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127話 本気と冗談

「リグレットまであと少しですね」


「そうだね、チビ雪ちゃん。着いたらまずは、メーデさんのお店に顔を出しましょう」


魔都市クランレアドに向かうため、大陸横断鉄道の駅があるリグレットへと戻ることになった。


リーティアが言うには魔都市クランレアドは他の都市と違い、厳重なセキュリティーチェックがあるため武器の類なども持ち込めないらしい。


「ディメンションボックスに入れててもダメなの?」


「ええ、いつでも取り出せるので。武器類はクランレアドを出るまで一時期的に預けなければいけません」


「だが異次元に収納するんだろ? だったら分からないだろ」


「いいえ、イシェイルさん。クランレアドに入る前のチェックでディメンションボックスを強制的に開けられます」


「そんなことができるの!?」


「はい」


魔王の居城があるとなれば、それぐらいは当然と言えば当然なのかもしれない。実際ガーデン・マノスも武器の持ち込みや表立っての携帯は制限されていた。


武器を預けなければいけないなんて、何かあった時に面倒ではあるけど。


「まあいいさ、私の武器はこの拳だからな!」


「なら何かあった時は全てイシェイルに任せるわね」


めんどくさそうな顔をしてイシェイルがこっちを見てきた。


だって仕方ないじゃない。武器がなかったら私を含め、他の者たちはまともに戦えないんだから。


「大丈夫ですよ、スノー様。だから一旦メーデのいるリグレットに行きましょうと提案したんです」


「え? 何か対策があるの?」


「ええ、メーデなら都合のいい蛇を持ってるはずですから」


「いや、言い方!」


そうこうしているうちに、エルドリッジが運転する車がリグレットがようやく見える位置にまでになった。


「お嬢様、そろそろリグレットに到着いたします」


「ええ、わかったわ」


ワースを出発して関所でひと悶着あった以外は順調に移動することができた。当初の予定よりも二日も早くリグレットに到着してしまった。


カールは今頃どうしているだろうか。


そんなことを考えながら、リグレットに降りる準備をする。車がリグレットに入ったとこで、全員車から降りて歩いてメーデの喫茶店へと向かう。


「なあリーダー。そのメーデとかいう魔族はそんなに凄いのか?」


「そうよ、私のミーちゃんとリーティアが使役するアビゲイルも元はメーデの頭の蛇なの」


「確かにそう言われたら凄そうではあるが」


イシェイルはまだメーデのことを信用し切れてないようだ。まだ会ったこともないし仕方ないか。


(わたくし)は噂程度であれば、多少はその(かた)の事を知っています。確かかつて三大勢力の1人、大悪魔リーティアと一緒にいた魔族で・・・・・・え?」


エルドリッジが話しの途中で固まった。


そういえばエルドリッジには、リーティアの正体を言っていなかった。


「あの、お嬢様。あまり詮索するようなことは言いたくないのですが。まさかリーティア殿は」


「エルドリッジさん、今は私は大悪魔でも何でもありません。今まで通り接してもらえればいいですよ」


リーティアはエルドリッジに釘を刺すように食い気味に割って入った。


「は、はい。申し訳ございません」


少し気まずそうにエルドリッジが謝罪をしている。


「まあ最初から只者じゃないとは思っていたけどな」


「僕も三大勢力の事はよく知らないけど、何となくリーティアさんが力を制限してるのは気づいていたよ」


過去の話題になって、リーティアが小さくため息を吐いた。話しの流れでとはいえ本人から直接話し出したわけではないし、これ以上は微妙な雰囲気になる可能性もあるので話しを遮る。


