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101話 本音

イザクを見送った次の日の夜、待望の連絡が堅造から来た。すぐに一階のリビングに全員を集めて話しを聞く事になった。


「連絡が遅くなり申し訳ありませんぞ。これまでの経緯を説明してもよろしいですかな?」


「ええ、堅造くん。お願いするわ」


巣魔火スマホをテーブルに置き、キッチンで立ちながら呑んでるリーティア以外は、全員ソファーに座って堅造の話しに集中する。


「まず魔都市マノス上層部は、ダークエルフを奴隷として扱っていた事や毒ガス兵器の開発疑惑の事実確認のため、外交ルートを通じてデックアールヴの森への調査団の派遣を要求。これには魔王クライド様も協力してくださいましたぞ!」


「クライドおじ様も動いてくれたんだ。それでどうなったの?」


「残念ながら魔王グリテア様側は事実無根だとして、こちらの要求を拒否してきました」


「事実無根だと! ふざけるな! 私達は何十年も苦しめられてきたんだぞ!」


「やっぱり僕達の手でグリテアを仕留めるしかない! 姉さん、クランレアドに早く行こう!」


「ああ、こうしてはいられない! 私とタケルは行くぞ!」


「ちょ、ちょっと待ってよ! 二人ともー!」


願っていた答えが返ってこなかったことで、ダークエルフ姉弟は感情的になって家を出ようとする。


だがダークエルフ姉弟を堅造が止めた。


「お待ちくださいですぞ! これにはまだ続きがありますぞ! 実は後に魔王クライド様から、デックアールヴの森の地下施設で撮られたとされる映像が提供されましてな!

これにより、元々グリテア様への制裁に消極的だった魔都市マノス上層部も、一気に制裁に傾きましてな」


「え? また急な展開ね」


「何で魔王クライド様がデックアールヴの森の地下施設の映像を持ってたんだろ」


「このあと魔王クライド様の制裁への働きかけもあり、中央大陸南方の魔王ザルーシャ様、東大陸の魔王ツキシグレ様、魔王スイカツ様も同調され、さらには基本は永世中立を是とされているヴォニアス諸島の魔王リヒト様も制裁に賛同されましたぞ」


「ええ…めっちゃくちゃ大事(おおごと)になってるじゃない…」


「すげぇ、マジでグリテア包囲網だな」


「半信半疑だったが、リーダーはこんなに凄い存在だったのか」


「後は魔王小雪様のサインだけで、グリテア様への制裁発動寸前まで行きましたな!」


堅造が笑って話してくるけど、正直全く笑えなかった。むしろ体が震えるぐらい、少し恐怖を感じてしまった。


本当にこんな事になるなんて思いもしなかった。デックアールヴの森に行きたいと思ったのだって、ハッキリ言ってしまえば興味本位でだからだ。


堅造の話しを聞いていたら、少し気分が悪くなってきた。


「スノーお姉さま、大丈夫ですか?」


「う、うん。大丈夫」


「話しを続けますぞ。結局これが決定打となり、魔王グリテア様側はダークエルフを奴隷のように扱った場面もあったと一部事実を認め、今後一切デックアールヴの森に関わらない事、ダークエルフの解放を約束してくださいましたぞ!

これがガーデン・マノスに送られてきたグリテア様のサインの入った合意書ですぞ!」


「だが結局全ての事実は認めないまま、制裁逃れにとりあえず口裏だけ合わせたって感じだな」


「まあ見方によってはそうですが、それによって我々も制裁を取り下げました。少なくともデックアールヴの森は解放される事になりましたぞ!」


何だか拍子抜けするぐらいあっさりと事が解決してしまった。イシェイルもタケルも信じられないと言った感じで、ただ茫然と立ちすくんでいる。


だが、とりあえず一件落着となったのは事実だ。


「堅造くん、色々動いてくれてありがとう。お疲れ様」


「まだ信じられないが、堅造殿! 本当に感謝する!」


「なんとお礼を言ったらいいか! 本当にありがとうございました!」


ダークエルフ姉弟が頭を下げて堅造に感謝を伝える。堅造は照れくさそうに顔を真っ赤にして、両手を振りながら慌てふためいている。


おそらくイシェイルに感謝されて舞い上がっているな。


「でも実際にこの目で確かめないと、にわかには信じられないよな」


「うーん、カールの言う通りではあるよね。でもここからデックアールヴの森は結構遠いですし」


「メーデに連絡をして確かめてもらいましょう。彼女なら一日あればデックアールヴの森を確認するのに十分でしょう」


「いいのかな? なんか悪い気がするんだけど」


「大丈夫ですよ。むしろ心配なのは、メーデを敵だと思ってダークエルフさん達が襲わないかです。一応メーデには事情を説明して、ダークエルフさん達を殺さないように伝えておきますが」


