おっちょこちょいな雪の妖精のおはなし
ある寒い冬の日。
雪の妖精は、神様からさずかった白い雪の杖で、空から雪をふらせていました。
神様が決めたところにまんべんなく雪をふらせるのが、雪の妖精のお仕事です。
今年は街の方にまでたくさん雪を降らせるので大忙し。
えい!
キラン!はらはらはら…。
杖のひとふりで雪雲ができ、しんしんと雪が積もっていきます。
えい!
キラン!はらはらはら…。
ひさしぶりのお仕事で、雪の妖精はどんどん楽しくなってきました。
えい!えい!えい!
あらあら、楽しいのはいいけれど、杖をふるのが少しらんぼうになってきましたよ。
…あっ!
調子にのって杖を勢いよく振っていたら、あらたいへん。
すぽーん!
妖精の手から、大事な雪の杖がとびだしてしまいました。
「ど、どうしよう…」
杖がなくては雪を降らせることはできません。
妖精はあわてて、杖を追いかけました。
けれど雪の杖は、まるで自由になったことが嬉しいかのように、ぐんぐん遠くへ飛んでいきます。
おまけに、さっき杖で出した雪雲から雪がどんどん降ってきて、だんだん前が見えなくなってきました。
「杖くーん、待ってー!」
思わず、妖精は杖に向かってさけびました。
するとどうでしょう。
ちかり。
遠くの方で何かが光りました。
よく見ると、光が見えた近くのおうちだけ、ほかのおうちよりもたくさん雪が積もっています。
雪の妖精はそのおうちに向かっておおいそぎて降りていきました。
すると、なんだか楽しそうな声が聞こえてきます。
「わーいわーい、ゆきだ!」
そこでは、しんしんと降る雪にも負けず、男の子が雪だるまを作っていました。
近くには、男の子の妹でしょうか、小さな女の子が、細長い棒を振り回して遊んでいます。
妖精は思わず、あっと声をあげました。
「雪の杖、見つけた!」
きっと女の子が杖を拾ったのでしょう。杖が振られるたびに雪雲ができ、雪は降り積もるばかりです。
早く女の子から杖を返してもらわなければ、街全体が大きな雪だるまになってしまいます。
けれど、雪の妖精は人間に姿を見られてはいけないのです。
「ど、どうしよう…」
妖精はいっしょうけんめい考えました。
そして、こっそりと雪だるまに変身して、おうちの前に立ちました。
「おにいちゃん、すごい!
こんなにおおきなゆきだるま、いつのまにつくったの?」
女の子が感心しています。
「う、うん、お兄ちゃんは頑張ったんだぞ、すごいだろう!」
お兄ちゃんは首をひねりながらも、妖精が化けた雪だるまをぽんぽんと叩いて、妹にじまんしはじめました。
「ゆきだるまさん、おててもおかおもなくてかわいそう。これ、あげるね」
女の子が、持っていた杖を雪だるまに刺しました。
雪の杖は、妖精が化けた雪だるまの片方の手になりました。
「いま、おかあさんからニンジンさんもらって、おはなもつけてあげるからね!」
女の子はおうちの中に入っていきました。
お兄ちゃんもそれを追いかけます。
「ふぅ…よかった」
雪の妖精が杖をひとふりすると、雪雲はなくなりました。
これで一安心です。
妖精がもう一度杖をふると、大きな雪だるまがあらわれました。
「立派なニンジンさんをつけてもらってね」
雪の妖精がつぶやくと、雪だるまが「うん」とうなずいた気がしました。
冬はまだこれから。
雪の妖精のお仕事もまだまだ続きます。