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22話 戦闘の恐怖

アデムが運転する魔動車は、速度を徐々に下げて首狩り騎士に警戒をする。


すると茂みをガサガサと言わせながら、何かが右手側から近付いて来るのを感じた。


「魔動車を止めろ」


ヘマクが運転するアデムに指示を出す。


荷台に乗るヘマク、ユリリム、ジュパルの三人が右側を警戒し始めたので、私が念のため反対の左側を警戒していた。


大きな盾を持つジュパルが真ん中に立ち、一人魔動車の左側を警戒する私から見て運転席側にヘマク、一番後方になる右側にユリリムが武器を構える。


「来るぞ!」


ランサーのユリリムが声を上げ、三人が臨戦態勢に入った時だった。

今にも攻撃をしようという三人の前に、茂みから飛び出してきたのは頭から角を生やしたアルミラージという大きな兎だった。

魔界ではペットで買われたり、食用に狩られたりするモンスターだ。


「チッ。なんだよ脅かすなよ」


ヘマクが肩透かしとも安堵とも言える舌打ちをする。

だが五人の気が、一瞬緩んだ次の瞬間だった。


スパン!!


街道の茂みを右から左に向かって、停車中の魔動車の後ろを目にも止まらぬ速さで何かが横切った。


「何だ今の音!?」


アデムが後ろを振り返って聞いてきた時、ドサっという音と共にユリリムの体が血しぶきを上げて荷台から落ちた。よく見ると頭がない。

荷台の一番後ろにいたユリリムは、一瞬で首狩り騎士に首を斬られていた。


「早く魔動車を出して!」


「りょ、了解!」


私が発進するよう指示を出し、アデムがエンジン全開で魔動車を発進させる。

土煙を上げて、魔動車は街道を猛スピードで走り出すが。


「何かが追ってくる!」


左側の茂みから、明らかに強い殺気を感じる。

おそらく首狩り騎士、完全にこちらをターゲットにしているようだ。


その時、魔動車は急ブレーキを掛けて止まる。

荷台にいた三人とも体勢を崩して倒れ込んだ。


「何やってやがる!」


ヘマクが魔動車を運転するアデムに声を荒げると、魔動車の目の前には肉体の無い、全身骨だけの馬に乗った首狩り騎士の姿があった。

どうやら猛スピードで走る魔動車よりも早く、首狩り騎士の骨馬は走れるようだ。


「くそ!」


同じ魔戦士のヘマクが大剣を構え、ガーディアンのジュパルが大盾を構える。


私も何とか起き上がり、右の腰に装備したミスリルソードを手に取り抜刀して構えた。

ところが、ここで自分の異変に気付く。


(あれ? 私震えてる?)


剣を構えて分かったが全身が震えていたのだ。

冒険者として初めてのクエスト、それで同じクエストを受けた冒険者が目の前でいきなり惨殺された。

当然そんな光景を見るのは初めてで、自分の未熟さ甘さを痛感。

命を落とすかもしれない現実を目の当たりにして恐怖を感じてしまっていたのだ。


(これが戦闘の恐怖…甘かった…今回ばかりは堅造くんの言いつけを守っとくんだった…)


