104話 忘れた頃に
「スノーお姉さま、今後の計画はどうしますか?」
港町ワースでは大きな屋敷まで事実上手に入れ、旅に出てから非常に安定した生活を送れるようになった。食べ物なんかも領主の妻、テナー・ミューレンが送ってくれたりと至れり尽くせりの状態だ。
そんな生活が数日続いてしまった事で、どうにもパーティ全体の士気が停滞気味になっている。
「ん-、もう少しいいんじゃない? 別に焦って出発する必要ないじゃん」
魔王グリテアとのいざこざも、ダークエルフの問題も解決してしまい、とにかく海を見ながらのんびりする生活がすっかり気に入ってしまっていた。
今もソファーに寝転がりながら、巣魔火を弄っている。
だけど、その様子に危機感を抱いているのがチビ雪だ。
「良くありませんよ! 旅をしないんならガーデン・マノスに帰りましょう!」
「そうは言ってもねー。チビ雪ちゃんは何かしたい事とかないの?」
「私ですか? うーん、そうですね。せっかく海の町にいるんだし、海で遊びたいかもしれません」
「旅に出るんじゃなくて結局遊ぶんだ。じゃあチビ雪ちゃんも一緒じゃん!」
「ち、違いますよ! このままだと、本当にここで旅が終わってしまいます!」
そうは言っても、他のメンバーもそれぞれ好きな事をして日常を楽しんでいる。中々旅に出る腰が上がらないのも事実だ。
「スノー様、それなら久しぶりにクエスト村でも覗いてみたらいかがですか?」
クエスト村、そう云えば登録してたわね…。最近じゃカジノで一発当てたりして、すっかり忘れてしまってた。
「じゃあ一応見てみる。めんどくさいけど」
リーティアに言われて、渋々クエスト村を立ち上げて覗いてみた。ランクは今は上から三番目のゴールドランクだけど、仕事依頼の場所をずっとユトグアのままにしてたから、ユトグアから大量の仕事依頼が入ってきてた。
慌てて依頼場所を港町ワースに変更する。
そして他に、どんな依頼内容があるか確認してみる。港町というだけあって、海に関する依頼が多い。
「どうですか? 何かいい依頼ありました?」
「うーん、これと言ってピンとくるものがないわね」
海の上は何かと危険だし、それは避けて見て回った。そんな中、一つだけ手が止まる依頼を見つける。
「あ、これ面白そう」
「どんな依頼ですか?」
「お化け屋敷の調査ですって!」
「ええー!? お化け屋敷ですか!?」
チビ雪のこの慌てよう。まさかと思ったけど。
「もしかして、お化け怖いの?」
「こ、怖いわけじゃ! 幽霊なんて迷信ですよ! 魔界には存在しないものなんです! そうです! あんなのは非科学的すぎます!」
「あらチビ雪さん、スノー様が使役しているスキアーさんも突き詰めれば幽霊ですよ。さらに言えば、魔界に存在するはずのなかった日本人だって、その理屈だと非科学的な存在という事になってしまいます」
「日本人は異世界の人間だからいいんです! スキアーだってスノーお姉さまが使役してるから怖くありません!」
「じゃあやっぱり怖いんじゃない」
私とリーティアに言いくるめられて、チビ雪が少し半泣き状態になった。これ以上は可哀想なので止めてあげたけど、お化け屋敷調査の依頼は興味があるのは変わらない。
「い、依頼受けるんですか?」
「まだ分からないけど、私は興味があるな」
「ちなみに場所はどこですか?」
「この屋敷から北東にある大きな館みたいね。誰も住まなくなって、十年以上は経ってるみたい」
「あ、確かにワースを回っていた時に、ちょっと不気味な館がありましたね…」
依頼内容は調査となっているが、実際には除霊を含めた解決が依頼の本音なんだろうな。報酬もただの調査にしては、三百万ミラと高報酬に設定されている。
「そんないい報酬なら、すでに誰か行ってますよ! 私達はカジノのお金もまだ残ってるし、もっと簡単な依頼をやりましょう!」
幽霊が怖いあまりに、かなり必死で違う依頼にしようと訴えてくる。
