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4話 魔王として

魔王としての仕事がスタートして、今日も朝からホワイトガーデンに訪れた。


もちろん、初日での出来事があって以降は、お弁当持参だ。

一応これでも母上が亡くなってから、代わりに父上のお弁当を作っていたから料理はまあまあできる。


ここの側近達は堅造含め、本当に見てるだけで気持ち悪くなるゲテモノばかり食べている。


食材は魔界全土から集めた高級食材らしいけど、ここの料理人は焼くか煮るぐらいしか出来ないのか?


そんな風にすら思える。


ここでの愚痴は本当に絶えないけど、嘆いていても仕方ないので、いつものように魔王室でPCを開いて今日のスケジュールを確認していた。


すると、その中に見慣れない文字が見えた。


「視察」


視察って何を?


魔王になってから、初めて外に出る仕事。

すぐに堅造を呼び、視察について質問をした。


堅造も自身の仕事に追われ、今それどころじゃないのに!という表情を隠す気も無いらしい。


いやいや、私は曲がりなりにも魔王ですよ?

一応あなたの上司にあたるんだから、そう思っても顔の感情ぐらい隠しなさいよ。


大体、一言だけ「視察」って書いとくのが悪い。

どこに視察するのか記してあれば、こっちだってわざわざ聞く必要がないのだ。


ここは改善案件だな。

後で、このスケジュールを作った側近を修正してやろう。


そう考えてた時、私の質問に少し疲れた表情のままの堅造が説明してくれた。


「一カ月ほど前に、新しく完成した学校の視察でございますぞ」


「学校? わざわざ私が視察する必要あるの?」


魔界に日本人が現れてから、住人達に語学を教える為に日本人達は学校を建てた。


元々は日本語と言われる、彼らの母国語を教えるための学校がメインだった。


でも魔界が安定して平和になってからは、ガーデン・マノスでは様々なジャンルの学校が建てられる事になった。

チビ雪が通っている魔導士学校もその一つだ。


だから学校なんて今更珍しいものではないし、わざわざ魔王が視察に出向くような場所でもない。


「先方からのたっての要望でございますぞ」


「ふーん、それで何する学校なの?」


「何でも、日本という国について学ぶ学校なんだとか」


「日本を学ぶ学校? もしかしてそこの校長って日本人?」


「左様でございますぞ」


当時の日本人の中には、今もまだ存命の人達は当然いる。


そして現在は、私のような魔界とのハーフ、日本人同士から生まれた日本人二世がいる。


今回の学校長が純粋な日本人だとすれば、当時の日本人か二世のどちらかなのかな。

もしかすると父上の事も知っている人かもしれない。


最初はあまり気乗りしなかったけど、ちょっと興味が出てきた。


「では小雪様、まずはこちらからお願いしますぞ」


そう言った堅造が大量の種類を机の上に置いた。


嫌がらせのように置かれた書類の山を見て興覚めしながらも、いつも通りただのサインマシンと化して仕事を始める。


だが、ふと思ってしまった。


これ、ただサインするだけで正直中身がなんなのか、全く確認していない。

いつもの流れ作業。


でもサインしなかったら、通らないって事だよね?


よくよく考えれば私は魔王なんだし、このガーデン・マノスのトップなんだし。


別に気に入らない内容であれば、拒否できるんだよね?


そう思って、まだサインしてない書類の一枚を手に取って目を通してみた。


『病院従事者への賃金アップの予算申請』


ふむふむ、これはまともな内容の政策だったわね。

じゃあサインと。


『奴隷廃止に伴う被害者の社会復帰援助と抜け穴対策費用』


あら、これもちゃんとしたものじゃない。

うちにも元は奴隷の子だったチビ雪ちゃんがいるから、これに関しては他人事じゃないのよね。

はいサインと。


『識字率の低い地域への語学強化と学校建設費用』


ちょっと待って。

もう私の許可なんて必要ないぐらい、そのまま進めていい物ばっかりなんだけど。


なんだ、私の取り越し苦労だったか。

これなら全然サインマシンにでもなってやるわよ!


そう思って、最後にもう一枚だけ取った。


『夢の国ヨシワラの拡充と新規店舗開店条件の規制緩和』


…………。


ん? 急になにこれ?


夢の国ヨシワラって、いかがわしいお店の並ぶ歓楽街、あの夢の国ヨシワラ?


一度だけ友達と興味本位で行ってみたら、後で父上にバレてしまって。

あそこだけは絶対に近付くな!って、優しい父上に初めてで唯一怒られた、あの夢の国ヨシワラ?


もしかしてこれってあれかな、本当はこれが大本命で、それを隠す為にまともな政策の中に紛れ込ましてる?

