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105話 ファントムキラー

幽霊屋敷の調査のクエスト受注をした夜、依頼人ゲオルグから連絡が届いた。


ただ詳しい依頼内容は、実際に会って話したいという事だった。最後の文に最終確認となる一行が添えられて。


「ふーん。もし命を落としても責任は取れないか。高額報酬の依頼だし、ある程度危険な依頼だろうなとは思ってたけど」


屋敷のリビングには全員集まっており、夕食を食べ終えて各々まったりと過ごしていた。私はソファーに寝転がりながら、依頼人のメールを読んでいた。ゲオルグという依頼人は、もし話しを聞いて危険だと判断したら辞退しても構わないとまで書いてくれている。


もしかすると、この依頼は私達が初めてじゃないのかもしれないな。


「じ、辞退しましょうよ」


「チビ雪ちゃん、あなたはどうせ来ないんだからいいじゃない。それにワースで困っている者がいるのなら、助けるのが私でしょ!」


「ん? 姉御は何時からそんな正義感に熱い奴になったんだ? 俺の時は金のためじゃないと動いてくれなかったじゃ…ごはぁ!」


余計な事を漏らすカールの鼻っ面に、おもっくそパンチをめり込ませた。椅子から転げ落ちたカールは、鼻血を抑えながら悶え苦しんでいる。


「な、何しやがんだよ姉御! いてぇじゃないか!」


「アンタが余計なことを喋るからでしょ!」


「だって事実じゃないか!」


「イシェイル、カールの顔面にパンチをお願い」


「うわー!! 止めてー!! イシェイルさんのパンチを喰らったら、首から上が無くなっちまうよー!!」


「全く、緊張感の欠片もないな」


イシェイルが少し呆れたように言葉を漏らす。


そりゃあ昔だったら幽霊なんて怖かったよ。でもスキアーと戦った事もそうだけど、その後も色んな相手と戦ってきたから、それなりに耐性が付いて来ている。ましてや直近じゃ魔王グリテアとも対立し掛けたんだから、それに比べれば幽霊の一体や二体、なんてことないように感じてしまっていた。


まだ相手がどんな幽霊か聞いてないから、もちろん油断はできないんだけどね。


それを見越してなのか、ソファーで私達四人が騒がしくしている所から、少し離れたテーブルではリーティアとタケルが何やら作業をしていた。


タケルの使う矢に二人で何やら細工をしている様子だ。


「さっきから凄い一生懸命に何やら作業しているけど、何を作っているの?」


「これは対幽霊用ファントムキラーの矢を作っているんです」


「矢の先端にファントムキラーの刻印を掘っているんだよ」


「うわ、そんな細かい作業をさっきからずっとやっていたのか。私には到底無理だ」


「だから姉さんには頼んでないんだよ」


タケルとリーティアの二人は、小さなナイフを器用に使って矢の刃となる部分に、小さな刻印を掘っている。これに関しては私もイシェイルに同意だ。


しかしファントムキラーの矢を使えば、幽霊を殺せるということだろうか。


「その矢を受けると幽霊はどうなるの?」


「ファントムキラーの矢は、一時的に幽霊を拘束することが可能になるんです。まあ我々で言うところの麻痺状態にするということですね」


「麻痺? じゃあ結局殺せないんだ」


「そうです。霊体である幽霊を物理的に殺すことはできません。この矢は足止めのため、トドメを刺すのはタケルさんがやります」


「タケルが? いったいどうやって?」


「前にも言ったかもしれないけど、僕の本職は魔界でも数少ないヒーラーだ。その中でも僕は、霊魂熔解ソウルフュージョンが使える。例え霊体であっても消滅させることが可能だ」


