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15話 決意

統魔の指輪を受け取り、一通りの説明を終えたあと、魔王クライドはもう一つのアイテムを取り出した。


その箱を魔王の机の上に置いた。


大きさは私の胸の辺りまである。


「さっきも言った通り統魔の指輪はついで、こっちが本命ですからな」


恐る恐る手を伸ばし、棺の形をした真っ黒な箱を開け始める。


ゆっくりと開けたその箱には、一メートルは超えるであろう剣が目に飛び込んで来た。


濃いネイビーブルーをしたサヤに、金の装飾をしたツバが鞘をガッチリと挟み込んでいる。

そして鍔の中央には丸い窪みがあって、そこに魔石を埋め込めるのだろうか。

剣の隣には、その為と思われる真っ黒な魔石も一緒に同梱されている。


「こいつはマサオ殿から頼まれていた魔剣でございましてな」


「父上から頼まれていた魔剣ですか?」


「実は小雪様専用の剣を作って欲しいと依頼されていたのです」


父マサオは魔力が使えない私の為に、せめて剣だけでも強力なモノをと考えていたそうだ。


そこで魔界に精通している魔王クライドに剣の作成を依頼し、クライドが魔界の指折りの刀鍛冶師に作らせた。


「マサオ殿が生きてる内に渡せなかったのが、私としても悔やまれますがな」


「クライドおじ様、さっきこの剣を魔剣とおっしゃいましたが」


「そう、この魔剣は切れ味は当然ですが、特殊な力を使う事ができましてな。完全専用の武器で、あなたにしか剣を抜く事はできませんぞ」


私だけの完全専用武器。

そう言われて、思わず口元が緩みニヤけてしまう。


これは父上の遺伝だろうか、こういう言葉に弱いのだ。


そして魔王なんてしてなければ本来のクラスは魔戦士、剣を見れば当然刃も見てみたくなるもの。


手に汗が少し滲む中、鼓動の早さを感じながら剣をゆっくりと抜き始める。


右手で剣の柄を引っ張ると、鞘にガッチリと挟み込んでいた鍔が左右に開き刀身が鞘から出始めた。


長さは七十センチ程だろうか、一切の曇りのない鏡のような美しい両刃の剣だ。

だが、どことなく不気味さも感じられる。


でも、見た目は普通の剣と大して変わらないようにも見えるのが本音だ。

他に気になる所があるとすれば、やはり一緒に付属された真っ黒な魔石だろうか。


「もしかして、この魔剣は一緒に入っている魔石を付けて完成なのですか?」


「その通り、魔石を装着しなければ切れ味のいいだけの剣に過ぎません」


「一体どんな能力があるのです?」


「持ち手の魔力を媒介して、刀身に何倍もの魔力を込めて攻撃する事が可能になります。単に切るだけでなく、多少の遠距離攻撃も可能となるでしょうな」


つまり魔力が使えない私にとっては、この魔剣はこの上ない武器という事になるのか。

父上は私の為に、ここまで考えてくれていたんだな。


だけど一つ気になる事がある。


奈美さんに調べてもらった時に言われた、私の魔力に意思があるということだ。


果たして魔剣を使っても、その未知なる意思が反発しないかだけど。

この事実をクライドに言ってもいいものか悩んだ。


その様子を察したのか、チビ雪の方が口を開く。


「あの、魔王クライド様。実は話しておかなければいけない事があります」


「うん? チビ雪殿、それはなんですかな」


チビ雪の話しに魔王クライドが聞き返す。


だがそこで、続きを話そうとしたチビ雪を止めた。

これは自分自身の問題、やっぱり自分の口から話さなければいけない。


「私からお話します。クライドおじ様なら、もしかしたら何か知っているかもしれません」


自分が魔力を使えない原因、それを探った時に起こった事、そして私の魔力に意思があるかもしれないという事を全て話した。


魔界で千年以上も生きている魔王クライドなら、過去に同じ魔族を見た事があるかもしれない。

そんな淡い期待を抱いた。


「そんな事が、小雪様の魔力に意思があるのは間違いないですかな?」


「はい、間違いはないと思います。もしかして何か心当たりがあるのでしょうか」


話しを聞いたクライドが顔を曇らせた。

やはり何か知っているのかもしれない。


「小雪様、私も詳しい事は知りません。ただ、かつて同じように魔力に意思があるとかで悩まされた者がおりました」