どうせ見ないだろって。


何かよくわかんないけど無性に腹が立ってきたので、とりあえずこれだけサインせずにそのままにしておいた。


だって魔都市の予算だって限られてる。

もっと必要な所に使うべきよ。


そう、私は魔都市ガーデン・マノスの魔王として、この街を正しい道へと導く義務がある。

そして、それは巡りめぐって魔界の平和と安定にも繋がる。


瞑想にでも耽る様に目を閉じて、自分の考えが正しい事を再確認する。


木漏れ日に似た、柔らかな日差しが後ろの大きな窓から差し込んだ。

その日差しを背中から浴びて思わず立ち上がり、少し手で眩しさを抑えながら窓の外を見て天を仰いだ。


父上…天国から母上と共に、見てくれてますよね。

あんなに嫌だった魔王業、私はちゃんとやれてますか?


薄らと笑みを浮かべて、初めて魔王という仕事に充実感を覚えていた。


その後は、順調に書類へのサインが進み。


学校に視察に行くまでに一通りのサインを終え、全ての書類を堅造に渡した。


「小雪様、お疲れ様でございましたぞ! 一時間後に視察に出ますので、準備のほどよろしくお願いいたします」


「分かったわ、それじゃあ準備をしてくるわね」


視察の準備のため魔王室を出て、側近に付き添われながらメイク室へと向かった。


仕事は何もかも順調。


ところがメイク室で、メイド達に手伝われながら身を包んでいた時だった。


何やらバタバタと廊下を駆ける音が近づいて来る。


「こ、小雪様ー!!」


堅造が血相を変えて、メイク室に飛び込んで来た。


当然メイド達に袋叩きに合う。


「いだだだ、こ、これは失礼しましたぞ! でも少し時間をください!」


何となく察しは付く。

おそらく夢の国ヨシワラの件だろうなと。


とりあえず一旦メイド達に手を止めてもらって、その場で話しを聞く事にした。


「小雪様! これは一体どういう事ですか! 何故これにだけサインがないのです!」


「だって、そんなのにお金回す余裕ないよね? それを決めるのも魔王である私でしょ?」


「し、しかし! 大きな街になればなる程、こういう捌け口となる場所が必要なものなのです!」


その瞬間、堅造の方をジト目となってジッと見る。


まさか、それを提案したのはおまえか?と言わんばかりに、堅造にプレッシャーをかけた。


メイド達も何となく状況を察して、ザワザワし始める。


耐え切れなくなった堅造が、慌てて持論を展開した。


「い、いいですか! 昔のマノス村ならいざ知らず! 大都市となり住人が多くなれば、完全に純麗という訳にはいかないのです! 街の秩序を保つ為には、必要な汚れというものも重要なのですぞ!」


いつにも増して、目を見開いて熱く語る堅造。


何とも正義感満載で言ってくるけど、要するに男どもが楽しめる場所をもっと充実したいという事だ。


やだ!

不潔!


メイド達から囁かれる、堅造への容赦のない雑言。

堅造も肩身が狭そうにしているが、これだけは譲れないのかメイク室から出て行こうとしない。


そういう事なら!と、椅子から立ち上がって堅造に詰め寄り条件を突き付ける。


「いいわよ、サインしても」


「ほ、本当でございますか!」


「ええ。その代わり、今度からマノスヒルズで仕事してもいいかしら」


「ええー!? マノスヒルズでですと!?」


ほぼサインするしかない事に、ずっと不満を感じていた。


その為だけに、わざわざホワイトガーデンに来るのも正直メンドクサイ。


大体今は魔界ネットを使えば、これぐらいの仕事簡単にできるはずなのに。

必要な事を伝えるのだって、ネットを使えば何も問題ない。


一般の住人だって、それぐらいやってるのに。

何故ここだけ、こんなにアナログなのか。

いつも不思議に思ってた。


「し、しかし魔王様がホワイトガーデンに来ないというのは…」


「ならいいわよ。それにサインしないから」


堅造がプルプルと震えながら、必死に考えている。


ハッキリ言って、堅造は世間体を気にするタイプ。

ホワイトガーデンは魔王城という役割もあり、そこが常に魔王不在というのはガーデン・マノス内外への示しが付かなくなる。


夢の国ヨシワラを取るか。

魔王のホワイトガーデン出勤を取るか。


普通に考えれば、堅造なら私の在宅ワークなんて許可しない。

だから夢の国ヨシワラを諦めると思ってた。


そう思ってた時も、私にはありました。


「い、いいですとも! 今後はマノスヒルズでのお仕事を許可いたします! だからこれにサインしてください!!」


あまりに綺麗なお辞儀をして、堅造が両手で添えた書類を差し出してきた。


「あんた、どんだけ夢の国に行きたいのよ!!」


思わず大声を張り上げてツッコんでしまった。


はあ…やれやれ。


ここまで言われたら流石に断れないので、仕方なくサインをしたけど。


おかげでメイク時間を大幅に超え、予定がかなり遅れてしまう事になった。

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