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10話 魔力値

私が魔力を使えない原因。


今それを突き止める為に、魔導士学校の広い廊下を奈美さんに案内されながら歩いている。


当然、魔王小雪とバレないように、しっかりと変装済みだ。

帽子にサングラス、マスクもして完璧。


これなら誰にも私だとバレない、バレようがない。


(小雪様、返って目立ってます…)


前を行く奈美さんの心情も知らず、私は呑気に後ろを付いて歩いてた。


一階の廊下を、何人もの生徒達とすれ違いながら、チビ雪が魔道具の準備をしている部屋の前へと辿り着いた。


「では小雪様、どうぞお入りください」


奈美さんに扉を開けられ、部屋へと足を踏み入れる。


その部屋には、見た事ない魔道具の数々が並んでいた。


あの壁に立て掛けられてる、大きな目の様な魔道具は一体何に使う物なのか。


物珍しさで辺りを見渡してると、チビ雪が奈美さんに何やら魔道具を渡している。


「小雪様、まずはこれで魔力を測定したいと思います」


よく見ると、その魔道具は巣魔火スマホだ。

昔は魔力を調べる時は、大掛かりな魔道具を用いる必要があったそうだ。


でも現代魔界では、巣魔火のソフトを使えば簡単に魔力を測定できるようになったとか。


なんて便利な時代。


しかし簡単に相手の魔力を計れるというのは悪用される危険性もある為、巣魔火での魔力測定ソフトは魔都市から認可を受けた機関でしか使えない仕様になっている。


「この巣魔火には、すでに魔力を測定するソフトが入っています。本来は魔王様に使うなんて以ての外なんですが」


今回は特別だ。


何より私自身、何故魔力を使えないのか知りたいのだ。


「お願いします。私にどれだけの魔力があるのか調べてください」


その言葉を聞いて、奈美さんが前に立って巣魔火を向けた。


私の方は特に何もしなくても、勝手に魔力を測定してくれる。

緊張の瞬間だ。


ところが測定をしていた奈美さんが、明らかに狼狽えているのが分かった。


「え、ちょっと待ってください。普通ならこんな魔力値、見た事ないです」


おお?


もしかして、私の魔力値メチャクチャ高かった?

実は、かなりの逸材とか?

逆に魔力が高過ぎて、私には扱えきれてない的な?


そんな風に期待を膨らましてたら、まさかの一言が返って来た。


「小雪様…非常に申し上げにくいのですが、魔力値が『二』しかありません。これは生まれたての魔族と同じぐらいです」



…………はい?



という事はなんですか。

私の魔力は、生まれたての赤ん坊レベルという事ですか?


