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109話 エルドリッジの悪霊

歩くたびにギシギシという不気味な音が床から鳴り、恐る恐る地下へと通じる階段を四人で下っていく。地下へ続く階段の先は真っ暗で深く、仮面の加護でも先まで見通す事ができないぐらいだった。


雰囲気も明らかに変わってきた。


階段を下りて地下が近付いて行くとファルシオンの霊力探知オーブサーチがなくても、肌に突き刺すようなビリビリとした嫌な空気が充満している。


「なんか、寒くなってきたわね」


吐く息が白くなり、肌感覚だけではなくて本当に周囲の気温が低いようだ。


「霊の影響だと思うよ。それだけ悪霊に近付いているんだ。それにしても流石に暗すぎるね。

リスクがあるから出来れば使いたくなかったんだけど仕方ないか。『光球シャイニング』」


タケルは辺りを照らす光球を作って、少し前を先行させた。カールのファルシオンのライトよりも、自分達の周囲が見渡せるぐらいに明るくなる。


「そんな便利な呪文があるなら早く使ってくれたら良かったのに」


「そうしたかったけど、霊を無駄に呼び寄せてしまっても嫌だったからね。でも、こんなに真っ暗だとそうも言ってられないと思って」


タケルの呪文のおかげで、少しはマシになった。だけど不気味さは一層増している。


ようやく地下へと辿り着くと、早速ファルシオンから警告音が鳴った。モニターにも初めて真っ赤なオーブが映し出される。


近付いてきた悪霊は具現化して髭を生やした男の姿を現すが、それがエルドリッジなのかは分からない。しかしその顔は、目がえぐられているのかのような気味の悪さ抜群の顔。


「いきなりお出ましかよ! ファントムキラーの矢を使うぞ! はいフォーリー! ボウガンを出せ!」


「了解しました」


カールは背中のえびらからファントムキラーの矢を一本抜くと、ファルシオンは矢を撃つためにボウガンに変形していく。その後ろではタケルが専用の魔導書を持ち、霊魂溶解ソウルフュージョンの準備して呪文の詠唱を始める。


だがカールが矢を射ろうとした時、悪霊は廊下に落ちている破片や瓦礫を操って攻撃してきた。


「マジかよ!?」


カール目掛けて破片が襲い掛かってきた。慌てたカールは、ファントムキラーの矢をあさっての方へと撃ってしまい一本失ってしまう。


慌てて抜刀して剣を構える。


「はぁ!」


私の方はすぐに剣を抜いて、襲ってくる破片を切り払いする。さらに、ずっと後ろで怯えていたイシェイルも前に立ち、拳にカマイタチを乗せて飛んでくる破片に強烈な一撃をかました。


イシェイルが放ったカマイタチによって、無数の破片は粉々に粉砕される。


「カール! 今の内に!」


「おお! 任せろ!」


カールは再び装填したファントムキラーの矢を悪霊に向けて放ち、悪霊の胸に見事に命中させた。


「ギャアオオァァァ!!」


ファントムキラーの矢を受けた悪霊は、何とも言えない悲鳴とも奇声とも聞こえる声を上げる。ところが矢を受けた後も、悪霊はこちらに向かって進んできた。動きは鈍くはなっているけど、足止めには至っていない。


