35話 新たな敵
野宿で疲れを癒していた時、周囲を不審な気配に包まれていた。折角の睡眠を邪魔されて、とにかく頭に来ていた。
「気配の感じからして、相手は八人でしょうか」
リーティアは暗闇の中でも、敵の気配を敏感に感じ取れるようだ。
「敵はモンスター?」
「いえ、おそらく魔族です。たぶん、この辺りを根城にしている野盗でしょう」
やれやれ、街中であれば治安が良くても、一歩外に出れば治安が一気に悪くなるな。ガーデン・マノスにいた時は思った事もなかったけど、堅造から外の治安の悪さは少しは聞いていた。
「スノーお姉さま、どうしますか?」
チビ雪が眠たそうに眼を擦りながら聞いて来る。だけどチビ雪の呪文を使うと流石に目立ってしまいそうだったから、ここは私達に任せてテントで寝ている様に指示した。チビ雪は余程眠たいのか、言われるがままテントに戻った。
「スキアー、あなたに任せていいかしら?」
「はい、スノー様にお手間を取らせるような事は致しません」
私も今は極力体力を消耗する事は避けたい。スキアーに全てを任せて、私はテントとリーティアを守る様に前に立った。
私達との距離をじりじりと詰めて来ていた野盗たちは、ついに私達の目の届く範囲まで姿を現す。
「ここは俺達のシマだ! 宿代として全財産を置いていってもらおうか!」
「おい、よく見ると女じゃねぇか! こりゃあラッキーだぁ!」
「しかも二人もいやがる! 今日の俺達はツイてるぜぇ! 金目の物と金になる女が同時に手に入るとはな!」
見た目も口ぶりも、ツッコむのもアホくさくなる程の如何にもな野盗共だ。こんな連中に私の睡眠が妨げられたと思うと、腹の底から怒りが込み上げてくる。だけど私は決して相手を侮らない。慢心して足元を掬われるのは、ある意味ではアデムが教えてくれた。
例え野盗相手でも気を緩めず、魔剣スノーフェアリーに手を置いた状態でスキアーに命令を下す。
「スキアー、遠慮しなくていいわ! この連中を片付けちゃって!」
「了解しました! スノー様!」
野盗八人の内、五人が奇声を上げながら正面から突っ込んでくる。残りの三人は後ろで見物しているかと思ったけど、もしかして呪文を詠唱している?
「どっちの女を狙う? おれは仮面を被っている方だ!」
「じゃあ俺は後ろにいる金髪女を狙うぜぇ!」
下品な事を叫びながら夜盗共が突っ込んで来るが、奴らが数メートル先まで足を踏み入れた時。私の陰に擬態していたスキアーが足元から飛び出し形を作りだした。その形は頭や腕が生えているものの、足は何十本もの触手状になっている。
「な、なんだこの真っ黒な化け物は!?」
「スキアー、野営地をこいつらの血で汚したくないから斬らないでね」
「は!」
見た事ないモンスターを見て焦る野盗どもに、私の命令を受けたスキアーが問答無用で攻撃を加える。
「ぐぼぁ!!」
「がはぁ!!」
スキアーの右腕が鞭のように野盗たちに襲い、一気に二人が吹き飛ばされる。吹っ飛んだ野盗二人は、首の骨が折れていた。
「ひ、怯むな! 一気に斬れー!」
残りの三人がスキアーに一斉に襲い掛かる。だけど当然、野盗たちの攻撃は一切スキアーには通用しない。
「なに!? 俺達の攻撃が通じないだと!?」
「我に物理攻撃など無意味だ」
ここはスキアーに任せて、私はその間に後ろにいる三人の所に走る。本当は全てスキアーに任せようと思っていたが、もし後ろにいる三人が呪文を使って来る奴らだったら厄介だからだ。
統魔の指輪を持つ私が、あまりスキアーから離れると弱体化してしまうが、これぐらいの相手なら多少弱体化してもスキアーは大丈夫と判断した。
「スノー様! こいつらは我にお任せください!」
「ええ、任せたわよ! 買ったばかりのテントを壊されたくないし!」
「スノー様、理由はテントですか」
テントの前で立っているリーティアが静かにツッコむ。
「おい、前の奴ら苦戦してないか?」
「向こうから一人、こっちに走って来るぞ!」
走る私に気づいたようだ。だけど後ろの野盗三人が戦いの準備をしてきたが、どうやら呪文を使って来るかもという警戒は杞憂に終わったらしい。
三人の野盗は、錆びれた斧や槍を持って構えてきた。
私は走りながら魔剣スノーフェアリーを抜刀する。内心は怖いが今回は魔石は使わずに、なるべく短時間で片付ける!
「殺すなよ! こいつは捕らえて奴隷として売り飛ばすんだからなぁ!」
「だが剣を持っている以上は腕の一本は仕方ねえ! うらぁああ!!」
野盗の一人が、魔剣を持つ右腕目掛けて斧を振りかぶってきた。それを、すかさずスノーフェアリーで斬り払いをした。
敵の斧は刃その物が切れてしまい宙を舞う。分厚い斧が斬られた事に驚く野盗を間髪入れず斬り捨てた。
「ぎゃああああ!!!」
「魔石がなくても凄い切れ味ね! これならいける!」
「こいつの持つ剣はやべぇ! おい、二人掛かりで行くぞ!」
品がない野盗だけど、意外と良い判断してる。残りの二人は一斉に攻撃をしてくるが、奴らの持つ武器ではスノーフェアリーの敵ではない。
先にリーチの長い槍を斬り、次にもう片方の斧を切り落とす。
「う、嘘だろ!?」
武器を無くした野盗の一人が逃げ出そうとしたけど、そいつの後ろを躊躇なく斬った。
「ぐあああ!!」
最後の一人は腰を抜かして慌てふためている。野営地の方を見ると、スキアーが三人の野盗たちの首を締め上げていた。
「どうやら向こうも片付いたようね。さてと、あんた達は一体何者かしら?」
魔剣スノーフェアリーを鞘に納めて、目の前で腰を抜かす野盗に問う。
「お、俺達はこの辺り一帯を支配している『漆黒の剣』だ! 俺達にたてついた事、今に後悔するぞ!」
何が漆黒の剣よ。持ってた武器は斧に槍に棍棒。剣の要素、一つもないじゃない。
「支配してるって、ただの犯罪者集団でしょ」
「そう思ってると痛い目を見るぜ! 俺達のボスは、かつて魔王グリテアの下で側近をしてた程の実力者だ! おまえらなんて一溜まりもない!」
「先に喧嘩売ってきたのはそっちでしょ。私はあんた達になんか興味ない」
魔王グリテアの元側近がボスだと言うが、それが本当だろうが嘘だろうが心底どうでもいい。私は休息を邪魔された事が気に入らないだけだ。
「帰ってボスに伝えなさい。二度と私達に絡むなと」
「はっはっ、おもしれ―女だな! ボスがお前如きの言う事を聞く訳がないだろう!」
やっぱり気が変わった。
「スキアー、好きにしなさい」
私が命令した次の瞬間、野盗の下からスキアーが姿を現し頭を掴んだ。
「ぐああ! 何しやがる! 俺は見逃すんじゃなかったのか!?」
「私の要求を伝えた所で、あんた達のボスが言う事聞かないのなら、もうあなたを帰す意味はないじゃない?」
「ま、待て! 待ってく…ぴぎゃあ!」
何かを言い掛けた最後の野盗の頭を、スキアーは百八十度回転させて息の根を止めた。
全て片付いた後、野盗の後片付けはリーティアがやっといてくれるというので、私はテントへと戻り再び眠りへとつく。
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