27話 因果応報
「ば、バカな!? スノーの正体が魔王小雪なんて…なんで魔王がこんなとこにいるんだよ!!」
統魔の指輪による契約の義を行った事で、アデムに私の正体がバレてしまった。魔界を巡る旅はまだ始まったばかりどころか、まだ始まってもいないというのに。
「私の正体を知ったからには、当然タダで帰れるとは思ってないよね?」
「ま、ま、ま、待ってくれ! いや待ってください魔王小雪様! この事は誰にも話さないと約束します!」
「いいえ信用できないわ。あと今の私は冒険者スノー。次に魔王小雪と言ったら無条件で殺す」
「は、はひ!?」
私が魔王だと知るや否や、アデムが分かりやすいぐらいに態度が変わる。ちょっと面白いのでからかってる。その反応が実に愉快だ。
愉快ではあるが。
(私も今回のクエストで性格がねじ曲がって来ちゃったかな)
あまりに衝撃的な出来事の連続で、私自身正気じゃなくてなってるのかもと若干の戸惑いがある。
だけどアデムが信用できないのは事実だ。この男は絶対に私の正体を言いふらすはず。
「まお…スノー様、あなたのおかげで首狩り騎士を討伐できた訳だし、報酬は全てあなたの物にしてくれたらいいです! 誰にも公言しないから助けてください!」
「さっきまで散々私を殺そうとしておいて、随分と図々しいわね。それにあなたは他にも大勢殺してる。ジュパルの無念を晴らす約束もあるしね」
「そ、それはあなたの正体を知らなかったからで」
相手がどうとか関係ない、アデムとローエンがやっていた事は決して許されない事だ。ここで私は統魔の指輪を前にかざす。
「スキアー、出て来なさい。早速あなたに働いてもらうわ」
統魔の指輪が赤く光り出し、使役したばかりのスキアーを召喚した。だがアデムには、外に出てきたスキアーが見えていない。
「さっきの黒い化け物、どこにいるんだ!?」
「あなたの目の前にいるわよ」
「め、目の前だって!?」
赤い月明りが廃墟に差し込む僅かな光で、私の足元には影が出来ている。その影が大きく後ろに伸び、そして起き上がって実態を形成していった。
次の姿は八本足の化け物ではなく、黒いヒト型となって現れてる。本当に何にでも姿を変えられるんだな。
「私の新たな主、小雪様。この者は私が好きにして構わないのですね?」
「ええ、好きにしていいわ。でも私の事はスノーと呼んでね」
「申し訳ありません、スノー様。そして私にこのようなチャンスを与えて頂き感謝致します」
「うーん、あなたどうにも口調が固いわね。まあいいわ、それは帰ってからにしましょう」
スキアーの口調の修正は後にするとして、今は目の前の仕事を片付ける事に集中する。私の命を受けたスキアーはアデムの前に立った。
「さっきも言ったけど、許しを乞うなら私じゃなくてスキアーにして。彼が許してくれたら見逃してあげる」
「私を操り多くの命を奪わせた貴様を絶対に許さない」
「だそうよ。残念ね」
「ま、待ってくれ! な、なら俺がこの化け物に勝ったら見逃してくれるか!?」
「出来るならね」
アデムは落ちている自分の剣を拾うと、剣を構えてスキアーと対峙した。曲がりなりにも魔戦士としての意地を見せるのか、それとも無様な醜態を晒すのか。
完全に見物人となった私は後ろから静かに見守る。
「おい化け物。キミみたいな化け物でも有効活用してやったんだ。むしろ感謝して欲しいぐらいだよ!」
ふざけたセリフを吐いたアデムは、剣を構えたままスキアーに斬りかかっていった。
「でやああ!!」
ブオォン! アデムの振りかぶった剣は、そのまま立っているスキアーを切り裂いた。
「やったぞ! ざまあみろぉ!」
バカみたいに喜ぶアデムだけど、すでに大事な事を忘れてる。スキアーは霊魂を核とした魔力の集合体のモンスター、いわば実体のない煙のような存在なのだ。物理攻撃など、そもそも通用しない。
真っ二つに斬り裂かれたスキアーはすぐに体を繋げて、今度は下半身部分を何本もの触手のような形状に変化させてアデムに攻撃した。
「うあああ!! 放せー!!」
一本の触手で剣を持つアデムの右手首を掴むと、別の触手がアデムの剣を奪い右腕を襲う。
「ぎゃああああ!!! 僕の腕があああ!!!」
両腕とも切り落とされたアデムは、この世の終わりのような奇声を上げて地面を転がる。
「へえー、アデムの剣も中々良い剣じゃない。流石は武器コレクターね」
甲冑ごとアデムの右腕を斬り落とした切れ味に、完全に皮肉たっぷりの言葉を漏らしてしまった。
「私が首狩り騎士にされていた時と同じ苦しみを貴様も味わうがいい」
私は記憶が飛んでるけどスキアーが首狩り騎士だった時に、魔剣スノーフェアリーで甲冑の四肢を切断したのと同じ事をアデムにやっているのか。目には目を歯には歯をってやつね。
両腕とも失ったアデムは、最早魔戦士として生きていくのは無理だ。
「うああ!! 助けてくれー!!」
廃墟の奥に逃げようとするアデムに、スキアーは容赦なく両足の腱を切り裂いた。これで歩く事はおろか立つ事もできなくなる。
「た、頼むスノー。助けてくれぇ……」
「私はジュパルに約束したの。あなたを存分に苦しめてから、そっちへ送るって」
「キ、キミはどこまで……外道なんだ…」
最後の最後までこいつは、ここまで来ると逆に関心してしまうわ。そして、この言葉がアデムの最期の言葉となる。
スキアーが倒れ込むアデムを持ち上げ、剣を持つ触手が途轍もない速さでアデムの首を襲った。
スパン!!
