26話 モンスターとの契約
片腕になったアデムに、事の顛末を聞いていた。
魔剣スノーフェアリーを握ってから私の口調と動きがまるで別人のように変わり、禍々しいまでの魔力と殺気を剥き出しにして来たという。
後ろに転がっている首狩り騎士の残骸も、私が魔剣で切り裂いたものだと聞いて驚きと怖さを隠しきれなかった。
「ほ、本当に覚えてないのかい…?」
アデムが震えながら聞いて来るけど、全く覚えていない。気付いた時には片腕となって泣き喚くアデムが目の前にいたのだ。だけど心当たりがないかとなれば嘘になる。
そう、私の中に存在する『意志がある魔力』だ。
魔剣スノーフェアリーは持ち主の魔力を媒介して、刀身に魔力を纏わせて攻撃が可能になると聞いている。上手く扱えば呪文のように遠距離攻撃も可能だそうだ。魔剣からおびただしい程の冷気が溢れていたのも、斬られたアデムの腕が凍ったのも、おそらく私の魔力属性が氷だからだと思う。
そして…私の意識が無くなったのは、魔剣を使った事で私の中にいる意思のある魔力を呼び起こしてしまったからではと、不安に苛まれながらそう考えていた。というより考えざる負えなかった。
それなら私が別人のようになったのも頷ける話しだ。
「質問に全て答えたよ! 早く助けてくれ!」
「黙りなさい。まだ質問はこれからよ」
「僕は重傷なんだぞ! な、なんて冷酷な女なんだ!」
「あなたに言われたくないわ。そこまで言うなら自分で何とかするのね」
そう言って後ろを振り返ると、また泣き喚きながら許しを乞うてくる。本当にメンドクサイ奴。
「あなたとローエンが仕組んだ今回のクエスト。一体目的は何?」
核心となる質問をすると、アデムが渋い顔をして口を閉ざした。
「言わないのならいいわ。私も好きにさせてもらう」
話そうとしないアデムの前で、再び魔剣スノーフェアリーに手を置いた。するとアデムの顔はみるみるうちに青ざめ、恐怖に怯え顔に影が走る。
「わ、わ、わかったよ! な、何でも話すから! 頼むからその魔剣だけは止めてくれ!」
余程この魔剣が怖かったのか、アデムは私が聞いた以上にベラベラと全て話してくれた。
魔界の西大陸では魔族の頭蓋骨を使った黒魔術を行う者達がいる。大革命以前は、平気でその辺の魔族を殺して頭蓋骨を手に入れていたらしいが、近代化した現在の魔界では当然禁止されている。
だが一部の黒魔術を扱うネクロマンサーや魔女は、手に入り辛くなった頭蓋骨を闇商人から買うという事が西大陸では横行しているらしい。特に若い魔族の頭蓋骨は、非常に高価で取引されるそうだ。
「だから若い魔族が集まりやすい新米冒険者ばかりを狙ってたの」
「あ、ああ。それに俺も親父も武器コレクターなんだ。だから近接職ばかりに依頼をしてた。首狩り騎士で狩りやすいというのも理由だが、稀にレアな装備を持っている新米冒険者もいるからな」
実戦の経験も浅い新米で近接職、正に首狩り騎士にとっては狩りやすい絶好の獲物だったという訳だ。
「なるほど、私みたいな感じか」
「キミは一番の大ハズレだよ!」
最初は初めての女魔戦士で、しかも魔剣まで持っているという事で内心かなり喜んでたらしいが。まさか、こんな目に遭わされるとは思ってもいなかったんだろうな。
「ヴィントナー貿易商会の中に、こんな残虐な事を親子で行い、しかも闇商人と取引しているとなれば大問題になるわね」
「ああ、そうだろ! だから見逃してくれ! もう二度とこんな事をしないと魔界の神ヴァリウスに誓うよ!」
全く持ってどうしようもないクズだ。怒りが込み上げてくるけど、今は耐えてアデムを問い詰め続ける。
「まだ質問は終わってない。首狩り騎士の正体は何? おそらくアンデットモンスターだと思うんだけど」
「お察しの通りだよ。このタリスマンは霊魂を操る魔道具だ。この計画の為に親父が西大陸から仕入れた」
「じゃあ首狩り騎士の正体は実体のない幽霊って事でいいのかしら?」
「ちょっと違う。そいつは元は俺達と同じ魔戦士だった。だが大革命で命を落とし、奴の無念が成仏できない霊魂に大地の魔力が集まりモンスター化した化け物さ。真っ黒な姿をしているが煙のように実態はない」
「そいつを鎧の中に閉じ込めて、首狩り騎士として操っていたのね?」
「その通りだ。さあ、本当にこれで全部だ。いい加減助けてくれよ」
アデムの話しを聞いて、足元に落ちているタリスマンを拾う。それを見たアデムが慌てて立ち上がって来た。
「それをどうするつもりだ! タリスマンは俺のだ! 返してくれ」
タリスマンを取り返そうとするアデムに、重い回し蹴りをお見舞いした。
「ぐがあ! ゲホッ…ゲホ」
腹に思いっきり蹴りを受けたアデムが、後ろに倒れ込み腹を抑えて苦しそうに咳込む。
「や、約束が違うぞ……質問に答えたら助けてくれると…」
「私は考えると言っただけよ。そして考えた結果がこれよ」
