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20話 初めての依頼

ブックマークや評価、いいねありがとうございます!


とても励みになります。

ヴィントナーでの生活三日目。

今日は朝から剣の稽古が出来て調子は万全だ。


前日に買った、練習用のミスリルソード。

これのおかげで、やっとルーティーンとも言える剣の稽古をできる様になった。


だが問題もあった。

元々狭い部屋で、テーブルや椅子を隅っ子に移動しただけなので剣が当たって、思いっきり傷付けてしまったのだ。


これは完全に私が悪いので、正直に宿屋のガタイの良いおばちゃんに申告したら、当然だけどめっちゃ怒られた。


「弁償代払いますので…」


「なら追加で五万ミラだよ! さっさと払いな!」


一週間分の宿賃より高いじゃん…。

あんな古臭いテーブルや椅子が、そんな高い訳ないでしょ…。


そう思っても、おばちゃんが怖くて何も言えなかった。

剣を持っていなかったら、普通にこのおばちゃんの方が強そうだし。

渋々財布から五万ミラを払い、その場を収める事にする。


お金を受け取るとガタイの良いおばちゃんは、その場でお金を改めだした。


それを横目に部屋へと戻ろうとした時、ガタイの良いおばちゃんがドスの利いた大きな声で呼び止めてきた。


「ちょっと待ちな!!!」


思わず体がビクッとなる。


「お金、足らなかったですか…?」


恐る恐る後ろを振り向きながら聞き返すと、おばちゃんが少し溜め息を突いて言葉を発した。


「あんた魔戦士なんだろ? 剣を振りたいんなら宿の裏庭を貸してあげるから今後はそこでやりな。これ以上部屋の中を傷付けられちゃ、たまったもんじゃないからね」


そう言いながらガタイの良いおばちゃんは、五万ミラのうち四万ミラを返してくれた。


「一万ミラは弁償代と裏庭の使用代、残りは脅しとして言った物だから返しておくよ」


見た目に違わず優しいおばちゃん。

四万ミラを受け取り、改めて謝罪をする。


「いいよ。私の息子もあんたぐらいの時は、本当に危なっかしい事ばっかりやってくれたよ」


何でも、おばちゃんの息子も魔戦士をしているらしい。

今は魔王グリテアに仕えているんだとか。


「まあ私の息子は剣じゃなくて、大斧が得物だけどね!」


確かに、こんだけガタイの良いおばちゃんの息子なら相当な体格ありそうだよな。

一度手合わせしてみたい気もする。


おっと、思わぬ長話になってしまったけど、行かなければいけない所がある。

前日から連絡を取っていた、ヴィントナー貿易商会のローエンという魔族にこれから会いに行くのだ。


宿屋のおばちゃんとの話しを切り上げると、部屋に戻って外出する準備をする。

魔剣スノーフェアリーとミスリルソードを腰に付け、ネイビーブルーのマントを羽織って部屋を出た。


準備は万端、ところが外に出るためフロントに鍵を預けに行くと、おばちゃんが珍しく行き先を聞いてきた。


「あんた腰に剣を持ってどこに行くんだい?」


マントを羽織ってて傍から剣は見えないのに、よく見破ったなと感心してしまった。

伊達に魔戦士の母をやってる訳じゃないって事か。


だけど質問にどう答えようか悩んでしまう。

これからクエストの依頼内容を聞きに行く訳だけど、あまり公言しない方がいいのかなと考えてしまった。


その様子を見たガタイの良いおばちゃんは、


「悪かったね。答えたくなかったら答えなくていいよ。ただお客の事を詮索するのはマナー違反ではあるけど、ちょっと気になってしまってね」


答えたくない訳ではないけど、一応冒険者としてクエスト依頼の話しを聞きに行くとだけ伝えておいた。


「そうなのかい、でも危ない事をするんじゃないよ。あんたを見てると無茶をしそうで心配になるよ」


心配してくれていたのか。

その言葉を聞いて、ガタイの良いおばちゃんに一礼して宿屋を出た。


