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112話 魔剣と魔力

この感覚、何時ぶりだろうか。確か私が駆け出しの頃に、最初の街ヴィントナーで初めて受けたクエスト以来だっけ。


あの時も極限にまで追い込まれてから自分の不甲斐なさに嫌気が差して、ようやく魔剣スノーフェアリーを抜刀したんだったよね。そして自分を守ってくれたジュパルを犠牲にしてしまった。


ああ、本当に何やってるんだろ。あの時と何も変わってないじゃん。私は、あの時から何も成長していない。


結局今も自分から逃げて、そして仲間を危険に晒している。本当に情けなくて自分が嫌になる。


「姉御! 何をするつもりなんだ!」


カールの呼びかけに答えることなく、静かに首から下げている魔石を取り外してスノーフェアリーの鍔に嵌め込む。


チビ雪以外には、ずっと内緒にしていた自分の中に眠る魔力の存在。今はそれに賭けるしかない。


スノーフェアリーに嵌めた魔石はみるみる内に、透き通るような青色に変化していく。


「今から私は真の力を開放するわ。だけどお願い。私はどうなってもいいから、ここにいる仲間を助けて欲しい」


自分でもあり得ないことを言っているのは分かっている。だけど、最早すがらずにはいられなかった。


自分の中に眠る、カテリーナよりも遥かに得体の知れない何かに助けを求めるしかなかったのだ。


スノーフェアリーに嵌め込んだ魔石が完全に青色に変化した直後、刀身から強烈な冷気が溢れ出てきた。私の魔力を媒介して、スノーフェアリーから氷属性の魔力が溢れ出している。


だがあの時と違うのは、私は意識が飛んでいない。そしてスノーフェアリーの冷気の冷たさとは対照的に、体中から熱を帯びた力のようなものが魔剣スノーフェアリーを持つ右手に集中していくのを感じていた。


以前奈美先生が言っていた魔力の流れ、今それがハッキリと感じる。


「姉御、本当は魔力を使えたのか!?」


「リーダー、何で今まで隠してたんだ!」


隠してたというか使えなかったというか。


しかし二人の言葉に気を取られて、ちょっと集中力が途切れた瞬間だった。スノーフェアリーの持つ右手が凍り始めた。


「うああぁぁ……冷たい………それに少しでも気を抜くと…今にも意識が飛びそうだわ………。なるほど、一時的に力を貸してやるって事なのね。出来なければ私を喰ってやると」


「姉御!?」


「リーダー!?」


イシェイルとカールの呼びかけも耳に一切入らず、反応する余裕もない。


今は自分を制御するので精一杯なのだ。


「ええ! いいわ! 上等よ! 自分の魔力如きに負けてなるものですか!」


以前のように自分の魔力に支配されない為に、全神経を右手に集中させる。


そしてスノーフェアリーから溢れ出る魔力による冷気と必死に格闘していると、カテリーナが瓦礫を操って攻撃をしてきた。


「キャハハハハハははハハハ……オモシロウソウナ………アソビドウグ………ミーツケタ!」


自分の魔力を抑えるのに必死の状態では回避はできない。何とか敵の攻撃を防がないと。


(スノーフェアリー、あなたは私専用の魔剣のはずよね。だからお願い、私に力を貸して)


心の中で祈るようにスノーフェアリーに全てを託す。決死の覚悟で左手に持っていたオリハルコン配合ダガーを手放し、両手でしっかりと魔剣スノーフェアリーを握り直し叫んだ。


「言う事を聞きなさい! このバカ魔力がー!」


叫んだと同時に、スノーフェアリーを頭上高く突き上げて振り下ろし、そのまま床に刀身を突き刺した。すると私を囲むように青い光が床から真上にバリアーのように舞い上がり、光に触れたカテリーナが操る物体を一瞬で凍らせて無力化させた。


「すげぇ! 何だよあれ!?」


恐らく、この光は私の魔力が集まってできた冷気のバリアー。


「やった……やったの? 自分の魔力をコントロールできるようになったの!?」


痛みを感じるぐらいに冷たかった右腕の氷も徐々に解け始める。


自分でも驚きを隠せなかったが、床からスノーフェアリーを引き抜くと、さっきと同じく刀身から真っ白い冷気が煙のように溢れ出ている。そして僅かに感じる殺気。


この殺気はカタリーナのものじゃない、魔剣スノーフェアリーから感じるのは明らかだった。


それに少しでも気を抜くと、今にも気を失いそうなのは変わらない。まるで私の魔力は隙あらば喰ってやると、常に牙を剥き出しにしている獣のようだ。額から大きな汗が流れ落ちる程に、精神を最大限に集中させた。そのせいか茫然と立ち尽くしてまっていた。


