32話 悪魔の契約
本格的に冒険に出る為の準備のため、食料や装備品の買い出しをしていた時だった。
堅造と二人で訪れたリーティア商会の店主・リーティアと偶然出くわした。
「今日は、あの背の高い魔族の男性ではなく、小さな女の子を連れているんですね。もしかしてお子さんですか?」
「私に子供がいるように見えるんですか! 私まだ十七歳なんだけど!」
沢山のお客のいる中で、大きな声でツッコんでしまう。周りがザワついたので、一旦食料売り場から離れて人気の少ない休憩所へと三人で移動した。
「あなたのおかげで逃げるように移動する羽目になったんだけど」
「これは申し訳ありませんでしたね、小雪様」
「あと小雪様と呼ぶのも止めて欲しいんだけど。呼ぶならスノーって言って」
相変わらず眠たそうな顔をしながら、全てを見透かしたように接してくるな。リーティアといると全て流れを持って行かれるから、正直ちょっと苦手かもしれない。
「あの、スノーお姉さま。この方は誰ですか?」
そうだった。ずっとチビ雪を置いてけぼりにしてしまってた。私が紹介しようとすると、先にリーティアの方から自己紹介してきた。
「急にごめんなさいね。私はリーティアといいます。こちらのスノー様とは、ちょっとしたお知り合いでね」
「そうなのですか。私はチビ雪といいます。よろしくお願いします」
二人してお辞儀をしながら挨拶を交わしている。
「スノーお姉さま。こちらのリーティアさんとは、どういった関係なのですか?」
「私の服と防具を揃えた時に、お世話になったお店の店主よ。あ、そうだ。一応お礼言っておきます。貰った防具凄く役立ちました」
「それは良かったですね、スノー様」
当たり障りのない会話を終えて、さっさと買い物に戻ろうとした時だ。リーティアが先に買った荷物を見て尋ねてきた。
「もしかしてヴィントナーを出るんですか?」
「申し訳ないけど、リーティアさんには関係ない事ですよね。むしろ何でそう思ったんですか?」
「カゴには非常食、買った物は寝泊りする為のギアの数々、野宿する為の装備を買い揃えていたので出発するのかと思いましてね」
全く、本当に抜け目ないな。だから尚更苦手なんだ。
「チビ雪ちゃん、早く買い物を済まして宿に帰りましょう」
余計なお喋りを切り上げて、リーティアと別れようとした時だった。リーティアが思いもしない事を言ってきた。
「私もご一緒させてもらえませんか?」
「はい? それって旅に同行したいということですか?」
「ええ」
「リーティアさんにはお店がありますよね? 私達もうヴィントナーに戻るか分からないんですよ」
「分かってますよ。あの店もそろそろ潮時だと思ってた所ですし、丁度いい機会かと思いましてね」
面倒だな、お世話になった事は感謝しているけど、できればリーティアはあまり連れて行きたくないんだよな。隠し事とかできなくなりそうだし。
「悪いけど、今は仲間を募ってないし間に合ってるので」
これ以上関わるのはよそう。そう思ってチビ雪の手を引っ張って、そそくさと買い物に戻ろうとした時。
「私は便利呪文、異次元箱が使えますし、武器や防具の手入れなんかもできますよ」
リーティアの言葉に二人して足が止まった。そして振り返る。
「そ、それだけで同行できると思わないでもらえ…」
「材料さえあれば、私はオリジナルの装備品も作れます。仲間にしてくれればタダでお作りいたしますよ」
「さ、採用!」
負けた、相手の方が何枚も上手だった。リーティアは私達が今、何が必要かを全て把握した上で旅の同行を提案してきていた。さすが悪魔族。相手の隙に入り込むのが上手いな。
「それではリーティアさん、これからよろしくお願いします」
「ええ、チビ雪ちゃん。よろしくお願いしますね」
結局この後は三人で必要な物資を買い込み、泊まっている宿屋へと戻る事になった。だが私の借りてる部屋は一人部屋だ。チビ雪ちゃん一人ならともかく、流石に三人でいるのは狭い。
「私は必要な装備を持って来るので一旦店へと戻ります。明日の朝、スノー様が泊まっている宿屋に来ますので」
「分かったわ。そうしましょう」
ここで一旦リーティアと別れ、私とチビ雪の二人で宿屋へと戻った。ここで部屋に戻ってから、すぐにチビ雪に支度をするようにと言い渡した。
