38話 異変
先の戦いで魔剣スノーフェアリーは専用の魔石を嵌め込まない限り、通常の剣と何ら変わらない事は分かった。少なくとも眼前にいる相手は、魔石を使わなくても大丈夫な相手だと思う。
スノーフェアリーを抜刀し、なるべく気配を隠しながら敵との間合いを詰める。敵もこっちの気配に気づいたのか、歩みを止めて辺りを見渡した。
「おい、お前らは右手側、お前達は左手側だ。誰かが俺達を見ている。気を抜くな」
敵は二人一組になり三つに分かれて、周囲を索敵しながら歩きだした。こういう時にスキアーで奇襲したいけど、奴らの仲間四人を拘束しているので無理な状況だ。
「まずは右側から来る敵を何とかしますか」
流石に一度に六人相手はキツい、一人ずつ確実に仕留めたい。
こちらから見て右側から来る二人組をターゲットに絞った。二人はダガーと棍棒を持っている。刀剣の長いスノーフェアリーでは、木の生い茂る場所では戦い辛い。こちらから動くのは最小限に抑え、その二人が近付いて来るのを息を殺して待った。ここは一瞬で仕留めたい。
「今のところ異常はないな」
二人が立ち止まって話し出した時だった、僅かに周囲への警戒が薄くなったのを見逃さず、近くの木の陰に隠れていた所から飛び出して攻撃した。
「な、なんだ!?」
一人が慌ててダガーを構えようとしたけど、そいつの首を即座に斬り落とした。
「くそ、近くに隠れてやがったのか!」
棍棒を持った相手が襲い掛かって来るが、咄嗟に最初に斬った奴が持っていたダガーを手に取り投げた。
投げたダガーは相手の右手にヒットし棍棒を落とす。
「ちくしょう…」
棍棒を落とし勝てないと悟った賊は、ズボンのポケットから小さな円柱状の包みを出した。そこから出ていた紐を思いっきり引っ張ると、
ピィー!
という大きな音と共に、空に向けて信号弾が発射された。その信号弾はすぐに消えず、しばらく上空に光っている。
しまった、仲間に知らせる合図か!
「ぐう…ふふふ、お前も終わりだ。もうじき俺の仲間が駆けつける」
相手は残り四人か。もし他にも仲間がいる可能性も考えたら、すでに隠密する意味はないかもしれない。
とりあえず目の前にいる奴を魔剣の柄の先端で殴り気絶させた。
「スキアー! 捕らえてる四人を始末して私に加勢して!」
「はい! スノー様!」
私の命令を受けてスキアーは捕らえた四人を絞め殺し、私の影へと擬態した。
「私とスキアーであれば、賊四人ぐらい何てことないはず」
ここで一気に片付けて、気絶させた奴から情報を聞き出したい。
ところが、隠れて待機してたチビ雪が目の前に立つ。
「スノーお姉さま、ここは私にやらせてくれませんか?」
その時のチビ雪の表情は、今まで見た事ないぐらいに怒りで満ちていた。思わず少し震えてしまうぐらいに。
「……分かった、後はお願いね」
「はい、ありがとうございます」
チビ雪は杖を両手で持ち前にかざした。そして詠唱を開始する。
その間に、敵の仲間四人がこちらに向かって来る気配が、どんどん近付いて来る。
そして木々の隙間から、盗賊達四人が視界に入った時だった。
「仲間の合図を辿って来てみりゃ、なんだガキ共か?」
「二人がやられている! 女、子供だからと容赦するな!」
四人の盗賊達が一斉にこっちへ襲い掛かろうとする。
だがチビ雪は詠唱を終えた状態で、盗賊達が集まるまで呪文の発動を待っていたらしい。カッと目を見開いたチビ雪は、杖を突き出し呪文を放った
「チェーン・ライトニング!」
チビ雪の放った呪文は、名前の通り鎖のような電撃が瞬時に横に伸び、目の前まで迫って来ていた盗賊達四人に絡み付くように一斉にダメージを与えた。
「「「「ぎゃあああああ!!」」」」
強烈な電撃を受けて盗賊達はその場に倒れ込む。あまりに強力な呪文だったのか、周囲の地面や木々も焦げたり、えぐれたりしている。
こんな便利な呪文を持っているのなら、最初から任せれば良かったかしら。
「く、くそぉぉ」
だが一人が何とか立ち上がろうとした時、チビ雪はまた同じ呪文を唱えて追撃を行った。
「ぎゃああああ!!!」
その様子を見て、慌ててチビ雪を止めた。
「チビ雪ちゃん! それ以上はもういいわ!」
今更、私が相手をどうこうする事を言えた立場じゃないけど。ただ今のチビ雪は明らかに様子が変だ。何があったかは後で聞くとして、ここからは私に任せるように説得した。
「スキアー、倒れている四人を捕らえといて。しばらく動けないだろうけど念の為ね」
「はい、スノー様」
スキアーが再び蛇のように擬態して、倒れた四人の盗賊達を捕らえた。
しかしチビ雪の強力な雷系呪文を受けた四人の内、一人がすでにショック死していた。たぶん、二度目の追撃がトドメを刺したんだと思う。
一瞬チビ雪の方をチラッと見て、さっき気絶させた盗賊の元へと向かった。
「起きなさい。あんたに聞きたい事があるから」
盗賊の頬を何度もビンタして、無理矢理目を覚ませた。
「んあ? な、なんだ!? 一体何がどうなって!?」
「うるさい、死にたくなかったら私の言う事を聞きなさい」
後ろを振り返り目でスキアーに合図すると、四人を捕らえたスキアーが目の前まで来る。自分の仲間が全員捕まったのを見て、完全に観念したようにうなだれた。
「チクショウ…それで何が望みなんだ?」
「私達を、あんた達が襲っている村に案内しなさい」
「な、なんだと!? そんな事したら俺が殺されちまう!」
「しなかったら、この場で死ぬだけだけど?」
魔剣を抜刀し、木に横たわる盗賊の首に押し当てた。僅かに刃が触れ、首筋から血が流れ落ちる。
同時に冷や汗をかきながら、盗賊は諦めて村への案内を了承した。
木に横たわる盗賊を起こしあげると逃げられなくする為に、スキアーが体から細く伸ばした触手を男の首に巻き付ける。
「それじゃあ早速行きましょうか。道中も色々と洗いざらい話してもらうわよ」
盗賊の男を先頭に歩きだした私達の少し後ろを、下を向きながら無表情なチビ雪が付いて歩いた。
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