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37話 依頼として仕方なく

野営の準備を終え、夕食の準備へと取り掛かろうとした時だった。


鎮静効果が効いてしばらく寝ていた怪我人の男が目を覚ましたと思ったら、すぐに起き上がり息を切らしながら口を開いた。


「い、今こんな事をしている場合じゃないんだ。た、頼む、俺の村を助けてくれないか」


「今動いてはダメです。傷口はまだ塞がってません」


リーティアが怪我人の男を止める。だだ男はリーティアの静止を振り切って、立ち上がろうとする。


「悪いけど、あなたの村を助ける義理はないわ」


「ぐ、ぐううぅぅ…な、なら…は、早く助けを…」


「助けを呼びに行きたいのなら止めはしない。勝手にどうぞ」


チビ雪が明らかに驚いた表情で私を見てきた。怪我人に対して、ここまで落ち着いて淡々とした対応をする私が意外だったようだ。


「助けてもらっておいて何だが…あ、あんたには良心というものが…ないのか?」


「あなたに何があったか知らない。だけど良心で腹が膨れる訳じゃない。助かっただけでも御の字と思う事ね」


キツい言い方をしているのは分かっている。だけど利にならない面倒事に、いちいち首を突っ込んでいては旅の邪魔でしかない。周りからどう思われようと、私は正義の味方なんかじゃないのだ。


それを聞いて諦めたのか、男はゆっくりと立ち上がり腹を抑えながら出て行こうとする。


「待って! そんな体じゃ無理だよ!」


チビ雪が必死で止める。


「そうはいかないんだ。早く助けを呼ばないと、俺の村が全滅してしまう」


「村が全滅って、誰かに襲われてるの?」


「ああ、この辺一帯を、荒しまわってる漆黒の剣だ」


昨夜のあいつらか。だったら尚のこと関わりたくないが。


「助けを呼ぶにしても、一番近いユトグアまで歩いて一日近くは掛かります。どのみち間に合いませんよ」


チビ雪だけでなくリーティアも加わり男を説得している。


ああ、この流れはもうあれだ。結局巻き込まれていくパターンだな。仕方がない、とにかく事情だけは聞く事にした。


「あなたの名前は? 私はスノー。この子がチビ雪、そしてあなたの治療をしてくれたのがリーティアよ」


「俺は、カールって言うんだ。改めて…助けてくれて感謝する」


その後はカールから村の事情を聞いた。用心棒代と称して毎月この辺りの村から、法外な要求を突き付けて好き勝手やっているのが漆黒の剣だと。


「最近は商人達も護衛を雇ってますからね。危険を冒して商人を襲うより、抵抗できない小さな村を抑え付けた方が旨味も大きいという事ですね」


「ああ、その通りだ。よく分かってるな、お嬢ちゃん」


「チビ雪と呼んでください!」


「だったら、あなた達も護衛を雇えばいいじゃない」


「残念だがそれは無理だ。最初から村にそんな余裕はない」


「魔王グリテアに進言して、村に軍を置いてもらうとかは?」


「大陸は広い。魔王グリテア様の優先順位も当然大きな街からになる。結局俺のいた村のような小さな集落にまで手が回ってないのが現状なんだ」


結局はお金がモノをいう訳か。事情は分かったけど、やはり私としては首は突っ込みたくない。もし助けに行くのなら、仕事としてというのが最低限の条件だ。


「村を助けるのなら今すぐ動くしかないわ。だけどタダじゃない。それに見合うだけの報酬は頂くけど、それでも構わないかしら?」


「ほ、本当か? それなら俺の妹の為に貯めてた結婚資金がある。それで何とか」


う、うん…ちょっと罪悪感を感じるけど、こっちにも旅の生活が懸かっているから!