魔界を巡る旅を、ちょっと大きな旅行感覚で考えてしまってた。

堅造の言う通り、チビ雪が合流するまで大人しくしておけばと激しく後悔する。

魔戦士としての実力は確かなつもりだったが、実戦経験がなかった事で恐怖が体と心を支配し始めていた。


「おい! ボーっとするな!」


剣を構えて固まっている私を見て、ヘマクとジュパルが邪魔だと言わんばかりに後ろに突き飛ばす。


「やっぱり女の魔戦士は役に立たん。そこで頭を下げていろ」


ジュパルが大盾を構えて、またもや私を見下してくる。

女性に何か恨みでもあるのか、こいつは。

だけど恐怖に陥り図星だった事も事実で、何も言い返せなかった。


ヘマクとジュパルが戦う準備をする。だが魔動車の前に立った首狩り騎士は、そのまま側道にある茂みへと再び入っていく。


「奴は遊んでやがるのか!? また茂みから奇襲するつもりかよ!」


ヘマクが困惑と恐怖の滲んだ声を出し始める。ここにいるのは新米の冒険者。怖いのは全員同じか。

ここで目の前の首狩り騎士がいなくなったのを見て、アデムが魔動車を発進させた。


「このままハーベストムーンを抜けて、一旦作戦を練り直そう!」


運転するアデムがそう言うが、作戦なんて始めからなかった気がするんだけど。そんな話し合いもしてないし。

でも、そうはさせないと言わんばかりに次第に魔動車がガタガタと大きく揺れ始め、最早荷台に立っているだけでもやっとになる。


「くそ! 街道が荒れ始めた!」


途中から街道がゴツゴツとした石の多い道へと変わり、アデムが必死に操作を行うが魔動車はどんどんスピードが落ちていく。

荷台で立っていたヘマクとジュパルも、バランスを崩し前屈みになる。


「ダメだ! 奴が来るぞ!」


ヘマクが体勢を立て直して大剣を構えた時だった。

茂みから出てきた首狩り騎士が途轍もない速さで斬りかかり、立ち上がったばかりのヘマクを襲った。

攻撃と同時に首狩り騎士の乗った骨馬は、魔動車をジャンプして反対側へと飛ぶ。


「うわああああ!!」


ヘマクの絶叫が響き渡る。右腕が斬られてなくなっていたのだ。

体勢を崩したジュパルと、突き飛ばされてそのまましゃがみ込んでいた私の二人は無事だった。

ヘマクの大剣は、そのまま魔動車から落ちていく。


「ヘマク! 早く伏せろ!」


ジュパルが叫ぶが時すでに遅し、首狩り騎士が剣を横に薙ぎ払いヘマクの首を斬りかかる。


「ぎゃああああ!!!」


ところが首狩り騎士の剣は威力が足りなかったのか、ヘマクの首の途中で引っ掛かりヘマクは阿鼻叫喚の声を上げた。首狩り騎士は両手で剣を握り直して、強引にヘマクの首を切り落とす。


「ヘマク!?」


ヘマクと同じパーティを組むジュパルが、仲間がやられて思わず声をひっくり返らせた。ハーベストムーンに入ってから一気に二人もやられてしまった。


もう戦いにもなっていない。これは一方的な嬲り殺しだ。


すでに二人の命を奪った首狩り騎士は、全体が鎧で覆われ顔を見る事はできなかった。纏っている鎧も持っている剣も盾も古臭く錆びていて、まるで戦死した騎士の亡霊が動いているかのような出で立ち。


ここで魔動車を運転していたアデムは、


「ぼ、僕は死んでたまるかー!」


なんと荷台に乗る私達二人を残して、茂みの中に逃げて行ってしまう。


「なんて奴…」


怖いのは分かるが、一人だけ逃げるなんて臆病者にもほどがある。

ハーベストムーンに向かうまでは、僕が守ってやるなんて息巻いていながら。


だが今はそれ所じゃない。

再びミスリルソードを構えて、首狩り騎士と対峙する。


だけど恐怖が未だ消えず、このままではまともに戦えない状態に変わりはなかった。


「はあ…はあ…ダメだ、恐怖だけで息が上がってる」


「おい、お前も逃げな。ここは俺が抑える」


ここでジュパルの言葉に素直に甘える。


「分かったわ。三十秒だけお願い」


「は?」


三十秒だけ時間を稼いで欲しいと言い、有り得ないこんな状況で私は荷台の上で座り込み、目を瞑り瞑想に入る。

その間に首をはねられる可能性は否定できない…できないけど今のままでも恐怖心が強過ぎてやられるのは必至だった。


(これは戦闘ではなく剣の稽古だ。いつものようにやれば怖くない。剣の腕は誰にも負けない)


自分に言い聞かせるように、荷台に座って集中する。

その間は完全に無防備になる命懸けの賭けだけど、今はジュパルを信じて任せるしかない。


「チッ! なんかよく分からんが奴の攻撃を防いでやる!」


ジュパルが大盾を構えると、首狩り騎士が剣を振りかぶって攻撃を開始する。


ガキン!!