青白い顔は歪み、気持ち悪い動きをしながら近付いてくる。


「おい! 矢が効いていないぞ!」


イシェイルが慌てた声を出して、オリハルコン配合ダガーを構える。


「カール! もう一発矢を! 急いで!」


「今やってるから焦らせないでくれよ!」


二発目の矢を急いで装填したカールは、すぐにファルシオンを構えて二発目の矢を射る。今度は悪霊の首元に命中し、ようやく悪霊の動きが止まった。


「悪霊の力が強過ぎて、ファントムキラーの矢一発じゃ動きを抑えれなかったのね」


「タケルまだか!? 早くあいつを浄化しろ!」


霊魂溶解ソウルフュージョンの呪文を唱え続けるタケルだけど、まだ発動できないらしい。イシェイルの言葉にも反応せず、呪文を詠唱し続けている。


念の為、カールが三発目の矢を悪霊に命中させた。


「これでしばらくは大丈夫だろ!」


「でも悪霊一体に矢を四本も使ってしまったわ。あいつが今回の依頼の悪霊ならいいんだけど」


「悪いな姉御、たぶんあいつじゃないぜ」


「あいつじゃないのか!? じゃあ悪霊はまだいるというのか!?」


カールが気になる発言をして私とイシェイルがたじろいだ時、やっとタケルの準備が整う。


「くらえ! 『霊魂溶解ソウルフュージョン!』」


タケルが右手を前に突き出すと、悪霊の足元から魔法陣が出現して、金色の光の柱が突き上がる。光に包まれた悪霊は、体が溶けるように崩れ始めて消滅していった。


「ふう、悪霊一体に少し手間取ったわね」


ホッと一息付いてから周囲を警戒しつつ、さっきカールが言った事を改めて聞き返した。


「ねえ、今の悪霊が今回の依頼の奴じゃないってどういう事なの?」


「俺の記憶違いじゃなければ、今の悪霊はエルドリッジでも息子のエバートでもない。たぶんグルイヤール家の誰かだと思うぜ。領主に見せてもらった記録書の写真には載ってなかった顔だからな!」


「カール、まさか記録書の写真の者達の顔を全て覚えているのかい?」


「ああ! 俺は記憶力が良くてな!」


そういえばカールの記憶力は規格外だった事を、すっかり忘れていた。


領主から記録書を借りた後、カールとイシェイルにも目を通してもらってた。イシェイルの方は早々に飽きてしまったようだけど、カールはグルイヤール家の屋敷が記されたページに一通り目を通していたようだ。


それなら余計な霊を相手にせず、エルドリッジの悪霊だけを狙うようにした方がいいのかもしれない。ファントムキラーの矢も残り六本、これ以上無駄撃ちする訳にはいかない。


「ここからはなるべく慎重に行くわよ。矢も節約しないと」


抜刀した剣を納めた後、オリハルコン配合ダガーを構えてゆっくりと先へと進んだ。地下という事で月明りも入らず、タケルの出した光球シャイニングとファルシオンの明かりだけが頼りになっている。


