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108話 幽霊屋敷潜入

「ここが幽霊屋敷ね。昼間に見ても不気味だったけど、夜に改めて見ると幽霊屋敷というより化物の巣って感じ」


かつてワースを支配していたグルイヤール家の屋敷、魔王グリテアに粛清された後は誰も住んでいない。つまり約四十年は放置された状態になっていて、あちこちがボロボロの状態になっている。


悪霊は昼にも出るには出るらしいけど、基本的には夜に出るとの事で真夜中に訪れた。ハッキリ言って中に入るのも躊躇われる程の不気味さだ。


「姉御、俺やっぱり離れに帰ってもいいか」


「ダメに決まってるでしょ。むしろアンタが残らないといけないんだから」


幽霊屋敷を目の前にして、流石にカールも怖気づいてしまったらしい。気持ちは分からなくもないけど、今更後に引けないのだ。


「それじゃあ行くわよ。みんな武器を装備して」


全員の準備が整ったとこで、屋敷の大きな扉の前まで移動してドアに手を掛ける。ところがドアがサビ付いているのかビクともせず。


体全体を使って押し込んでも全く歯が立たなかった。


「ちょっと、手伝ってよ」


後ろで見ているだけの三人に声を掛けるが、痺れを切らしたイシェイルがドケと言わんばかりにドアの前に立つ。


イシェイルはそのまま強烈な一撃を噛まし、ドアを粉々に吹き飛ばす。


辺りに凄い砂煙と轟音が鳴り響き、周囲にいた真っ黒な鳥達がびっくりしたように空へと舞い上がっていった。


「何やってるの! こんな派手にやったら周りの者達に気付かれるじゃない!」


幽霊屋敷は領主の命によって立ち入り禁止になっている。だからクエストも隠密でやって欲しいという約束があった。


「ふん。ちんたらやってるからだ。どうせ取り壊すなら扉の一つや二つ、ぶっ壊したところで問題ないだろう」


「私が言ってるのはそういう事じゃなくて!」


「スノーさん、姉さん。今はそんな事をしている場合じゃない。早く中に入ろう」


「「………」」


またいつもの如くイシェイルと喧嘩を始めてしまい、タケルに窘められてからようやく屋敷の中に入る。


屋敷の中は当然真っ暗だけど、私は仮面のおかげで明るく見渡す事ができる。


「はい! フォーリー!」


「はい。ご命令を」


「ライトを付けてくれ!」


「了解しました」


カールはファルシオンに命令すると、ファルシオンから前方に長く伸びる光が照らされる。本当に色々と便利な機能が付いてるんだな。


そして幽霊屋敷の玄関を入ると、まずは大きなフロアがお出迎えだ。壁のあちこちには、趣味の悪い肖像画や置物が置かれている。


「はい! フォーリー!」


「はい」


霊力探知オーブサーチを出してくれ!」


「はい、了解しました」


二度目の命令にカールのファルシオンは、中央に付いた巣魔火スマホ)から立体的なモニターが映し出される。そのモニターには、青や白く光る無数の球が映し出されていた。


「それなに?」


「ああ、今映ってるのはオーブと言って、霊が出す霊力オーブを探知してるんだ! リーティアが新たに付けれくれた機能さ! 悪霊だと警告音と共に、オーブも真っ赤に映るらしいぜ!」


「へぇー、ホント準備に抜け目ないわね」


「それがあれば僕も仕事がしやすい。頼りにしてるよ」


ファルシオンの便利な機能に関心しながら、屋敷の奥へと向かおうとした時だった。


バターン!!


突然大きな物音が屋敷の奥から鳴り響いた。流石に今のは心臓が飛び出るかと思うぐらいにびっくりする。


「な、なあ。今の音は…何かが倒れただけだよな?」


「し、知らないわよ! アンタ確認してきてよ!」


「な、何で俺が!? 姉御が先頭を行けよ!」


「女の私に行けっていうの! アンタそれでも男なの!」


「クエストでは男女平等だ! 男も女も関係ないぜ!」


たかが幽霊と思っていたけど、いざ不気味な屋敷に足を踏み入れると、やっぱり怖いものは怖い。今にして思うと、首狩り騎士事件の時は私よく平気だったな…。


「そうだイシェイル、あなたが先頭を…って、何やってるの?」


後ろを振り向いて気付いたけど、イシェイルが私が羽織るローブを鷲掴みにしてブルブルと震えていた。


「まさか、怖いの?」


「ば、バカなことを言うな! 私は誇り高きダークエルフ! 幽霊如き怖い訳が」


バタバタ! ガシャン!