アデムの首が宙を舞い、体はそのまま投げ捨てられる。首狩り騎士の最期の獲物は自分自身か、それも自分の剣で斬られるとか。
正に因果応報ということね。
「スキアー、よくやったわ。そいつの首はまだ利用価値があるから捨てないでね」
「は! 有難きお言葉です! スノー様!」
早くスキアーの口調を何とかしたい。まるで誰かさんと一緒にいるみたいで何か嫌だ。
アデムの頭を拾い上げると、近くに落ちていたボロキレに包んだ。生首を躊躇なく触るなんて、一度の実戦が本当に私を変えたらしい。そしてアデムの首を包んだボロキレを持って、廃墟の探索を開始する。
「スキアー、万が一襲ってくる者がいたら容赦なく斬り刻んでいいわ」
「はい! スノー様、承知いたしました!」
スキアーを私の影に擬態させて潜ませ、護衛を任せながら廃墟の奥へと進んだ。おそらくこの廃墟で首を斬った者達を運んで、装備品を剥がして死体を処理してたんだと思う。
その予想は的中し奥に伸びた廊下の部屋を探索していたら、地下に通じる通路を見つけた。隠してあったけど、その周囲だけ明らかに埃がなく綺麗だったのですぐに分かった。
階段を降りて地下室に入ると、とてつもない異臭と共に行方不明となっていた冒険者の首のない亡骸を見つけた。
鼻がもげそうなほどの悪臭の中、巣魔火でその地下室を撮影して証拠を残す。
悪臭に耐えながら証拠を残していた時、見知った顔が二つ台の上に並べれらている事に気付いた。
「ヘマク…ユリリム…逃げたふりして、二人の頭を回収していたのね」
無残にも目の前で殺された二人の頭を見て、強い吐き気が襲うが必死に我慢した。
さらに地下室の中にはアデムの手記が残されてた。血でカピカピになった手記には、生きたまま連れて来られて、散々痛めつけられた後に首を斬られて殺された者達もいたようだ。
「小悪党と言ったのは言い直す。とんでもない極悪人ね」
しかも手記には、それを生々しく嬉々として書いてあった。
十分な証拠を確保して、最早地獄絵図のような地下室を早足で出た。そして夜明け前までにヴィントナーに戻る。
廃墟から街道までは長い茂みがあるため方向が分からなくなっていたけど、スキアーが茂みを超える高さに長く伸びて道案内をしてくれた。
「あなた本当に便利な体をしてるわね。助かるわ!」
「スノー様にそう言って頂けて光栄の極みであります!」
街道に放置してあった魔動車に乗ると、エンジンをかけて発進させた。
「夜明けが近い、ヴィントナーまで約一時間。急ぐわよ!」
気合を入れて発進したが、魔動車を運転した事なかったので街道を外れてエンストしまくった。
――――
ここはヴィントナー中心市街地から、南西にある高級住宅街。ここに厳重に警備されたローエンの豪邸があった。
ローエン邸の主であるローエンは、自室の巨大ベッドの上で夢の中にいた。
そのローエンの部屋に部下が血相を変えて飛び込んでくる。
「ローエン様! 大変です! 賊が侵入しました!」
夢なのか現実なのか、頭がボーっとして何が何なのかハッキリしていなかった。
「ローエン様!」
「ええい! うるさい! 大きな声を出さなくても聞こえておるわ!」
「申し訳ありません。屋敷に賊が侵入を」
「警備の者達は何をやっておったのだ! おまえも早く賊を捕らえに向かえ! 何なら殺しても構わん!」
ローエンは部下に指示を出し、叩き起こされ目覚めの悪いままリビングへと足を運んだ。
一本の高級酒の入ったボトルとグラスを取ると、それを持ってソファーに座り酒をひっかけ始める。
「全く、こんな時間に叩き起こしおって。一体どこのどいつだ。わしの家に忍びこむとは余程の命知らずらしい」
何十人もの警備がいる屋敷で、ここまで賊が来る事はまずないだろうとローエンは高を括っていた。
一人呑気に目覚めの酒を飲んでいるとリビングの扉が開き、さっきの部下が立っていた。
「どうした? 賊は捕らえたのか?」
ローエンの問いに部下は全く反応をせず、そのままうつ伏せで倒れる。
「な、何事だ!?」
「お久しぶりですね、ローエンさん」
倒れた部下の後ろには、ローエンが首狩り騎士討伐クエストを依頼したスノーが立っていた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
少しでも楽しんで頂けたら、ブックマークや評価をして頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。




