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113話 ダークエルフ姉弟の奮闘

ブチ切れたカテリーナから、さらにドス黒いオーラが噴き出し、屋敷全体を覆った。


他の霊達も耐えられないのか、阿鼻叫喚と共に無数のオーブが飛び交いまくっている。


さらに屋根裏からネズミが飛び出して落ちてきた。おそらくカテリーナのオーラに驚いたせいだろう。ところが落ちた瞬間、ネズミは一瞬で干からびて絶命してしまう。


「おい!? 何だよあれ!?」


「カテリーナのせいだ。奴が生気を吸い取っているんだ」


「じゃあ何で俺達は無事なんだよ!?」


「みんな、スノーさんの作り出す冷気のバリアーから外に出るな! 生気を吸い取られるぞ!」


タケルが冷静に判断して、みんなに指示を出した。当の私は魔剣スノーフェアリーから出る魔力を抑えるので精一杯だ。でもみんなを守れている事が何より嬉しかった。


対照的に、後ろではイシェイルが悔しがって床を殴る。カテリーナ相手では自分は無力なのを嘆いているみたいだ。


「このままじゃ埒が明かない! 俺が何とかするぜ!」


冷気のバリアーによって守られているが、防戦一方ではカテリーナを倒せない。カールが最後のファントムキラーの矢を射ろうと構えた。


しかしファルシオンは、うんともすんともしない。


「どうしたんだ………マジかよ! バッテリー切れだ! こんな時に!」


最後の頼みの綱だったファントムキラーの矢が使えなくなってしまった。


ニヤリとカテリーナが笑う。


「もう…………お前達なんか………いらない! みんな…………消えてなくなれー!」


カテリーナの目が真っ赤に光り出し、霊力がさらに強くなる。壁にヒビが入り、屋敷全体が大きく揺れている。今にも崩れ出しそうな勢いだ。


今のままだと冷気のバリアーから外に出る事もできない。カテリーナをファントムキラーの結界に封じ込める為には、カテリーナを誘き出すか捕らえるしかない。


手っ取り早いのは誘き出す事だけど、誘き出すには冷気のバリアーを弱める必要がある。


だけど、そんな事をしたら私達がやられてしまう。


「どうしたらいいの………このままだと……私が持たないかも………」


すでに体力、気力が限界に来ている。自分の魔力を抑え付けるのに、正に命を削っていると言ってもいい。


「姉御! もういい! 俺達が何とかする!」


「そうだ! リーダー、このままだと死んでしまうぞ!」


二人がそう言うが、それは絶対にしたくない。もう、あの時のような思いはしたくない。それなら死んだ方がマシだと両手に力を込める。


「おいタケル! 何とかならないのか! 悪霊に対処できるヒーラーなんだろ!」


カールがタケルに掴みかかる。だがタケルは申し訳なさそうに答える。


「すまない、僕にできるのは結界を張ることぐらいだよ。考えが甘かった。結界さえ張れれば何とかなると思い込んでいた。

それにファントムキラーの結界だって知識として知っているだけで、本当にやるのは初めてだ。ダークエルフとしてもヒーラーとしても、まだまだ半人前なんだ。言葉通りのハーフエルフだよ」