剣と盾がぶつかる金属音が、暗闇のハーベストムーンに轟く。


「ぐ! なんて力してやがる」


両手で盾を抑えるジュパルが、片手で振りかぶった首狩り騎士に力で押されているようだ。魔動車が大きく傾いた。

首狩り騎士は間髪入れず、何度もジュパルの大盾に向かって重い斬撃を加え続ける。


赤い月が照らす闇夜の中、一見幻想的にも見える茂みには似つかわしくない雑音だ。


「くそ! このまま攻撃され続けたら、俺の盾の方が持たないかもしれん」


何度も攻撃を耐え続けているジュパルが、あまりの攻撃の激しさに次第に焦りが見え始める。

ジュパルの盾も徐々にヒビが入り、いつ壊れてもおかしくない状況に陥っていた。


「やばい、腕に力が入らなくなってきた。このままだと」


盾だけでなくジュパル自身にも限界が近づいてくる中、やっと瞑想を終え目を開けた。

目の前でジュパルが私を庇う様に、大盾で首狩り騎士の攻撃に耐え続けてくれている。


すでに限界ギリギリになっているジュパルの盾に、トドメの一撃を与えようと首狩り騎士が剣を天に突き上げて振りかざそうとした時。

瞬時に魔動車の荷台から降りて、首狩り騎士の右側から脇腹に向けて斬撃を行った。


「くらえ! 化け物!」


その攻撃に首狩り騎士は、反対の左手に持つ盾で防御をする。僅かだが敵の攻撃が止まった。


「ジュパル! これを!」


首狩り騎士の動きが僅かに止まった間に、サイドバッグから回復ドリンクのポーションをジュパルに投げ渡す。

受け取ったポーションを飲み干し、ジュパルは気合を入れ直す。


「うおおおお!!」


魔動車の荷台からジュパルは大盾を構えたまま、首狩り騎士が乗る骨馬へタックルを嚙ました。

思わぬタックルに怯んだ骨馬は数歩後退りして、右手を振りかぶっていた首狩り騎士も体勢を崩した。


「ナイスよ!」


ジュパルが作った僅かな勝機。ミスリルソードを両手で力強く握り直して助走を付けて飛び上がり首狩り騎士の右肩、上腕部の鎧リザーブレイスの繋目にミスリルソードを撃ち込んだ。だが首狩り騎士の上腕部にミスリルソードが食い込むが、腕を落とすまでには至らなかった。

ジャンプをして地面から足が離れてしまった事で、斬撃の後に押し込む事ができなかったのだ。


骨馬の頭に乗っかったままミスリルソードが抜けず動けない状態になる。当然それを見逃さない首狩り騎士が剣を振りかぶってきた。

慌てて逃げようとするけど、ミスリルソードが抜けずに動けなくなってしまう。


ここでミスリルソードを離して逃げようと思っても、すでに間に合わない状態だった。


(しまった!? やられる!?)


一瞬の判断ミス、さすがに死を覚悟した瞬間。突然魔動車がバックで急発進してきた。


「え!? ちょっと!!」


そのままだと一緒に轢かれそうになり、慌てて首狩り騎士に食い込んだミスリルソードを鉄棒代わりに腕に渾身の力を込める。


不安定な骨馬の上で精一杯のマッスルアップを行い、上体を上げて足を持ち上げる事に成功した。

魔動車を動かしたのはジュパル、首狩り騎士の骨馬に魔動車が激突して、その衝撃で骨馬が粉々に砕け馬体が崩れていく。そのまま私も首狩り騎士も地面に叩きつけられた。


「無事か!?」


「あんたに殺されるかと思ったわよ!」


助かるには助かったけど、あと少し足を上げるのが遅かったら一緒に跳ね飛ばされていたところだ。


「助けてやったのに、その言い草はないだろ!」


「あんた急によく喋るわね! でもありがとう、おかげで助かったわ!」


礼を言われて少し顔を赤らめるジュパル。もしかして私に悪態を突いてたのって、単に女性に慣れてないからなのかな?

おっといかん、今は戦闘中だ。骨馬は倒したけど、本命の首狩り騎士はまだ倒せていない。


さっきの衝撃で首狩り騎士の肩からミスリルソードが抜けて、地面に落ちているのを拾い直す。


「ジュパル、ここは共同戦線を張るわよ」


「チッ! 仕方ないな。俺が奴の攻撃を全部受け止めてやるよ」


攻撃特化の魔戦士・スノー、防御特化のガーディアン・ジュパル。

二人が各々の特性を活かせば、骨馬を失った首狩り騎士になら十分対応できるはず。


しかし首狩り騎士は、またもや横の茂みに入り込み姿を隠してしまう。

できるだけ毎日、18時~20時辺りに投稿をしていきます。


よろしくお願いします。

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