ヒュドラー
あっという間に月日が経ち、エトワール姫は18才になりました。
今日はエトワール姫の結婚相手を決めるためお城の門が開かれ、候補者は玉座の間へ通されました。腕っ節自慢の戦士や、怪力の大男など皆『流れ星の剣』を台座から引き抜くため、必死に挑みました。
どれだけ力を込めても抜けなかった99人目の候補者は下を向き肩を震わせたかと思うと、いきなり叫び始めました。
「ベハハハハ! 我が名はヒュドラー! 俺を選ばなかった罰だ!! お前ら全員喰ってやる!!」
男はみるみるうちに姿を変え鯨よりも巨大な赤黒い大蛇になりました。その禍々しい姿に人々は慄きました。
「待ちなさい!! そんなことは私が許しません!」
「おお! 腰まで伸びたシルクのように艶やかな銀髪、金色に輝くアンバーの瞳! お前がエトワール姫だな。評判通り見目麗しい! 私の妻に相応しい姫だ」
「誰があなたの妻になるものですか!」
「お前が拒否してもこれはもう決定だ! 見てろ。今からここにいる全員飲み込んでやる!!」
怪物ヒュドラーはみるみるうちに人々を飲み込んでいきました。その中には王様と王妃様もいました。
「どうだわかったか! お前が俺の妻になるというなら、城の外の国民の命だけは助けてやろう」
悲嘆するエトワール姫はコクンと一回頷くしかありませんでした。
「ベハハ! いいだろう! 国民よ! これからは死ぬまで俺のためだけに働け!! ベハハハハ!」
シュテルン王国は赤黒い暗闇に覆われました。
ルララ。どうか——
人々は昼も夜も関係なく働かされながら、流れ星が光るたび、エトワール姫の無事を祈りました。
ルララ。どうか——
エトワール姫もまた、流れ星が光るたび、お城の隅にある檻の中から人々の無事を祈りました。
互いの無事を祈る姿に心打たれた天は、皆の幸せを祈り涙をひとつこぼしました。
天の涙は、流れ星となって夜空を駆け、エトワール姫のもとに届きました。
天の優しさに感謝したエトワール姫は流れ星を抱きしめました。
すると、流れ星の青白い光が一層強くなり、パチパチと燃え盛る音とともに表層が割れ、中から青白い炎を纏った勇ましい犬が現れました。
「シリウス! 大きくなっているけれど、銀色の毛にその青い瞳、あなたシリウスね!」
「そうだよ! エトワール姫! あのとき力のコントロールができなくて弱ってた僕を助けてくれてありがとう! 時間がないんだ! 僕の背に乗って! 今ならまだ間に合うかもしれない!」
エトワール姫がシリウスの体に触れると、姫は青白い炎に包まれました。姫の体についた傷が青白く光り、瞬く間に治りました。
「ありがとうシリウス! あなたのおかげで元気が出たわ!」
「エトワール姫の力になれてうれしいよ! さあ、いこう! しっかりつかまって!」
シリウスは怪物ヒュドラーがいる玉座の間へ闇夜を切り裂くように駆け出しました。




