11話 未知の存在
奈美さんが狼狽えながら、チビ雪に指示を出した。
もう一度、私の魔力を測定するようにと。
今度は奈美さんが私の両肩に手を乗せて、魔力の流れを補助したまま。
最初の測定では、赤ちゃん並の『二』だった。
多少の誤差はあったとしても、この値が変わるとは、とても思えないんだけど。
とりあえず邪魔しないように、黙って立ったまま待っていた。
すると巣魔火を持つチビ雪の顔が、みるみる変わっていった。
「な、奈美先生…魔力値がドンドン上がっていきます」
「今どれぐらい?」
「すでに一万を突破してます。まだまだ上昇を続けています」
二人が慌てた表情で話し合っている。
とは言っても、一番焦ったのは他ならぬ私だ。
「え? え? 何かの間違いじゃないの? 私にそんな魔力量があるわけ…」
魔力を一切使えない私が、魔力値一万超え…。
そんなの有り得ない、絶対バグってるわよ。
奈美さんの話しだと魔力値一万越えは、魔導士学校の首席レベルになるそう。
魔王レベルであれば全然驚く数字ではない。
でも私の素の魔力値は、赤ちゃん並と測定された。
そこからの首席レベルである。
二人が驚くのは無理はない。
実は私の後ろにいる、奈美さんの魔力値を計っているんじゃないの?と。
そう思わずにはいられなかった。
全員が戸惑う中、私の魔力がどこまで上がるのか測定が続けられたが、途中で奈美さんに異変が起きた。
「ああああぁぁぁぁ!」
後ろで私の両肩に手を乗せてた奈美さんが突然、悲鳴を上げ始めたのだ。
驚いて後ろを見ると、なんと奈美さんの両手が凍り始めていた。
「奈美先生!!」
チビ雪が巣魔火を投げ捨てて、慌てて駆け寄る。
『フレイムピラー!』
すぐさま炎系の呪文を唱え、炎の柱を作りだした。
チビ雪が操る炎の柱が私と奈美さんを包み込み、凍り始めていた奈美さんの両手は、氷が溶け始め徐々に元に戻っていく。
「ありがとうチビ雪ちゃん、おかげで助かりました」
「奈美先生、大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫です。ちょっと油断してしまいました」
奈美さんはすぐに手を離し、幸いな事に特に怪我はしていなかった。
チビ雪が若干こちらを睨んで来るけど、でも私は何もしてない。
言われるがまま、立っていただけだ。
魔力を計るのって、こんなに危険を伴う事なのだろうか。
私は不思議に思っていた。
「チビ雪ちゃん、小雪様は何も悪くありませんよ。そんな顔をしてはいけません」
奈美さんに咎められ、チビ雪は少し肩を落としたまま、投げ捨てた巣魔火を取りに行った。
一体何があったというのか。
私は未だ状況を把握できていない。
「え…なにこれ…」
状況の把握に苦んでいた時、巣魔火を取りに行ったチビ雪が呟いたのだった。
私の魔力を計っていた巣魔火が叩き出していた数値。
なんと三万を超えていた。
想像を超えた魔力値を見て、チビ雪は驚きよりも戦慄に近いものを感じたのだ。
それはチビ雪だけではない。
数値を聞いて一瞬にして青ざめたのは他でもない、私自身だ。
赤ちゃんから、いきなりの化け物級だ。
「巣魔火の測定は途中で放り出したので、実際はそんなものではないはずです」
奈美さんが追い打ちを掛けるかのように、有り得ない事を言い出す。
もう何が何だか、私の頭の処理が全く追いつかない状態に陥ってしまっていた。
「魔王という立場であれば特に驚く程の数値ではないと思うのですが…最初の『二』からのこれですからね。驚かれるのも無理はありません。私もまさかの事で驚きました」
違う。
直感で何となくそう感じた。
奈美さんは魔力値に驚いたんじゃない。
別の何かだ。
それこそが予想外の事だったんだと、私は奈美さんの表情と震えた声を聞いてすぐに察知した。
たぶんだけど、両手が急に凍り始めたことにも関係していると思う。
「奈美さん、一体何があったのか教えてくれませんか?」
重苦しい空気の中、思い切って切り込んでみる。
何より私が魔力を使えない事に、関係しているんだとしたら。
それを聞く権利は当然あるはずだ。
「……………分かりました。私もこんな事は初めてなのですが」
奈美さんが重い口を開いて話し始める。
「これは私の推測なのですが…おそらく小雪様が魔力を使えない原因は、魔力そのものが意思を持っているからだと思います」
そこから語られたのは、思いもしない事だった。
チビ雪すらも驚きを通り越して、固まってしまっている。
「意思がある? 私の魔力が?」
「はい。私が小雪様の肩に手を置いて補助を始めてから、明らかに抵抗する力が働き始めました」
あまりにも信じ難い事だ。
魔力に意思があるなんて、そんなこと有り得るのだろうか。
「最初は小さな抵抗でした。ところが私が巣魔火で魔力の測定を指示した途端、その抵抗は徐々に激しくなったのです。『今すぐやめろ』私の頭の中に響いた謎の声、今でも鮮明に思い出されます」
謎の声が奈美さんの頭の中に響いた瞬間、私の肩に手を置いていた両手が凍り始めたという。
私の魔力属性が氷属性、だとしたら魔力が暴走して奈美さんの手を凍らせたのか。
少なくとも私の意志ではない。
「つまり私の魔力は言ってしまえば、私の言う事を聞かない獣と一緒だと?」
「いえ、そういうつもりで言った訳では…でも、小雪様の意志で操る事ができないのは確かです」
言葉足らずで奈美さんに気を使わせてしまった。
でも実際そういう事になる。
魔力に意思があり、私の思う通りに動かないのであれば、ハッキリ言って不気味な未知の存在と同じだ。
当然、不安になって聞いた事は
「もしかして私は自分の魔力に、いずれ支配される可能性はあるんでしょうか?」
「それは分かりません。色んな生徒を見て来ましたが、こんな事は初めてです。魔力に術者の個性が出る事はありますが、小雪様のは明らかにそれとも違います」
なんて事だ。
どうせ魔力が扱えないのなら、まだ魔力がない方が良かった。
魔力に意思があるなんて…それが私の体の中にいる。
気持ち悪さと不気味さで、流石の私も恐怖心が出始めていた。




