30話 再会
ヴィントナーに滞在して七日目、いよいよガーデン・マノスからチビ雪が訪れる。会うのは一週間ぶりになるけど、今までチビ雪とここまで会わないという事がなかったから随分会ってない感覚になっている。
この一週間の間にも、命の危険に曝されるクエストがあったから尚更そう感じるのかもしれない。でも、おかげでクエスト村のランクは最低ランクの炭から、上から三番目のゴールドランクにまで一気に跳ね上がった。そのせいで今日の朝から依頼の通知が止まらないので、一旦巣魔火の通知を切っている。
「正直今は、まだクエストを受ける気分にはなれないわ」
首狩り騎士討伐クエストの下手人、大勢の魔族を犠牲にしたローエンは、魔王グリテアのいる魔都市クランレアドに送られるそうだ。事件の真相を聞いた魔王グリテアは激怒し、西大陸の闇商人と繋がっていたローエンの一件を重く受け止めているという。
――前日のヴィントナー貿易商会にて
「では報酬は表向きスノー様に支払った事にし、三人の犠牲になった魔族達の親族に支払う手続きをします」
「ありがとうございます。私の名前は伏せといてください」
「分かってますよ、ヴィントナー領主・ソウノスケ名義で勇敢に戦った者達への報奨金として支払います」
一応の一件落着となった首狩り騎士事件。だけどヴィントナー貿易商会内で闇商人と取引していた者がいた事は、領主としても看過できないものだった。
「今回の一件はヴィントナーだけの問題ではありません。魔王グリテア様の内外への信頼を損ねる行為が貿易商会の者によって行われていたのです」
ローエンが取引していた闇商人がいる西大陸は、近代化して平和になったと言われる魔界の中でもかなり異質な大陸になる。実は西大陸には、統治する魔王が存在していない。
代わりにディア教団という、何でも古代の魔界に存在していたとされる『大魔王ディアメデス』を信仰するカルト組織が実質牛耳っているのだ。さらに彼らは、その大魔王ディアメデスの復活まで本気で考えている、ハッキリ言って全く関わりたくない集団だ。
故にガーデン・マノスを始め中央大陸の魔王達は、西大陸とは貿易を遮断し実質断絶している状態になる。そのため西大陸は魔界の中でも大幅に近代化が遅れている。だからこそ闇商人が西大陸で幅を利かせているのだが。
その闇商人と関係を持っていたのが、ヴィントナーの経済に大きく関わる貿易商会の幹部だったのだから魔王グリテアが怒るのも無理はない。
「私も部下に任せていた責任があります。今後はこのような事がないように徹底して管理していきたいと思います」
貿易商会の会長・ナイアーが今後の管理、監視をより強化していくと言うが、貿易商会だけでは自浄作用がどこまで働くか疑問だ。
「ナイアーさん、実はそれに関しては魔王グリテア様が調査員を送ると通達してきました。下手すると監督不行き届きとして、我々の魔都市クランレアドへの召喚も有り得ます」
「な、なんと…」
ソウノスケから魔王グリテアからの召喚の可能性を聞いたナイアーは、あからさまに青ざめて額から脂汗を噴き出した。
「何かマズいのですか?」
私が不思議に思い、つい聞いてしまった。するとナイアーが取り乱しながら話し出す。
「マズいなんてもんじゃないですよ! 魔王グリテアは、かつて奈落の狂人と恐れられた悪魔族の王! もし怒らせたら死よりも辛い絶望が待っていると言われる程なんです!」
今度はソウノスケが顔を両手で抑えながら声を振り絞った。
「グリテア様は敢えて殺さずに永遠の苦しみを与えるのです。グリテア様を激怒させたローエンは間違いなくそうなりますが…もしかしたら私とナイアーさんも…嫌だ! 考えたくもない!」
「た、大変ですね!」
二人が狼狽えてるのを横目に、そそくさと帰ろうとした時だった。
「スノー様、いつか機会があれば私もあなたのお世話になるかもしれません。その時はよろしくお願いいたします」
ソウノスケが万が一の時に私を囲おうと思ってるのか、少し面倒な事を言ってきた。だが私には関係のないこと。
「魔界には私よりも優秀な魔族が一杯います。なので他の者に依頼してください」
きっぱりと断る。ところがソウノスケが薄らと嫌な笑みを見せる。
「そう云えば昨日、ローエンの屋敷に賊が入ったそうなんですよ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。ローエンを始め、五十人以上いた部下達も全員気絶してましたが命に別状はありませんでした。ただ中には怪我人も複数いましてね」
「それは良かったですね! それにローエン達は悪人でしたし、当然の報いだと思いますよ!」
「しかし他人の屋敷に無断で侵入し、大勢の者達に怪我を負わせたのは頂けない。いくらローエンが極悪人だったとしてもです。スノー様、何か心当たりはありませんかな?」
「ソウノスケさん! いつか機会があれば是非協力させて頂きます!」
「おお! そうですか! 流石はスノー様! では是非よろしくお願いします!」
こ、この男…全部知ってて吹っ掛けてきたな。ナイアーよりも厄介そうだと思ったけど、やっぱり私の直感は間違ってなかった!
――現在
一週間、チビ雪を待つだけの簡単な作業だったはずなのに。何でこうなった。
「私が大人しくしてなかったからよね…」
全て自分で蒔いた種だが。
だって仕方ないじゃない。一週間も何もせず、こんなしみったれた宿屋に居ろと言うの。魔界一の魔王小雪様が、そんな引き籠りニートみたいにしていろと? 引き籠るんなら、こんな宿屋に泊まってなどいない!
「だったらこんなボロ宿じゃなくて、もっといい所に泊れば良かったわ!」
本音が大声となって漏れてしまった時、下からガタイの良いおばちゃんこと、ミントさんが大声で呼ぶ声が響いた。
「スノー!」
聞こえてしまったかと思い、体が反射的にビクッとなる。だが次の言葉が轟いた。
「あんたに客人だよ! 早く下りて来な!」
「は、はい! 今行きます!」
ミントさんの呼びかけに応え、仮面を被って部屋を出て一階に下りる。階段を下りたら、すぐにミントさんが指をさして私の客人が食堂にいると教えてくれた。
「わざわざ、ありがとうございます」
「なんて事ないよ。ところでさっき、こんなしみったれたボロ宿がどうとか言ってなかったかい?」
やだー! しっかり聞こえてるじゃないの! 何とか誤魔化さないと!
「え!? そ、そ、そんなこと言う訳ないじゃないですか! い、イヤだなーミントさんたら!」
「…………」
「ミ、ミントさん今日は一段とお綺麗ですね! 女の私でも思わず見惚れてしまうぐらいに! 特に眉毛の剃り込み具合とか、私には真似できないというか!」
「あんた一度ならず二度も喧嘩を売るのかい? 中々やるじゃないか」
ミントさんが、今まで見た事ないぐらいの満面の笑みを見せてきた。そして私はその笑顔を見て、今まで生きてきた中で感じた事ないぐらいの恐怖と絶望を感じていた。
「はあ、全く。いいから早くお行き」
「あ、ありがとうございます。そしてごめんなさい」
ミントさんに深々と頭を下げて、お客のいる食堂へと向かった。誰もいない食堂に足を踏み入れると、一つのテーブルに座っている小さな女の子がいる。
私が入ってきたのに気づいて、その子が後ろを振り向いた。
「あ! 小雪様! お久しぶりです!」
そこにいたのは私が一週間、待ちに待っていたチビ雪の姿があった。
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