「うわー!!!」


また大きな音が鳴りびいてイシェイルが大きく取り乱す。


「なあ姉御! これを見てくれ!」


カールに言われてファルシオンをよく見ると、霊力探知オーブサーチにさっきまでとは比べ物にならない程に大量のオーブが映し出されていた。


「これは恐らく警告だろうね。僕達に出て行けと言ってるんだ」


「タケル冷静ね。怖くないの?」


「ん-、幽霊なんて見た事ないからね。知識としては知っていても、あんまり想像できないんだ。それよりも姉さんの酒癖の悪さの方が何倍も怖いよ」


「な、なんだと!?」


タケルの冗談に怒るイシェイルだが、足元がガクガクと震えている。クエスト前はあんなに威勢が良かったのに、どこに行ったのやら。


だが、それからも屋敷のあちこちから怪奇な音が響き、途中から誰かに見られているような視線も突き刺さるように感じてきた。


「とにかく早くクエストを終わらせて屋敷を出ましょう」


「あ、ああ。リーダーに賛成だ」


「イシェイル、ローブから手を放してよ。動きづらいでしょ」


気持ちを落ち着かせて屋敷の奥へと入っていく。カールのファルシオンが、どんどん霊を探知していて騒がしくなってきた。


「どこに向かえばいいんだ? かなり広い屋敷で迷っちまうよ」


「ハイドリッヒの話しでは、初代主のエルドリッジは地下で死んでいたのよね。もし彼の悪霊がいるとなれば、たぶん地下じゃないかしら」


「よし、それなら地下への入り口を探そう」


あまりに広い屋敷の中で、地下室の入り口を探すのは大変だ。あちこち崩れていたり、物が散乱しているのも邪魔になっている。


その時だった。カールが大きな声を上げる。


「待て! 大きなオーブがこっちに向かって来る!」


ファルシオンに映るオーブが、どんどん巨大化してこちらに向かって来るのが映し出させる。


カールが指さした方を見ると、青白い顔をした奴隷服を着た男の霊が具現化して襲ってきた。


「俺に任せろ! ファントムキラーの矢を!」


「カール待て! 悪霊じゃないなら矢は使うな!」


ファントムキラーの矢は十本しかない。一度霊に使ってしまうと効力を失ってしまうから、手当たり次第に使う事はできないらしい。


さっきのカールの話しでは、悪霊であればファルシオンから警告音が鳴り、オーブも赤く映るという事だった。だけど目の前の霊は映るオーブが白色で、警告音も鳴っていない。つまり退治すべき悪霊じゃない。


「スノーさん、オリハルコン配合ダガーを!」


「ええ! 任せて!」


ダガーを構えて、襲ってくる霊に向かってダガーで切り払う。霊は奇声を上げて霧散し消えていった。


「ふう、何とか追い払ったわね。それじゃあ行きましょ…って、イシェイル何やってるの?」


幽霊があまりに怖いのか、なんとイシェイルがカールに抱き付いている。カールもまんざらでもないらしく、鼻の下を伸ばして照れている。


ここに来てこれじゃあ、足を引っ張って邪魔になるだけなんだけどな。


「イシェイル、怖いんなら屋敷の外に出て。後は私達でやるから」


「ち、違う! まさか、こんな暗闇とは思わなかったからな! それで私の拳も効かないんじゃ!」


必死に言い訳をするけど、それを一般では怖いと言うのよ。変にプライドが高いから受け入れられないのかもしれないけど。


「だけど姉さん。この先はもっと危険になる。悪いけど足を引っ張るだけだ」


ちょっと可哀想だけどタケルの言う通りだ。説得して出て行ってもらおうと思った時に、思わぬ助け舟が現れる。


「スノー様、魔力の集合体である我は霊に攻撃ができます。ここは我をイシェイル殿の護衛に付かせて頂けないでしょうか?」


足元からスキアーがイシェイルの護衛をさせて欲しいと願い出てきた。よく考えたらスキアーは霊魂に魔力が集まったアンデットモンスター、相手が幽霊でも攻撃可能なんだ。


スキアーの提案を受け入れ、イシェイルの足元に擬態させる事にする。


「スキアー、イシェイルの護衛よろしくね」


「は! お任せください! スノー様!」


「す、すまん。世話をかける」


「でもイシェイル。スキアーは私から一定の距離から離れれると弱体化してしまうから、あまり私から離れないでね」


「う、うむ。分かった! 絶対に離れない!」


そう言ってイシェイルは私の後ろにくっ付いてきたけど、それは近付き過ぎなのよ!


素直に幽霊が苦手だと言ってきたチビ雪の方がマシだったなと思いながらも、イシェイルの意外な一面を見れて少し面白がっていたのは内緒の話し。


その後も時折襲ってくる幽霊の妨害に遭いながら、ようやく屋敷の地下に通じる入り口を見つける。

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