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13話 魔王クライド

魔都市ガーデン・マノスの主が、魔王小雪となって一カ月が過ぎた頃。


今日ガーデン・マノスは、いつも以上に厳戒態勢が敷かれていた。

約五年ぶりに魔王クライドが、ガーデン・マノスに訪れるからだ。


魔王小雪となってからは、これが初めての外交になる。


「小雪様、そろそろ貴賓室で待機してください」


ホワイトガーデンの魔王室で待っていると、チビ雪がそう伝えてきた。


「ええ、分かったわ」


少し緊張した面持ちで、それに答える。


ずっと慣れない、魔王という仕事。

やはり私はトップに立つのには、向かないのかもしれない。

そんな事を考えながら、いつも以上に整理された貴賓室で側近達数名と待機する。


そうこうしているうちに、ホワイトガーデンに魔王クライドを乗せた車が到着した。


車を降りると、部下の者達に付き添われ、魔王クライドがホワイトガーデンに入る。



――それから待機する事、約十分。



貴賓室に魔王クライドが入って来た。


慌てて立ち上がって、クライドを出迎える。


「ようこそガーデン・マノスへ! 魔王クライド、我々はあなたの訪問を歓迎いたします」


そのまま形式的な挨拶をする。

その直後、魔王クライドが頭に被っているシルクハットを取って胸に充て、さらにその場で跪いた。


「魔王小雪様、祝電はお送りさせて頂きましたが直接の祝福、遅れてしまったこと誠に申し訳ありませぬ。

 改めてガーデン・マノス魔王に戴冠された事を、ここに祝福したく参った次第でございます」



…………。



え?なにこれ?


