かってるわよ」
「スノーお姉さま! 魔剣を捨ててはダメ!」
(ちょっとチビ雪ちゃん、魔剣だとバラさないで!)
だけど今は奴らの言う通りに、私はスノーフェアリーを地面に置いた。
「やたら切れ味が良いと思ったら魔剣だったのか! そいつをこっちに蹴りな」
「悪いけど大事な魔剣を蹴るなんて御免だわ。そっちに投げるから受け取りなさい」
地面に置いたスノーフェアリーを、嫌々ヌフールの方へ投げる。それを受け取ったヌフールが不敵に笑った。
「ふはははは! 近くで見れば見るほど良い剣だ! こいつあデカい収穫になったぜ!」
すると魔剣を持ったヌフールが、こっちへと近づいてきた。
「スノー様、ここは私が」
「もう少し待って、私の推測が正しければ大丈夫」
足元のスキアーと小声で話す。私の合図があるまで、今は動かないように諭した。
「早速こいつの試し切りをしたい。どうだ? 自分の剣にこれから斬られる気分は」
そう言うとヌフールは魔剣スノーフェアリーを私の首元に近付けた。
「スノーお姉さま!」
「うるさいガキ! 静かにしていろ」
「きゃあ!!」
チビ雪を捕らえている盗賊の男が、叫ぶチビ雪を黙らせる為に顔を殴った。チビ雪が悲鳴に近い声をあげる。
それを見て私は思わず、
「貴様!! もしその子にまた手を出したら、次は貴様の首が飛ぶと思え!!」
今までに誰にも見せた事ない勢いでキレた。そのキレ方に盗賊達もだが、チビ雪もビックリしている。
「仮面の女、あのガキの心配より自分の心配をしろ!」
「あんたも斬るのなら、さっさと斬れば? それとも怖気づいたの?」
「ふん、ならお望み通りにその華奢な首、斬り落としてやるわー!」
ヌフールは剛腕に血管を浮き上がらせながら、スノーフェアリーを振りかぶり私の首に斬りかかった。
「スノーお姉さまー!!」
チビ雪が泣きそうな悲鳴を上げながら、私の名前を叫ぶ。
ブオン!!
勢いよくスノーフェアリーが私の首に当たる。だがスノーフェアリーは私の首を斬るどころか、傷一つ付けられなかった。しかも相手があんなに力を込めたにもかかわらず、私にはその衝撃すらも一切なかった。
「な、何だこの剣は!? 全く斬れないじゃねぇか!?」
ヌフールが狼狽えながら、スノーフェアリーをガン見している。
「やっぱり思った通り」
「どういう意味だ!?」
「その魔剣は私専用なの。だから私以外が持っても斬れないってわけ。ましてや主の首は絶対に斬らせないでしょうね」
「ぐぬ~! ただのナマクラじゃねぇか! こんな物ゴミ同然だ!」
ヌフールがスノーフェアリーを地面に投げ捨てようとした。その瞬間の隙を見逃さずスキアーに命令する。
「スキアー! 魔剣を奪い返しなさい!」
影に擬態したスキアーが足元から鞭のように伸び、ヌフールの右腕に巻き付いた。
「な、なんだこれは!?」
「ヌフール様!?」
さらにもう一つ足元から鞭のように伸び魔剣を奪い返す。
「くそ、こいつは魔力が集まったアンデットモンスターか!」
ヌフールが腰に付けたダガーを抜き、右腕に巻き付いたスキアーを斬って払った。そしてすぐに私から距離を取った。
「まさかアンデットモンスターを使役してたとはな」
「へえ、スキアーの正体を見破るなんて、思ったよりやるわね」
周りの村人達が不安気に見物する中、漆黒の剣との戦いは佳境に入った。
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