それは確かに心配だけど、でも今の状況だとそれが一番手っ取り早いか。だけどダークエルフ姉弟には、癇に障ったみたいだった。


「我々の同胞が一人の女魔族に負けるというのか! いくら何でも舐め過ぎだ!」


「これに関しては僕も姉さんに完全同意だ! 侮辱とも受け取る発言だ! 撤回しろ!」


「あの、イシェイルさん、タケルさん。決してダークエルフを見くびってる訳じゃないですよ。ただ二人も見たと思いますけど、スノーお姉さまやリーティアが使役していた蛇は、元々そのメーデさんの蛇なんです。

メーデさんは他にも多くの規格外の蛇を従えているので、こんな言い方はアレですけど戦って勝てると思いますか?」


「「…………」」


チビ雪の説得で、ダークエルフ姉弟もそれに納得してもらい、リーティアが後でメーデに連絡をしてくれることになった。


「それでは私はこれで失礼しますぞ! それよりスノー様! 今後はなるべく外交問題になる事だけは控えてくださいですぞ!」


「わ、分かってるわよ! 今回は本当にありがとう!」


こうして一通りの決着となった。おかげで魔王グリテアとも争わなくても良くなった事だけは安心した。


だけど、それとは別の問題も発生してしまう。


「よく考えると、イシェイルさんとタケルの二人が旅に出たのは森を解放する為だよな? となると、もう旅を続ける意味はないんじゃねぇか?」


「あ……」


「ええー!? まだ知り合ったばっかりなのに! 二人とはここでお別れですか!?」


それを聞いてダークエルフ姉弟が渋い顔をした。イシェイルの方は、ちょっと気まずそうな感じで何かを言いたげだが。


「ん-、うん。まだ安心はできないが、私もこんなにすぐに解決するとは思ってなかったからな。だけどその、えっと」


「どうしたの? 別れの挨拶?」


「な、何でそうなる! 私が言いたいのはだな! だから…えっと…」


「姉さん素直に言いなよ。もし良かったら、このまま一緒に旅をさせてもらえないか?」


「う、うん。つまりはそういう事だ」


ホント、こういう所はタケルの方が大人だな。もちろん二人が残ることに異論はないけど。


「ええ、これからもよろしく! タケル、イシェイル!」


「意外だな。リーダーから私は歓迎されてないと思っていたからな」


「え? いやまあ、うん。あれよ…そのほら。何だかんだで、旅してきたし…だからその」


「スノーお姉さまも素直じゃないですね! ハッキリ一緒にいて欲しいって言えばいいじゃないですか!」


「んな!? 何言ってんの!? チビ雪ちゃん、いい加減にしてよ!」


「そ、そうだ! 言って良い冗談と悪い冗談というものがある!」


何故かイシェイルも一緒になって焦っている。


「スノーさんも姉さんも似た者同士だなー」


「タケル! お前まで!」


「そうよ! 私がこんな女男と似てるなんて有り得ないわよ!」


「貴様、まだ言うか!」


いつもの調子に周りから笑いが起き、兎にも角にも元鞘に納まる事になった。その後は夕食を全員で取り、それぞれが好きに過ごす。


「リーティア、ちょっといいかな?」


ただ、どうしても話したいことがあった。キッチンで、一人後片付けをしているリーティアに声を掛ける。


「ええ、いいですよ」


一旦片付けを中断してもらい、誰にも聞かれたくないので二人きりになれる外の裏庭へと向かった。


もちろん話しというのはデックアールヴの森のことだったけど、私に声を掛けられた時点でリーティアは察していたみたいで。


「クライドに映像を送ったのは私ですよ」


「やっぱりそうだったのね。何となくそんな気がした。でもありがとう、本当に助かった」


「いえ、私もダークエルフ姉弟が心配でしたからね」


「うん、それもあるんだけど」


少しだけ言葉に詰まり、青い月が夜空を照らして僅かに風が吹く中、息を整えて本音を話した。


「もし…あのまま明確な証拠がないままガーデン・マノスと魔王グリテアが対立する事になっていたら。

私も旅どころではなくなって、魔王として覚悟を決めなければいけない状況を余儀なくされていたと思うから」


夜の空を見上げて、最悪の事態にならなかった事を心の底から安堵していた。旅に出て成長していたと思っていたけど、やっぱりまだまだ魔王としての覚悟を背負えるほど強くなかったようだ。


正直堅造にダークエルフの問題を話した日から、もし最悪の展開になったらと考えると恐怖で眠れない日もあった。


するとリーティアが優しく微笑んで、後ろから抱きしめてきた。


「そうだね。なら私も本音を言うわ。本当はダークエルフの事よりも、私はスノー様…小雪様が一番心配だったからよ。

私こそグリテアをバカにしてるけど、決して侮ってはいけない相手だからね。本当に私も自分で呆れるぐらい、お節介を焼くようになったよ」


初めて会った時以来、リーティアがタメ口で話してきた。


何だろう、今日はリーティアが本当にお母さんみたいだ。いつもなら恥ずかしがって抵抗しそうだけど、今日だけは素直に甘えようかな。


後ろから優しく抱きしめられたまま、二人で青い月が輝く夜空をしばらく見上げていた。

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