だがここで、リーティアから驚愕の事実が突き付けられる。
「いえチビ雪さん。カジノのお金は、そろそろ無くなりますよ?」
「な、何でですか!? 五百万ミラはありましたよね!?」
「メーデには血清などで色々と世話になったのと、デックアールヴの森の確認の事もあったので気持ちとして二百万ミラほどを報酬として送りました。スノー様の意向もありましたし」
「そ、それはまあ分かるんですが……で、でも、まだ三百万ほどは………」
「それは旅で消えましたよ。食料やら車の燃料補給やら諸々で。新しい装備を作ったりもしましたからね。大陸を旅するとなれば、何かとお金が掛かります」
「う………うぅ………」
諦めたのか、チビ雪はヘナヘナと膝から崩れ落ちてしまった。そんなに嫌なら私達だけでやるし、無理して来る必要はないんだけどな。
とりあえず、この依頼の事を他の三人にも話す事にした。
イシェイルは、幽霊? なにそれ美味しいの? という感じだったけど、一応タケルは知識としては幽霊を知っているらしい。
カールは相変わらず面白そうだと乗り気な様子。
「じゃあ一旦、依頼主に連絡を取って話しを聞きに行きましょうか。本当に単なる調査でいいのか気になるしね」
「異論はないぜ!」
「わ、私は異論ありです…」
「まあチビ雪さん、怖かったら無理して行く必要はないですよ。今はパーティもメンバーが揃ってますしね」
「私はリーダーの意向に従うまでだ。幽霊など、この拳で蹴散らしてやる!」
「姉さん、たぶん僕の知る限りだと、幽霊に物理は効かないと思うよ」
依頼を受ける方向で決まったので、クエスト村から依頼主に連絡を取る事にした。依頼主はゲオルグという名で、ワースの港湾組合を仕切っている者らしい。
そして私がクエスト村を操作している間に、リーティアがカールのファルシオンを一旦返して欲しいと言っていた。
「俺のファルシオン、どうする気なんだ?」
「幽霊退治という事で、便利な機能を持たせようかと思いましてね」
「ていうか一回も実戦で使ってないですね」
チビ雪の言う通りカールのファルシオンは、最早ただの釣り道具になってしまっている。おかげで新鮮なお魚が食べれるんだけど。
でも幽霊退治に便利な機能って、何をするつもりなんだろ?
気にはなったけど、リーティアはそそくさと一階にある自分の部屋へとファルシオンを持って入って行ってしまった。
「よし、クエスト受注完了! あとは向こうから返信を待つだけね!」
上手くいけば三百万ミラが手に入る。しばらくはお金には困らなくなるから、是が非でも成功させたい。
だけど、まだクエストに気乗りしないチビ雪は、オロオロしながら落ち着かない様子。
「あの、幽霊の調査なのに、いつから退治する事になってるんですか? 調査だけでいいんですよね!?」
「チビ雪ちゃん、いい加減しつこいわよ。嫌なら屋敷に居なさいって」
海の上とか明らかに向いていないクエストならいざ知らず、幽霊相手ならちょっと毛色は違うとはいえ、ヴィントナーの時に経験してる。単に怖いからなんて理由だけでクエストを選ぶわけにはいかない。
「うぅ……い、嫌という訳じゃ…」
「それなら、私がチビ雪さんとここに残ります。スノー様たち四人で行って来てください」
ファルシオンの改造が終わったのか、もう部屋からリーティアが出てきた。
「え? リーティア来ないの?」
「はい、このままだとチビ雪さんが可哀想ですし」
「仕方ねぇな。姉御、今回は俺達だけで行こうぜ!」
「うん、仕方ないわね。でもまだ依頼を受けるか決まった訳じゃないけどね。依頼主と直接話しをして決めるわ」
「スノーお姉さま、ごめんなさい。本当は私が一番付き従わなければいけないのに…」
「いいわよ、誰にだって苦手な物の一つや二つあるから!」
チビ雪の頭に優しく手を乗せて笑顔を向ける。少し半泣きになっているチビ雪も、やっと笑顔を軽く見せて応えた。
久しぶりのクエスト、どうなるのかワクワクしながら相手からの返信を待った。