その後は、途中いくつかの部屋を探索するも悪霊は見つけられず。


ただその中で、一つ気になる部屋を見つける。


「あれって何かの祭壇? 一体何を祀ってたのかしら?」


狭い部屋の奥の壁際に作られた祭壇跡には、何やら骨のような古びた物が置かれている。

よく見ると小さな頭蓋骨に見えた。


「姉御、ここには何もないぜ。霊力探知オーブサーチにも全く反応がない。金持ちは庶民には分からないコレクションがあったりするからな。これもその一つだろうぜ」


「ここに依頼の悪霊がいないのなら早く行こう。時間の無駄になってしまう」


「うん、そうだけど。何か気になるのよね。ていうか、祭壇に置かれてる写真はカテリーナじゃない?」


祭壇には劣化して分かり難いけど、おそらくカテリーナらしき少女の写った写真も置かれていた。


「ねえ、この頭蓋骨…もしかして」


祭壇に置かれている頭蓋骨らしき物が、とにかく気になって仕方ない。


「リーダー、いい加減にしろ! 私はさっさと依頼を片付けて寝たいんだ!」


祭壇の事が気になって調べてみたい気持ちはあったけど、結局は三人に押し切られる形で部屋を後にする。


部屋を出てからも探索は続くが、あまりの広さに最早屋敷の地下というよりダンジョンに近いかもしれない。


悪霊に警戒をしながら、さらに廊下の奥にある部屋へと入った。


「う……何か、さらに気持ち悪い空気になったわね」


今まで探索した部屋以上に、背筋が凍るような冷たくて重い空気がのしかかる。部屋のあちこちには真っ黒なシミが床や壁、天井にまであった。


「恐らくここが拷問部屋だったんだろうね。多くの奴隷がここで命を落としたんだ」


それを証明するように、部屋のあちこちには見慣れない趣味の悪い道具の数々。たぶん、拷問をする為の道具なんだろうな。


するとタケルは持っている魔導書を開き、霊魂溶解ソウルフュージョンの呪文を唱えだした。


「タケル、何で呪文を…」


だがタケルが詠唱を開始した直後、カールのファルシオンから警告音が鳴り響いた。そして部屋のドアが勢いよく閉まり、完全に閉じ込められてしまう。


「なんだ!? 一体何が起きている!?」


「イシェイル落ち着いて! ダガーを構えて!」


「奴は俺達を逃がさないつもりかよ!」


ファルシオンの霊力探知オーブサーチには、さっきの悪霊よりもひと際大きな赤いオーブが映し出されていた。そのオーブの方向に見ると、真っ黒な人影が姿を現す。


青白い顔は崩れていて、顔半分が骨が剥き出しの状態。だけど顔半分の特徴から、カールがこの悪霊がエルドリッジだと確信する。


「姉御! こいつがエルドリッジだ! 間違いないぜ!」


「そうなの!? やけにあっさり出て来たわね」


「尚更都合がいいじゃねぇか! こいつを倒せば依頼完了になるぜ! これでも喰らいやがれ!」


カールがファントムキラーの矢を放つ。だが一瞬で姿を消して矢は外れてしまう。


そして部屋に置かれた拷問道具がガタガタと動き始めて、またもや私達を襲ってきた。


「チッ! これは私が対処する! リーダーはタケルとカールを守れ!」


「アンタさっきまで怖がってなかった?」


「こ、怖がってなどいない! 物理が通用するならなんてことはない!」


つまり幽霊は怖いけど、飛んでくる物は怖くないって事ね。


素直じゃないイシェイルは襲ってくる無数の拷問道具を拳で破壊して、足元からはスキアーも鞭のように飛んでくる刃物などを打ち払う。


だけどエルドリッジの悪霊は、こっちが目の前に気を取られている間に後ろへと回り込んでいた。


「うあああ!」


「タケル!?」


詠唱を続けていたタケルが、エルドリッジの霊力によって飛ばれされて部屋の壁に打ち付けられる。すぐさまオリハルコン配合ダガーで斬り払い、エルドリッジを遠ざけた。


「タケル、大丈夫!」


「僕は大丈夫だ! それより早くファントムキラーの矢を!」


分かってはいるけど、エルドリッジは見えた時には瞬時に襲ってくる。これじゃあ矢を狙って撃つのは無理だ。


「姉御、目で追ってちゃ当てられない! 俺は霊力探知オーブサーチを使って狙って撃つから、援護を頼む!」


「できるの? いえ、そんなこと聞いてる場合じゃないわね。いいわ、任せて!」


カールは霊力探知オーブサーチに集中し、タケルは中断した詠唱を再び始めている。私一人で二人を護衛するのは中々至難の業だけど、今はやるしかない状況。


ファルシオンの警告音が鳴りっぱなしの中、カールが矢を装填して狙いを定めた。


「後ろに行くぞ! 姉御そこだ!」