「そうなのですか、それは一体誰ですか?」


クライドが一層険しい表情になった。


話したくない事情があるかもしれないとチビ雪と共に察知し、この話は切り上げようとした時だった。


「私の息子ルカだ」


「え!? クライドおじ様の御子息が!? 初めて聞きました」


「あの、失礼ですが。そのルカ様は今はどうされているんですか?」


私もチビ雪も当然驚きを隠せない。


まさか魔王クライドのルカという息子も同じ悩みを抱えていたなんて。


となれば今どうしているのか、そして出来れば話しをしたいと思うのは当然だったが。


「今はもうおりません。あ奴は死にました。もう五百年も前のことです」


やってしまった。

自分の感情ばかりを先行させて、聞いてはいけない事を聞いてしまった。


魔王クライドがずっと険しい顔をしていたのは、息子ルカを失ったことを思い出してだったのかと酷く後悔した。


「クライドおじ様、私もチビ雪も出過ぎた事を! 本当に申し訳ございません」


「魔王クライド様、大変失礼いたしました。御無礼をお許しください」


私とチビ雪が必死で頭を下げる中、魔王クライドがいつものように屈託のない笑顔を見せる。


「すでに過ぎた事、若い二人がこんな老いぼれに頭を下げる必要などない! まあルカの事は今も思い出すと辛いものはありますがな」


「クライドおじ様、本当にごめんなさい。そしてありがとうございます」


魔力の意思に関しては、これ以上は聞けなかった。聞けるわけがない。


ただ、その上で魔王クライドは魔剣を使う事は問題ないと話す。


「おそらくですが小雪様が魔力を使えないのは、魔力に宿る意思より弱いからでしょう」


「そ、そんなハッキリ言いますか!?」


「まあこういうのは、変に言葉を濁してもどうにもならんでしょう! なに、これから強くなって行けばいいのです!」


確かにその通りだけど。


でも結局、私の魔力の秘密は分からなかった。

というか魔王クライドは何か知ってるのかもしれないけど、それ以上は流石に聞けなかった。


するとクライドが、ここで意外なセリフを言ってきた。


「小雪様、何度も言いますが、あなたは弱い。剣の腕だけでトップを名乗れる程、この魔界は甘くはない」


「そんな何度も言わなくても…これでも私にだってプライドがあるんですよ…」


「だからこそ、あなたは強くなる必要があります。ガーデン・マノス魔王、さらには魔界のトップを名乗るのなら、そんな魔力の意思如きに振り回されていては務まりませんぞ。小雪様、一度外の世界を見て回りなさい」


「外の世界? つまり旅をしろという事ですか?」


「その通りです。今まで一度もガーデン・マノスから出た事がないのでしょう? 魔界を知らずして、どうして魔界のトップと言えますかな?」


薄々感じてはいたけど、やっぱり私は魔王の資格がないと突き付けられた気分だった。


元々やりたくて魔王になった訳ではなかったけど、ここまでハッキリ言われると流石にショックは隠し切れなかった。


だけど父上は力が無いなりに、それでもほとんど何もない状態から魔界一の大都市ガーデン・マノスを築き上げた。

単に賢人という肩書だけで、魔界一の魔王の座に立った訳じゃない。


多くの魔族から支持される理由が、魔王マサオには確かにあった。

でも私には何もない。


ただ先代魔王マサオの娘というだけでは、魔界の者達は納得しないのだ。


そういう意味では、私は魔王というモノを甘く見過ぎていたのかもしれない。


違う、魔界を甘く見過ぎていた。


魔王小雪を引きずり降ろそうと考える者が現れても、それは何ら不思議なモノではなかった。


「クライドおじ様…いえ魔王クライド様。この度は温かい助言の数々、誠にありがとうございます。魔王小雪は、クライド様から受け賜わった魔剣と統魔の指輪と共に、もっと見聞を広めたいと存じます」


誰かに対して初めて片膝を付き、目を瞑って魔王クライドに頭を下げた。


ここで生まれて初めて、魔王小雪はガーデン・マノスを出る決意をする。


自分の暮らす魔界を知る為、己を鍛える為、そして何より自分の魔力の秘密を知る為。


魔王クライドは目の前で跪く魔王小雪を見て、まるで本当の我が娘を見るような慈愛の篭った目で見つめていた。

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