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28話 制裁

「お、おまえは確か…スノーだったか? 魔剣を持っていた?」


「あらローエンさん、私の事を覚えていてくれたのですね。そりゃあ魔剣を持っている新米魔戦士はそう居ませんものね」


ローエンは持っていたグラスをテーブルの上に置いて立ち上がり、バタバタと落ち着きをなくしながら私を見てきた。最初は何故ここに私がいるのか理解してない顔をしていたけど、すぐに賊の正体が私だと気づく。


「スノー! まさか貴様が賊か? わしの家に無断で侵入するとは、どういう了見だ! 言い訳次第ではタダでは済まさんぞ!」


激昂したローエンは額に血管を浮き上がらせながら声を張り上げ怒鳴ってきた。しかし、そんなローエンの激昂にも全く臆することなく部屋へと足を踏み入れる。


「ス、スノー…貴様、一体何のつもりだ?」


「やだなー、ローエンさん。私はクエスト報酬を受け取りに来たんですよ?」


「クエスト報酬だと?」


「はい、無事クエストを達成したので。報酬は私の希望通りでいいんですよね?」


ローエンは顔に憂色をうかべながら黙る。

当然の事だ。ローエンにとっては、クエストが成功するなんて事は有り得ないし有ってはならない。依頼をした冒険者は、全員首狩り騎士の餌食になるはずだからだ。


となれば次に来る返しも大体想像できるというもの。


「そ、そうなのか! 流石だなスノーさん! だが今日の所は帰ってくれないか? こんな時間に屋敷に来られても困るのでな。報酬ならクエスト村を仲介してお支払いしますゆえ」


ほら来た、白々しく喜ぶふりをしてきた。そして時間稼ぎをして証拠を隠蔽する気満々だ。

だがそうはいかない。アデムと同じように、この男もこのまま見過ごすなんて私の気が収まらない。

こいつら親子のせいで私は何度か死にかけたのだ。絶対に相応の報いを受けてもらう。


「そうはいきませんよ。今すぐ報酬は受け取ります」


「おいスノー、あまり調子に乗るなよ。わしが下手に出ている間に言う事を聞いた方が身の為だぞ? 大体貴様はわしの屋敷に無断で侵入したのだ! クエスト成功など関係ないわ! 今すぐに貴様を捕らえるように」


「誰も来ませんよ」


「なに?」


「だから誰も来ませんよ。あなたの部下は全員寝ていますので」


さっきローエンの部屋まで案内させた部下が最後だ。私の影に成りすましてるスキアーが、私に近付くローエンの部下を一人残らず撃退した。


でもスキアーには誰も殺さない様に命令してあったので、ローエンの部下たちは気絶しているだけだ。まあ中には重傷を負った者もいるけど、それは仕方のないこと。


「ば、バカな!? 五十人以上はいたはずだぞ!?」


「現に私はここに居ても、さっきから誰も来ませんよね?」


面食らった表情を浮かべたローエンは、額に脂汗を滲ませ始める。だが自分の悪事を隠したいローエンは、苦し紛れの要求をしてくる。


「クエストを成功したというのなら証拠を見せろ! 当然あるんだろうな? 討ち取った首狩り騎士の首が!」


「ええ、ここにあるわ」


マントに隠れた左手に持ったボロキレを前に突き出しローエンに見せつける。何かが包まれたボロキレを見たローエンは、何かの焦燥感に駆られたのか一歩後ろに下がった。


私は頬に皮肉な薄ら笑いを浮かべながら、ボロキレを開きアデムの頭をローエンの酒の入ったグラスがあるテーブルに転がした。グラスにアデムの頭がぶつかり、中の酒がテーブルに零れ床に滴り落ちる。


「う、うぎゃああああ!!」


ローエンは現場の事は全てアデムに任せていたのか、生首を見て腰を抜かして尻もちをついた。

だが私はそんなローエンに容赦なく畳みかける。


「証拠の首狩り騎士の首です。これで報酬を受け取れますよね」


あまりの恐怖で立ち上がる事さえできないでいるローエンだったが、その生首が自分の息子・アデムだとようやく気付いた。


「ま、まさか、アデムなのか!? 息子の頭なのか!?」


「ええ、そうですよ。この者が首狩り騎士の正体です」


「ふ、ふ、ふざけるな!! き、貴様はわしの大事な息子を手にかけ、あまつさえわしを脅して金を毟り取ろうなどと! わしは絶対に貴様を許さんぞ! 魔王グリテアに進言し、貴様を死よりも苦しい裁きを与えるように…」


この手の悪党は、都合が悪くなるとすぐに被害者面をしてくる。もういい加減ウンザリしてるのよ、私は。

こいつのバカ息子に前日から散々振り回され疲れ切っている。すでにローエンのアホさ加減に付き合う気分でもなかった。


ローエンが一人で騒いてる中、無表情でローエンに詰め寄るように近付き、


「そ、それ以上近付くな! わしに何かあれば、きさ…ぐぼぉ!!!」


有無も言わさずローエンの腹に、息子と同じように重い回し蹴りを喰らわした。ローエンは後ろの高級そうな酒の置いてある棚に激突し、置いてあった高そうなグラスや酒が床に落ちて割れた。