カールの指示通りに指をさされた方に向かい、何も見えない場所に向かってオリハルコン配合ダガーを振り払う。


「ギアアアァァアァア!」


ダガーを振り払った途端、目の前で苦悶の表情を浮かべてエルドリッジが現れた。そしてすぐに霧散して逃げようとする。


「逃がさねぇぜ! 当たれー!」


オーブの動きを頼りに見つけたエルドリッジの悪霊目掛けて、カールがファントムキラーの矢を放った。視認できない状態だったけど、矢は見事にエルドリッジに命中した。


「グォォアアギアァア!」


ファントムキラーの矢が当たって、ようやくエルドリッジが視認できる状態で拘束される。しかし予想通り、一発では完全に動きは封じ込めないようだ。


それでも十分に効果はある。完全に動きは止められないけど、これで消えるのを阻止できる。


問題はさっきの悪霊とは違い、矢を受けてもまだ物が襲ってきた。やっぱりエルドリッジの悪霊は霊力が強いようだ。


「早く何とかしろ! 私も少し疲れてきたぞ!」


素早い動きで一人で飛んでくる物体の数々に対処をしているイシェイルも、流石に疲れが見え始めている。


「目で見えるんなら、こっちのもんさ! もう一発くらえ!」


カールが二発目の矢をエルドリッジに叩き込む。避けようとしたエルドリッジだけど、ここでスキアーが機転を利かしてエルドリッジに攻撃をして動きを鈍らせて、見事に矢は命中した。


これで大分動きが鈍くなったけど、まだ少し動いてくる。


「しぶといわね。しつこい奴は嫌われるわよ」


だが二発目の矢を受けた所で、飛び交う物体は地面に落ちた。手強いエルドリッジの悪霊も、ファントムキラーの矢を二発受けては流石に霊力が落ちたらしい。


すかさずカールが三発目の矢を射って、最初の悪霊同様にエルドリッジの悪霊も完全に動けなくした。


後はタケルがトドメを刺すだけだけど、エルドリッジの邪魔が入って中断した霊魂溶解ソウルフュージョンの詠唱はまだ終わらない。


「タケル急げ。ファントムキラーの矢を三発受けてるとはいえ安心できん」


「イシェイル、急かして失敗したら目も当てられないわ。それよりも」


「どうした姉御? 何か気になる事があるのか?」


確信はない。ないんだけど、ずっと引っ掛かることがあった。もちろん祭壇のあった、あの部屋の事だ。


そんな事を考えている内に、タケルの詠唱が終わり霊魂溶解ソウルフュージョンが発動する。


霊魂溶解ソウルフュージョン!」


「ゴギャァァアオオォォ!」


呪文による金色の光に包まれ、エルドリッジは断末魔の叫びを上げて徐々に消滅していく。やっと終わったかに思えた時だった。


エルドリッジは完全に消える直前、気になる一言を残していく。


「キ…キサマラモ……ゼン…イン……シヌ………ココカラ……デラレ…」


全てを話し終える前にエルドリッジは消滅した。


「ふん、悪霊になっても戯言を残す頭は残っていたんだな」


イシェイルもすっかり霊に慣れたようだけど、どうしてもエルドリッジの残した言葉が引っ掛かる。


「終わったな! 早く帰ろうぜ!」


「スノーさん、どうしたんだい?」


「そういや姉御は、さっきも何か気にしてたよな?」


「いや、私の思い過ごしならいいんだけど。とにかく一旦部屋から出ましょうか」


閉じ込められていた拷問部屋のドアは難なく開き、廊下に出てから一階のフロアに上がる階段を目指す。エルドリッジを消滅させたからか、カールのファルシオンに映るオーブはかなり減っていた。


エルドリッジに囚われていた霊魂が解放されたんだと思うけど、それでも私はまだ嫌な感じが取れないでいる。


「ねえ、私やっぱりこれで終わりに思えない。何か見落としてる気がする」


「おい、姉御はさっきから何言ってるんだよ! エルドリッジの悪霊は消滅させたんだぞ!」


「いや、今回ばかりは私もリーダーに同意する。実はさっきから全身の肌が逆立ってるんだ。エルドリッジの悪霊を消滅させてからな」


「姉さんまで。でもそしたら一体何が」


疑念を抱きながら階段を上がり一階のフロアへと上がった、その時だった。カールのファルシオンが今までになく大きな警告音を鳴らし、大量のオーブが次々に映し出される。


ファルシオンの警告音に反応するように、屋敷全体が唸り声を上げる。単なる音というよりも、モンスターの叫び声にも聞こえるものが屋敷に木霊する。さらに、そこら中の扉がバタンバタンと開いたり閉じたりして、物や瓦礫が飛び交い始めた。まるで私達を生かして帰さないと言わんばかりに。

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