「ほらほら、そんな話は終わり! もうすぐ到着するよ!」


手をパンパンと二回叩いて、場の雰囲気を変えた。そして目の前の坂を登ればメーデの喫茶店がある。


喫茶ゴルゴン、お店の上にデカデカと蛇が描かれた大きな看板。メーデ本人は誰でもウェルカムな性格なんだけど、このお店の佇まいは初見だと入り辛いのは間違いない。


「悪趣味な看板だな」


「姉さん、お店の前で声がでかいよ」


イシェイルの失礼な発言にタケルが注意をする。その横では、どことなく緊張した面持ちのエルドリッジ。


ダークエルフ姉弟とエルドリッジはメーデと会うのは初めてだ。どんな反応をするやら。


そんな三人を余所に、メーデの喫茶店のドアを開けようと近づいた時、中から大声がして一人の魔族が飛び出してきた。


「ひいいぃぃ! すみません! すみません! 助けてください!!」


中から飛び出してきた魔族の男性は、その場で土下座をして泣き謝っている。


すると店の奥から頭の蛇全てを逆立たせたメーデが、途轍もない形相で現れる。頭の蛇も全て、その男性魔族を威嚇していた。


突然の事に唖然としてしまい、店の前で固まってしまう。


「次に私の前に姿を現したら、お前を石に変えて奈落の底に捨ててやる。二度とその汚らわしい面を見せるな」


「は、はいいいぃぃぃ!!!」


脅された男性魔族は、そのまま泣きながら走り去っていった。


一部始終を見ていたスノーたちは、ただただ茫然と立ち尽くす。ただ1人を除いて。


「ほら、だからアンタには商売は向いてないって言ってたのに」


リーティアが何事もなかったかのようにメーデに話しかける。怒りで見えていなかったのか、スノーたちに気づいたメーデが徐々に表情を以前会った時のように戻り、頭の蛇も大人しくなっていった。


「わー! リーティアたちいたの!? 変なとこ見られちゃったねー!」


「怒りで我を忘れるクセは相変わらずね」


慌ててメーデが取り繕って来るけど、あんなの見せられたらどう話していいのか分からない。


「ま、まあお店の前というのもなんだし、みんな中に入ってー! 今日はもう店仕舞いにするから!」


そう促されてそろそろと店の中に入った。


「あの、さっきは何があったんですか? メーデさんがあんなに怒るなんて」


恐る恐る聞いてみた。前に会ったときはキャピキャピした明るい感じしか見てなかったら、そのギャップで余計に怖かった。


「た、大したことじゃないよ! うちのコーヒーが不味いと言われて何度か作り直してたんだけど」


「せっかく作ったコーヒーを不味いなんて言われたら誰だって怒りますよ!」


チビ雪がフォローを入れるが、それにメーデが首を横に振った。


「いやー違うのよ! 私の作ったものを不味いって言われるのはべつにいいんだけど、問題はその原因を私の頭の蛇だってイチャモンを付けてきたからつい」


てへぺろと舌を出して笑うメーデ。そういえばコーヒーを美味しくするミーちゃんを私が使役してしまったから、今は以前のようなコーヒーを出せなくなっているのか。


「メーデは自分の事をバカにされるのはいいんですが、蛇をバカにされるのは昔から嫌いなんですよ」


「この子達は、みんな私の子供みたいなものだからねー!」


そうなんだ、良いこと聞いた。これからは蛇の事を悪く言わないように気を付けよう。


「さっき姉さんが蛇を書かれた看板を」


「た、タケル! 余計なことを言うな!」


めちゃくちゃ焦った表情でイシェイルがタケルの口を止めた。あんなに焦るイシェイルを見るのはカテリーナに追いかけられたとき以来だ。


「あ、そういえば前に来たときはいなかった人たちも何人かいるねー!」


「僕はタケルっていいます。ハーフのダークエルフで、こっちが僕の姉さんのイシェイルです」


「私は純血だがな」


「お初にお目にかかります。(わたくし)はエルドリッジと申します。以後お見知りおきを」


「私はメデューサ、メーデと呼んでねー! よろしくねー!」


各々が挨拶を済ませて、メーデはお茶を出すと言って奥へと引っ込んでいった。


六人全員が座れるテーブルのある座席に腰を下ろす。そこへ六人分のお茶を持ったメーデが奥から出てきて全員の前に置いた。


「それで、ここに来た目的は何かなー?」


直後、有無も言わさずメーデが直球で質問をしてきた。


「流石、話しが早くて助かる。私たちはこれから魔都市クランレアドに向かうつもり」


「はーん! なるほど! そういうこと!」


不敵にニヤリと笑ったメーデは、スノーを見て言い放つ。


「やっとあなたも魔王グリテアをぶん殴って覇権を握る気になったのねー!」


リーティア以外、全員が含んだお茶を吹き出しそうになった。いや、チビ雪とエルドリッジは吹き出してる。


「な、何言ってるんですか!? 私たちはただ旅の一環としてクランレアドに行くだけです! 魔王グリテアと敵対するつもりはありません!」


「えー? てっきり私はあいつをぶっ飛ばして、グリテア領全域をマノス領にするものかと思ったのにー!」


本気で言ってるのか冗談で言ってるのか全く掴めない・・・。


リーティアもだけど、やっぱりメーデも何かしら因縁があるのか。


「メーデ、あんまりスノー様を揶揄わないで」


「私は本気で言ってるんだけどなー」


「あの、私が事を起こすと本当に戦争になり兼ねないので」


「分かってる分かってるー! 冗談だよー!」


本当に大丈夫なのかこれ。一抹の不安を覚えて、メーデとの話しが続いた。

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