18話 魔剣の名前
宿屋に戻ってから、リーティアから受け取った防具を試着してみた。
衣服を着たまま三つの防具とも装着する事ができた。たまたまかな、驚くほど体にフィットする。もしかして見ただけで合うサイズを選んでくれた?
そして、どれも銀で出来た防具で、おかげで銀の仮面と合わせても違和感がない。
籠手は指の部分がオープンフィンガーとなっていて、剣を持った時も手の動きを邪魔しないし、籠手を着けたままでも細かな作業が可能になっている。
レッグガードはそのままロングブーツの上から装着できて、脚のふくらはぎ辺りを覆うグリーブは全く動きを妨げず動きやすい。
というか三つの防具は装着前と比べても、体の負担が全くと言っていい程ない事に驚いた。
とにかく軽くて動きやすい。
「これがタダって、見かけだけの不良品か呪われているかじゃないでしょうね」
少し不安になるが、おそらくこの防具もリーティアが作ったオリジナル品。
たぶん間違いはないと思う…たぶん。
一応はこれで服も新調できたし、最低限の防具も手に入った。
いざとなれば、十分に戦えるでしょう。
今の魔界で戦闘があるのか分からないけど、少なくとも凶暴なモンスターは魔族すらも襲う事はある。
「じゃあ堅造くん、服ありがとう。これで本当にさよならね」
堅造をガーデン・マノスに帰らせようとしたが、ここで堅造が魔剣について聞いてきた。
「一つ気になっていたのですが。魔王クライド様より賜った魔剣、名前は何て言うのですか?」
魔剣の名前、よく考えると私も知らない。
魔王クライドも何も言ってなかったし。
そもそも誰が作ったのかさえ知らない。
今まで特に気にもしてなかったけど、改めて聞かれると気になってしまう。
「魔剣に限らず剣に名前って、やっぱしあった方がいいのかな?」
「小雪様が振るう剣に名前がないというのは、些か寂しくはありませんか? 何より小雪様専用の魔剣なのですぞ」
「そ、それもそうね!」
時折見せてしまう、アニメの影響による高揚のようなもの。
父上はこれを厨二病と言ってたな。よく分かんないけど。
謎にテンションを上げながら魔剣の名前を考える事にした。
私は自分の名前か、魔力属性の氷に因んだモノがいいと考えた。
「それでは氷太郎はどうですかな!」
自分に因んだ名前、これが考えれば考えるほど難しい。
こういうのって、どんどんドツボにハマってしまい、結局決まらずに何時間も過ぎてしまうものだ。
「小雪様! 無視ですか小雪様ー!? 私が今提案しましたぞー!」
「魔剣の名前を決める前に、試し切りをするかな~」
そう言って魔剣を鞘から抜いた。
父上がいた日本では、かつてサムライという種族がいたそうだ。
私も父上のPCというアイテムで、そういったドラマを見た事があるので少しは想像ができる。
何でも、そのサムライにとってカタナという剣は一心同体、正に体の一部のような存在だったそう。
サムライがカタナを置く時は、寝る時とお風呂の時、そして死ぬ時だけだったと。
私は今、自分の魔剣を手にして初めてサムライのようになれた気がする。
魔剣も目の前にいる堅造を斬りたいという意思が、ひしひしと伝わってくるのだ。
「わーわーわー!! 小雪様お待ちをー!」
堅造が必死に謝ってきたので、仕方なく魔剣を鞘に納めた。
「ちゃんと真剣に考えてちょうだい」
「剣だけにですな!」
ブオン! シュキン!
刹那の如く魔剣を抜刀し、堅造の角に刀身を合わせた。
今まで一番綺麗に、そして素早くできた抜刀。
後は目の前の敵を排除するのみ!
「この魔剣は魔石をはめて完成形になるんだけど、魔石なしでどこまで斬れるか試す良い機会だわ!」
「うわー!! 申し訳ありませぬ! 小雪様! 魔剣様!」
今度は土下座をして謝ってきた。
こいつは普段堅物という言葉が似合うほどのバカ真面目な癖に、こんな時はふざけてくる。
いや違う。
堅造にとっては真面目に考えてあれなんだな。
やっぱり自分の魔剣の名前は自分で考えないと。
しばらく考えたあと、ここで一つの名前が頭にフッと浮かぶ。
「スノーフェアリー、魔剣スノーフェアリーはどうかな?」
魔剣というにはメルヘンチックな名前ではあるけど、私としては凄くしっくりとくる。
ところが、ここでまた堅造が余計な事を言い出す。
「スノーフェアリー……雪の妖精ですか、何か魔剣らしくないですな。それなら私の考えた氷太郎、もしくは雪左衛門なんかがいいのではないでしょうか!」
何かもういいです。いちいち怒るのも疲れた。
私の魔剣なんだし、私の好きにさせてもらう。
今日からこの魔剣の名前は『魔剣スノーフェアリー』
こうして晴れて名前が決まったのだ。
そして魔剣の名前から、今度は自分の名前を変える事にした。
実は街中を歩いている時にも気になっていたのだ。
堅造から小雪様と言われて、周りの者達がこっちを見ている視線に。
「今日から私の名前はスノーよ。魔王小雪ではなく、ただの冒険者スノーに改名するわ」
魔王なら当然、魔界全土に名前と顔は知れ渡ってしまっている。
「え? 小雪様の名前を変える必要があるんですか?」
「大有りよ! 街中で小雪様なんて、すぐにバレてしまうじゃないの。それだと顔を隠しても意味ないわ」
リーティア商会の店主には関係なくバレてただろうけど、今後は名前バレは出来るだけ避けたい。
「分かりました! スノー様!」
「魔王に仕えるあなたから、様付けで呼ばれるのも都合が悪いと思う!」
「うーむ、いくら何でも呼び捨ては…それならスノー殿で!」
「まあ、それぐらいならいいわよ」
そういう訳で、冒険者としての名前も決まった。
その後は堅造と二人で宿屋の食堂で昼食を取り、ガーデン・マノスに帰る堅造を見送って部屋へと戻った。
六日後にチビ雪と合流する前に、私としても色々計画を立てておきたい。
何かとワクワクしながら、巣魔火を片手に下調べを開始した。




