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結刃流花譚  作者: もりみつ
序章 あさきゆめみし
2/20

深淵

 

 

 澱んだ黒の広がる空から落ちてくる滴の冷たさも

 手足についた傷の痛みも

 目に見えない心の痛みも

 感じていないふりをして

 泣くこともできず闇の中で立ち尽くす。

 

 雨の降る夜、月は見えない。

 

 

 



 

 神々しいとも禍々しいともとれる、ありのままの自然が広がる人里離れた山道。人気がないのは当然だが、多く住み着いているはずの妖の姿さえも見えない。息を殺して潜んでいるというわけでもなく、何の気配も感じない。漂う空気は雨の匂いを含み、重たい身体にまとわりついてくる。

 1人、独りの心を守る為、可能な限り思考を止め、何も求めず、佇んでいた。

 雨と霧で視界は良いとは言えない。空の泣き声以外、何も聞こえない。余計なものを見聞きせずに済む、心を無にしてしまいたい夜には丁度良い空間だった。

 

 濡れることを厭わず、佇み続ける。このまま時が止まってしまえば楽なのだろうにという考えが心に浮かぶ。実現することの無い願いはすぐに消え、止まない雨と無慈悲に続いていく時間の中で、何をすることもできず、ただそこに、虚ろな目をして存在し続けていた。


 雨音が少し穏やかになってきた頃、背後に聳え立つ木々の隙間、先程まで誰も何も居なかった場所、果ての見えない闇の中から、低く野太い、ほんの少しずつ調子の異なる声が幾重にも重なって降り注いできた。

 振り返ると、赤く妖しく光る、切れ長の瞳が10と6つ。

 恐怖心と警戒心を持ちながらも純粋な気持ちでその囁きに耳を傾ける。

 




 

「   」




 

 

 何もかも見透かされたようだった。諦めたふりをしていた、心の奥底で求めていたものへの自覚が動揺を生んだ。

 胸の奥で感情が塒を巻き始める。押し込められ、固まっていたひとつひとつが、混じり合い、形を変えていく。

 

 差し伸べられた言葉は、誰か為か。

 

 思いがけず出逢ってしまった、歪んでいるのに心地良い言葉。

 閉ざした心に射し込んだ一筋の救いの光のようであり、奥深くまで届いたそれは、感情に新たな形を与え、その在り処に復讐の火を灯した。

 

 

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