さて、今からヴィントナー貿易商会のあるビルへと向かう。正直な話し、私自身も今回の依頼は少し胡散臭さを感じているとこがある。


無名の新参者である私に、あまりに好条件の依頼だ。しかも連絡をしたら、すぐにでも会って依頼の話しをしたいと言ってきた。


相手の出方次第では、もちろん断るつもりだが。剣を持って来たのは依頼主のローエンという魔族が色々と厄介な相手だった場合、もし万が一の事があった時に備えてだ。


いくらガーデン・マノスから出た事なかった私でも、それぐらいの警戒心はある。


「でもな、流石に考え過ぎかな。ヴィントナー貿易商会はちゃんとした商会だからな」


初めてやる仕事だから、変に警戒心が強くなってしまってるのかもしれない。一人だから余計にね。


頭の中で、今回のクエスト依頼について考えながら移動すること約一時間。ヴィントナー貿易商会のある巨大ビルに着いた。ヴィントナーで一番高い建物で、ビル全てが商会の持ちビルになっているらしい。


まるで貿易の街ヴィントナーで、最も影響力のある組織を象徴しているかのようだ。


少し緊張しながら一階のフロアに入ると、耳の尖った頭から角を生やす受付の女性魔族が対応をしてくれた。フロア内はガーデン・マノスのホワイトガーデンにも引けを取らない程に、豪華で清潔感のある綺麗な内装。


その受付の女性にクエスト依頼で来た魔戦士のスノーだと名乗ると、エレベーターに乗ってローエンのいる二十階の部屋へと案内してくれる。


「こちらがローエンのいる部屋です。スノー様どうぞ」


「あ、どうも」


受付の女性に部屋の扉を開けられ中へと入った。

部屋は広く、真ん中には大きなテーブルとソファー。奥には部屋の主が座るであろうデスクと椅子がある。


さらに部屋のあちこちに高級そうな武器や防具、アクセサリーなどの装備品が置かれている。


「ローエン局長、魔戦士スノー様をお連れしました」


受付嬢はローエンに私が来た事を伝え、そのまま深々と頭を下げて扉を閉めた。


「これはこれはスノー様、お待ちしておりました! 私がヴィントナー貿易商会の装備品担当局長のローエンという者です」


見た目は薄緑色の肌をした魔族でちょっと小太り、脂肪の付いた首には大きく光る緑色の魔石の入ったネックレス、太い手の指一つ一つには大きな宝石の付いた指輪十個がキラキラと煌めく。こう言っては何だけど、まごう事なき成金という見た目。口調は丁寧な語り口だけど、言動からはこっちを見下しているのがひしひしと感じる。


(これはお断り案件かな)


いくら条件の良いクエストでも、依頼主が気に入らなければ受ける気にならない。


「早速クエスト依頼の件のお話しをしたいので、ささスノー様! ソファーに腰掛けてください」


こちらの不安を余所に、ローエンが大きなソファーに座るよう促してくる。仕方ない、座る為に腰の剣二本を外してから自分の座る横に剣を立て掛けた。


すると突然ローエンが目の色を変えて、私の剣を見て興奮気味で迫ってきた。


「スノー様! まさかそのネイビーブルーの鞘の方は魔剣ですかな!? どこで手に入れられたのです?」


面倒だな…いきなり詮索してくるなんて。


ローエンが二本の剣の内の一本が魔剣だとすぐに気付いた。魔剣は宿屋に残して、ミスリルソードだけ持って来るべきだったか。でも相手は依頼人、無視する訳にもいかないので、渋々ローエンの問いに答える。


「ええ、ある方から頂いた魔剣です」


「ほほう、それは興味深い! 貿易商をしている私も見た事がない魔剣ですな。よかったら見せて頂けないでしょうか? 私は貿易担当が装備品という職業柄、武器類には目がなくて!」


ほら来た、こうなる事は難なく想像できた。魔剣スノーフェアリーは魔界の名工が打った、魔界で一本しかない極レアの剣だ。見た事ないのは当たり前。さらにスノーフェアリーは魔王小雪専用の魔剣、故に私以外には剣を鞘から抜く事すらできない。


つまり、仮にローエンに渡しても刀身を見られる心配はないのだが。そういう問題ではないのだ!