ボトルや割れた破片の中で、蹴りを受けて苦しそうに蹲り咳き込みながらローエンは苦しむ。


そのまま倒れ込むローエンの近くまで歩き、上から見下ろした。


「ローエンさん、あまり調子に乗らないでくれますか? 私が大人しくしてる間に言う事を聞いた方が身の為ですよ? これ以上、私を怒らせないでもらえます?」


「ゲホゲホ……わ、わかった…望み通りの…報酬を用意する、いえ…させて…頂きます…」


蹴られた苦しさからか、はたまた恐怖からか。ローエンは目に涙を浮かべながら観念したようだ。


「た、頼む。命だけは助けてくれ」


「それはあなたの出方次第です。本当に親子そっくりですね。反吐が出そうです」


最初に会った時の、成金特有の見下した態度と余裕の表情を見せていたローエンの姿は今はどこにもない。ただただ涙を浮かべながら、自身の保身の為に許しを乞うてくる。

前の私だったら少しは慈悲を見せたかもしれない。だが今の私はもう、一切の情など持ち合わせていなかった。


「あなたとアデムが仕組んで数々の悪事を行っていた事を認め、ヴィントナーの領主の下へ出頭しなさい。そこで然るべき処罰を受けなさい。そしたら命だけは助けてあげるわ」


「そ、それだけは! もう絶対にしないと約束します! 悪事からは足を洗います! あなたが欲しいだけの報酬を用意しますので、どうかそれで!」


「……――黙れ、豚野郎が」


私の態度の急変に、ローエンは瞬きすらできない程の恐怖に襲われたようだ。ガタガタと体を震わせ、口をパクパクさせている。

アデムと同じような素振りを見せるローエンに、私の中で何かが切れたのだ。やはりガーデン・マノスで箱入り娘のように育てられた私にとって、この一晩での出来事は私の何かを変えるのに十分だったらしい。


「スキアー、こいつを捕らえて持ち上げなさい」


命令を受けて、私の影となっていたスキアーは足元から二本の触手を伸ばし、ローエンの両手首を掴んで持ち上げた。


「うわ、うわあああ!! なんだこれは!?」


「タリスマンであなた達が操っていた、首狩り騎士の中身だったモンスターよ。あなたも知ってるでしょ。私が倒して使役したの」


「し、使役した!? じゃあアデムの首を斬ったのは!?」


「そう、彼よ。名前はスキアーと名付けたわ。あなたにも相当な恨みを持っているわよ」


やっと自分の置かれた現実を理解したローエンは、鼻水を垂らしながら全ての罪を認めて出頭すると約束した。


「は、早く降ろしてくれ。今にもちびりそうだ…」


「ダメよ、私は『命だけ』は助けるって言ったわよね? ただ罪を償うだけじゃ酷い目に遭わされた私の気が済まない」


「ま、待ってくれ! いえ待ってください! お願いですスノー様! 助けてください!」


「スキアー!」


私が合図を送ると、足元からもう一つ触手が伸び、部屋に置いてあるローエンのコレクションの一つと思われる剣を取ってローエンの頭に襲い掛かった。


「いやああああ!! 助けてくれー!!」


ローエンが絶叫する中、スキアーの斬撃はローエンの頭の髪の毛を綺麗に狩り落としていた。


「は……はは……ぁぁぁ」


心臓が止まる程の恐怖を受けたのか、ローエンは白目を剥いて意識を失い気絶した。下半身からは汚い噴水が溢れ出ている。その醜態をバッチリと巣魔火スマホに抑える。


「スキアー、本当は殺したいほど憎いだろうけど、よく我慢してくれたわね」


「私にとっては私情よりも、スノー様の命令が絶対です!」


「そっか、あと早くその汚いの捨てていいわよ」


「は! スノー様!」


下半身がびしょ濡れになったローエンを、スキアーはボロ雑巾を投げ捨てるように放り投げた。


一通りの仕事を終えてローエンの屋敷を後にする。屋敷の門の前には魔動車タクシーを待たせていた。待ってくれていたのは、私を南門まで送り迎えしてくれた運転手だ。


「終わったかい?」


「ええ、運転手さん。わざわざ待っていてくれてありがとう。宿屋までお願いします」


「はいよ!」


本当に長い夜だった。魔動車タクシーに揺られながら巣魔火スマホで最後の仕事をする。ヴィントナー貿易商会と領主の元に、今回の一件の事を洗いざらい証拠の映像と一緒に送った。ローエンには相当な恐怖を与えておいたけど、やはり信用できないから外堀は埋めておく。

その後は記憶が一切なく、気付けば宿屋の前で運転手さんに起こされていた。どうやら速攻で眠ってしまったらしい。


久しぶりに感じる宿屋。早朝に帰って来てガタイの良いおばちゃんが出迎えてくれた。


「あんた朝帰りなんて、初仕事は大丈夫だったのかい?」


「はい。ありがとうございます、おばちゃん。今日はもう寝たいので、これで」


宿屋のおばちゃんから部屋の鍵を受け取り、二階へと上がっていく。大して綺麗でもない安宿のベッドが、こんなにも懐かしく恋しくなるなんて思いもしなかった。


部屋に入るなり、そのままベッドにうつ伏せで倒れ込み眠ってしまった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


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