すでに魔力を使えない原因が分かってしまったようだ。

そもそも私には、魔力その物が欠落していた。


目の前では、巣魔火が壊れてないか確かめるために、奈美さんがチビ雪の測定をしている。

その画面には、しっかりと『七千百』の魔力値が表示されていた。


巣魔火での魔力測定は大雑把で、十以下の細かい数字は切り上げ、もしくは切り捨てられる。

なのでチビ雪の魔力値は、七千百前後という事になる。


これが高いのか低いのか私には、いまいちピンと来なかった。

聞いた所によると、訓練を受けていない一般の成人魔族の魔力値はだいたい『千』前後らしい。

これには男女の差はないそうだ。


じゃあ単純にチビ雪は、その辺にいる魔族の約七倍の魔力量という事なのか。


いや、それよりも自分に魔力がほとんどない事の方がショックは大きかった。


「小雪様、少なくとも魔力が零ではないので、一度魔力属性を調べてみましょう」


奈美さんが気を使ってくれたのか、違う測定を促してきた。


魔力属性は生まれつき魔族が持つ、謂わば得意とする属性だ。


チビ雪が、魔力属性を調べる魔道具《アブソリュート・メジャーメント》の近くに来るよう言ってきた。


その魔道具はルーレット盤に似た、中央に大きな水晶が備わっている。


「まずは私から計ってみますね」


始めに奈美さんから、見本を見せてくれるという。

両手を水晶にかざして、大きく深呼吸をした。


その瞬間、大きな水晶が光り出して、青と緑の光の球が水晶の上に立体的に映し出された。


「青は水、緑は風、つまり私の魔力属性は水属性と風属性という事です」


魔力属性は必ずしも一つとは限らない。

場合によっては、三つも四つも持つ者もいる。


次はチビ雪が同じようにやって見せてくれた。


チビ雪のは、赤と黄の球が出てきた。

これは火属性と雷属性の二つが魔力属性という事らしい。


「それでは小雪様、同じようにやってみてください」


そう促されて両手をかざしてみた。


「目を閉じて、落ち着いて手の先端に全神経を集中してください。魔力が手の先端に流れていくのが分かると思うのですが」


言われた通りにやってみた。


剣の稽古の時も一度精神統一して、瞑想に入ってから行うから、同じような感覚でやってみたのだが。


水晶はうんともすんとも言わなかった。


やはり赤ちゃん並みの魔力の私には、魔力を使う事はできないのか…


厳しい現実を突き付けられた気分だった。


「ちょっと失礼しますね」


そんな私を横目に奈美さんが後ろに立って、私の両肩に手を置いた。


「例え魔力値が僅かであっても、魔力属性は調べる事ができます。私が少しお手伝いをします」


奈美さんが両肩に手を置いてしばらく、少し体が熱くなってきた気がする。


いや少しじゃない、どんどん熱くなってくる。


血液が体全体を流れるように、体全体から水晶にかざしている両手に何かの力が集中していくのを感じていた。


「こんな感覚初めて……」


「小雪様、これが魔力の動きです。荒療法なやり方ですが、私の魔力を使って小雪様の魔力の流れを後押ししています」


チビ雪が心配そうに横で見ている。


目の前の大きな水晶が徐々に光り始めた。

それはつまり、ようやく私の魔力属性を測定し始めている。


ドキドキする。

私の魔力属性は一体なんなのか。

なんかレアなのが出ないかなって、ちょっと期待してる自分もいた。


期待に心が膨らむ中、水晶から立体的な光の球が浮かび上がった。


「これは……水?」


私は思わず落胆した。

目の前に現れた球は、青い球一つだけ。

という事は、私の魔力属性は水属性一つという事になる。


魔力属性も特にレアでもなければ、魔力値も赤ちゃん並。


変な汗が止まらない、こんな事が世間に知れたら、私は間違いなく魔王の座を追われるだろう。

いや、そんな事はどうでもいい。

別に好きで魔王をやってる訳じゃない。


それよりも流石に恥ずかしくて、周りに知られたくない。

一応魔族としてのプライドはあるのだ。


ところが後ろにいる奈美さんが水晶から出た青い球を見て、これは水属性ではないという。


「小雪様。色は確かに水属性に似ていますが、これは氷属性です」


「氷属性?」


「はい、水属性は濁りのない透き通った綺麗なブルーですが、氷属性だと光を乱反射させるような水色をしているのが特徴です」


確かに言われてみると、出てきた青い球は完全な青というよりは、所々に白く濁ったような色合いがある。


氷属性は水属性の派生型で、その名の通り冷気を使った呪文を得意とするそうだ。


正に私の名前にピッタリの属性だけど、結局は使えなければ意味がない。

あと特段レアな属性でもない。


それにチビ雪や奈美さんは二つだったのに、私は一つだけか……。


もう本当になんなの。

いい加減にしないとグレますよ、私だって。


「奈美さん、ありがとうございました。私の魔力は赤ちゃんと一緒、つまり魔力がないのと同然という事が原因でしたね」


少なくとも今回の測定で、私は一切魔力は使えない事が分かった。


それが分かっただけでも十分、現実を受け入れて剣の道一本で行こうと心の中で誓ったのだった。


――ところが


「奈美先生?」


チビ雪が、不思議そうな顔をして奈美さんを呼んだ。


そういえば、さっきからずっと私の肩に触れたまま離れようとしない。


どうしたのかと思って、後ろを振り返った。


「奈美さん、どうかしたんですか? もう測定は終わったんですよね?」


そう聞きながら振り返って見た奈美さんの顔は、何やら険しい表情をしていた。


一体どうしたんだろう。


しばらく押し黙ったままだった奈美さんが、ようやく口を開く。


「あの…小雪様の魔力値、本当に『二』しかないように思えないんです。私の肌感覚なんで、あまりハッキリとした事は言えませんが」


巣魔火スマホの測定が間違っていたというのだろうか。


でも、その後に計ったチビ雪の魔力値はちゃんと計れていた。

残念だけど、間違いはないように思える。


思えるのだけど、奈美さんの尋常じゃない表情を見ると、どちらを信じて良いのか分からなくなった。


さらに奈美さんは続ける。


「何というか、私が後押しをして小雪様の魔力を動かしましたが…その時に動いた魔力が、何だかとてつもないエネルギーだったのを感じたんです」


私の中にとてつもない魔力の動きを感じたって、一体どういう事だろう。

実はメチャクチャ魔力があるということなのだろうか。


いやそれならそれで、なぜ私は魔力を一切扱えないのか説明がつかない。


戸惑う私を横目に、奈美さんが手を私の両肩に触れたまま、今度はチビ雪に巣魔火スマホで魔力測定をするように指示を出した。

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