大体、私が魔戦士だと知っているくせに大事な剣を見せて欲しいなど。会ったばかりの初対面という事も考えれば、無礼にも程があるというものだ。


見せて欲しいという事は、あわよくば自分のコレクションにするか貿易の商品にするかと考えてるだろ。

この部屋に並んでいる武器や防具などを見れば、それぐらいの事は想像できる。当然剣を見せるのはお断りだ。


「ローエンさん、私はクエスト依頼の話しを聞きに来たんです。それに私は大事な剣を他人に触られたくないので」


仮面で顔の上半分が隠れているけど、間違いなく今不機嫌な表情をしていると思う。顔を隠してて逆に助かった。


「これはこれは、大変失礼しましたなスノー様。では本題に入りましょうか!」


ローエンが気を取り直して、ようやく本題へと入り始めた。


「クエスト村での依頼でもお伝えしましたが、ここ最近ヴィントナーの南にあるハーベストムーンという丘に首狩り騎士が住み着きましてな。こいつの討伐をお願いしたいのです」


ハーベストムーンはここから南に約二十キロ程にある丘で、ヴィントナーから南への貿易として使われる街道の一つが通る場所だそうだ。


「今まで何か被害があったんですか?」


「積み荷を積んだ商人の車が襲われる事が数件、それから幾度となく冒険者を雇って送りましたが…帰って来たのは首のなくなった冒険者達の死体でした」


だから首狩り騎士か。中々おっかない相手だな。だけど魔界では野生のモンスターと出くわしたり、住み着くなんて事は珍しい事ではない。特に危害が加えられることが無ければ、スルーされる事も多い。


今回に関しては実際に魔族を襲ってるし討伐対象になるのは分かる…のだが、少し引っ掛かる所もある。


「それならハーベストムーンを避ければいいのでは?」


「確かにそうなのですが、やはり不気味なモンスターがいるとなるとヴィントナーの治安にも関わりますので。我々としてもこのまま放っておく訳には」


何か歯切れが悪いな。不気味だと言うのは分かるんだけど、でもハーベストムーンは絶対通らなきゃいけない街道でもないはず。話しを聞く限り近付かなければ、少なくともヴィントナーに被害が及んでいる訳でもない。


つまりハーベストムーンを避ければ被害を受ける事も今のところない訳で、こちらからわざわざ無理して討伐に行く必要はないのではないかと考えてしまう。


「あと実は個人的な理由もありまして、ハーベストムーンには私の別荘もあるのです。このままでは私は自分の別荘を使う事も出来ません」


う~ん、ここに来て取って付けたような理由も出してきたな。そんな大事なクエストなら、なぜ新参者である私に依頼するのか。絶対に有力な冒険者を雇った方が、討伐成功の可能性は高いだろうに。


このローエンという男、やっぱり何か隠してる気がする。かなり危険な匂いのする依頼だ、自分の剣の腕に自信がないわけではないけど今回はパスした方が良いと思った。


しかし、それを察知したローエンが口を開く。


「スノー様、今回の依頼はあなただけでなく他にも冒険者を雇っています。その者達と討伐隊を組んでチームで戦ってもらえれば結構です。もちろん報酬も、あなたの希望の額を用意しましょう。依頼を受けてのクセスト達成であればクエスト村でのランクも通常より上げる事ができますよ!」


全く、一番痛いとこ突いてくるな。確かにあれからクエストを見て回っても、ランクが低いせいで受けられるクエストはショボい物ばかりだ。一定の報酬額を稼ぐ事でランクが上がって行くのだが、それらを受けて地道にというのは少々面倒なのも事実だった。


それに対して、依頼を受けてのクエスト達成であれば報酬額に三倍のボーナスが付く。一気にクエスト村のランクを上げる事ができる。


怪しいと感じながらも、ランク報酬に目が眩んで依頼を受ける事を承諾することになった。

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