「だけど、頼んどいてこう言っては何だが、その…」


「女だけで大丈夫なのかって? 何とも言えないけど、大丈夫じゃないかな。たぶん」


「いざとなれば、私が遠距離から呪文で攻撃します!」


相手にどんな奴がいるのか予想が付かないから、勝てるかどうかは分からない。でも相手を追い払えばいい訳で、何も全滅させる必要はないはずだ。


「なら村の場所を教えて」


「俺が案内するよ。その方が早い」


「ダメよ。あなたが来ると足手纏いになる。ここにリーティアと一緒にいて」


「し、しかし! 俺の村なんだ…ぐ、はぁ!」


「ほらね、その体じゃ無理。言う事を聞かないのなら、私も助けに行かない」


「分かったよ。ありがとう、本当に恩に着る」


大体の方角を教えてもらい、チビ雪と共にカールの村へと向かう事になった。暗くなる前に村へ着いておきたい。


「チビ雪さん、お待ちを」


呼び止めてきたリーティアはディメンション・ボックスを開き、そこから鎖帷子くさりかたびらを取り出した。


「これをローブの下に着用してください。念の為です」


「はい、ありがとうございます!」


「私に敬語は不要ですよ」


「わかった! リーティアありがとう!」


チビ雪が鎖帷子を着用し一通りの準備を終え、非常食を口にしながら村の方角へと歩き出した。




――――




「これで全部か? 隠していたら今度こそ皆殺しだぞ」


「はい。これ以上の食料は、この村にはありません」


意図した事ではなかったとはいえ一度は抵抗した村人達。だが武装した集団には歯が立たず鎮圧されてしまった。その抵抗で十人以上の村人が犠牲となり、中には子供も含まれていた。


漆黒の剣が皆殺しにしなかったのは、金づるとなる村を潰したくなかったからだ。その為、殺された村人達は見せしめとして死体が吊るされた。吊るす作業をやらされたのも村人だった。


「あいつのせいで、俺達の村がメチャクチャに!」


村を焚き付けるだけ焚き付けて一人逃げて行ったカールは、すでに村人達からも反感を買ってしまっていた。


「一人だけ逃げやがって! もし帰って来たら俺が奴を殺してやる!」


直接手にかけたのは漆黒の剣だが、原因を作ったカールを逆恨みする村人達。


そして今、盗賊たちは逃げたカールの行方を血眼になって追っていた。


「逃げた奴の行方は分かったか?」


「それがまだ」


村の鎮圧を優先した漆黒の剣は、逃げたカールを取り逃がしてしまった。


「デカい街に逃げられたら厄介だ、それまでに何としてでも捕まえろ」


「了解!」


村に二十人いる漆黒の剣のメンバーの半分、十人の盗賊たちがカールが逃げた方角へ捜索に出ていた。




――――




野営地を離れカールの村へと向かうが、徐々に木々が生い茂る林道へと変わってきた。方向感覚が狂わないよう、方角だけはしっかりと確認しながら前に進み続けた。


ところが途中、数人の気配を感じる。


「チビ雪ちゃん、隠れて」


「はい」


人数は五人か六人。武装している所を見ると、間違いなく漆黒の剣だと思われる。おそらくカールを追って来たんだな。


「どうしますか?」


「出来れば隠密行動を取りたい所だけど、放っておくとリーティアのいる野営地に行ってしまうかもしれない」


仕方なく魔剣スノーフェアリーに手を置いて戦う覚悟を決める。チビ雪の呪文を使えば楽だろうけど、下手に目立つ訳にもいかない。


「ここは私とスキアーに任せて。チビ雪ちゃんは、何時でも呪文を使える準備だけして待機! あ、でも炎系の呪文は使わないでね!」


「分かってますよ! そんな事したら火事になりますし!」


チビ雪との打ち合わせが終わり、いざ出陣と行こうと思ったのも束の間。


「スノー様、後ろから近づいていた者達を捕らえておきました」


スキアーに言われて振り返ると、そこには四人の盗賊達が蛇のように擬態したスキアーに捕縛されていた。さらに声が出せない様に、体から細く枝分かれした触手で盗賊達の顔を拘束している。


どうやら私とチビ雪の二人が隠れていた時、すでに後ろから別の盗賊一味が近付いて来てたらしい。一早く後ろの接近に気付いたスキアーが独断で動いたようだ。


「よ、よくやったわね! 命令しなくても動くなんて優秀だわ!」


「ありがとうございます」


「スノーお姉さま、絶対気付いてなかったよね? 私もだけど」


「…………」


こんな連中に後れを取るなんて。私とした事が不覚だわ! 恥ずかしさと悔しさが隠し切れない中、気を取り直して残りの連中を片付けに出た。

最後までお読みいただきありがとうございます!


少しでも楽しんで頂けたら、ブックマークや評価をして頂けると嬉しいです。


よろしくお願いします。

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