「え!? 今出発するんですか!?」
「当たり前でしょ。リーティアは色々と面倒そうだから、このまま行方をくらますわよ」
チビ雪が呆気に取られているけど、それを無視して荷物を積み込み、魔剣を装備してマントを羽織った。私が本気だと悟ったチビ雪も、慌てて荷物をまとめ始める。
一週間お世話になった部屋にお辞儀をして、扉を閉めて一階へと下りた。
「なんだいスノー、もう行くのかい? 明日の分まで宿賃もらってるよ?」
ミントさんが驚いた表情で、こちらを見てきた。
「はい、ちょっとすぐに行かなければいけない事情が出来たので! ミントさん、一週間お世話になりました!」
「随分と急だね、ヴィントナーに寄ったらまた顔を出すんだよ!」
ミントさんに挨拶をして部屋の鍵を返した。チェックアウトを済まして宿屋の外に出ようとするが、やっぱり食料と野営道具を合わせると結構な荷物だ。
「スノーお姉さま、やっぱり今日出るのは止めませんか? 買った荷物をまとめ切れてないですし」
「大丈夫よ、こんなのは後でどうにでもなるから!」
ガチャガチャと音を立てながら、宿屋の外へと出た。すると丁度いいタイミングで魔動車が走って来たので、すぐに捕まえて乗り込んだ。
「どちらまで?」
「東門までお願いします」
「わかりました」
運よく魔動車が走って来てくれて助かった。車内で二人で荷物を纏める作業をする。
「ふう、これで少しは歩きやすくなったわね」
旅用の袋の中に道具を纏め、ようやく一息着く事になった。
「スノーお姉さま、そこまでリーティアさんを避けなくても良かったんじゃないですか? そしたら荷物だって楽に持ち運べるのに」
「異次元箱が本当に使えるかどうか分からないでしょ! 私に取り付くための嘘かもしれないじゃない! 何せ相手は悪魔族なんだから!」
魔動車に揺られながら二人で話していたら東門に到着していた。
「4500ミラになります。領収書を発行しますので、こちらにサインをお願いできますか」
「え? 領収書なんて要らないわよ?」
「私どもの会社では、これが当たり前なのでお願いします」
まあ、そういうものなのかと思い代金を支払って出された書類にサインをした。
「じゃあこれでいいわね。チビ雪ちゃん行きましょう」
そう言って車から降りようとした時だった。魔動車のドライバーが不敵に笑い出した。
「うふふふ、これで契約成立ですね。スノー様!」
「え? あなた何者?」
するとドライバーの姿が見る見るうちに変わり、見た事ある姿へと変わっていった。私はその姿を見て驚愕する。
「リ、リーティア!? 何でここに!?」
リーティアは姿を変える呪文・イミテーションを使って、ドライバーに成りすましていたのだ。
「悪魔の私を出し抜こうなんて百年早いですよ。もう私からは逃げられません」
言っている意味が分からない。逃げられないとは、どういう事なのか。
「スノーお姉さま、多分さっきのサイン。あれは悪魔の契約書ですよ」
「ええ!? ちょっと何してくれてんの!?」
「うふふ、これで私とスノー様との契約は成立しました。悪魔にとって契約は絶対です。これがある限り、私はあなたに付き纏います」
とてつもなく恐ろしい事を言って来る。ていうか何で私にここまで執着するのか。
「スノー様、私の事を凄く避けようとしてますけど、本当に悪いようにはしませんよ。必ずお役に立ちますので」
「はあ、分かったわよ。どの道もう逃げられないんでしょ?」
「はい! この契約書がある限り、魔界のどこにいてもスノー様に付き纏います!」
「サラッと気持ち悪いこと言わないで!」
結局はリーティアからは逃げ切れず、悪魔との契約までさせられてしまった。慌てて予定を繰り上げて出発しようとしたけど、その必要もなくなったので予定通り明日出発する事に。何より今朝ヴィントナーに到着したばかりのチビ雪も、今日ぐらいはのんびりしたいと本音を言ってきたからだ。
「宿の方をもうチェックアウトしてしまったのなら、今日は私のお店で泊まっていってください」
その言葉に甘え私とチビ雪は、そのままリーティアが運転する魔動車に揺られリーティア商会へと向かった。
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