タケルは唇を噛み締めながら、言葉を震わせた。


「止めろ! 弟を責めるな! 旅に出るまで、ワセアの森から出た事もなかったんだぞ!」


「だけどよ! このままだと姉御が!」


カテリーナへの確実な対処が思いつかない。そういった焦りから、仲間同士で衝突してしまう。想像以上にカテリーナの霊力が強過ぎた。


何か手はないか、せめてカテリーナの霊力を少しでも弱らせることができれば………タケルの頭の中で考えが目まぐるしく動く。


「いや、まだ手はある! 矢をよこせ! 僕が直接撃つ!」


タケルは念のため背中に装備して持ってきていた弓を持つと、カールにファントムキラーの矢を要求した。


「大事なことを忘れていた。ファントムキラーの矢は元は僕の矢だ。ここまで来たらファルシオンで撃つ必要はない!」


「お、おう! 分かった!」


ファルシオンから矢を外したカールは、タケルに最後のファントムキラーの矢を託す。


「それと姉さん。一つ頼まれて欲しい」


「タケルの方から私に頼み事とは珍しいな。何をすればいい?」


「危険だけど………たぶん、これは姉さんにしか頼めない」


タケルが小声でイシェイルに耳打ちする。それを聞いたイシェイルは少し戸惑うが、すぐに首を縦に振った。


「任せておけ。タケル、後は全てお前に託す」


「お、おい。何をする気だよ!?」


カールの問いに応える事もなく、ダークエルフ姉弟は大きく深呼吸をして精神を研ぎ澄ます。


矢を受け取ったタケルが、弓を構えて大きく後ろにファントムキラーの矢を引いた。


「おそらくこの矢を受けてもカテリーナの力を完全に抑えられないと思う。だが弱められれば、それで十分だ!」


しかしカテリーナは矢を受けまいとガラクタを操る。これではファントムキラーの矢をまた防御されてしまう。


同時に霊力を結晶化させた槍で、幾度となく冷気のバリアーを攻撃してきた。


「キャハハハハハ! 死ね! お前達全員…………いなくなれ!」


「なんて奴…………これは、本当にヤバいかも………」


攻撃と防御を同時に行うカテリーナ。


意識が朦朧としながら、何とか冷気のバリアーを維持する。本音を言えば、早くケリを着けてスノーフェアリーを鞘に納めたい。自分の言う事を聞かない魔力を、一刻も早く封印したい気持ちが強かった。


だけどチビ雪もリーティアもいないこの状況では、もう打つ手はないのかもしれない。


諦めとも言える絶望感が包んだとき。


「リーダー! もう少し持ち堪えろ! 私が何とかする!」


いきなり後ろから聞こえてきたイシェイルの気合いの篭った声が響くと、気付けば目の前を凄い速さで飛び出していった。冷気のバリアーから出てカテリーナのおぞましい霊力が蔓延する中で、イシェイルはカテリーナが操る物体を粉々に粉砕していく。


「おいマジかよ!? 生気を吸い取られちまうぞ!?」


カールの心配をよそに、イシェイルは少し息苦しそうな表情をしながらも、カテリーナのドス黒い霊力の渦の中でも攻撃の手を止めない。


「カール! あれでいいんだ! 奴が操る物体を破壊しなければファントムキラーの矢は命中させられない!」


「だけどよ! あれじゃイシェイルさんが持たないぜ!」


「カール待って…………体力お化けのイシェイルなら…………大丈夫だと思う」


「姉御まで………ああもう! 俺だけ役立たずじゃねぇか!」


この状況を打破するためには、今はイシェイルを信じるしかない。


邪魔が入ったことで、カテリーナの鋭い視線がイシェイルに向けられた。次々に作り出される結晶化された槍がイシェイルに標準を合わせる。


「目障り! おまえから……しね!」


カテリーナのターゲットが完全にイシェイルに向いた。いくらイシェイルでも、全ての攻撃を防ぎ切ることは難しい。


ましてや霊力を結晶化させた槍は、通常の物理攻撃が通用するかも怪しい。


ところがイシェイルは焦るどころか、カテリーナの注意が自分に向く事を予め想定していたかのように余裕の表情で笑顔を見せて言い放つ。


「バカが! 私はデコイなんだよ! やれー!」


イシェイルの大きな合図が飛んだ。


カテリーナの一瞬の僅かな隙、その隙を見逃さず合図を受けたスキアーが擬態していたイシェイルの影から飛び出し、蛇のような形状になって素早くカテリーナに巻き付く。


「……――!?」


初めてカテリーナが驚きの顔を覗かせる。


「哀れな少女よ、我も元は貴様と同じ霊魂。ずっとチャンスを伺っていた。

そこのダークエルフ、我が抑えている間に矢を撃て」


今は魔力の集合体のスキアーも、言ってしまえばカテリーナと同じ幽霊だった。だからカテリーナを捕らえる事ができたらしい。


「さすがスノーさんのモンスターだ! 君の作ってくれたチャンスを無駄にはしない!」


スキアーに巻き付かれて動きが止まったカテリーナに向けてタケルが矢を射る。尚もカテリーナが操る物体は、イシェイルが対処して防御させる隙を与えない。


「頼む! 当たれー!」


渾身の力を込めて放たれたファントムキラーの矢は、カテリーナの左胸に直撃する。


「!?……ギアアァァァアアアァァ!!」


背中と胸、二本の矢を受けたカテリーナは奇声を上げて苦しむ。飛び交っていた物体は床に落ち、霊力で作り出された槍の結晶も消え去った。


「や…………やった…………」


カテリーナの力が弱まったのを見て、冷気のバリアーを解除して床に膝を付いた。そしてすぐに魔剣スノーフェアリーを鞘に納める。先にスノーフェアリーから魔石を取り外すのを忘れてしまうぐらいに限界に来ていた。

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