タリスマンを真上に放り投げ、スノーフェアリーを抜刀して一瞬で真っ二つに斬った。
(魔石を付けてないから大丈夫だと思うけど念の為ね)
抜刀したスノーフェアリーをすぐに鞘に納める。これ以上得体の知れない何かに操られるのは御免だ。
そしてタリスマンを破壊されたアデムが、明らかに狼狽え始める。
「スノー! キミは自分が何をしたか分かっているのか! タリスマンが無かったら、そいつは無差別に魔族を襲う化け物なんだぞ!」
「ええ、だから自分を操って利用してた『あなたに』相当な恨みがあるんじゃないかと思ってね。助けるか助けないかは彼に任せるわ」
タリスマンを壊してからしばらく、床に転がっていた胴体となる鎧がカタカタと動き出した。スノーフェアリーによって鎧は凍っていたが、次第に首部分の氷にヒビが入り初めて黒い煙が溢れてきた。
「おい、冗談だろ!?」
鎧から出てきた黒い煙は、少しずつ集まっていき形を作り出していった。
その形は、中心となる胴体から八本の足が伸びた生き物のようになる。
「グギギ……ガグォォ」
言葉を上手く喋る事はできないのか、鳴き声とも取れる声を発する。黒い胴体から伸びた足が、私とアデムに向け今にも放たれそうだ。
「お、おい! よく聞け! おまえを操っていたのはこの女だ! よく見ろ、そいつの足元におまえを操っていた壊れたタリスマンがあるだろ! 俺がそいつから奪って壊したんだ! 感謝してくれ!」
こいつ救いようのない小悪党だ。瞬時に悪巧みが働く程に頭の回転が早いなら、もっと別の事に活かせるだろうに。
するとモンスターは四本の黒い足を一気に伸ばし、私の体を掴んで持ち上げた。
残りの四本の足で私を殺すつもりなのか、それともこのまま絞め殺すつもりなのか。それは分からないけど、自分でもびっくりするぐらい今の状況に落ち着いていた。
「そうだ! そのまま殺してしまえ! 俺の腕の仇を取ってくれ! おまえを助けるために、俺は片腕を失ったんだ!」
「グアアォオ!」
一見アデムの言う事を聞いているように見えるが、おそらく違う。八本足の黒い物体となったモンスターは、その場にいる者全員を殺そうとしているようにも見える。
だけど私は、そのモンスターに掴まれたまま静かに話しかけた。
「あなたを操って利用していたのが本当に私に見えるかしら?」
「そんな女の言う事に耳を傾けるな! 早く殺せー!」
アデムの叫びを聞いてもモンスターは反応しない。そもそもモンスターは魔界の魔力が集まり生み出される。魔王が多くのモンスターを配下に置けるのは、モンスターは自分より強大な魔力を持つ魔族に従う本能からだ。
私は魔力が扱えないだけで決して魔力がない訳ではない。魔力量だけで言えば私は魔導士のチビ雪すらも超えてるのだ。おそらくこのモンスターも本能的にそれを察しているのだと思う。
見定めが終わったのか、黒いモンスターは何もせずに足を解き、私を解放してくれた。
「お、おい!? 何をやっている!?」
狼狽えるアデムを横目に、私はある決断をする。
「あなた名前はある? もしあなたさえ良ければ私と契約しないかしら? 決して悪いようにはしないわ。ただし私が死ぬと、あなたも死んでしまうデメリットがあるけど」
魔王クライドから貰い受けた統魔の指輪を使えば、モンスターを使役する事ができる。初めてやるから上手くいくか分からないけど。
「グゴオォォ、ガァアア」
やっぱり言葉を発せないし会話するのは無理か。だが少なくとも殺気は感じない、私を見定めている様子だ。言葉は発せなくても言葉は理解しているのかもしれない。
だが統魔の指輪を使う時は、こちらも本当の名前を名乗る必要があった。アデムに聞かれてしまうが、もうこれは仕方ない。
「魔王小雪の名において命じる。魔界の理に従い汝の主となり、そして汝を従属させる者とならん。我と契約し我が四肢の一部となれ! 『フェアトラーク』!」
詠唱をした直後、右手の薬指にある統魔の指輪が、赤く光り出し契約の義が開始された。黒いモンスターの真上には、真っ赤な魔法陣が現れモンスターを照らす。
「あなたの名前は……そうね、スキアーでどうかしら?」
もし黒いモンスターが、この名を受け入れれば、そのまま魔法陣の中に吸い込まれる。
黒いモンスターの反応を待っていると、近くで聞いていたアデムが案の定な反応をしてきた。
「ちょっと待ってくれ、い、今なんて言った!? 魔王小雪だって!? スノーの正体はガーデン・マノス魔王だっていうのか!?」
アデムの反応を無視して見守っていると、目の前の黒いモンスターは私との契約を受け入れ、何事もなく統魔の指輪が作り出した魔法陣へと吸い込まれていった。
「ありがとう。私を信じてくれて」
初めてのモンスターとの契約、絶対に裏切る事のない新たな仲間が一人加わった事を意味する。
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