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102話 恩返し

魔王グリテアとのイザコザから二日後、連絡を受けたメーデがデックアールヴの森を確認したメールが送られてきた。ご丁寧に写真付きで。


そこに写っていたのは大喜びしているダークエルフと一緒に、満面の笑みと舌を出して写っているメーデの姿だった。


さらにメーデからのメッセージでは、魔王グリテアがダークエルフの地下施設の放棄と毒ガス兵器生産の永久凍結をダークエルフに通達してきたらしい。事実上のデックアールヴの森から完全に手を引いた事を表していた。


そのおかげでダークエルフ達は毎日お祭りのように騒いでおり、リーティアから連絡を受けて訪れただけのメーデも一緒になって騒いでいるという。


「これ、確認というか観光に行っただけだよね。メーデさんのコミュ力はホント凄まじいわ」


「そうですね、全くメーデらしいです」


「驚いたな、警戒心の強い同胞達とここまで打ち解けるとは」


「でも無事解放されたみたいで良かったですね!」


「ああ! 本当にありがとう! スノーさん! チビ雪さん!」


「今回に関してはリーダーにデカい借りができてしまったな」


タケルとイシェイルが感謝の意を表してくるけど、私は感謝されるようなことは何もしていない。ただ堅造に頼んだだけだ。


それ以降は魔都市マノス上層部や魔王クライドが動いてくれたり、リーティアが裏で動いてくれりしたおかげだ。


むしろ今回のことで自分の無力さを改めて痛感して、ちょっと落ち込んでいたのが本音だった。


「よっしゃ! ダークエルフ達も解放された事だし、俺達も盛大に祝ってパーッとうやろうぜ!」


「ただ騒ぎたいだけでしょ!」


「チビ雪ちゃん、硬いこと言うなよ! 姉御も賛成だよな!」


カールが、今日はみんなでパーティーをしようと提案してきたけど。


「ごめん、私はいいわ。みんなで盛り上がってて」


そう言い残して二階の自室に戻っていった。


「姉御の奴、一体どうしたんだ?」


「さあ、何か元気なさそうでしたね」


「そんな事より、どうしますか? パーティーの準備をするなら買い出しに行かないといけませんが」


「姉御があの調子じゃあ、俺達だけで盛り上がってもな。今日は止めておこうぜ」


するとカールは右腕にファルシオンを装着して、外出する準備を始める。


「カールどこに行くの?」


「ちょっと海にな! 海岸に行った時に釣り人が沢山いただろ? だから俺もやってみようと思ってさ!」


「えー!? ファルシオンを使うの!?」


「ああ、応用すれば釣りに使えそうだし良いかなと思ってな」


「うん、まあ。それはもう貴方の武器ですし、好きに使ってもらって構いませんよ」


そう言いながらもリーティアは少し呆れている感じはする。


「ねえ、私も一緒に行っていい?」


「おお、チビ雪ちゃん! 大歓迎だぜ!」


ちょっと興味があったチビ雪も、カールと一緒に釣りに行く事になった。とりあえず暗くなる前には戻って来るという。


そして家に残るリーティアは、今晩の食事の準備を始める。手際よく仕込みを始めるリーティアの横で、イシェイルが興味深そうに見ていた。


「どうしたんですか? 何か気になりますか?」


「あ、いや。邪魔したならすまない。その、私にも料理を教えてくれないか?」


「え!? 姉さんが料理!?」


「なんだタケル! 私が料理をしてはいけないのか!」


「いや、そういう訳じゃないけど意外過ぎて」


「構いませんよ。でもどうして急に?」


リーティアの問いに、イシェイルが顔を真っ赤にしながら言葉を選ぶように挙動不審になる。


「いやその、リーダーに恩返しをしたくてな。ダークエルフを救ってくれたし、もちろん料理一つで恩返しになるとは思ってないが…まあ、少しでも」


「なるほど、そういうことですか。それなら今日の夕飯はイシェイルさんが作ってください。私が横でフォローします」


