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21話 初めての仕事

ヴィントナー貿易商会のローエンと会った次の日。

彼からの連絡で、夕刻十六時にヴィントナーの防壁南門に集まるよう指示がきた。


安易だったのは分かっている。

目先の利益の為に、不審の多い今回のクエスト依頼を受けてしまった事。


ヴィントナー貿易商会のローエン、どうにも信用ができないのだ。


「チビ雪に知られたら確実に怒られるだろうなー、イヤだなー怖いなー」


お金を払えば好きな行き先に運んでくれる魔動車タクシーに乗り、気分は少し憂鬱になっている。


「お客さん、もしかして魔戦士さんかな?」


魔動車タクシーの運転手が話し掛けてきた。

座る時に剣を外さないといけないのが、何かと厄介だな。

すぐに魔戦士とバレてしまう。


「ええ、これからクエストに向かうんです」


「差し支えなければクエストの内容を聞いてもいいでしょうか?」


流石に守秘義務があるので、それは無理だと答えた。

私の今後の信用に関わるしな。


「そうですよね、申し訳ありません。これは独り言なんですがね、もし首狩り騎士の討伐クエストなら止めておいた方がよろしいですよ」


お? 踏み込んで来たなドライバーさん。


「それはどうしてなのかなー、独り言ですけど」


「噂なんですがねー、何故か新米の冒険者ばかりが被害に遭ってるんですよねー。しかも雇われるのは何故か魔戦士やガーディアンなどの前衛職ばかりらしいんですよー。独り言ですけど」


「ほうーそれは興味深いなー。私も新米の魔戦士なのは偶然かなー。独り言ですけど」


魔動車タクシーのドライバーとのやり取りを続けてる間に、車は南門へと到着した。

ここで魔動車タクシーの運転手に、ここまでの交通代の二倍の金額を渡す。


「え? お客さんお金が多いですよ!?」


「当然ですよ。またここから宿屋に帰るんですから前払いしたんです。明日の早朝また南門に来てください」


「……――本当にお気を付けて。あなたの御武運を祈ってます」


魔動車タクシーのドライバーに別れを告げ、南門の守衛のいる場所に向かう。

守衛をしているのは大きな大斧を持っているオークナイトだ。


「旅人さん、街の外に出るんですか?」


斧を地面に付けて仁王立ちしているオークナイトが確認をしてくる。


「ええ、これからクエストへと出るわ」


「分かりました、ちょっとお待ちください」


オークナイトは守衛所へと向かうと、中で何やら操作をする。

しばらくして門がゆっくりと開きだした。


「ありがとう。明日の朝には戻ると思うから」


「お気を付けて」


オークナイトに開けてもらった門を出ると、外にはすでにローエンに雇われたであろう冒険者たちが集まっていた。

集まった冒険者達を見て、不審がさらに膨らむ。


そこには四人の冒険者がいたが私と同じ剣を使う魔戦士が二人、槍使いのランサーが一人、大きな盾を持ったガーディアンが一人となっている。


(偶然…じゃないな。あのドライバーが言ってた通り、私を含めて全員前衛職ばかりのようだ)


私に気づいた一人が近づいて話し掛けてきた。

赤い髪をした魔族の若い男性は、腰に同じ剣を装備している事を察するに魔戦士だ。

年齢も私と同じか少し上ぐらいかな。


僅かだけど緑がかった黄色い肌をしてる。


「やあ、君もローエンさんに雇われた冒険者かい? 僕は白い稲妻こと魔戦士のアデムだ! よろしくね!」


「白い稲妻?」


「ああ、僕は白を基調とした格好だからね! そう名乗ってるんだ」


自称なのか、それを聞いて思わず。


「厨二病…」


ボソッと呟いてしまった。

白い稲妻と自称するように、確かに凄く目立つ真っ白な甲冑を全身に纏っている。


「え? 何か言ったかい?」


「いいえ! 何でもないわ。私はスノー、よろしくね」


慌てて誤魔化して自己紹介をした。

アデムと自己紹介をしていると、他の二人も近付いて自己紹介をしてきた。


「俺も同じ魔戦士のヘマクだ。よろしく頼む」


ぶっきらぼうに挨拶をしてきたのは、スキンヘッドでヘマクと名乗った魔戦士。

筋肉質で、がっちりとした体形で背中には大剣を背負っている。

ヘマクの方は甲冑ではなく、動きやすさ重視の上半身は肌の露出した格好だ。

ただ自慢の筋肉を、見せびらかしたいだけのかもしれないけど。


「初めまして、私はランサーのユリリム。よろしく」


三人目に挨拶をしてきたのは、槍使いのユリリム。

黒髪をオールバックに纏めた、クールな見た目で長身の魔族だ。


最後は唯一挨拶に参加して来なかったのが一人。大きな盾を持つガーディアンの彼だけど。


白い稲妻ことアデムが挨拶を促したが。


「おいジュパル、君も挨拶したらどうだい?」


ジュパルという名の盾使い・ガーディアンの彼は、黄色の鋭い瞳に頭はモヒカン、全身青紫色をした魔族だ。

ヘマクに負けず劣らずの筋肉質で、背中の大盾を軽々しく担いでいる。


「……俺は顔を隠してる奴は信用しない。それに女に魔戦士が務まるとも思えんな」


だがガーディアンのジュパルからは、辛辣な返答が返ってくる。

べつに今会ったばかりの奴に何と言われようと構わないけど、少なくとも魔戦士としてならここに居る連中に引けは取らないと思ってる。


微妙な空気となる中、大剣を背負うヘマクがフォローをしてきた。


「すまんな、あいつは不愛想な奴なんだ」


いやいや、あなたも負けてないわよ。

類は友を呼ぶという事かな。


フォローをしてきたヘマクは、ジュパルとパーティーを組んでいる仲間らしい。

つまりそれ以外の三人はソロでの参加で、今が初顔合わせという事になる。


(冒険者への依頼もパーティではなくバラバラか。依頼人は首狩り騎士を討伐したいのか本当に怪しくなってきた)