いやあの……全然普通に挨拶してくれたら、それで良かったんだけど…。


なんか返って申し訳なくなって来るし。


完全にどうしたら分からずに戸惑っていると、


「魔王クライド様、本日の御足労、誠に痛み入ります。どうぞこちらへお掛けください」


堅造が対面にある来賓用の椅子へと案内した。

今までで一番、堅造に感謝をした瞬間でもあった。


魔王クライドが立ち上がるとシルクハットを被り、堅造に促された椅子に腰を落とした。


魔王クライドは、ガーデン・マノスより西の広大なルーテナントエリアを治める。


黒のシルクハットに黒のタキシード、しっかりと整えられた口髭、魔王というより正にダンディーな紳士という出で立ちのクライド。


ただ、縦長に伸びる黒い水晶体の真っ赤な瞳が少し怖いのは相変わらず。


魔界大革命アポカリプス以前から魔王をしているクライドは別名、吸血鬼の王ヴァンパイアキングと呼ばれる魔界全てのヴァンパイア達の主。

すでに千年以上生きてるそうで、現在魔界に存在している全魔王の中でダントツに年上だ。


そんな大物が何故、ガーデン・マノスの地方魔王に成り下がったかとなると、これは今から四十年以上前に遡る。


魔王クライドは、何か面白い事がないかと、ずっと時間を持て余してた。


想像もつかないけど千年以上も生きてると、数十年単位で暇をする事もあるそうで。


そんな時だった。


突然、異世界より現れた父上を魔王とする、マノス村独立宣言が魔界に轟いた。


心底退屈していた魔王クライドは瞬時に、


『ただの人間が魔王となって魔族を率いるとは、これは良い余興になる!』


という事で、半ば面白がって父上を支援し始めたらしい。

ちなみにこれがマノス村を支援した、初めての魔王だったそう。


初めてその話を聞いた時は、

そんな軽いノリでいいの……

と、流石に戸惑ったのは覚えている。


その後、ガーデン・マノスが急速に発展して魔界一の大都市になってからは、潔く父上の後ろ盾として支える側に回ったんだとか。


勝手な暇つぶしで、父上を魔界のトップにしてしまった事への責任を感じたらしいけど、そういう所は真面目なんだな。


ただそのおかげで、ガーデン・マノスへ宣戦布告する事は、魔王クライドへの宣戦布告と同義になった。

他の魔王達は、そう簡単にガーデン・マノスへ反旗を翻せなくなったという訳だ。


とまあ、そんなこんなで魔界大革命アポカリプス以降は、クライドは先代マサオとも良好な関係を築いてきた。


そんな魔王クライドが、大きな声を張り上げて言ってきた。


「小雪様、見違えましたな! しばらく見ない内に、こんなに綺麗になられて!」


「全くお世辞が上手いですね、クライドおじ様は! いえ、今は魔王クライド様と言った方がよろしいかもしれませんね」


「お世辞ではありませんぞ! これは本心で言っているのです。私も、もっと若ければ…おっと、これは無粋でしたな」


さっきよりは砕けた感じの雰囲気になる。


実は子供の頃に何度か会った事があるが、ねだれば何でも欲しい物をくれるおじ様という感じだった。

今にして思えば、なんて失礼な事をしてたんだと思ってしまう……。


でも父上と同じぐらいに、いつも優しく接してくれてた。


そんな魔王クライドとは約五年ぶりに、同じ魔王という立場で会う事になってしまった。


「あと小雪様、私の事は昔の様におじ様で結構ですぞ。立場が変わろうとも、関係が変わる訳ではありません」


「それならさっきの挨拶はやり過ぎですよ! いきなり跪かれてびっくりしました」


「はっはっは! これは失礼しましたな!」


本当に、昔と変わらず屈託のない笑い方をする。

魔王クライドの――クライドおじ様の、この笑い方がとにかく好きで、今もそれは変わらない。


父上を亡くして以降、やはり何だかんだ心にぽっかりと穴が開いた感覚だった。


この方を見ていると少しそれが癒されていくような、父上がいた頃に戻ったような、そんな居心地の良さを感じてしまう。


「ところで小雪様、実は今日参ったのは、魔王戴冠の祝福だけではありません。

 どうしても伝えておきたい事がありましてな」


「伝えたい事というのは、一体どういった内容なのですか?」


魔王クライドが、真剣な表情になり話し始めた。

それは以前から一部地方魔王から、魔王小雪排斥の動きがあるという噂についてだった。


現在の魔界には八人の地方魔王、それを束ねるガーデン・マノス魔王と、計九人の魔王が存在している。西大陸を除き、魔界では八人の地方魔王が各々のエリアを支配している。


そして魔界の中心都市である魔都市ガーデン・マノスは、どこの地方魔王のエリアにも属さない。


都市国家であるガーデン・マノスは城壁の外を囲むように、ぐるりと三十キロ圏内も直轄地としていて、魔都市自体もかなりの広さとあり都市国家とはいえ面積の規模はかなりのもの。

三十キロ圏内の要所要所には砦を築き、そこに優秀な魔導士を配置して巨大な結界『ランドプロテクト』を張って外敵の侵入を防いでいるのだ。

ガーデン・マノスが魔導士の育成に力を入れているのも、魔都市の防衛に欠かせないから。


結界内に入る際は、いわゆる通行手形が必要になる。


ちなみに魔界大革命アポカリプス以前は魔王はもっといたらしいが、多くの魔王が淘汰されたらしい。


今存在している魔王は、大革命アポカリプスを生き残った、もしくはその後に魔王になった者達という事になる。


魔界は九人の魔王によって微妙なバランスの下、現在の平穏が保たれているのだが。


「不穏な噂は聞いています。まだ確証はありませんが」


私がそう答えた時だった。


魔王クライドが、ある魔王の名を口にする。


「魔王ヴァレンズ。この者が最近、不穏な動きをしているとの情報があります」


「なるほど、魔王ヴァレンズ……誰ですか、それ?」


「ええー!? ちょっと小雪様! 北方の魔王ヴァレンズ様ですぞ!」


その場にいた堅造が、慌てて声を荒げた。


側近達も、心なしか顔が引きつっている様に見える。


え? なんかマズかった?


ちょっと不安になって、再度魔王クライドを見てしまう。


思わぬ回答に、魔王クライドも少し苦笑いをしている様子だった。


でもすぐに


「はっはっはっはっ! さすがは小雪様ですな! 最初から眼中にないと見える!」


あ、いつもの笑い方に戻った。


本当に誰だか分からなかっただけなんだけど。


堅造が必死に説明をしてきたけど魔王ヴァレンズは、ガーデン・マノスからずっと北にある、ノスガレオという北方一体を治める魔王らしい。

父上の時代から、やたらと問題の多い魔王でもあったとか。


「奴は、とにかく魔族至上主義。純粋な王族しか認めないとする、旧体制の亡霊とも言える魔王です。

 小雪様、一応この老い耄れの言った事を、頭の片隅にでも置いて貰えれば幸いです」


「はい、クライドおじ様。わざわざありがとうございました。今後は、その者を注視するよう堅造くんに命じておきます」


「ええー…結局、私の仕事が増える羽目になるのですか……」


魔王クライドからもたらされた情報により、とりあえず外への警戒を北に向ける事は決まった。


それと同時に父上から私の代にガーデン・マノス魔王が変わってから、魔界の安定に綻びが生じ始めている事を痛感する事になった。

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