ナイフを渡されたイシェイルは、横からリーティアに教えられながら、おぼつかない手付きで料理を始めた。かなり不器用なようで、開始してすぐに出血沙汰になる。


「ああああ! 痛い! ザックリとやってしまったぞー!」


「イシェイルさん、落ち着いてください! 今すぐ手当てを!」


「待って! 僕に任せて! 『外傷治癒ウーンズヒール』!」


タケルの治癒呪文によって、イシェイルの指が瞬く間に治っていった。


「タケル、すまん。おかげで助かったよ」


「姉さん気を付けてよ。ただでさえ『ド』が付く程の不器用なんだから」


「イシェイルさん、食材を切るのは私がやりますから、他の事を」


「いや頼む! 今回は私にやられてくれ!」


イシェイルが必死に頭を下げた。それを見て、イシェイルの気持ちが本気だと汲み取ったリーティアは、ナイフをもう一度手渡して教え始める。


スノーに感謝を伝えたい、それはタケルも同じだった。


「僕も、スノーさんに感謝を伝える物を作る為に部屋に戻るよ! 姉さん、怪我は気を付けてよ!」


「わ、分かっている! そう何度も同じ失敗をするか!」


「イシェイルさん、よそ見してはいけませんよ。言った側から指を切ってます」


「ああああ! タケル! お前が話し掛けるから!」


外傷治癒ウーンズヒール!」


このままだとタケルが自室に戻れなくなるので、イシェイルの事はリーティアに任せてタケルは部屋に戻る。


その後もイシェイルは慣れない料理に悪戦苦闘しながら、夕食の準備を進めていった。


「やっと…終わりましたね…イシェイルさん」


イシェイルのあまりの不器用さにキッチンはてんてこ舞いになり、流石のリーティアも疲れが見え隠れしている。夕食の準備に、五時間以上も掛けてやっと終わった。


「す、すまん…迷惑を掛けた…」


「いえ、大丈夫です。テーブルにお皿を並べましょう」


夕食の準備もいよいよ大詰め、そのタイミングで釣りに出ていたチビ雪とカールが帰ってきた。手には大量の魚の入った箱を持って。


「見てくれ大漁だ! こんなに釣れるなんて思わなかったぜ!」


「凄いですねファルシオン! ワイヤーで自動追尾してましたよ!」


カールが開けた箱の中には、大量の魚が入っていた。どう考えても食べ切れない量だ。


「後で領主の方々にもお裾分けしましょう。残りは私達の食料として、明日日干しにしますね」


「なあ、せっかくだし少し料理して欲しいんだが!」


「あのリーティア、私からもお願いします!」


余程釣りが楽しかったのか、チビ雪までもがワガママを言ってきた。すでに料理はできているし、今更ではあったのだが。


「はあ、仕方ないですね。では二尾だけ今から仕込みます」


「わー! リーティアありがとう!」


「ああ! 恩に着るぜ!」


「私がやったの方がいいか?」


「いいえ、イシェイルさん。貴女がやると深夜になってしまいますから、ここは私がやります」


リーティアが急遽魚を仕込み始めて、帰ってきたチビ雪とカールは一階と二階にある浴室へと、それぞれ向かっていった。


シャワーに向かった二人と入れ替わるように、二階の自室に引き籠っていたタケルが降りてくる。


「やっと完成した! スノーさんへの感謝として僕からのプレゼントだ!」


タケルが持っていたのは、金で出来たブレスレットだった。特にこれといった装飾はないが、何やら文字が刻まれている。


「タケル、それはもしてかしてフェアリーティアーズか?」


「そうだよ! 僕にできる最大の感謝の気持ちだよ!」


タケルが今までになく嬉しそうに喜びを露わにしている。イシェイルは呆れながらも、どことなく嬉しそうだ。


しばらくしてシャワーを浴びていたチビ雪とカールもリビングに戻ってきて、リーティアも魚の調理が終わった。


しかし、昼から自室に篭ったままのスノーは未だに部屋から出てくる気配がなかった。

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