依頼人への不信感ばかりが募る中、あまり立ち入った事を聞けなかったけど、おそらく四人とも新米の冒険者と想像する。

他人の事言えないけど、装備している武器や防具がみんな綺麗だ。


「それじゃあ出発しようか。ローエンさんが手配してくれた魔動車に乗ってハーベストムーンに向かうよ!」


急にリーダーシップを発揮してきたアデムは運転席に座った。

その魔動車は屋根のないオープンタイプで、タイヤの大きいオフロード仕様になっているものだ。

運転席と助手席のツーシーターで、後部席はなく後ろは荷台になっている。


アデム以外は全員荷台へと上がり、私は荷台の一番後ろに剣を握ったまま座った。


アデムが少し寂しそうな顔をして後ろを見て来るけど仕方がないのだ。大きな武器を背負っている者達ばかりだから、必然とそうなる。

おそらく依頼主のローエンも、それを見越してこの魔動車を手配したんだと思う。


五人の冒険者を乗せた魔動車は発進し、首狩り騎士が出るハーベストムーンへと向かった。


屋根のない魔動車なので、風が体全体に当たって心地いい。

髪の毛が大きく靡いて崩れる事を除けば。


最初はシーンとしてた車内だったけど、一番陽気なアデムが運転しながら話し掛けてきた。


「いやー、スノーさんがいて良かったよ! むさ苦しい男ばかりだからね! 楽しいドライブになりそうだ!」


その言葉を聞いて、もうすでに溜め息が出そうだ。遊びに行く訳ではないというのに。

だが一度話し出したアデムの口は止まらない。


「危ない事があったら僕が守ってあげるからね! 女の子を守るのも魔戦士たる僕の役目だ!」


そんな歯の浮くようなセリフを、よくも恥ずかしげもなく話せるものだ。

それに守るのが魔戦士の役目というけど、私だって魔戦士なんだけど?

ジュパルというガーディアンと言い、どうも私の事を舐めているのかもしれないな。


「御心配は無用ですよ。それに私は守られる為に来たんじゃない。それならクエストを受けなければいいだけの話しだしね」


あくまでも淡々と、それでいて少し棘のある言い方で返した。

一瞬びっくりした表情をしたアデムだったけど、こういうタイプは変にポジティブだから困る。


「スノーさんは肝が据わっているなー! ますます気に入ったよ!」


面倒だ…もう喋らずにいよう。

そう思った時、隣に座っているヘマクが口を開いた。


「アデム、その辺にしておけ。俺達の目的は首狩り騎士を狩る事だ。ナンパをしたいんならクエストが終わってから勝手にやれ」


うむ、ヘマクよくぞ言ってくれた! 見た目はあれだけど、不覚にもちょっとカッコいいと思ってしまった。


でもクエスト後にナンパしろって事は、


『私、このクエストが終わったらナンパされるんだ…』


って事になるよね。

なんか変な形の死亡フラグが立ってしまってない?

死ぬのも嫌だけど、生き残ってもアデムという男にナンパされるのか。


「ごめんごめん、ならそうするよ。スノーさん、このクエストが終わったらお茶しようね!」


おい、貴様はコテコテな死亡フラグを立てるな!


アデムがうるさい中、魔動車は約一時間走り続けハーベストムーンへと近づいてきた。

この頃になると月が一つ落ち、辺りは暗くなっている。


「ハーベストムーンに入ったな」


魔動車は坂道となった街道をゆっくりと走り、ランサーのユリリムが少し体を起こして辺りを見渡す。

反対側からは、一切魔動車などは走って来ない。


首狩り騎士の噂が立ってから、ハーベストムーンを通る者はめっきりと減ったらしい。

なので夜間になれば通る者はまずいない。今ここを通ってるのは、新米冒険者五人を乗せた魔動車だけ。

その魔動車のエンジン音がハーベストムーンに響き渡り、真っ暗な丘の茂みの中に消えていく。


全員で周囲を警戒するが、今のところ特に異変はない。

だけどハーベストムーンに入ってから、何者かに見られているような不気味の悪さを感じる。


街道一本が通るハーベストムーンは、街道の周囲に二メートル以上に長く伸びた白と黒の花を付けた草木が生い茂る。

それのせいで街道周囲は見渡す事ができず、意外と見通しが悪い。


「茂みから奇襲されたら厄介ね」


私が茂みからの奇襲を警戒すると荷台に乗った他の三人が各々の武器を手に取り、いつでも戦えるように臨戦態勢へと入った。

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