そうなると今回の依頼は、正にタケルに打って付けの依頼なわけだ。でも、それなら何故足止め用の矢なんて作ってるんだろ。


霊魂熔解ソウルフュージョンは大きな弱点があるんです。それは発動に時間が掛かることです。それに呪文の範囲内にいなければ効果がありません」


「なるほど、だからファントムキラーの矢で動けなくするのね」


「だがタケルが矢まで放って、霊魂熔解ソウルフュージョンまで使うのか? かなり負担が大きい気がするが」


「この矢を使うのは僕じゃない。カールだよ」


「え? 俺?」


「はい、先日ファルシオンをタケルさんの矢も打てるようにアップデートしておきました」


そこまで見越して準備してくれていたのか。となると私とイシェイルは何をしたらいいのだろうか。


「じゃあ今回の依頼は男二人に任せてしまっていいのかな?」


「いや、スノーさんと姉さんには僕とカールの護衛をして欲しい。幽霊が邪魔をしてきた時に追い払ってほしいんだ」


「追い払うってどうやって? 剣で斬ればいいの?」


「このダガーを使ってください。オリハルコンを約六十パーセント配合した合金で出来ています。霊はオリハルコンを嫌うので、一時的ですが追い払うことができます」


リーティアがディメンション・ボックスを開き、私とイシェイルにオリハルコン配合ダガーを渡してくれた。正直ダガーは扱い慣れていないので、手になじむまで振っておいた方がよさそうだ。


それは普段は拳一筋のイシェイルも同じだった。


「私がダガーとは、本音を言えば殴り倒したいんだけどな」


「姉さん、それだと追い払うこともできないよ」


本当にどこまでも脳筋思考だ。見た目はグラマラス体系で女目線から見ても美人なのに、言うこと成すことは本当に筋肉バカなんだから。


「あの、私もファントムキラーの矢を作るのを手伝います。今回はみんなに迷惑をかけてしまうから」


幽霊が怖いからと依頼に参加しないチビ雪は、それなりに責任を感じていたみたいだ。タケルの横に座って手伝いを始めた。


タケルはチビ雪に刻印が印字された紙を前に置いて、この通りに掘るように教えている。


「見ての通り細かい作業だ。こんな小さな矢の先端に複雑な刻印を掘らなきゃいけない。ギリギリまで頑張るけど、作れるのは十本あればいい方だと思ってくれ」


「じゃあ俺の役目も重要って訳だな! ちょっと矢を撃つ練習をしてくるよ!」


「あ、待って! なら私もダガーを振る練習をするから一緒に行くわ!」


「チッ! なら私も付き合う」


不器用組は三人で離れの裏庭へと出て、幽霊退治の特訓となった。カールが本来のファルシオン用の矢を撃って、私とイシェイルがダガーで振り払うというもの。


「いいのかよ? 本当に矢で撃って」


「遠慮は要らないわよ。当てるつもりで撃ってきて」


「ああ、そうじゃないと修行にならないからな」


最初は躊躇してたカールだったけど、使い慣れてないせいもあって普通に命中率が悪かった。ただ突っ立ってるだけで、矢がかすりもしない事もしばしば。


だけど練習を重ねるうちに、カールの命中精度も上がってきた。


これでやっと特訓になるというもの!


夜で暗かったのもあって最初は避けるので精いっぱいだったけど、目が慣れてきてコツが掴めてきてからはようやくダガーで振り払うことも出来るようになり始める。


ただやはり、普段使っている剣よりも圧倒的に短いので、何度もタイミングをミスることもあった。ここは依頼までには修正したいところだ。


その後も特訓は夜遅くまで続いて、領主から注意されてしまったところで終了。離れへと戻ることになった。離れに入るとチビ雪は寝落ちしてしまっていて、タケルも休むタイミングだった。


「リーティアさん、申し訳ない。あとはお願いします」


「ええ、ゆっくり休んでください。朝まで少しでも仕上げておきます」


タケルが寝落ちしたチビ雪を抱きかかえて、二階へと上がっていった。


「私たちも休むわね。おやすみ」


「俺もこれで! おやすみ!」


「先に眠らせてもらう」


「はい、おやすみなさい」


リーティアに挨拶をすると、各自の部屋へと戻っていく。私は二階へと上がると寝る前にシャワーを浴びて汗を流してから自室へと戻った。


幽霊退治の依頼、果たしてどうなることやら。

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