「姉御! 何やってるんだ! カテリーナはまだ健在なんだぞ!」


後ろからの大声で我に返る。


カールは最後のファントムキラーの矢を装填して、カテリーナに狙いを付けていた。


カテリーナは顔を大きく歪ませ、


「アナタ………ナマイキ………ムカツクワ………………コロシテアゲル!」


スノーフェアリーに全ての攻撃を防がれたカテリーナは、再び体からおびただしいまでのドス黒いオーラを体中から放出して襲ってきた。


「なんて奴だ! 息をしてるのも苦しくなる!」


イシェイルが息苦しそうに腕で口元を抑える。どうやらカテリーナのドス黒く、凶悪な霊力にやられてしまっているようだ。


「か……はぁ………な、なんだ……立ってられ………」


カールに至っては、胸を抑えながら苦しそうに膝を付いた。立っている事すらできないらしい。


だけど不思議な事に、カテリーナと一番近い私は何ともなかった。そして、その理由はすぐに分かった。


スノーフェアリーから溢れている冷気が、私の周囲を囲むように壁になっている。この冷気は私の魔力の結晶のようなもの、カテリーナの霊力を通さないようだ。


「それなら!」


仲間の近くまで下がってからスノーフェアリーを持つ両手に精神を集中させて、冷気のバリアーを大きく広げる。自分だけでなく、仲間もカテリーナから守れるように。


「うわ!? なんだ、今度は寒いぞ!」


「息苦しいよりマシでしょ! 我慢しなさい!」


私は寒さを感じていないが、他の者達は冷気のバリアーはかなり寒いらしい。


「ああ……助かったぜ姉御! 寒いが、こっちの方が遥かにマシだ!」


「ええ、借りは返したわよ!」


一か八かだったけど、やっぱり魔力であればカテリーナの霊力に対抗できた。そもそもタケルの霊魂溶解ソウルフュージョンだって呪文の一種。


確信はなかったけど、それなら私の魔力も通用するはずだと咄嗟に思い付いた。たとえ倒せないまでも。


その思い付きは見事に証明された訳だけど。思ってた以上に私自身の消耗が激しい。自分の魔力を抑えるのが、こんなにも大変だなんて。


だけどそんな事はいい。少なくともこれで、カテリーナの攻撃から仲間を守ることができる。もし倒れたとしても悔いはないわ。


あとはタケルがファントムキラーの結界を完成させるだけだ。


しかしカテリーナも簡単には諦めない。今度は真っ黒な自信のオーラを結晶化させて、先端が槍のように鋭く尖った魔石のようなものに変化させた。それをいくつも作っていく。


「冗談だろ!? あいつ本当に霊なんだよな!?」


カールの言う通り、カテリーナは悪霊にしては規格外の事ばかりしてくる。知能も他の霊とは比べ物にならない。


しかもファントムキラーの矢を一本背中に受けているにも関わらず、全く霊力が衰える気配もない。


「キャハハハハハははハハハはは………………ナマイキナ………オマエ……………サキニ………コロス! ソシテ………ズット……イッショニ………………アソボウ…………アソビマショー!」


ニタリと笑ったカテリーナが右手を前に突き出すと、霊力で作り出された複数の真っ黒な槍の結晶が私目掛けて襲い掛かってきた。


(冷気のバリアーであれを防げるかしら………いえ、やるしかない!)


その攻撃に耐えるため、より一層精神を集中させる。私の魔力とカテリーナの霊力。どっちが強いか分からないけど、やるしかない!


と、ここで決死の覚悟を決めた時、右手の方から声が聞こえた。


「新たな主! 私を忘れてないか!」


すると統魔の指輪からミーちゃんが独断で素早く抜け出し、私の全身を覆ってあっという間に甲冑に変化する。


「ミーちゃん!?」


カテリーナの作り出した槍は冷気のバリアーに激突。しばらく一進一退の状態が続いた後に何本かの槍がバリアーを突き破って私に直撃する。


「姉御!?」


「バカな!? 自ら盾になる奴があるか!」


だが二人の心配をよそに、ミーちゃんによって守られた私は傷一つない。霊力で作られた槍は、ミーちゃんを貫く事はできずに霧散して消えた。


すっかり忘れていたけど、ミーちゃんが防げるのは物理攻撃だけじゃなかったんだった。


「ミーちゃんありがとう! そして二人とも、心配を掛けたわね。でも大丈夫、カテリーナの攻撃は私が全て何とかするから」


もはや魔戦士というより、ガーディアンみたいな戦い方だけど。でもジュパルも、こうやって矢面に立って私を守っててくれてたんだよね。


兎にも角にも、これで仲間を守れる。後はタケルのファントムキラーの結界が完成するまで持ちこたえるだけ。


(よし、これならやれる!)


もはや体力、気力をかなり消耗している中で気合いを入れ直し、スノーフェアリーを持つ両手に一層力が入った。


ところが予想だにしてない事が起こる。


ドクン!


(……――!? 何今の? 一瞬だけど、スノーフェアリーに睨まれた気がしたけど)


気合いを入れた瞬間、魔剣スノーフェアリーから一瞬だけど途轍もない殺気を感じた。


スノーフェアリーから放たれた殺気は、気のせいでなければカテリーナなんて無邪気な子供同然に可愛く思えてしまう程に、恐怖と寒気を感じるものだった。


だがイシェイルもカールも気付いている様子もなく、どうやらその殺気を感じたのは私だけのようだ。


(今の、気のせい…よね?)


思わぬ事でたじろいでいたら、後ろからタケルの声が聞こえた。


「みんな、遅くなってすまない! 結界は完成した! あとはカテリーナをこの中に封じ込めるだけだ!」


タケルの力強い声と共に、全員の士気が上がる。イシェイルは両手の拳をぶつけ、カールはラストのファントムキラーの矢を装填したファルシオンをカテリーナに向ける。


そして私は…さっきの事は一旦忘れて、再び精神を集中させる。


一方のカテリーナは、


「キャハハはは………………フフフふふふ………………フフふふ…………………クスくす………………ドコマデモ………………どこまでも………………どこまでもムカつく奴らだー!」


目をカッと見開き、今までになくハッキリとした口調で声を荒げた。

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