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34話 出発

まだ薄暗い早朝、いよいよヴィントナーを発つ日が来た。リーティアが借りてきたと言い張る魔動車タクシーを返し、ヴィントナーの東の街道へと出る。僅か一週間の滞在だったけど、中々に濃い時間だったと思う。


「それでは出発しましょうか。二人とも準備はいいわね?」


「はい! スノーお姉さま」


「ええ、準備万全です」


急遽リーティアが一緒に旅する事になり、彼女が使える異次元箱ディメンション・ボックスのおかげで、荷物の大半を任せる事ができるようになって大分楽になった。


「スノー様、私もおりますよ」


「そうだったわね。スキアーも頼むわよ」


実はスキアーを紹介する事をすかっり忘れていて、今日起きてから慌てて二人に紹介した。チビ雪は呆れた表情だったけど、リーティアの方は薄々感付いていたらしい。


それから街道を歩き始めて少しして、私は被っている仮面を取った。正体を隠す為に付けてるけど街を出てしまえば、そこまで神経質になる必要はない。


とりあえず向かう先は東にあるユトグアという街だ。ヴィントナー程大きくないそうだけど、最初の中継地としては丁度いい場所にある。途中には小さな集落があるぐらいだけど、特に何もなければユトグアまで一気に行ってしまいたい。


「暇だわ…」


「スノーお姉さま、出発して一時間もしない内に何言ってるんですか」


ヴィントナーを出て一時間弱、何事もなくひたすら歩いていた。もちろん何もないのは良い事だ。良い事なんだけど。


「冒険って、ずっとこんな感じなのかな。ただ歩くだけで街を練り歩くだけとか」


「身も蓋もない事を言わないでください。知らない土地に行き、知らない街に行き、そして知らない魔族との見聞を広める。これだけでも大きな刺激になりますし、何より魔界を深く知ることに繋がるんですよ」


「そうかなー、こんなんで何かが変わるとは思えないんだけど」


「自分から危険な事に首を突っ込んでいくだけが冒険じゃないですよ」


たまにチビ雪が本当にお母さんに見えてしまう。私よりも年下だし小さいんだけど、しっかりし過ぎているんだよな。そんなやり取りを後ろから見ているリーティアは、出発してから静かに沈黙を保ったままだ。


「リーティアやけに静かね。それに何で少し後ろを歩いてるの?」


「主の一歩後ろを歩くのは当然ですよね」


それを聞いた途端、急にチビ雪も一歩後ろに下がり出す。確かに立場的には私は主になるのかもしれないけど、そういうのは本当に苦手だし止めて欲しいのだ。


「私はただの冒険者スノーなの。そんな事しなくていいから」


私が少し怒った感情を出しながら訴えるとチビ雪はまた横に並んで歩きだしたが、リーティアは相変わらず位置は変えない。リーティアに関してはもういいや。



それからヴィントナーを出発してから約三時間、まだお昼には早いけど休憩がてら一旦休む事になった。天気もいいし旅は順調そのものといってもいい。


「ユトグアまでは後どれぐらい?」


「到着するのは、このまま予定通り行けば二日後の朝になると思います」


魔道列車を使えば四時間で到着する距離なのだが、歩いてとなると当然だけど結構かかるな。


旅をする前は、もっとスリリングなイベントが沢山起こって、暇をしてる時間すらないと想像していたんだけど。冒険って意外と地味なんだなと痛感させられる。




――夕刻




ヴィントナーを出て十二時間が過ぎた。明日一日歩けばユトグアまでは目と鼻の先になる。でも今日は辺りはすっかりと薄暗くなり、野宿しなくてはならない。街道から離れて適当な所にテントを張った。まあ全てリーティアがやってくれたんだけど。


「リーティア助かったわ。私とチビ雪ちゃんだけだったら、テントを張るだけで何時間もかかったと思う」


「私はもし戦闘があっても役に立ちませんので、これぐらいの事は当然です。焚き火も熾しますね」


夕食の準備も兼ねて、焚き火もあっさりと熾してしまった。その後リーティアは手際よく持って来ていた食材を使って料理を始める。


「野営凄い慣れてるみたいだけど、前に旅でもしてたの?」


「私、元々は魔都市クランレアドにいたんです。そこから一人でヴィントナーまで歩いて引っ越してきたんですよ」


「そうなんだ。でもまたヴィントナーを出てよかったの?」


「いいんです、だってスノー様と居た方が面白そうだし」


「確かに退屈はしないかもしれませんね」


「ちょっとチビ雪ちゃんまで、それどういう意味!」


三人で会話を弾ませながら、リーティアが作ってくれた料理を食べ始めた。これがまた凄く美味しい。初めてこんな野営をしながら御飯食べたけど、それも新鮮な感覚で味覚に相乗効果を生み出してるのかもしれない。


「そういえば、あの悪魔の契約書って何時いつまで有効なの?」


「ずっとです。スノー様が死ぬまで」


それを聞いて鳥肌が立った。


「今ここで燃やしてもらえるかしら」


「無駄ですよ。あれは私の皮膚を剥いで作った特別製、私の魔力の塊と言ってもいい契約書です。簡単には燃えません」


「ねえ、今サラッと恐ろしい事言わなかった?」


自分の皮膚を剥いだで作ったとか、狂気の沙汰としか思えない。今更だけど変過ぎるわ。


「私は悪魔なので皮膚を剥いでも、すぐに元に戻せます。めっちゃ痛いけど」


「「やっぱり痛いのかよ!」」


チビ雪と二人でハモりながらツッコむ。本当にどこか掴みどころのないリーティアだけど、その気になれば私より全然強いんじゃないのかな。


「安心してください。あれはスノー様を縛り付ける物ではありません。悪魔は契約が大事、スノー様の役に立つ為に私自身が力を存分に発揮できる為の物だと思ってください」


何となく腑に落ちないけど、彼女が言ってる事も嘘ではなさそうだし、これ以上不毛な言い争いをするのは止めた。せっかくの旅だし楽しく行きたい。


リーティアが作った食事を堪能した後は、歩き疲れたのもあり私とチビ雪はすぐにテントへと入った。リーティアは片付けをして火の後始末をしてから、そのまま外で見張っているという。悪魔は睡眠を取る必要がないらしい。


慣れない旅だからか私とチビ雪はすぐに夢の中に。それから数時間後の夜も深くなった時、リーティアがテントに入って来て起こしに来た。


「誰かが私達を見張っています。それも複数人で」


その報告を聞いて、眠たい眼を擦りながら魔剣を握り、テントの外へと這い出る事になる。


「誰だ、私の眠りを妨げる愚か者ども。来るなら昼に来なさいよ」


当然、貴重な睡眠を邪魔されてすこぶる機嫌が悪い。

最後までお読みいただきありがとうございます!


少しでも楽しんで頂けたら、ブックマークや評価をして頂けると嬉しいです。


よろしくお願いします。

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